『アバター』続編のテーマソングを手掛けたザ・ウィークエンド:この大役に選ばれた理由とは

Published on

The Weeknd - Photo: Frazer Harrison/Getty Images for Live Nation

2022年12月16日に公開されたジェームズ・キャメロン監督による13年ぶりの続編映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。全世界135の国と地域で興行収入1位を獲得しているこの大作映画のテーマソング「Nothing is Lost (You Give Me Strength)」を担当しているのはザ・ウィークエンド。この抜擢の理由について、音楽・映画ジャーナリストの宇野維正さんに寄稿いただきました。

<関連記事>
ザ・ウィークエンドとOPNによる「体験」する映像作品
『Dawn FM』が達成した、最高のポップアートが最高のポップミュージックであること
ザ・ウィークエンド新曲「Take My Breath」の先にある“夜明け”とは何か?


 

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が全世界同時公開される10日ほど前、ザ・ウィークエンドの各ソーシャルメディアのアカウント、それに続いて作品の本国公式アカウントが、ザ・ウィークエンドが同作のテーマソングを手がけていることを示唆する、「A」の文字を象徴的に映したショート動画を投稿した。「ザ・ウィークエンドが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のテーマソング?」と思った人もいるかもしれないが、よくよく考えたら、なるほどこの大役にはザ・ウィークエンドが最も相応しいことがわかる。

ザ・ウィークエンドは映画でスーパースターに上り詰めた

もともとザ・ウィークエンドは現在のスーパースターのポジションに上り詰めるまでに、映画の力を大いに借りてきたアーティストだ。音楽シーンの風雲児として脚光を浴びていた2014年12月にリリースされて、ザ・ウィークエンドにとって単独クレジットでの初のビルボード・トップ10ヒットとなったのは、ベストセラーの映画化作品として世界中で大ヒットを記録したアダルトなラブストーリー『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015年)の主題歌「Earned It (Fifty Shades of Gray)」だった。

その後も2018年にはケンドリック・ラマーとの共作で『ブラックパンサー』に劇中挿入歌「Pray For Me」を提供、2019年にはシーズンファイナルを迎えたHBOのテレビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン8放送時にSZAとトラヴィス・スコットと共にインスパイアドソング「Power Is Power」をリリース。この頃までには「世界的ビッグコンテンツにザ・ウィークエンドあり」というイメージも定着。

同じ2019年にはサフディ兄弟監督による大傑作『アンカット・ダイヤモンド』にザ・ウィークエンド本人役で出演して劇中で歌も披露、2023年には出演はもちろんのことクリエイター、エグゼクティブ・プロデューサーを手がけた、音楽シーンの内幕を描くHBOのTVシリーズ『The Idol』を世に送り出す。ザ・ウィークエンドはいよいよ映画・テレビシリーズの世界においてもキーマンとなりつつある。

ジェームズ・キャメロンとはカナダ・オンタリオ州の同郷仲間

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のジェームズ・キャメロン監督は父親の仕事の都合で大学入学時にカリフォルニア州オレンジ・カウンティに引っ越すまで、カナダ・オンタリオ州の田舎町カプスケーシングで生まれ育った。したがって、そのオンタリオ州の州都にして、カナダ最大の都市トロントのスカーバロー地区で生まれ育ったザ・ウィークエンドとは同郷ということになる。あの『タイタニック』の「My Heart Will Go On」でお馴染みセリーヌ・ディオンもカナダ出身であることをふまえると、長年身を捧げてきた大切な自分の作品の主題歌を誰かに託す際に発動する、キャメロンの同郷愛の深さは侮れないのでは?

現在のカナダ出身のスーパースターといえば、他にもドレイクやジャスティン・ビーバー、女性シンガーだとアヴリル・ラヴィーンやカーリー・レイ・ジェプセンなどの名前も思い浮かぶが、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の壮大な作品世界に音楽表現や歌声のスケールの大きさで拮抗できる存在は、やはりザ・ウィークエンドしかいないのではないか。

スウェディッシュ・ハウス・マフィアとのコラボレーションは続行中?

ザ・ウィークエンドのファンとしての『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の主題歌「Nothing Is Lost (You Give Me Strength)」の注目ポイントは、楽曲の共作者のクレジットに、作品のスコアも手がけているサイモン・フラングレンに加えて、スウェディッシュ・ハウス・マフィアの名前があることだろう。冒頭に触れたソーシャルメディアでの告知においても、スウェディッシュ・ハウス・マフィアは同じタイミングでしっかり投稿していた。

これは、2021年の「Moth to a Flame」、2022年のザ・ウィークエンドのアルバム『Dawn FM』収録曲(「How Do I Make You Love Me?」「Sacrifice」)、そして同年のコーチェラでヘッドライナーを飾った歴史的パフォーマンスに続いて、お互いに大きな実りのあったザ・ウィークエンドとスウェディッシュ・ハウス・マフィアのコラボレーションがまだ続行中であることを示唆しているのではないか?

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の劇中の大きなエモーショナル・ポイントにもしっかり寄り添った「Nothing Is Lost (You Give Me Strength)」のリリックに関しては、ネタバレにも関わるので詳しい言及は避ける。ただ、ここで歌われている「大切な人を失ったこと」への想いからは、本作の製作が既に始まっていた2015年に自家用ジェットの不幸な事故で亡くなってしまった前作『アバター』のジェームズ・ホーナーからスコアを引き継いだ、ホーナーの長年のコラボレーターであり友人でもあったフラングレンの決意を読み取ることも可能かもしれない。「You give me strength / I’m with you either way(君は僕に力を与えてくれる/どんなことがあっても君と一緒にいるよ」。そんな言葉の通り、フラングレンは本作のスコアにおいて前作『アバター』でホーナーが音楽によって確立した「アバター」の作品世界を尊重しながらも、さらに多様な民族音楽のレファレンスを散りばめてより深く探求している。

そんなフラングレンの音楽世界に取り込まれるかたちで、「Nothing Is Lost (You Give Me Strength)」ではあのスウェディッシュ・ハウス・マフィアが自らのトレードマークであるハウスミュージックの四つ打ちのビートを手放しているのも貴重だ。ザ・ウィークエンドにとっても、最新作『Dawn FM』以降の新しいチャレンジとなった本作。ザ・ウィークエンドのファンにとって必聴であることは言うまでもない。

Written By 宇野維正



『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター オリジナル・サウンドトラック』
2022年12月15日発売
iTunes Store  / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


ザ・ウィークエンド『dawn FM』
2022年1月7日発売
国内盤CD / LPiTunes Store  / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

公開中
監督・製作・脚本:ジェームズ・キャメロン
出演:サム・ワーシントン/ゾーイ・サルダナ/シガーニー・ウィーバー他
公式サイト

© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.



 

Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了