新作映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』でガガが演じるキャラ、“ハーレイ・クイン”の変遷

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from Instagram @ladygaga

トッド・フィリップスが監督し、ホアキン・フェニックスがジョーカーを、レディー・ガガがハーレイ・クインを演じる新作映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。

本国では10月4日に公開、日本では10月11日に公開されるこの映画に登場するキャラクター、ハーレイ・クインについて、その誕生や変遷、そして新作での描かれ方など、ライターの杉山すぴ豊さんに解説いただきました。

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ハーレイ・クインの誕生

衝撃作『ジョーカー』の続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』にはレディー・ガガ演じるリーという女性が出てきます。この2つの映画はバットマンのコミックに登場するヴィラン、ジョーカーから着想を得て作られました。そしてこのリーもバットマンの物語に登場する、ある人気女性キャラをベースに生み出されました。ハーレイ・クインというエキセントリックな女性ヴィランです。

コミック等の設定ではジョーカーの愛人的な立ち位置。ただしこのキャラクターはコミックではなく1992年から放送されたTVアニメ版『バットマン』の中で生み出されました(第七話の『ジョーカーの陰謀』[原題:Joker’s Favor])。ジョーカーがピエロなら、ハーレイは中世ヨーロッパの宮廷道化師をモチーフにしたコスチュームを着ています。もともとバットマンのコミックにはキャットウーマンやポイズンアイビー等妖艶な女性の悪役がいるのですが、ハーレイ・クインはコケティッシュな魅力を持っています。

このアニメ・シリーズ自体がバットマン・ファンの間で人気が高かったこともあって、ハーレイ・クインへの注目度もアップ。その反響を受けなんとコミックの方に“逆輸入”される形で1994年『バットマン:マッドラブ』(原題:THE BATMAN ADVENTURES: MAD LOVE)が刊行されます。ここでハーレイ・クインのオリジン(誕生秘話)が語られます。

彼女の本名はハーリーン・クインゼルで精神科医。ジョーカーは彼女の患者だったが、次第にハーリーンは彼に感化され悪の道に……というストーリーでした。頭脳は明晰、一流のアスリート級の身体能力を持っている、えげつないことも平気。そしてあのジョーカーに一途。キュートでハチャメチャ、小悪魔にして悪魔的な犯罪もやってのけるというキャラがウケたわけです。

ハーレイ人気についてDCコミックの女性クリエーターが面白いことを言っていました。DCにはワンダーウーマンという“清く、正しく、美しく”みたいな女性ヒーローがいます。このワンダーウーマンは女性にとってロールモデルであり、善の象徴であり、こういう人になりたいという憧れでもある。その一方でもっと自分勝手に、好きなように生きてみたい。楽しいと思うことだけやってみたい。女の子だって大暴れしたいみたいな気持ちもある。そうした願望に応えてくれるのがハーレイ・クインなんだと。

基本ヒーローというのは秩序を守る人ですが、ハーレイは真逆。混乱を引き起こす人です。けれど彼女が見せてくれるルールにとらわれない奔放さ、お行儀の悪さには爽快感があります。ちなみに僕がハーレイ・クインとはどういうキャラか人に説明するとき、一番皆が“なるほど”と納得してくれるのが“大人になったドキンちゃん”という例えです(笑)。

 

ヴィジュアルの変化

こうしたキャラ設定が共感を得たわけですが、彼女の人気にさらに拍車をかけたのはビジュアル面での変化です。もともとアニメ版およびコミックの方では黒と赤をベースにしてアイマスクで素顔を隠し、道化師らしく頭に両角のある全身タイツ状のコスチュームを着ていました。

ところが2009年に発売され、世界的に大ヒットとなったバットマンのゲーム『バットマン アーカム・アサイラム』において登場したハーレイはこの角の部分がツインテールになりコスチュームも赤と黒のゴスロリ調になります。

2011年にリリースされたこのゲームの続編『バットマン アーカム・シティ』ではさらにこのマスクもなくなり目のまわりを黒くぬったメイク姿になりました。2011年からのコミックの世界(New52という世界観)ではショートパンツ姿でツインテールの髪を片側赤、反対側を黒に染めたルックスとなります。

続いて2016年のコミックでは(DC Rebirthという世界観)では金髪のツインテールで片方がピンク、反対側がブルーとなります。つまりアニメでデビューしたときのハーレイはコスチューム姿でしたが、ゲームではゴスロリ、コミックではギャルっぽい外観になっていきます。

この年はハーレイ・クインがついに映画デビューした年でもある。映画のタイトルは『スーサイド・スクワッド』。ハーレイ・クイン役はマーゴット・ロビーでした。マーゴットのハーレイはDC Rebirthと同様の髪の色をしており、映画とコミックでここは歩調を合わせたのでしょう。

 

ハーレイ人気の上昇

僕は2010年から毎年サンディエゴ・コミコンというアメコミ・カルチャーの世界的イベントに視察に行っていますが、それまでバットマン関係の女性コスプレイヤーといえばキャットウーマンかバットガールが多かった中、徐々にハーレイのコスプレを楽しむ人が増えてきたのを覚えています。

最初はアニメに初めて登場したフルコスチュームの道化姿が多かったのですが、徐々にゲーム版のハーレイをする人が増え、2016年にはマーゴット版ハーレイが会場を席巻していました。この当時のハロウィンでは、アメリカで最も検索されたコスチュームが(つまり最も多くの人が仮装したいと興味をもった衣装が)ハーレイ・クインだったと記事で読んだ覚えがあります。このようにハーレイの装いがいかにもコミックに登場するタイツの怪人から日常のおしゃれな女の子の延長に代わったことも、彼女の支持につながったのです。

マーゴットが演じたことでハーレイ人気はさらに高まり、様々なアニメやゲームにも登場します。その中でも僕がこの設定は秀逸と思ったのが、日本発のバットマンのアニメ映画『ニンジャバットマン』におけるハーレイ。この物語ではバットマンのヴィランたちがなぜか日本の戦国時代にタイムスリップし、日本の戦国武将になってしまうのです。そしてジョーカーは明らかに織田信長で、ハーレイはなんと森蘭丸(信長に仕えたとされる有名な小姓)なのです(笑)。

 

レディー・ガガのハーレイにとってこの世はすべて歌

ハーレイ・クインはマーゴット・ロビーの当たり役となり『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』が製作されます。マーゴット以外にハーレイを演じられる女優というのは考えづらいなと思っていた最中、なんとレディー・ガガがハーレイになるという。これには正直驚きました。

しかし冷静に考えてみればジョーカーも過去にジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、そしてジャレッド・レトと名優たちが演じています。その上でホアキン・フェニックスがこの役に起用され大成功を収めたわけですから、ハーレイだって別の女優さんが起用されてもおかしくはない。またマーゴット版ハーレイと『ジョーカー』は別の世界観なのでマーゴットと交代する形でレディー・ガガが起用されたというわけではないのです。

さて今回の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のリーことハーレイ。見た目はコミック等のそれとは異なりますが、十分ハーレイの持つ愛と狂気を表現しています。現段階でまだ映画を観ていない方も多いので詳しくは書きませんが、コミックの設定である“ジョーカーに感化された精神科医”はふまえており、愛するジョーカーのためにとんでもない事件や挑発を繰り返します。

マーゴット版ハーレイの映画は、悪党であるハーレイがもっと悪い奴に立ち向かうという図式なので、若干彼女をヒーロー(ダーク・ヒーロー)っぽく描いているのに対し、レディー・ガガ版ハーレイはとにかく混乱と破滅を巻き起こす存在なのです。マーゴット版は物事をひっかきまわす危なさがあり、レディー版は人の心をひっかきまわす妖しさがあるのです。

そして今回レディー・ガガが起用された一番の理由は“歌える”ということでしょう。ジョーカーことアーサーにとってこの世で起こることはすべてジョークでした。そしてハーレイにとってこの世はすべて歌なのです。

人生という舞台において演目がジョークから歌に代わった時、とんでもないことが起こるというのが『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』です。来年のコミコンはこのレディー版ハーレイのコスプレをする人が増えるでしょうか? もしそうだとしたらアーサー同様、この歌声に精神が共鳴したのかもしれませんね。

Written By 杉山すぴ豊


レディー・ガガ『Harlequin』
2024年9月27日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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