来日が迫るガンズ・アンド・ローゼズの新メンバーと長いツアータイトルの謎

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Photo: Ross Marino/Getty Images

2025年5月5日、Kアリーナ横浜にて一夜限りの来日公演を行うガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N’ Roses)。そんな彼らについて音楽評論家の増田勇一さんによる短期連載を掲載。

第2回は、急遽発表となった新メンバー、そして『Because What You Want & What You Get Are Two Completely Different Things』と名付けられたツアータイトルの意味について。

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新ドラマーの発表

さて、短期連載の第2回である。今回はまず、やや唐突に明らかになった新展開について話を整理しておきたい。前回の記事の中で「ひとつでも多くの新情報が届くことを願わずにはいられない」などと書いた途端、いきなり急展開が待ち受けていた。

去る3月20日、ガンズ・アンド・ローゼズは、19年以上にわたりこのバンドに貢献を続けてきたドラマー、フランク・フェラーの脱退を公表。そして翌21日に発表されたのは、その後任にアイザック・カーペンターが迎えられたとの事実だった。オフィシャルの告知文面にはきっぱりと“ニュー・ドラマー”と記されているだけに、急場しのぎの一時的な参加というわけではなさそうだ。

アイザックは2009年以来、ダフ・マッケイガン率いるローデッドのドラマーを務めてきた人物で、その事実からも彼の加入はダフの推薦によるものだろうと推察できる。1979年生まれで、ダフと同じくワシントン州出身の彼は、ジェフ・レディングの後任としてローデッドに加入する以前はラウドミルク(のちにゴスリングと改名)、ジ・イクシーズといったバンドに籍を置いていた他、2010年代にはアダム・ランバートのツアーへの参加歴もある。しかもハイスクール時代にはガンズ・アンド・ローゼズのトリビュート・バンドを組んでいたというのだから、まさに打ってつけの人材といえそうだ。

また、3月に入ってからインド、タイ、台湾での公演開催が新たに追加発表されている事実も見逃せない。『Because What You Want & What You Get Are Two Completely Different Things』と銘打たれた今回のツアーが5月1日に韓国で幕を開けること、日本が二番目の公演地であることに変わりはないが、これによってツアー日程が一気に密度濃いものになった。

少しばかりうがった見方をすれば、こうした公演追加はアイザックを迎えた新体制でのライヴを一刻も早く軌道に乗せるためのものと解釈できなくもないが、いずれにせよバンドの動きが活発になること、新鮮な話題が伴っていることについては歓迎したいところだし、彼の加入がどのような作用をもたらすことになるのかも楽しみなところだ。

 

ツアータイトルを読み解く

ところで、やたらと長いこのツアー・タイトルについては前回の記事中でも触れたが、実はこの言葉は、1985年当時のライヴ告知にも使用されていたことがある。彼らは同年12月20日、ロサンゼルスにかつてあったミュージック・マシーンという500人収容規模のクラブでライヴを行なっているが、その際の公演告知フライヤーには、まさにこれと同じキャッチコピーが躍っているのだ。

そのフライヤー画像は、初期のガンズについて誰よりも精通しているマーク・カンターが2008年に刊行した『RECKLESS ROAD』(日本語版も2009年に道出版より発売されている)の中にも見付けることができる。

『レックレス・ロード』(2009年・道出版刊)誌面より

このミュージック・マシーンでのライヴについて特筆すべき点があるとすれば、のちに『Appetite For Destruction』の収録曲のひとつとなる「Nightrain」が初めて演奏されていることだろう。この楽曲のタイトルがナイト・トレインという酒の名前に由来していることをご存知の読者も多いに違いない。

『Appetite~』発表当時に米ゲフィン・レコードが作成したプレスリリースの文面には「1ドルで買えるアルコール度数19%の激安ワインで、1リットルも呑めば泥酔する」というアクセル・ローズの発言も引用されている。

改めて検索などしてみると、価格や度数についてはやや誇張が入っているようで(実際には17.5%である模様)、純粋なワインというよりは合成酒、さらには「風邪薬のような眠気を誘う」といった記述もみつかる。ただ、いずれにせよ当時の彼らにとって「金のない時に手っ取り早く酔うための酒」だったことは間違いない。筆者も実際に口にした際には、いかにも悪酔いしそうな癖の強い甘みに、「2杯目は遠慮したい」と思わされたものだ。

彼らが何故、1985年末の同公演に「欲しいものと手に入れたものは、まったく違うものだから」という意味合いの言葉を掲げたのはわからない。ただ、ナイト・トレインがどんな酒であるかを踏まえると「心地好い酔いを求めて飲んだ安酒がもたらす酷い二日酔い」にも重なるところがあるし、それこそドラッグの取引にまつわる言葉なのではないかという解釈も可能だろう。

 

「あんたたちが欲しがっているようなバンドじゃないぜ」

そしてもうひとつ想像できるのは、この言葉には当時の各レコード会社や音楽関係者たちに対するバンド側からの「俺たちはあんたたちが欲しがっているようなバンドじゃないぜ」といった警告めいたメッセージが込められていたのではないか、ということだ。

実際、彼らがゲフィン・レコーズと契約を交わしたのは1986年3月のことだったとされているが、1985年当時の彼らはアンダーグラウンドのシーンで注目を集め始め、ライヴのたびに業界内の大人たちから美味しい話をちらつかされていた。

『ダフ・マッケイガン自伝/イッツ・ソー・イージー:アンド・アザー・ライズ』におけるダフ自身の記述によれば、彼らは1985年の暮れにインディーズのレストレス・レコーズからオファーを受けていたし、ランナウェイズの仕掛人だった人物としても知られるキム・フォウリーからもマネージメントを手掛けたいとの申し出を受けている。ただ、そこで彼らがそうした話に食いつかなかったのは「こいつらが声をかけてくるということは、他のやつらも声をかけてくるはずだ」との判断からだった。

実際、その時期にそうした話に飛びついていたならば、バンドの公式音源が初めて世に出るタイミングはもう少し早くなっていたかもしれないが、『Appetite For Destruction』という名盤は生まれていなかったかもしれない。

なにしろマネージャー志願を断られたキム・フォウリーは、それでもこのバンドで儲けることを諦めず、「Welcome To The Jungle」の著作権獲得に躍起になっていたというのだから。とはいえ、バンドから断られてもなお契約条件を吊り上げながらしつこく契約を迫っていたというキムの慧眼ぶりにも唸らされるものがあるが。

さて、話がぐんぐんと横道に逸れてきたが、いずれにせよ『Because What You Want & What You Get Are Two Completely Different Things』というタイトルが今回のツアーに掲げられた意図は、いまだによくわからない。ただ、結成40周年にあたる年に新たな布陣でツアーに臨むという部分においては、どこか意味合い的に重なるところを感じさせられなくもないし、もしもこの先に、前々から噂が立っては消えている現布陣での初のオリジナル・アルバム登場が控えていたりするならば、この時期にこの言葉が用いられることにも意味があるように思われる。

また、新ドラマーの加入直後に行なわれるツアーという意味においては、『USE YOUR ILLUSION Ⅰ/Ⅱ』の発売を待たずして1991年5月にスタートしたマット・ソーラム加入後のツアーを思い起こさせもする。次回は、その当時のことを中心に書こうと思う。もちろんそれまでの間に届く新情報の内容次第では、この連載の向かう方向も変わってくるかもしれないが。

Written by 増田勇一


来日公演予習プレイリスト公開中

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ガンズ・アンド・ローゼズ『Appetite For Destruction』
1987年8月21日発売
BOX SET / CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music


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