ザ・キラーズはようやく日本でブレイクするのか? 20年振りにフジロックにトリで帰還する彼らの魅力
急遽出演キャンセルとなったSZAの代わりに、ザ・キラーズ(The Killers)が2024年のフジロック・フェスティバル初日のヘッドライナーとして出演することが決定した。
フジロックの出演は20年振り、単独公演としては2018年振りとなる来日公演について、音楽ライターの粉川しのさんに解説いただきました。
また、フジロックのライブの予習プレイリストが公開となっている(Apple Music / Spotify / Amazon Music / LINE MUSIC / YouTube)
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20年振り、そしてヘッドライナーでのフジロック
ついに、ついにザ・キラーズのヘッドライナー・ステージが日本で実現する。
キラーズのフジ・ロック・フェスティヴァルへの出演は2004年以来実に20年ぶりだが、20年前のフジはデビュー・アルバム『Hot Fuss』をリリースした直後の初来日で、デビューしたての新人らしくレッドマーキーの昼帯での出演だった。
彼らは2年後のセカンド・アルバム『Sam’s Town』の時点で既に各国のビッグ・フェスを制するバンドに成長していたわけで、日本でそれが実現するまでに20年もの歳月を要したのは、キラーズと日本に纏わる特殊事情のせいでもある。
数と質で圧倒するヘッドライナー名人
いずれにしても、キラーズはライヴ・バンドとしての実力はもちろんのこと、フェスティヴァルのヘッドライナーとして数量的にも質的にも破格の実績を誇るバンドだ。今年も4月の「New Orleans Jazz Fest 2024」を皮切りに、5月の「Boston Calling」、6月のNYでの「Governors Ball」、7月のスペインでの「Madcool」とフジ・ロック、そしてフジ・ロック後には北米に舞い戻って「Lollapalooza」にそれぞれヘッドライナーとして出演するという、超過密なスケジュールが組まれている。
一度でも彼らのステージを観たことがある人ならば、どんなフェスだろうとも「キラーズならば間違いない」という確信が、フェスという祝祭の場に相応しい万人を歓喜させるエンターテイメントを作り上げてくれるという信頼があるはずだ。それにしても、何故キラーズは「ヘッドライナー名人」とでも呼ぶべき唯一無二のポジションを築くことができたのだろうか。
キラーズをあらゆるフェスの顔たらしめている理由の一つとして明快なのが、文字通り「数量的」な実績の凄さだ。何しろ彼らは2007年以降、毎年(!)少なくとも必ず1回は世界のどこかでフェスでヘッドライナーをやってきたのだから(※パンデミックでフェス自体が中断した2020年は除く)。
フェスに出演するならヘッドライナーが定位置の大物バンドは他にも数多くいるだろうが、メタルのようなジャンル特化型フェスではない、プロパーなフェスの顔を毎年務めることができるバンドは、現在キラーズをおいて他にはいないだろう。自分たちのアルバムのリリースやプロモーションのサイクルは度外視して、彼らはフェスの大舞台のために常に最高のコンディションを整えているプロフェッショナルなライヴ・バンドなのだ。
「全ての人を、一人も取りこぼさず楽しませる」
そしてここからは「質的」な話になるが、キラーズが毎年フェスに出演しているのはもちろん膨大なニーズがあるからで、何故ニーズがあるかと言えば、彼らがどんなフェスのコンセプトや客層にもフィットする、オールマイティな人気を誇っているからだ。
彼らはコンサバティブなフェスで大御所アーティストと並んでメインを張ることが出来るバンドであり、オルタナティヴなフェスで気鋭のラインナップを引っ張っていけるバンドでもある。全曲合唱する気で最前に詰めかけるファンの一方で、「Mr. Brightside」くらいしか知らないオーディエンスも大勢いるのがフェスなわけだが、彼らにはそうしたギャップを埋めて余りあるショーマンシップがあり、観客の多様な嗜好性のヴェールを剥ぎ取って感情に直リーチする、強力なアンセムの数々がある。
「全ての人を、一人も取りこぼさず楽しませる」というのがキラーズのライヴの基本方針であり、これはシビアなショウビズの街ラスベガスで育ち、鍛え上げられた彼らの本能のようなものでもある。
キラーズのアンセムの数々を改めて聴き直してみると、そこに想像以上のサウンド・バラエティが広がっていることに気づくだろう。彼らのシグネイチャーとされるモロに80sなエレポップは、実はキャリア初期の一要素に過ぎない。
アメリカの広大な大地を吹き抜ける砂っぽい風を想起させるオーガニックなギター・ロックから、ファンキーなグルーヴ・チューン、ゴスペル・バラードもあればエモやカントリーもあり、インダストリアルなダンス・パンク風まである。そして様々な曲調の中には常にフックがあり、シンガロングの合図となるブレイクがある。
そう、唯一揺るがないのは、ジャンルに自閉することなくポップ・ソングとして開かれた圧倒的なキャッチーさなのだ。エルヴィス・プレスリーを彷彿させるブランドンのステージングも重要なファクターの一つだろう。彼はシンガーであり、フロントマンであり、ロック・スターをカリカチュアしてみせるパフォーマーであり、時にバンドと観客の間を取り持つホストでもある。
ラスベガスのカジノをどさ回りしていた時代から叩き上げてきた演奏力、ワンコーラス聴けば即一緒に歌える楽曲のキャッチーさ、フロントマンのカリスマ性、そして2時間弱のショウに全てを注ぎ込むサービス精神。キラーズが兼ね備えたこれらの強みが最大限に発揮される場が、フェスティヴァルのヘッドライナー・ステージだと言っていいだろう。そして彼らは世界中で毎年ヘッドライナーをやり、自分たちの強みを毎年見せつける機会を得ていることで、各フェスで常に初見の若いファンを増やしていく……という好循環を生み出している。
キラーズは20年前のフジロックを皮切りにこれまでに5度の来日を果たしているが、残念ながらシチュエーション的にも動員的にも上記の強みを100%発揮できた来日は過去にない。一度でもライヴを体験すればキラーズの凄さは瞬時に理解されるはずなのに……とずっと歯がゆい気持ちでいたファンは筆者だけではないだろう。今回のフジ・ロックこそが、彼らにとっても私たちファンにとっても、待ちに待った本領発揮のステージなのだ。
フジロックでのキーとなる曲は?
ではここで、フジロックのセットリストを予想しつつ、当日のキー曲となりそうなナンバーをおさらいしていくことにしよう。まず前提として、彼らの最新アルバム『Pressure Machine』は既に3年前の作品なので、今回はアルバム・ツアーではない。
フジの雛形となりそうな“Boston Calling”や“Governors Ball”のセットリストを確認すると、『Hot Fuss』『Sam’s Town』『Day & Age』の初期3作からの曲がセットの約3分の2を占めている。つまり、フジ・ロックも次々に強力なアンセムが連打されるベストヒット・ライヴとなることが約束されている。
『Hot Fuss』収録の「Somebody Told Me」や「All Things That I’ve Done」は、オープニングでプレイされる可能性が高い鉄板曲。「Somebody Told Me」ならば瞬間着火で縦ノリ必至の盛り上がりになるだろうし、「All Things That I’ve Done」であればドラマティックなスターターになるだろう。
『Sam’s Town』のナンバーでは「Read My Mind」は確実にプレイされるだろうし、東京で撮影されたMVも含めて彼らも日本を意識してセットに組み込んでくるはずだ。また、個人的に1、2を争うキラーズのライヴ・フェイバリットが「When You Are Young」で、ブランドンのボーカルといいシンセセリフといい、キラーズ史上最もエモい曲の一つであり、セットの後半のハイライトになることが予想される。
アンセムという意味では『Day & Age』は『Hot Fuss』に匹敵するアンセムの宝庫であり、「Human」「Spaceman」と野外でのシンガロングが最高に気持ちいいだろう曲が揃っている。
初期3作以外のナンバーでは「Caution」「Runaways」あたりもブルース・スプリングスティーンを彷彿させるブランドンのボーカルも含め、フェス映えするエピックなロック・チューンで外せない。少し変化球のところではエロール・アルカンと組んでダンス・ロックをやった「The Man」、ソウルフルなコーラスを効かせた「Shot At The Night」あたりもぜひ苗場で聴きたいナンバーだ。
そしてフィナーレを飾るのは「Mr. Brightside」になるだろう。コーラスはもちろんのこと、全編シンガロングする意気込みで臨むべきナンバーであり、ブランドンはセカンド・ヴァースの
「It started out with a kiss, how did it end up like this?」
「(It was only a kiss) It was only a kiss」
のコール&レスポンスを求めてくるはずなので、確実に打ち返したいところだ。
苗場の山々に彼らと私たちの歌声を木霊させ、フジ・ロックの伝説の1ページを刻む日はもう目前だ。
Written By 粉川しの
ザ・キラーズ「FUJI ROCK FESTIVAL’24」予習用プレイリスト
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