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1964年のビートルズ:映画『ハード・デイズ・ナイト』のサントラと“目新しい”『Something New』

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1964年2月7日、ザ・ビートルズが初めてアメリカに降り立ち、その2日後の2月9日の晩、”エド・サリヴァン・ショー”に初出演して以降、アメリカをはじめとする世界各国でビートルズ旋風が巻き起こってから60年。

その起点となったザ・ビートルズと1964年について様々な角度から焦点をあてる連載がスタート。第2回はアメリカで最初に発売されたアルバム『A Hard Day’s Night』と『Something New』について。

第1回:『1964年のザ・ビートルズ』
第2回:『惨敗だった1963年ビートルズのアメリカ・デビュー』

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The Beatles: 1964 U.S. Albums In Mono Vinyl Box Set

 

ビートルズのアメリカ上陸60周年を記念して、アメリカのキャピトル・レコードからの作品をまとめた8枚組ボックス・セット『The Beatles : 1964 U.S. Albums in Mono』が11月22日に発売された(2枚組のドキュメンタリー・アルバム『The Beatles’ Story(ビートルズ物語)』を除くLP6枚も、それぞれ単独作品として同時発売)。

連載3回目は、映画『ハード・デイズ・ナイト』の配給会社ユナイテッド・アーティスツから発売されたアルバム『A Hard Day’s Night (Original Motion Picture Soundtrack)』(以下:A Hard Day’s Night (OST)。1978年にキャピトル・レコードから再発)と、それに続いてキャピトルから発売された『Something New』について紹介する。

 

UK版とUS版のアルバム“A Hard Day’s Night”の違い

イギリスでは、ビートルズのシングルは1962年の「Love Me Do」から1968年の「Lady Madonna」までがEMIのパーロフォン・レーベルから発売され、アルバムは1963年の『Please Please Me』から1967年の『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(1967年の『Magical Mystery Tour』はEP2枚組)までがパーロフォンからの発売だった。

その後、1968年のシングル「Hey Jude」から1970年の「Let It Be」、1968年のアルバム『The Beatles(通称:ホワイト・アルバム)』から1970年の『Let It Be』までは、ビートルズが設立したアップル・レコードが制作し、発売はEMIという流れとなった。

一方、アメリカ編集盤の多くはキャピトル・レコードから発売されたが、特記すべき例外として次の2作がある。イギリスのデビュー・アルバム『Please Please Me』の収録曲の権利を持っていたヴィージェイ・レコードから1964年1月10日に発売された『Introducing… The Beatles』と、今回紹介するユナイテッド・アーティスツからのアルバム『A Hard Day’s Night』である。

『A Hard Day’s Night (OST)』がキャピトルから発売されなかったのは、ユナイテッドアーティスツが、映画の配給と併せてサウンドトラック盤の権利も手に入れたからだ。イギリスのオリジナル3作目の『A Hard Day’s Night』との大きな違いは、映画に使われたジョージ・マーティン・オーケストラによるビートルズのカヴァー(「A Hard Day’s Night」「I Should Have Known Better」「And I Love Her」「This Boy」の4曲)が収録されていることだ。特に「This Boy」のインスト版は川辺を歩くリンゴの印象的な場面に使われ、「Ringo’s Theme (This Boy)」のタイトルが付けられ、日本では「リンゴのテーマ」のタイトルでシングルとしても発売された。

アルバム『A Hard Day’s Night (OST)』は、キャピトルからの2作目となった『The Beatles’ Second Album』の2か月半後の1964年6月26日に発売された。

 

14週連続第1位となったUS3枚目

収録された全12曲の内訳は、映画で流れた新曲7曲(イギリス盤『A Hard Day’s Night』のA面収録の7曲)――「A Hard Day’s Night」「I Should Have Known Better」「If I Fell(恋におちたら)」「I’m Happy Just to Dance with You」「And I Love Her」「Can’t Buy Me Love」「Tell Me Why」と、B面収録の「I’ll Cry Instead(ぼくが泣く)」と、先に触れたジョージ・マーティン・オーケストラによる4曲。

「I’ll Cry Instead」は、もともと、ビートルズが警官と追いかけっこをする場面に合わせて書かれた曲だったが、監督のリチャード・レスターが気に入らず、その場面には「Can’t Buy Me Love」が使われた。そのため、映画には「Can’t Buy Me Love」が2度登場する結果となった(1981年に再上映された際に、オープニングの追加映像のBGMとして使用された)。

もうひとつ、「I’ll Cry Instead」だが、『A Hard Day’s Night (OST)』の曲目は、誤って「I Cry Instead」になっていた。タイトルはイギリスもアメリカも『A Hard Day’s Night 』だが、映画のサウンドトラックとしての有効性は、イギリスの同名オリジナル・アルバム『A Hard Day’s Night 』よりもアメリカ編集盤のほうが高い。「If I Fell」と「And I Love Her」のそれぞれジョンとポールのヴォーカルが、ダブルトラックではなくシングルトラックになっているなど、ミックスの違いを楽しめる曲も多い。

『A Hard Day’s Night (OST)』は、アメリカのアルバム・チャートで14週連続第1位を記録。1964年度の年間ランキング37位、1965年度の年間ランキングでも36位を記録。アメリカだけで400万枚以上を売り上げた。

アメリカでの人気拡大に伴い、シングルも続々登場。このアルバムからは、1964年7月13日に「A Hard Day’s Night (OST) / I Should Have Known Better」、7月18日にジョージ・マーティン・オーケストラによる「And I Love Her / Ringo’s Theme (This Boy)」、7月20日に「And I Love Her / If I Fell」と「I’ll Cry Instead / I’m Happy Just to Dance with You」の4枚が発売された。

 

キャピトルからの“目新しいアルバム”

『Something New』は、『A Hard Day’s Night』のサウンドトラック盤を発売できなかったキャピトルが、それに代わる“目新しいアルバムを”という思惑で制作したもので、そのサウンドトラック盤の1か月後の1964年7月20日に発売された。

収録されたのは11曲。イギリス盤『A Hard Day’s Night』収録曲からの8曲――「If I Fell」「I’m Happy Just to Dance with You」「And I Love Her」「Tell Me Why」「Any Time At All」「I’ll Cry Instead」「Things We Said Today」「When I Get Home」と、イギリスのEP「Long Tall Sally」に収録された「Slow Down」と「Matchbox」(EP4曲の残りの「Long Tall Sally」と「I Call Your Name」は『The Beatles’ Second Album』に収録)、おまけに(?)「I Want To Hold Your Hand(抱きしめたい)」のドイツ語ヴァージョンという、通好みな内容である。

前回紹介した『Meet the Beatles!』と『The Beatles’ Second Album』も、「表と裏」「陽と陰」というそれぞれ補完しあう内容だったが、『A Hard Day’s Night (OST)』と『Something New』も、同じような位置づけにあると捉えることができそうだ。

ちなみにイギリス盤『A Hard Day’s Night』から漏れたのは、「A Hard Day’s Night」「I Should Have Known Better(恋する二人)」「Can’t Buy Me Love」「I’ll Be Back」の4曲。「I’ll Be Back」はキャピトルからの5作目『Beatles ’65』(1964年12月15日発売)に、「I Should Have Known Better」「Can’t Buy Me Love」は同じくキャピトルからの16作目『Hey Jude』(1970年2月26日発売)にそれぞれ収録されたが、「キャピトルからの16作目」は、ユナイテッドアーティスツからのサウンドトラック盤に収録されただけで、キャピトルからの編集盤17作品には収録されていない。

内容は通好みではあるものの、1964年2月に出演した『エド・サリヴァン・ショー』の演奏場面を使ったジャケット・デザインと、“SOMETHING NEW”の洒落たタイトル文字が何より素晴らしい。同じく内容は通好みだった『The Beatles’ Second Album』と並び、キャピトルから発売されたビートルズの編集盤では1,2を争う名デザインだ。

『Something New』は、アメリカのアルバム・チャートで9週連続2位を記録し、アメリカだけで200万枚以上を売り上げた。アルバムからのシングルは、1964年8月24日に「Matchbox / Slow Down」の1枚だけ発売されている。


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