1964年頃のビートルズ:“生の声”を届けた1枚、英4作目の“キャピトル仕様”、初期の作品集
1964年2月7日、ザ・ビートルズが初めてアメリカに降り立ち、その2日後の2月9日の晩、”エド・サリヴァン・ショー”に初出演して以降、アメリカをはじめとする世界各国でビートルズ旋風が巻き起こってから60年。
その起点となったザ・ビートルズと1964年について様々な角度から焦点をあてる連載がスタート。第4回はアメリカで1964年、そして1965年に発売された3枚のアルバムについて。
・第1回:『1964年のザ・ビートルズ』
・第2回:『惨敗だった1963年ビートルズのアメリカ・デビュー』
・第3回:映画『ハード・デイズ・ナイト』のサントラと『Something New』
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ビートルズのアメリカ上陸60周年を記念して、アメリカのキャピトル・レコードからの作品をまとめた8枚組LPボックス・セット『The Beatles : 1964 U.S. Albums in Mono』が11月22日に発売された(2枚組のドキュメンタリー・アルバム『The Beatles’ Story / ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』を除くLP6枚も、それぞれ単独作品として同時発売)。
連載4回目は、1964年から65年にかけてキャピトル・レコードから発売された残りの3作品――『The Beatles’ Story』『Beatles ’65』『The Early Beatles』を紹介する。
『The Beatles’ Story』:“生の声”を届けた1枚
ボックス・セットのみの収録となったアルバム『The Beatles’ Story』は、キャピトルからの3作目――ユナイテッドアーティスツからの『A Hard Day’s Night』を加えると4作目――となった『Something New』の4か月後の1964年11月23日に発売された。
メンバーやブライアン・エプスタインの紹介をはじめ、インタビューや記者会見を中心に、ビートルズの“生の声”を届けることを主眼としたもので、併せてアメリカでのビートルマニアの熱狂ぶりを伝えることを意図したドキュメンタリー・アルバムである。
熱狂的なファン向けとも言えるこの異色作が制作されたのは、ロサンゼルスのラジオDJによるビートルズとのインタビュー音源をまとめたレコードが、『Please Please Me』など初期の権利を持っていたヴィージェイ・レコードから発売されたことに対抗するためでもあった。
ビートルズがアメリカで寝泊まりしたホテルのベッドのシーツが切り売りされたのをはじめ、「ビートルズ」と名の付くものは何でも商売になる。キャピトルもビートルズのレコード発売には熱心だったが、それ以上のあざとい商売が1964年当時はあふれかえっていた。
『The Beatles’ Story』は、通好みではあるものの、他にも聴き逃せない“生の声”が収められている。1964年8月23日にロサンゼルスのハリウッド・ボウルで行なわれたコンサートから「Twist and Shout」の生演奏が収録されているのだ。ドキュメンタリー作品ということもあり、わずか48秒の演奏ではあるものの、ビートルズのライヴ音源が初めて収録されたものでもあった。
とはいえ、このライヴ音源に関しても、収録されたのにはひとつ大きな理由がある。キャピトルは当初、8月23日のハリウッド・ボウル公演のライヴ・アルバムを制作する予定があり、実際に録音もされている。だが、音の悪さや観客の大きさなどから、現場にも立ち会ったプロデューサーのジョージ・マーティンは発売を許諾せず、本作にわすかながら「記録」として収録されるにとどまったというわけだ。
『The Beatles’ Story』は、2枚組のドキュメンタリー作品であるにもかかわらず、アメリカのアルバム・チャートで7位を記録した。
『Beatles ’65』:『Beatles for Sale』の“キャピトル仕様”
続く『Beatles ’65』は、『The Beatles’ Story』の1か月後の1964年12月15日に発売された。
収録曲を見ると、イギリスでの4作目『Beatles for Sale』の“キャピトル仕様”といった趣がある。全11曲のうち、「No Reply」「I’m A Loser」「Baby’s In Black」「Rock And Roll Music」「(I’ll Follow The Sun」「Mr. Moonlight」「Honey Don’t」「Everybody’s Trying To Be My Baby」の8曲が『Beatles for Sale』収録曲だ。
残りは、そのアルバム・セッションでレコーディングされ、シングルとして発売された「I Feel Fine」「She’s a Woman」の2曲(ともにエコーが深い別ミックス)と、『A Hard Day’s Night (Original Motion Picture Soundtrack)』には収録されなかった「I’ll Be Back」という構成である。ちなみに『Beatles for Sale』から外された6曲は、キャピトルからの『The Early Beatles』の次作『Beatles VI』(1965年6月14日発売)に収録された。
キャピトル盤は、イギリスのオリジナル盤と似通った内容でも、曲が減った分、印象が大きく異なる。本作も、A面こそイギリス盤から最後の「Kansas City/Hey Hey Hey」が外されただけだが、B面はイギリス盤の冒頭の2曲――「Eight Days A Week」と「Words of Love」が外されたことで「Honey Don’t」が1曲目にきて、間にシングル曲などを挟み、最後は「Everybody’s Trying to Be My Baby」で終わるという、カール・パーキンスのカヴァー曲が最初と最後を飾る構成となった。もうひとつ、本作は全11曲中、ジョンがメインで歌う曲が6曲あるのに、ポールが2曲というのも、独特な内容といえるだろう。
『Beatles ’65』は、アメリカのアルバム・チャートで9週連続1位を記録し、アメリカだけで300万枚以上を売り上げた。ジャケット・デザインは、日本での5作目となる編集盤『ビートルズ No.5!』(65年5月5日発売)に流用された。
『The Early Beatles』:初期のビートルズ作品集
『The Early Beatles』は、『Beatles ’65』の3か月後の1965年3月22日に発売された。
連載の2回目に紹介したように、アメリカのヴィージェイ・レコードはキャピトルの戦略に便乗し、アルバム『Introducing… The Beatles』をキャピトルからのデビュー・アルバム『Meet The Beatles!』の10日前の1月10日に発売した。
その後、ヴィージェイとの契約が切れ、『Introducing… The Beatles』の収録曲の権利を取ったキャピトルが新たに編集したのが、まさに初期のビートルズ作品集『The Early Beatles』だった。
収録された全11曲の内訳は、イギリスのデビュー・アルバム『Please Please Me』から 2枚のシングルのA・B面――「Love Me Do」「P.S. I Love You」と「Please Please Me」「Ask Me Why」の計4曲に加えて、「Anna (Go To Him)」「Chains」「Boys」「Baby It’s You」「Do You Want To Know A Secret」「A Taste Of Honey」「Twist And Shout」の7曲。
外されたのは「I Saw Her Standing There」「Misery」「There’s A Place」の3曲だった。「I Saw Her Standing There」は『Meet The Beatles!』に収録済みだったが、残る「Misery」と「There’s A Place」は、キャピトル盤の未収録曲を集めた編集盤『Rarities』に収められ、1980年3月24日に発売されている。
本作も、曲順が面白い。イギリスでの最初のシングル2曲「Love Me Do」と「Please Please Me」がそれぞれA面とB面の冒頭に収録されているのは妥当だが、「Love Me Do」の次に「Twist And Shout」が出てくるのが、イギリス盤を聴きなれたファンには新鮮に響くに違いない。最後にジョージのヴォーカル曲「Do You Want To Know A Secret」で終わるというのも独特な流れだ。
『The Early Beatles』は、さすがに初期の作品過ぎたのだろうか、アメリカのアルバム・チャートで最高43位を記録し、100万枚以上を売り上げるのに10年以上かかっている。
ジャケットは、『Beatles for Sale』の裏の写真が使用された。
2024年11月22日発売
直輸入盤仕様/完全生産限定盤
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