辰巳JUNKが著書『アメリカン・セレブリティーズ』で語る米ポップ・カルチャーとセレブの裏にあるソーシャルイシュー

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ハリウッドスター、ミュージシャン、政治家、インフルエンサーなど、現代のアメリカのポップ・カルチャーを代表する20組のセレブを解説して「アメリカという社会の仕組み(と、その歪み)」を浮き彫りにする書籍『アメリカン・セレブリティーズ』が4月30日に発売となりました。uDiscoverでも過去に記事を寄稿いただいた著者、辰巳JUNKさんに、この本のことはもちろん、ご本人のこと、本に入りきらなかったこと等をリモートでお伺いしました。

<辰巳JUNKさん記事>
ホールジー、“わかりにくい存在”であり“既存の型にはまらない”新女王の魅力とは
・カニエ・ウェストと宗教、そして神:ゴスペル・アルバム『JESUS IS KING』へ至る道


 

 

-最初に簡単なパーソナリティの部分をお伺いしたいのですが、まずTwitterのアカウント名にある「うまみゃん」っていうのは何のことなんでしょうか?

辰巳:もともとそっちをTwitterのハンドルネームとして使ってまして、すごい適当に決めたやつなんですけど。ライターのお仕事を初めてもらった時に「うまみゃん」だと発音がしにくいので、それで姓と名がある仕事用の名前を作ったんです。

-なるほど。「うまみゃん」だとちょっとポップすぎる名前ですもんね。

辰巳:「うまみゃん」では結構ふざけたツイートをしていたんで、それとは別のものを作ったほうが責任が生じるかなと思って(笑)。「うまみゃん」と「辰巳JUNK」は別人格というか。エミネムとかビヨンセみたいなオルターエゴ的なやつっていうか。

-なるほど(笑)。

辰巳:「サーシャ・フィアース」(ビヨンセのオルターエゴ)とか「マーシャル・マザーズ」(エミネムのオルターエゴ)みたいな(笑)。

-最初に買ったCDは何でした?

辰巳:めっちゃ世代なんですけど、ポケモンの歌ですね。ロケット団の歌(笑)。

-では、最初に買った海外アーティストのCDは何か、覚えていらっしゃいますか?

辰巳:たぶんCDを買ったのはブリトニー・スピアーズだったと思います。

-初めて行ったコンサートは誰でした?

辰巳:オアシスとかだったような。2000年代に解散してしまったUKロックなので今回の本とは違っちゃうんですけども(笑)。

-「オアシス」って本の中で、一言も出てこなかったんでしたっけ?

辰巳:ええと、ギリギリたぶん「アリアナのマンチェ―スター公演でリアム・ギャラガーが……」みたいな一言が(笑)。『アメリカン・セレブリティーズ』には文中に登場する人の脚注も載せているのですが、リアムの項ではおなじみの名言も載ってます(笑)。

-色々な情報ソースを英語で取られてると思うんですが、英語についてはどこで勉強されたんですか?

辰巳:それは役立ったのは大学の授業ですね。

-そうなんですね。

辰巳:アメリカでちょっとした滞在とか勉強はしたことはありましたが、堅苦しい長い英文を読む面では、大学の強制訓練みたいなものが一番……(笑)。

-Twitterや寄稿記事を拝見していると、映画、音楽、テレビ、ゲームなどすごく広くポップカルチャー全般に興味持たれていますよね。どうやって時間をやりくりしているんですか?

辰巳:ああ、それは、めっちゃスマホ中毒なので。もう永遠にやるみたいな……(笑)。

-最初のいわゆるプロとしてのお仕事って何だったか覚えていらっしゃいますか?

辰巳:Twitterで相互フォローをしていただいている方が編集者の方で、その方からお話いただいたのが最初でした。ファッション系のメディアなんですけど。そこで、「セレブのこととかを書いてほしい」みたいなTwitterっぽい感じでオファーをいただいたのが最初だと思います。

-その方とは知り合いじゃなくて、Twitter上の相互フォローというだけ?

辰巳:Twitterで生まれたキャリアみたいな感じで(笑)。カーディ・Bみたいな。SNSで変なことを言っていたら成り上がったみたいな(笑)。

-フフフ、素晴らしい(笑)。FNMNLとかも同じ感じですか?

辰巳:おそらく……? CINRAさんとかも確かTwitteを見ていただいたのがきっかけみたいな感じで。それで真面目っぽいことを書いたのはそのCINRAさんのビヨンセのコーチェラ記事あたりからですかね。そこらへんから「セレブネタ以外」っていうか、音楽に関する長文も書き始めたっていう感じですね。

-たくさん記事を執筆されていますが、今まで書かれた記事の中で一番反響があったものはどれになりますか?

辰巳:どれだろう。パっと浮かぶのは、ブログになっちゃうんですけども。アメリカのヒップホップでだんだんと男性の弱さとか憂鬱みたいなものの表現が流行っていったみたいな記事を昔、ブログで書いて。それが結構読んでいただけた感じですね。

-過去のブログを拝見していたら、昔は映画ネタが多かったんですね。ミュージシャンを書くことになる転機は何かあったんでしょうか?

辰巳:なんででしょうね? Twitterでポップスターとかディーバとかをしゃべる友達ができて。それでミュージシャンについてのツイートが増えていって、自然にオファーとかをいただくようになったっていう。ツイートの変動で……(笑)。

-フフフ、Twitterのフォロワーの変動で仕事の内容が変わると?

辰巳:そうなんですよね(笑)。

-いやいや、素晴らしいです。今っぽいですね。

辰巳:もう、移り気な……(笑)。

 

本の中で選ばれた20組の人選について

-それでは今回の著書『アメリカン・セレブリティーズ』についてお伺いさせてください。あとがきで「1年以上かかった」という風に書いていらっしゃいましたが、出版社からの執筆依頼のきっかけはどういう感じだったんですか?

辰巳:編集の方から「なにか本を作りましょう」みたいにご連絡をいただいて。そこでご相談をして、セレブを前面に出して、そのセレブの裏にあるソーシャルイシュー的なものをひとつずつ書いていこうみたいな風になって……っていう感じでなんとか完成しました。

-1年ぐらいかかった理由は何かあるんですか? 単純に忙しいっていう?

辰巳:それはなんか私があんまり締め切りというか……なかなか書かなかったっていう(笑)。

-フフフ(笑)。書籍の中では20人を挙げられていましたが、人選はどうされたんですか?

辰巳:今まで原稿で書いてきたものの集大成的な感じでやろうと思ったんです。あとは渡辺志保さんのラジオ「MUSIC GARAGE:ROOM 101」(BAY FM)にお呼びいただきまして。そこで最初の2回、テイラー・スウィフトとキム・カーダシアンの基本的なキャリアの流れみたいなことをしゃべらせていただいたんです。それで「案外、語れるな」みたいになりまして(笑)。それと、最近はセレブの行動とかいろいろな反応までを一冊にまとめたものが日本だとあまりないかなと思って。それで今の形になったっていう感じですね。

-その20人のなかで、ミュージシャンが14人。セレブは3人……トランプをセレブに入れますけど。あとは俳優が3人。ミュージシャンが多くなった理由というのは、曲で自分を表現したり、SNSをよく使っていたりというところなんですか?

辰巳:自分がミュージシャンについて多く書いていたからっていうのもあるんですが、やっぱりポップスターのメガな人たちって一番すごい注目されるんですよね。パパラッチにもハリウッドスターよりもポップスターの方が追われる感じなんです。話がちょっと逸れますが、『オーシャンズ8』っていう映画でリアーナがちょっと出ていたじゃないですか。その時の撮影現場はアン・ハサウェイとかオスカー女優がたくさんいて豪華だったんですよ。でも、リアーナが撮影するっていう時だけパパラッチの数がヤバいみたいに言われていて。で、リアーナが現場からいなくなったら途端にパパラッチも消えていったらしく。キャストもすごいびっくりしていたみたいな。

-「あんた、こんなに人気なの?」みたいな。

辰巳:「すごい、こんなに注目されてるんだ?」ってオスカー女優とかでもすごいびっくりするぐらい、パパラッチにずっと見られているみたいな。基本的にポップスターは俳優に比べてSNSでの発信も多いし、ファンとの触れ合いみたいなのとかが仕事にもなったりしているんで。だからこの本で一番扱いたかった、セレブと大衆の反応とか、ビッグビジネスみたいなダイナミズムは、ポップスターが一番あるかなって最終的には思った感じですね。

-特に私が面白いと思ったのが、この20人の中にキム・カーダシアンが入ってくるっていう、まさに「今!」っていう感じだと思うんです。SNS以前の時代だったら絶対にキム・カーダシアンはこの中には入ることもなく、パメラ・アンダーソンみたいな単なる有名なグルーピーで終わりですよね。

辰巳:初期はパリス・ヒルトンの手下みたいな感じだったんですけど。でもヒルトンホテルご令嬢のパリスと比べると全然違って、もっと庶民じみているというか。まあ、庶民じゃないんですけどね(笑)。すごいバカにされていたのに、キムはソーシャルメディアの新しい時代をどんどん読んでうまくやってきたセレブの代表格っていう感じで面白いかなと思って。

-本に書いていらっしゃいますが「有名なことで有名」っていうだけでここまで行けるんだ!っていう。

辰巳:そうなんですよね。でも、その中でもビジネスがすごい上手で、SNSも上手っていうこともあるんですけども。後々を考えるとすごい象徴的なことをやっているからと思って、やっぱりそのインフルエンサーみたいな新しいジャンルの創出みたいなのはある種、時代の象徴みたいな感じですよね。

-そうですよね。他にも面白かったのは、本の全体を通してなんですけど。日本からはアメリカのドラマや映画とかは見れますけど、たとえば夜のトークショーとかのバラエティ番組はちゃんと字幕をついたものを見る環境はないから日本には直接伝わらない部分がありますが、そこらへんがこの著書ではわかるというか。それに加えて、共和党ですね。日本で人気のあるミュージシャンの多くは民主党支持で、彼らをとおしてリベラルなアメリカは伝わってきますが、共和党とか、もっと街に根差してる教会とか、そこらへんの日本からはわかりにくいアメリカの部分っていうのが著書全体ですごく丁寧にデータとともに説明されていることが、現在のポップカルチャーを理解するためにすごくわかりやすいなと思いました。

辰巳:ありがとうございます。まあちょっと、大きく書いちゃったところもあるので、そこは反省点です。取りあえずわかりやすくしておこうと思いまして。考えるきっかけとか、調べるきっかけになったらいいなって感じですね。

 

カニエ・ウェストの都市伝説?

-著書の中でカニエ・ウェストを取り上げる章はありますが、それ以外の章に、カニエがいろいろでてきてて。もちろんキムの章や、テイラーの章とか。辰巳さんはカニエのことが好きなのかな?っていう(笑)

辰巳:今までの発言を見ていると、カニエは意識的にやっているところもあって、哲学的な理由で常識を壊すみたいな感じでやっているっぽいんですよ。だから、こういうセレブ的な本でカニエがよく登場するのは、彼が後々を考えるとすごい象徴的なことをやっていたからかな、と思います。

-そうですよね。だからファッション・ブランドのフェンディでインターンとして働いてたっていう話とかも、ものすごく興味深くて。

辰巳:あれは面白いんですよね(笑)。ファッション界ではすごい画期的な出来事として言われていて。カニエが上司にカプチーノいれたりとか、完全に面白ネタだと思ってたけど、同じ時期にカニエと一緒にインターンをしていた人(ヴァージル・アブロー)が、今やルイ・ヴィトンのディレクターになっちゃったみたいな。

(編注*ヴィトン初のアフリカ系デザイナーとしてヴァージルが起用されたコレクションでの熱い抱擁↓)

-カニエも今はファッションでも売れていて。あの当時はもうキムと付き合っていたんですか?

辰巳:そもそもフェンディのインターンがいつだったのか問題みたいなのもあって。なんか証言がいろいろと違っているから。アメリカのメディアとかでも「いつかはわかりませんが……」みたいに書いてあって。

-フフフ、都市伝説みたいな?(笑)。

辰巳:「たぶんあそこらへんじゃないか?」みたいな(笑)。その前は日本でなんかやってたらしいですけどね。

-えっ、そうなんですか?

辰巳:なんか(テイラーの演説を妨害した)大事件でカニエが傷ついてしまって。それでちょっと休止みたいになっちゃって。フェンディでローマに行く前は日本のホテルでなんかやってたみたいな。服かなにかのデザインを作ってた的な。

-へー!

辰巳:それでキムもね、(前夫との離婚調停が中々終わらなかったこともあって)カニエとは略奪愛みたいなのから始まった疑惑っていうのもあるんです。なんか最初、カニエの片思いで。それが実った的な感じのいい話もあるんです。ええと、2012年ぐらいからですね。パパラッチとかで「付き合っている」みたいになったのは。だからフェンディのインターンが2009年から2010年ぐらいなんで、たぶんキムと本当に付き合うようになるのはもうちょっと後かなっていう。ちょっとキムが離婚でゴタゴタしていたということもあり、あんまりいつから始まったのかっていうのはよくわかんないんですけども(笑)。

 

まだまだ売れ続けるマルーン5

-他に面白いと思ったのは、マルーン5の章でした。他の章で取り上げられているケンドリック・ラマーとかビヨンセとかは、他のメディアでもよく語られている人たちですが、マルーン5っていうのは曲はいいし、すごい売れてるけど彼ら自体としてはそこまで深く語られない立ち位置のような気がして。そんな彼らのことを1章まるまる論じられているのがすごく興味深くて。

辰巳:マルーン5は結構面白いんですよね。おっしゃる通り、そこまで特別持ち上げられることはないけど、なんか冷静になるとずっと売れてないか、みたいな。あのカーディ・Bとの「Girls Like You」とか、「まだ売れるんや……」みたいに思ったんです。

-すごいですよね。一緒の時期にデビューした他のアーティストだと……エヴァネッセンスはなんとか頑張っているけども、キャシディはね……っていう。なぜここまでマルーン5は売れるんでしょうか?

辰巳:流行りをちゃんとマルーン5っぽく仕上げてくるのは上手いですよね。本人としてはすごいR&Bとかヒップホップ、ソウル的な影響を誇りに思ってるみたいなんですけど。たしか一時期、もっとダンスっぽくなっていた時もあって、時代に乗るのが上手い、ちゃんとマルーン5の王道っぽくなっているみたいな。

-乗るんだけど、エッセンスだけをうまいこと取り入れてマルーン5流の料理にするみたいな。

辰巳:アメリカでは結婚式とかでめっちゃかけられてる感じらしくて。日本でもたぶんそれなりに人気があると思うんですけど、向こうでは結婚式にマルーン5を流すのが鉄板みたいな浸透ぶり。

-アダムは、映画の出方も選ぶ役もいい具合の出方ですね。

辰巳:そうですよね。(浮気者なミュージシャンを演じた)『はじまりのうた』は、すごいぴったりで(笑)。アダムは要領がいいですよね。もう、なんか……たぶん『イエスタデイ』に出たエド・シーランとかも同じ感じの要領のよさがあるみたいな。

 

ビヨンセは嫌われている?

-他にも面白かったのはビヨンセの章なんですが、ビヨンセってこんなにも嫌われてるのかっていう……。

辰巳:そうなんです。2016年のスーパーボウルの時に、政治的なイシューで凄く騒ぎになっていたので。だから我々にはよくわからないけど、大変なことらしい、みたいな。

-日本にいるとビヨンセってもう完璧なスーパーウーマンで誰もが尊敬しているって思っちゃいますが、現地では意外とそうじゃないっていうのがすごく面白くて。

辰巳:そうですね。ある種、完璧な英雄だから政治的に嫌いな人はすごい嫌いみたいな感じで。なんかオバマ政権の時から結構言われていたんですよね。共和党の派閥から(夫の)ジェイ・Zと一緒に叩かれたりとか。やっぱり音楽界のロイヤルファミリーみたいなところがあるので。すごいスーパースターだからこそ、特にそういう話に巻き込まれるみたいなのもあるとは思いますね。

-ビヨンセは著書で他に取り上げられている人達に比べたらSNSの言動で大変なことになってるっていうわけじゃないですもんね。

辰巳:そうなんですよね。それはテイラーにも通じるところで。テイラーにしても、火種になったのはあんまり政治的なことを言わないところで、それが逆にいろいろと不満だとか、過激な層に勝手に持ち上げられたりとかしてたんですけど。でも、別の音楽スターで他にも、2016年大統領選挙で支持をする政党を言っていなかった人もいるんですよね。ブルーノ・マーズとかセレーナ・ゴメスとかもしていなくて。だけどテイラーだけとにかく目立って叩かれたみたいな。なので、(言動以前に)元々の注目度が高いっていうのはありますよね。

-そうですよね。テイラーにせよ、ビヨンセにせよ。

辰巳:そう。この2人はね、結構どっちもそこまで変な発言っていうか、たとえばカニエのような火の玉ストレートな言葉は言っていないっていうのがポイントですね。

 

-あとは全体を通して、挙げられているポップスターは黒人でも白人でも右翼でも左翼でも、基本みんな全員叩かれて嫌われているっていう(笑)。そこから這い上がってへこたれないっていうのはある種の凄いパワーですね。

辰巳:まずアメリカ、ゴシップが多いんで。なんか毎日、誰かしらセレブが波紋を起こしているみたいなのがあるんですけど。そういうのでも乗り越えるっていうか、それすらビジネスに変えちゃうみたいな人が結構いるのは面白いところです。そのキャパシティー自体は広いっぽいんで。カニエの章でもちょっと書いたんですけど。「それは完全にダメでしょ?」みたいなことを言っても、案外売り上げは大丈夫だったり、むしろ上がったりしたりして。

-それが本当にすごいですよね。著書で取り上げられてるほぼ全員がそうだっていうのが面白くて。

辰巳:フフフ(笑)。その風評的なものが悪くなっても作品の需要があれば大丈夫なんじゃないか?っていう気もするんですけど。音楽界なら特に。そういう印象的なこともちゃんとマネジメントとか表現に生かして先に進んでいく、みたいな市場の動きがすごい早い(笑)。

-全てをネタにして曲にしたり、マネタイズしたり。

辰巳:そうなんですよね。テイラーとかも『1989』っていうアルバムの時に「Blank Space」っていう曲をやっていて。そのミュージック・ビデオがすごい面白いんです。なんかもう完全に開き直ってる感じなんですね。メディアの悪口記事にあるような、別れた男の悪口を書く嫌な女みたいな。テイラー曰く「メディアで書かれる自分のイメージを演技した」みたいに言っていて。そういうのも面白いですよね。本人そのものっていうよりも、あえてそういうパブリックイメージを演じちゃう。それで作品にしてヒットさせちゃうみたいな(笑)。

 

-それができる国民性っていうのが、なんかおおらかというか。

辰巳:たぶんおおらかというよりも、キャパが広いというか、デカいみたいな(笑)。ハリウッドの映画界だとちょっと違ったりもするとは思うんで。

-ああ、たしかに。そうですね。

辰巳:音楽界だとやっぱりまあスターの動ける範囲が大きそうみたいな……まああんまり簡単には言えないんですけども。

-塀の中からだって曲は出せちゃいますしね。

辰巳:そうですね。そういうネガティブに見えるところもビジネスにできちゃうっていう。良くも悪くも……みたいなとこがあるかもしれないですね。キムの章でも書いたんですが、ファイア・フェスティバル(FYRE Festival)がすごい詐欺で大変なことになって、それでインフルエンサーももう終わりじゃないかって言われていたんです。でも皮肉なのがそれをきっかけにインフルエンサーの市場自体がどんどんと拡大していったっていう(笑)。

-まさに、逆にですよね。

辰巳:そう。あの事件がすごい話題になったおかげで、インフルエンサーマーケティングの効果があるということに気づいた企業が多かったっていう(笑)。それでどんどんと関わったモデルのInstagramのスポンサー料金みたいなものも上がっていったし。そのなんでもビジネスにしてしまうっていうところがアメリカ式の資本主義っぽい、みたいなのもあるなって。

-この本を通してみると、どんなに落ちても復活できるんだって元気になれますね。

辰巳:そうですね(笑)。昔言われていたのが、「人はスターの凋落を見たがるが、スターの復活はもっと好きだ」。なんだかんだでそれはあるかもしれないですね。

 

-あとがきには「本当はケイティ・ペリーが書きたかったけど、テーマがなくて……」みたいにおっしゃっていましたけども。他に「本当はこれも書きたかったんだよな」っていう人とかって、いますか?

辰巳:マイリー・サイラスですね。マイリー・サイラスって最初は子役アイドルみたいな感じですごいドラマが大ヒットして、その後に全裸姿のポップスターになって、すごい反抗期がやってきたみたいなのがあったんです(笑)。それって日本でも結構言われる、子役が大変なことになる、みたいなパターンの2010年代版でもあるんです。それを最終的にどういう気持ちでやってたのかを書きたいですね。ああいう傍から見ればなんかドラッグとかをやってヤバくなってるみたいな感じだけど、本人なりの信念的なものがあったと思うんです。それと、最近、Netflixの『ブラック・ミラー』っていうドラマに出ていて。(シーズン5の「アシュリー・トゥー」の回

-マイリー・サイラスのようなポップスターを、マイリー自身が演じるやつですね。

辰巳:完全にもう「芸能界に蝕まれ、ドラッグ漬けにされました」みたいな感じの闇の……あの役はもう完全に彼女自身なんですけども。最終的なオチはパンクロックっぽい歌手に転向しましたみたいな話で。

-ナイン・インチ・ネイルズの「Head Like A Hole」を歌うんですよね(*詳しくはこちら

辰巳:明らかに自分のこととしてやってて面白いし、なんかいろいろと騒がれたけど、その後にもまあ当然、人生はあるし。という感じで、面白いなと思ったんです。さっき言った“売れっ子の子役が大変なことになる”っていうステレオタイプってアメリカでも普通に言われていて。『ボージャック・ホースマン』っていうアニメーションとか、昔の映画とかにもあるんですけどね。そういうのが実際にどうなんだ? っていうをネガティブにならない感じで書きたかったですね。
(編注:『ブラック・ミラー』でマイリーが演じるポップスターのMV↓)

 

-他には誰かいらっしゃいますか?

辰巳:トゥエンティ・ワン・パイロッツとかですかね。アメリカの映画とかで時々、男子高校生が好きなバンドみたいな感じで描かれていたりしたんですけども、結構歌詞とかも物語調な「憂鬱な僕」みたいな感じで。そこらへんも、そりゃ人気が出るだろうなと。

-彼らはずっとロックチャートで売れてるんですが、日本からすると、なぜあんなにアメリカで爆破的に売れているのかが、いまいちわかりきれないというか。

辰巳:そうなんですよね。私の周りにも熱狂的に好きな人ってそんなにいないんです。でも、セレブとかポップカルチャーの系譜ではあんまり言及されない、普通の男子高校生みたいな層にロックアクトが人気があるっていうのが面白いかなって。あと面白い人だと、ケリー・クラークソンとかも面白いかなって。(オーディション番組の)『アメリカン・アイドル』出身でめっちゃ歌が上手いんですが、なんか今、ケリー・クラークソンってアメリカですごい人気があるんですよ。

-なんか最近、すごいんですよね?

辰巳:キャラとして、芸能人として人気があって。元から、あのサバサバした感じのキャラが人気があって。だからアメリカで自身の冠番組を持てたんだと思うんです。元々この人、結構リバタリアン系で。「オバマに投票した」みたいなことも言ってたんですけどね。結構保守派っぽいイメージとか信頼も築きながら、銃保有についても「銃を持ってないと強盗に襲われたとき対抗できないでしょ」みたいに言っていて。13個くらい銃を持っててコルト45と寝ているらしいんです。それでも銃乱射問題が大変なことになった時は、「沈黙せず変化しよう」ってスピーチをしていたんですよね。音楽番組で。そういう、結構国民的人気系の人で。

-この間、出した曲「I Dare You」もアメリカのiTunesで1位とかになってましたね。

辰巳:そうなんですよね。歌はもちろん、その信頼できる感じが強いですよね。やっぱりたぶん本人の言動……さきほどの銃規制の話。具体的にはしゃべってなかったんで、まあリベラル的なメディアから「具体的なことを言っていない」って叩かれたりもしたんですが。だけど、銃規制反対派の人とかからも信頼を得ているセレブリティがそういうスピーチをする、考える態度を示すことはすごいことなはずだし。調べたら面白そうかなっていう。その人気とか反響みたいなところを。

 

-他には誰かいますか?

辰巳:あとは、音楽じゃないんですけども。ロック様、ドゥエイン・ジョンソンですね(笑)。あの人、すごい面白いんで(笑)。

-すごいですよね。彼も日本だと本当の面白さが伝わりきってないというか。

辰巳:アメリカのプロレスは日本では本国ほど見られていないので、直感的にはわかりづらいですよね。この人はプロレススターからアクションスター、映画俳優、今ではハリウッドの年収ナンバーワンにもなっていたんですけど、すごいビジネスマンで。ビヨンセの章で載せたアメリカのセレブ好感度ランキングではロック様が1位なんですよ。党派的なへだたりなく、どの年齢層でもほぼ1位みたいな。元々、アクション俳優の伝統のように共和党員でもあったんですけども、手がける主演映画には進歩的な部分もあり、いろんな考えの人たちから支持を受けていて。そのバランス感覚とか、あとはビジネスの上手さが凄まじい。なんかロック様の声で起きられる目覚ましアプリとかまで出ていて(笑)。

-フフフ、すごいですよね。

辰巳:あの人気の一因と言われてるのが、デリケートな話ですが、「人種がよくわからない見た目」みたいな。

-ああ、なるほど!ある種、今っぽいですね。

辰巳:そう。ヴィン・ディーゼルとかもそうなんですよね。しゃべり方も結構変わってるみたいなことは言われていて。面白いですよね。ロック様のパブリックイメージとか。

-作り方の上手さですよね。

辰巳:すごい好感度が高いんですよね(笑)。

-じゃあ、ロック様については次回の『アメリカン・セレブリティーズ』第2巻で?

辰巳:そうですね。もう一度、同じようなことをするとしたら、ロック様は入れたいなっていう感じですね。

-期待しております『アメリカン・セレブリティーズ』シーズン2。

辰巳:5年後か10年後かっていう感じですけども(笑)。

Interviewed by uDiscover / Transcripted by みやーん



『アメリカン・セレブリティーズ』
辰巳JUNK/著
2020年4月30日発売



 

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