サーフェシズの軌跡と新作『Pacifico』:「Sunday Best」が大ヒットした新世代サマーポップアイコン

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© Dan Franco

アメリカ出身のコリン・パダレッキとフォレスト・フランクからなる2人組のサーフ・ポップ・デュオのサーフェシズ(Surfaces)。2021年6月25日に4枚目のアルバム『Pacifico』が配信開始、7月16日には日本盤CDが発売となります。

彼らは2019年に「Sunday Best」がTikTokをきっかけに世界的にヒットを記録。日本でも2021年3月に発表された「第35回日本ゴールドディスク大賞」にて対象期間中にデビューした洋楽アーティストで、作品・楽曲の正味売上金額合計の上位3組に送られる「ベスト3ニュー・アーティスト洋楽」を獲得しています。

そんな彼らの今までの軌跡と新作アルバムについてライターの松永尚久さんに解説いただきました。

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耳にしただけでビーチ・リゾートにいるような開放感を味わえ、かつ作り手のリラックスした(人懐っこい)キャラクターが伝わってくる楽曲「Sunday Best」が、TikTokをきっかけに注目。昨年のどこにも行くことができなかったロックダウン/ステイホーム期間には、妄想リゾート気分を味わえる楽曲として大ブレイクしたサーフェシズ。

その後もエルトン・ジョンとのコラボ曲「Learn To Fly」などでヒットを飛ばし、今や2020年代(日本で言うなら令和)のサマー・ポップ・アイコンとまで言われる人気を獲得した彼らが、なぜそこまでの支持を集めてきたのか。そして完成した最新アルバム『Pacifico』で表現した世界を、彼らのこれまでの発言や、2021年に発表されたシングル曲から読み解く。

 

あの有名人の投稿などで注目された、ベッドルーム発ビーチ・ソング

元々は別の空間(ベッドルーム)で音楽制作をして楽曲をサウンドクラウドで公開していたふたり。メイン・ヴォーカルを務めるフォレスト・フランクが、ある時にネットを通じてトラック・メイキングを担当するコリン・パダレッキの作品を耳にしてコンタクトを取ったことから、サーフェシズが始まったそうだ。

「出会いは偶然だった気がしたけど、コリンの音楽を耳にした瞬間何か特別なものを感じたんです。しかも自分の暮らす場所から1時間ちょっとクルマを走らせた場所に、彼はいたんだ。それから僕らの友情がスタートして、楽曲のアイデアを出しあった時に、お互いがいいと思うポイントが一緒で、この出会いは運命だったんだと感じました」(フォレスト)

それからふたりは精力的に楽曲を制作し、2017年にはデビュー盤『Surf』を発表する。アントニオ・カルロス・ジョビンが1962年に発表したボサノヴァの名曲「The Girl from Ipanema(イパネマの娘)」をサンプリングした「24 / 7 / 365」を筆頭に、夏のピースでロマンティックな風景を描いたような楽曲群が話題に。

「この作品は、自分たちが好きなように好きな音楽を追求しただけなんだけど、それがソーシャルメディアを通じて、いろんなリスナーの方々からの感想が届きました。自分たちの音楽をどう受け止められているのかがわかったというか。人に影響を与えることも視野に入れて音楽活動をしなくてはいけないということを考えるようになったんです」(フォレスト)

自己満足だけで終わらない音楽を追求していくなかで、2019年には2ndアルバム『Where the Light Is』をリリース。そこに収録された楽曲「Sunday Best」が、TikTokをきっかけにヒット。ジャスティン・ビーバーや俳優のジョン・トラボルタなどもこの楽曲で投稿をし、さらに注目度を高めストリーミングでは7億に迫る再生数を記録している。

「今でこそTikTokは多くの人に知られるコミュニケーションツールだけど、あの当時の僕らはその存在をよく知らなくてね。だから、TikTokをきっかけに自分たちの楽曲や存在が知れ渡っていくことに対して、ちょっと不思議な感覚もあったけど、今では本当に感謝してますよ」(フォレスト)

「投稿された動画はどれも楽しそうにダンスしていて、いい時間を過ごしているんだなって感じるんです。それって素晴らしいことなんじゃないのかなって」(コリン)

この楽曲の勢いの波にのって20年には、3rdアルバム『Horizons』をリリース。また同年6月には英国を代表するシンガー・ソングライターであるエルトン・ジョンとのデュエット曲「Learn To Fly」を発表。世代の差を感じさせない、息のあった微笑ましいハーモニーを繰り広げ、新たな表現世界へと飛躍した。

「エルトンは、最初から最後まで丁寧に作業に関わってくれました。結果、お互いのエネルギーをここに集約できたような気がする。素晴らしい経験だったと言えるね」(コリン)

妄想力で生み出した、ハピネスを振りまく音楽

レジェンドまでをも巻き込むほど影響力を持つ、サーフェシズの音楽。その魅力は、肩の力や緊張をふわっと抜いてくれるようなピースフルなサウンドだ。しかも、ロックやヒップホップ、R&Bといったポップスのメインストリーム的な要素だけでなく、カリプソやボサノヴァといった楽園テイスト漂うサウンドを駆使して、他では味わえないリラックス感を生んでいる。

「僕らはいつも、人々が逃避できるような曲を作りたいと思ってるんです。人って自分を殻に閉じ込めてしまうことがあるし、そこから解放されるってなかなか難しいことだと思うんだよね。だから、僕らが明るい曲を提示して、そのフィーリングを感じることで解放され、自分自身であることを学んで欲しい。他人が自分のことを悪く言っても、殻に閉じ込めようとしても、常に自分自身の中にハピネスを感じて欲しいと思っています」(コリン)

「詳しくないジャンルもあるかもしれないけど、僕らは基本音楽の話が出れば、知らないことはほとんどないくらいのオタクだから。あと、二人ともずっとDJをしていたから、人々が求めるものをプレイしてオーディエンスをコントロールできるよう、あらゆる音楽を知っている必要もあったしね。だから、僕たちはこれまでに膨大な量の音楽を聴いているし、その全体の経験が僕らのインスピレーションになっているんだと思うんです」(フォレスト)

膨大な音楽知識を駆使して生み出すヴァイブには、海やサーフ・カルチャーを連想させるものが多い。実はビーチもあるというが、あまりサーフ・カルチャーとの強い結びつきを想起させないテキサスという場所で楽曲制作していたというのが、ユニークなポイントである。

「僕たちは二人とも“水”が好きなんだ。僕自身は湖が好きで家族と湖に泳ぎに行くも好きだし、ウォータースポーツなら何でも好き。フォレストはフロリダの近くにいて、常に側にビーチがある。だから、二人とも水が好きで、水との繋がりが深いんです。水だったり水と繋がったカルチャーが自然と自分たちが作る音楽に反映されるんです」(コリン)

「水は、僕らふたりの共通点のひとつ。お互いが頭の中で求めているもので、目をつぶった時に共通して前に広がる風景なんです。だからビーチの雰囲気が音に出てくる。僕はテキサスの田舎で育ったから、ビーチの側に住むことをずっと夢見ていたし」(フォレスト)

「海」や「サーフ」の雰囲気を近くに感じられない環境で過ごす人も多いはず。彼らの楽曲は、そういう人々にも目を閉じると、波の音が耳元に迫ってくるビーチで1日中チルしている「フィーリン・グッド」な妄想を掻き立ててくれる。その心地よさが多くのリスナーに伝わって、「Sunday Best」をはじめとするヒットが生まれているのかもしれない。

 

新たな環境で作り出した最新アルバム、その根底にある思い

ヒット曲の影響で取り巻く環境が大きく変化した彼ら。それに伴い、これまで暮らしていたテキサスから離れ、カリフォルニアのマリブという世界的に有名なビーチタウンへと拠点を移し、制作を開始。つまり「妄想」ではなく「リアル」なビーチ・カルチャーを吸収し始めたのだ。また、コリンは自宅と思われる場所で行われていた海外メディアでのオンライン・インタビューでショートボードを飾っており、海の波動を体感しながら日々アイデアを練っている様子が伝わってきた。

ゆえに、作る音楽の雰囲気もこれまでとは異なるムードを発している印象。2021年4月にリリースした楽曲「Wave of You」は、1990〜2000年代のグランジやガレージなどのロックの影響を感じさせるギター・サウンドを駆使しながらも、メランコリックなムードを演出。「思いを寄せる人に自分のすべてを奪われ、無重力のような状態になっている様子を描いた」(コリン)楽曲になっているという。

続く5月に発表されたアコースティック曲「Next Thing (Lover Boy)」は、片想いのせつなさを表現したバラードに。6月の「So Far Away」でも、サーフェシズらしい開放感がありながらも、そのムードを遠い日の出来事を思い返すような視点で描いた内容なっており、これまでの「フィーリン・グッド」な夏の空気だけではなく、開放的で非現実的だと想像されるビーチ・タウンに潜む日常を描いているのだ。彼らはこの一連の新曲について、インターネット・ラジオ局のインタビューで以下のように語っている。

「今回はマリブという新たな拠点で制作することにもなり、そこにある自然や空気をそのまま活かした音作りをしたいと思ったんです」(フォレスト)

「ヒット曲ができたからといって、それに追随するものを作る気持ちは毛頭なかった。結成当初と同じように、自分たちがいいと思えるものを追求したいと思ったんですよね」(コリン)

サーフェシズ通算4作目となるオリジナル・アルバム『Pacifico』は、先行発表されたシングル曲と同様、マリブでの新生活の理想と現実が描かれた内容になっている様子だ。2020年に発表された「Mad at Disney」のヒットで知られるセイレム・イリースなどを迎えて制作。一連のミュージック・ビデオでも“Season4”と題し、せつない恋の思い出をたどるストーリー性のある映像を発表しているが、アルバムにおいてもその世界に通じる映画のような構成になっている様子である。また、閉ざされた雰囲気が漂う世界の窓を開放させるようなエネルギーも満ちた内容にもなっているという。

「僕らが一貫して音楽を通じて伝えたいことは、“穏やかにいこう。何事もきっとうまくいく”かな。もし君が生きていて、食べ物を食べれている状況にいて、そして夢を持ち続けていることができているなら、素晴らしいことなんだってことを感じてもらいたいんです。今の時期、多くの人たちが物事を後ろ向きに考えてしまいがちだと思うけど、それはネガティヴなものをよりネガティヴにしてしまう悪循環になるだけ。状況をどうコントロールするかは自分次第。コントロールできないことがあれば距離をおいて、自分がコントロールできることを探してそこから取り組んでいけばいいのさ」(フォレスト)

環境や表現方法が進化・変化しようともリスナーの人生を「フィール・グッド」な方向にシフトしてくれる音楽を、彼らは今後も追求していく。そんな姿勢を感じられる最新アルバムになっているのだと思う。

Written By 松永尚久



サーフェシズ『Pacifico』
2021年6月25日配信
2021年7月14日国内盤CD発売
国内盤CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

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