スター・ウォーズ×ロック・バンド!?短編映画「タトゥイーン・ラプソディ」の物語

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2021年9月22日からディズニープラスで独占配信された7つの日本のアニメスタジオがそれぞれの“ビジョン”で描いたオリジナル短編アニメ映画集『スター・ウォーズ:ビジョンズ』。この中から、「タトゥイーン・ラプソディ」の音楽について、ライターの赤尾美香さんに解説いただきました。

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ロック・バンドで“ラプソディ”とくれば、やはり真っ先に浮かぶのはクイーンの「Bohemian Rhapsody」です。けれど、これはクイーンの物語ではありません。でも、もしかしたら“銀河のクイーン”と呼ぶにふさわしい存在になる可能性を秘めたバンドの物語であると言えるかもしれません。

舞台は、「スター・ウォーズ」の世界。タトゥイーンは、ルーク・スカイウォーカーの故郷の惑星です。

主人公は壊れたライトセーバーを持つ元ジェダイのジェイ。ある日敵に追いつめられたジェイは、ロック・バンド=スター・ウェイバーのリーダーであるギー(ギーザー)に救われ、バンドのヴォーカリスト兼ギタリストになります。バンドには、ギャングから裏切り者として追われるギーをはじめ、ギタリストの廃棄ドロイド、K-344、3つの頭を持つドラマーのランといったいわくつきのメンバーばかり。この、はみ出しものが集まった感、長いものに巻かれない感は、実にロックだな、と思うわけです。ロック・バンドは、彼らの居場所なのです。

追っ手の目を盗んで活動を続けるスター・ウェイバーでしたが、ギーが賞金稼ぎのボバ・フェットに捕らえられ、ジャバ・ザ・ハットに処刑されるという危機に直面します。今度はジェイが、仲間とともに立ち向かい、ギーを救わなければなりません。たった12分の短編ですが、短い中できっちり起承転結が描かれ、しかもロック好きには見逃せないシーンも多々あります。

例えば、スター・ウェイバーが乗り込む船は、地球のロック・バンドがツアーに使うバンやバスとイメージが重なります。ジェイが、バンドの初セッション時の録音を聴いて命がけの救出劇を決意するシーンは、ロック・バンドにおける奇跡のようなケミストリーの大切さがわかっているなぁ、と心の中でうなずきまくりです。「初めて一緒に演奏した時にビビビッときた」というのは、いつの時代も、地球でも銀河でも、“ロック・バンドあるある”なのです。

さらに、ライトセーバーを模したマイクを持つジェイが、警戒する敵に向かって「ただのマイクだよ」と言うあたりは、もうジェダイではなくバンドのフロントマンとして音楽で勝負するぞ!という彼の気概を感じさせます。そして、スター・ウェイバーは、「ギーを処刑する前に一度だけみんなで演奏させてくれ」と、処刑場に集ったラス・ボス、ジャバ・ザ・ハットや大勢の聴衆を相手に演奏をぶちかますのです。

スター・ウェイバーの持ち曲「Galactic Dreamer(ギャラクティック・ドリーマー)」は、オフスプリングやグリーン・デイ、SUM41あたりを思わせるパンキッシュなポップ・ロックで、「Hey say, be, be yourself!」の掛け合いなどは、ラモーンズか!?と、腕を振り上げてコール&レスポンスしたくなること請け合いでしょう。明るく高揚感に満ちたメロディといい、耳に残るサビといい、バンドの初期衝動をシンプルにまとめて表現した無邪気さも魅力です。

英語ヴァージョンで歌を披露しているのは、ジェイの声を担当したジョセフ・ゴードン=レヴィットです。子役からキャリアをスタート、現在ではシリアスもコメディもアクションも演じられる米人気俳優として活躍中のジョセフは、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』にも声優としてカメオ出演していましたが、彼の力一杯まっすぐな歌いっぷりは、懸命でひたむきなジェイのキャラクターそのものです。

初めてこの歌を聴いた時、筆者はこのなりきりぶりに、さすが俳優だなと思いました。なぜなら、このジョセフ、ギターもピアノもドラムスもこなすマルチ・プレイヤーで、歌もかなりイケています。わかりやすく言えば、もっと“そつなく上手に”歌うこともできるはずなのです。が、ジェイの思いの強さや熱さを優先させたのでしょう、ここでは前のめりで威勢のいい歌が、ばっちりキマっています。

そんなジェイの歌がのったスター・ウェイバーの演奏を聴きながらジャバ・ザ・ハットの尻尾がリズムを取るのを見て、視聴者である私たちは「してやったり!」と思うのですが、ジャバはそう簡単な相手ではありません。果たして、ジェイは、スター・ウェイバーは、ギーを取り戻し、再びバンド活動ができるのでしょうか!?

「僕たちは結局、ただのロック・バンドなんだよ」とジェイは言います。たかがロック・バンド、されどロック・バンド。クイーンをはじめとする多くの偉大なロック・バンドがそうであったように、スター・ウェイバーもまた、困難を乗り越え、仲間とともに、世界一の……ではなく、もっと大きく銀河一のバンドを目指します。彼らは“銀河の夢追い人(ギャラクティック・ドリーマー)”なのですから。

Written by 赤尾美香


 

出羽良彰『タトゥイーン・ラプソディ』サウンドトラック
2021年10月15日配信
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