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ロビー・ウィリアムス大成功のあとの停滞、そしてテイク・ザットの再結成

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英米では2024年12月末に一部劇場で限定公開された後に拡大公開され、日本でも3月28日に劇場公開が決定している映画『BETTER MAN/ベター・マン』

2017年の長編映画監督デビュー作品『グレイテスト・ショーマン』が世界中で大ヒットを記録したマイケル・グレイシー監督による長編第2作となるこの作品は、英国随一のポップ・スターであるロビー・ウィリアムスをCGを使って“サル”として描き、そのビジュアルで観客に衝撃を与えながらも、ミュージカル映画としても評価され、映画批評サイトのRotten Tomatoesにて批評家からのレビューが90%、観客のレビューが95%という高い数値をたたき出している(2025年1月9日現在)。

では、この映画で描かれたロビー・ウィリアムスとは、どういったアーティストなのか? 彼をデビューの頃から追い続けている音楽ライターの新谷 洋子さんに連載として解説いただきます。その第3回は、ソロキャリアと浮き沈みとテイク・ザットの再結成について。

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大成功のあとの停滞

ガイ・チェンバースに代わるロビー・ウィリアムスの音楽的パートナーはいったい誰なのか? 大きな注目を浴びる中で2005年に登場したソロ・アーティストとしての第二章の出発点にあたる6作目『Intensive Care』で、ロビーはスティーヴン・ダフィに白羽の矢を立てた。ご存知、デビュー前のデュラン・デュランに在籍し、80年代初めにティン・ティン名義で名曲「Kiss Me」を大ヒットさせ、かつライラック・タイムのシンガーとしても活躍するインディ・ポップ職人だ。全くもって想定外の人選は我々を驚かせたものだが、この先のロビーの身に起きたことは想定外に次ぐ想定外だったと言えるのかもしれない。

Robbie Williams – Tripping

その『Intensive Care』では、キャリアをリセットするようにして自分の好きな音を詰め込み、大いに楽しんで作ったことが分かる解放感を印象付けた彼。翌年スタジアム公演を中心にしたキャリア最大級のツアー『Close Encounters Tour』を敢行するのだが、ここにきて雲行きが怪しくなる。そう、ツアーが終盤に差し掛かった2006年秋に送り出した7作目『Rudebox』は、今では自らジョークのネタにしているほどの異色作だった。

またもや趣向を変え、ウィリアム・オービットやマーク・ロンソンら多数のプロデューサーと共作者を起用したロビーは、ラップを多用し、若い頃に夢中だったヒップホップやアシッドハウスの影響を汲んだダンス・ミュージックで実験。

Robbie Williams – Rudebox

あまりに唐突な展開にファンは困惑し、アルバムは酷評され(『NME』誌は『Escapology』に続いて『Rudebox』もNMEアワードのワースト・アルバム賞に選んだ)、セールスも大幅にダウン。かねてから彼に敵意をむき出しにしていた英国のマスコミはさらに謂れのない攻撃と冷笑を浴びせ、大規模なツアーのプレッシャーに苦しんでもいたロビーは自信を失い、パニックの発作に襲われるようになって、処方薬への依存を強めていく。

そんな時に現れた救世主が、のちに結婚することになるアメリカ人の俳優アイダ・フィールドだ。友人に紹介されたアイダと交際を始め、ツアー終了に伴い活動をしばし休むことを決めた彼は、薬物依存を断ち切るべく33歳の誕生日に再びリハビリ施設に入所。その後もアイダと過ごす時間を優先し、次のアルバム『Reality Killed The Video Star』が届けられたのは2009年後半になってからのことだった。

またもや180度路線を変更してトレヴァー・ホーンとコラボし、主に洒脱なオーケストラル・ポップで構成した同作は初めて全英ナンバーワンを逃したものの、不安感に溢れる歌詞が示唆していたようにまだ危なっかしい状態にあったロビーにとっては、表舞台に復帰する重要な第一歩となる。

Robbie Williams – Bodies

 

テイク・ザットの再結成とロビーの再加入

他方でその頃の音楽界では驚くべきことが起きていた。まるで失速する彼と入れ替わるようにして、再結成を遂げたテイク・ザットがトップに浮上したのである。2005年のベスト盤『Never Forget – The Ultimate Collection』の発売に合わせて放映されたドキュメンタリー番組『Take That: For the Record』が大反響を呼んだことを受けて、ロビーを除く4人のメンバーが再結成ツアーを企画。

全公演を瞬時に売り切って約50万人を動員したのち、彼らはよりアダルトなオーガニック・サウンドへとシフトした新作『Beautiful World』を2006年に送り出す。これが全英ナンバーワンを獲得し、『Rudebox』の5倍に相当するセールス(英国内で約300万枚)を叩き出したのだ。

Take That – Patience (Official Video)

テイク・ザットは続く『The Circus』(2008年)も大ヒットさせ、ロビーが活動を休んでいる間にすっかり両者のポジションは逆転するのだが、再結成の成功で対等な立場で対話できる状況が整ったと見たのか、2008年初めにLAを訪れたゲイリーたちは彼とコンタクトを取り、久々に5人が一堂に会する。

世捨て人のように自宅に籠もっていたというロビーはエイダに説得されて約束の場所に向かい、腹を割って話をしてゲイリーとの積年のわだかまりを解き、ふたりで曲作りを行なったりしながら、宿敵から親友へと関係を修復。グループに戻ることを決めて、オリジナル・メンバーによる15年ぶりのアルバム『Progress』(2010年)を、スチュアート・プライスのプロデュースで制作することになる。

Take That – The Flood (Official Video)

自分たちの波瀾の歴史にも言及する『Progress』はまたもやヒットを博し(発売初週に売り上げた52万枚という数字はグループ史上最多だ)、結成から20年を経て初めてブリット・アワードの最優秀ブリティッシュ・グループ賞を受賞した彼らは、2011年にスタジアム・ツアー『Progress Live』を敢行。ロンドンのウェンブリー・スタジアムでは当時マイケル・ジャクソンが保持していた最多記録を更新する計8公演をソールドアウトにし、全公演で250万枚のチケットを売るに至った。

Take That – Never Forget (Progress Live / 2011)

 

更なるソロ活動

こうしてアイダに加えて4人の仲間にも支えられ、自信と情熱を取り戻したロビーは、ソロ活動を再開。2012年は、ゲイリーが監修した6月のエリザベス女王即位60周年祝賀コンサートで一番手を務め、9月に娘セオドラが誕生し(現在は4人の子どもを持つ)、11月に9作目のアルバム『Take The Crown』をリリース……と、大イベントが続いた。

『Take The Crown』での彼は2曲をゲイリーと綴る一方、フリン・フランシスとティム・メトカーフという無名のオーストラリア人ソングライターと多くの曲を共作。プロデューサーにはジャックナイフ・リーを起用し、全編をアンセミックなロックで貫いて、迷いが吹っ切れたかのようなポジティヴなトーンを打ち出した。そして“王座を奪う”というタイトル通りに全英ナンバーワンの座に返り咲き、同じ週にゲイリーとの共作曲「Candy」で実に8年ぶりにシングル・チャート1位を獲得している。

Robbie Williams – Candy

続いてロビーはガイとの関係も修復すると、彼の全面プロデュースのもとに2枚目のスウィング・アルバム『Swing Both Ways』(2013年)を完成。初のスウィング・ツアーを成功させたのち、未発表曲集『Under The Radar: Volume 1』(2014年/2017年に第2弾、2019年に第3弾がリリースされている)を送り出した。

そして次の11作目『Heavy Entertainment Show』(2016年)が40代最初のアルバムとなったわけだが、ガイやグレッグ・カースティンとコラボしてシアトリカルなサウンドを鳴らした彼は、遊び心とウィットにあふれた曲の数々で聴き手をエンターテインすることに専念。分別ある大人になることをきっぱり拒絶するアルバムを作り上げた。

また同作の発売に先立って、ブリット・アワードの永年功労賞にあたるアイコン賞(エルトン・ジョンとデヴィッド・ボウイに次ぐ3人目!)を授与されることが報じられ、2016年11月に多数のゲストを迎えて授賞式を兼ねたコンサートが開かれたのだが、テイク・ザットの面々からトロフィーを受け取ったロビーは、いたずら心を起こして『Life Thru A Lens』の隠しトラックだった「Hello Sir」を朗唱。

「お前みたいなヤツに未来はない」と自分を切り捨てた中学時代の教師に“Kiss my ass!(クソ食らえ)”と罵声を浴びせるこのユーモラスなスポークンワード曲を、スピーチに代えたのだった。

https://www.youtube.com/watch?v=J7WhvfGyZxs&pp=ygUeSGVsbG8gU2lyICBCcml0IGF3YXJk44CAUm9iYmll

 

ザ・ビートルズに並ぶ記録

その後も初のクリスマス・アルバム『The Christmas Present』(2019年)と、ソロ・デビュー25周年を記念してアレンジを刷新した代表曲集『XXV』(2022年)という2枚の全英ナンバーワン・アルバムが続き、2023年には前述したフリン&ティムのコンビと結成した課外ダンス・プロジェクト、Lufthausのファースト『Visions Volume1』がお目見え。

ダンス・フェス出演も含むツアーを行なったかと思えば、昨年はヨーロッパ各地でペインティングやセラミック作品の個展を開催。絵を描くことを心のケアにも役立てていたというロビーの、ヴィジュアル・アーティストとしての才能を広く知ら締める機会となった。

さらに2020年代の彼は、50代突入を前にして人生を総括したいモードにあったのか、ネットフリックスで放映されたドキュメンタリー・シリーズ『ロビー・ウィリアムス』(2023年)を経て、海外では昨年末、マイケル・グレイシーが監督する自伝映画『BETTER MAN/ベター・マン』の公開にこぎ着けた。

映画のサウンドトラックは今年1月末に全英チャート1位を獲得。ナンバーワン・ソロ・アルバムの数はいよいよザ・ビートルズに並び、1組のアーティストとしては英国最多の15枚となった。これを祝してSNSで公開した写真では、“John&Paul&Ringo&George&Robbie”とプリントされたTシャツを着て、ちゃっかりザ・ビートルズの一員になり切っていたロビー。すでに着手している新作にはなんとブラック・サバスのトニー・アイオミの参加を得たというから、いったい何を企んでいるのか? オリジナルの新曲で構成したアルバムとしては約10年ぶりとなるだけに、楽しみでならない。

Written By 新谷 洋子


映画公開にあわせてベスト盤が再発ロビー・ウィリアムス『Greatest Hits』
2004年10月18日発売
CDiTunes Store / Apple Music / Spotify / YouTube Music / Amazon Music


映画情報

映画『BETTER MAN/ベター・マン』

2025年3月28日(金)日本全国ロードショー

<監督> マイケル・グレイシー(『グレイテスト・ショーマン』)
<出演>ロビー・ウィリアムス
<原題>『BETTER MAN』

公式HP:https://betterman-movie.jp/
2024 Better Man AU Pty Ltd. All rights reserved

映画『BETTER MAN/ベター・マン』特報2



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