リナ・サワヤマ、ロンドン・ライヴレポ。“しかるべき愛や謝罪に恵まれなかった あなたのために歌う”
2022年9月16日に発売されたセカンド・アルバム『Hold The Girl』が日本人アーティストとして史上最高位となる全英アルバム・チャート3位を記録したリナ・サワヤマ(Rina Sawayama)。
そんな彼女が2022年10月26日に南ロンドンのブリクストン・アカデミーで行ったライヴについてロンドン在住、音楽ライターの髙橋勇人さんによるレポートが到着。
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多様な人種やジェンダーが集まるライヴ
10月26日午後7時、ロンドンの伝説的ベニュー、南ロンドンのブリクストン・アカデミー周辺には長蛇の列ができていた。この4,921人のキャパシーを誇る会場をソールド・アウトさせた張本人がリナ・サワヤマだ。新型コロナウィルスによって英国で実施されたロックダウン期に製作された新作『Hold the Girl』を引っ提げたツアーのロンドン公演。彼女が育ったホームタウンでの堂々たる凱旋ライヴである。
サワヤマTシャツはもちろんのこと、彼女のミュージック・ビデオでのコスチュームをまとったファンたちの姿。国際都市ロンドンで、多様な人種やジェンダーが集まるライヴは決して珍しくはないが、この日のアカデミーはいつも以上に、10代後半から20代を中心に若い煌びやかな力で溢れていた。
今回、サワヤマは二組のアーティストと共にUKツアーに乗り出している。この日のトップバッターである、クイア文化のライターやノン・バイナリーのドラァグクイーンとしても知られるシンガーのトム・ラスムッセンは、エネルギーに満ち溢れたダンスビート上でポップに歌い、会場の空気を熱くさせる。
そこに続くスコットランドのソウル・バンド、ジョセフは、甘くメロウかつダンサブルなステージを披露。ジャンルレスに拡張していくサワヤマの音楽性と呼応するようなアクトたちと共に、本編への期待がどんどんと高まっていった。
エレガントかつ力強く
午後9時15分、はち切れんばかりの会場の客電が落ち、強烈な電子音がスピーカーから放たれる。観客の「Rina! Rina!」コールとスモークが立ち込める中、ふたりのダンサーを引き連れ、ブルーのデニムのセットアップに身を包んだサワヤマがステージに現れた。
『Hole the Girl』の冒頭曲「Minor Feeling」を、彼女は静かに、エレガントに歌い上げる。続くアルバム表題曲では、力強く歌い上げる彼女と呼応するように、オーディエンスたちはコーラスを歌い返す。
前作に比べ透明感のあるバンドサウンドが特徴的な新譜を中心にセットリストは組まれ、ギタリスト/キーボーディストとドラマーは、折衷的なサワヤマ・サウンドを堅実にサポート。イントロに続く「Catch Me in the Air」と「Hurricane」にそれが顕著で、ライヴで成長する楽曲のポテンシャルを見せつける。
ステージは4-5曲ごとに区切られ、サワヤマは自身の表現アイデンティティを切り替えるように新たなコスチュームで再登場する。
90年代風の赤いタイトな上下に身を包んだ二部。ステージ中央で小さくなるサワヤマが「Shut the fuck up」とつぶやくと、ヘヴィなギターリフとともに「STFU!」が始まった。日本人としてイギリスを生きる彼女自身が感じる人種的ステレオタイプへの怒りが表出した楽曲で、真っ赤にライティングされたステージで彼女は獅子舞のように頭を振り、歌詞を叩きつける。
そこに続く新譜からの「Frankenstein」では、緑の照明のなか、マイケル・ジャクソンのようなゾンビダンスを披露。ミュージカルのような色彩や演出が作る独自の世界観が溢れ出ていた。
「しかるべき愛や謝罪に恵まれなかった、あなたのために歌う」
次のステージでは、サワヤマは自身の人生体験について観客に語りかける。「さっきの曲の終わりはかなり強烈だったよね。ロンドンのみんな、ほかに強烈なことってどんなことがあると思う? セラピーだよね」と彼女は云う。
『Hold the Girl』は10年にも及ぶ自身のカウンセリング経験を通し生まれた作品で、その過程でサワヤマは10代の経験と向き合うことになったという。自身のインナーチャイルド(子ども時代に培った習慣や思考)の再教育が必要だったと、彼女は語る。「しかるべき愛や謝罪に恵まれなかった、あなたのために歌う」。そう言い残し、アコースティックギターをバックに始まったバラード「Send My Love to John」は、感動的な今夜のハイライトのひとつになった。
そこから流れは一転し、チャーリーXCXとのコラボレーション曲「Beg For You」ではUKガラージの2ステップ・ビートが鳴り響き、会場はライヴ会場からクラブのダンスフロアへと様変わりする。その高揚感が代表曲「Comme des Garçons (Like the Boys)」と「XS」へと傾れ込み、会場は揺れに揺れ、本編は一旦幕を閉じた。
その後のアンコールに選ばれたのは、アルバムのリードシングルである「This Hell」だ。同曲ビデオでもお馴染みのカウボーイハットを被り、疲れなど微塵も見せないサワヤマ。フロアの右と左にオーディエンスたちを分けてお互いを向き合わせ、それぞれに異なる歌詞のラインを歌わせるコール&レスポンスのパートでは、会場は今夜で一番の一体感に包まれていた。最後まで実に堂々たる、約2時間のセットだった。
ラップトップではじまった旅の途中
このロンドン公演は、名実ともに世界のトップ・アーティストになったリナ・サワヤマに相応しい夜になった。マイクと一台のラップトップではじまった彼女の旅は、多くのミュージシャンとの共演や、新たなサウンドを通し、ますますユニークでエキサイティングなものになっているのは間違いない。
また、2022年のサマーソニックでも話題になった、LGBTQの当事者としての意見や、この日のように自身の抱える葛藤をオープンに打ち明ける彼女の姿は、リスナーの側に常に寄り添っている。エンターテイメント性に富んだカッティングエッジな自己表現とともに、人々の共感を生み続けるサワヤマの活動を、今後も世界が放っておくことは決してないだろう。
Written By 髙橋勇人 / Photo by Donny Johnson
リナ・サワヤマ『Hold the Girl』
2022年9月16日発売
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