スウェディッシュ・ハウス・マフィアを従えたザ・ウィークエンド、今年の「キング・オブ・コーチェラ」に

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2022年4月、2週にわたって行われている世界最大級の音楽フェスティバル、コーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル(Coachella Valley Music and Arts Festival)。当初、2週ともに最終日のヘッドライナーはYeことカニエ・ウェストがつとめるはずだったが、彼は4月4日に出演をキャンセル。その大役をYeの代わりに務めたのはスウェディッシュ・ハウス・マフィア(Swedish House Mafia)とザ・ウィークエンド(The Weeknd)だった。

そんなコーチェラでの彼らの第1週目のパフォーマンスついて、音楽・映画ジャーナリストの宇野維正さんに解説いただきました。

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「ザ・ウィークエンドとスウェディッシュ・ハウス・マフィアは完璧にやりきった。今年のキング・オブ・コーチェラはザ・ウィークエンドだ」(COMPLEX)

「スウェディッシュ・ハウス・マフィアとザ・ウィークエンドのパフォーマンスは、直前に追加されたとはとても信じられない素晴らしいものだった」(Billboard)

「スウェディッシュ・ハウス・マフィアとザ・ウィークエンドは完璧なピンチヒッターだった。ザ・ウィークエンドは世界で最もビッグなスターとしての地位をさらに確固たるものにした」(Rolling Stone)

北米の主要カルチャーメディアから絶賛の声が相次ぐこととなった、今年のコーチェラでのスウェディッシュ・ハウス・マフィアとザ・ウィークエンド。そのまさかの「合体ライブ」が実現した背景と、圧巻のステージを振り返っていこう。

パンデミックの影響で度重なる延期や中止を経て、3年ぶりの開催となった2022年のコーチェラ・フェスティバル。ちょうどその初日となる4月15日に再結成後初となるアルバム『Paradise Again』のリリースを控えていたスウェーデンの伝説的ハウスユニット、スウェディッシュ・ハウス・マフィアは、今年のラインナップに最初から入っていた。

告知ポスターでは、ハリー・スタイルズ、ビリー・アイリッシュ、Ye(=カニエ・ウェスト)の各日ヘッドライナーと同じ大きさのフォントで一番下に「Returning to the desert」という触れ込みとともにその名前が。desert(=砂漠)というのは開催地のコーチェラ・ヴァレーのこと。会場に特設ステージが作られるのか、最終日のヘッドライナーの後にクロージングアクトとして登場するのか、事前に詳細は明らかにされてはいなかったが、10年ぶりのニューアルバムをひっさげて10年ぶりのコーチェラ出演となるスウェディッシュ・ハウス・マフィアは、もともと特別待遇で世界最大のフェスに迎え入れられる予定だった。

激震が走ったのは、ウィーク1初日の4月15日まで2週間を切っていた4月4日のこと。最終日のヘッドライナーを務めるカニエ・ウェストが突然出演をキャンセルしたことが報じられた(理由は明らかにされていない)。その直後、代役としてスウェディッシュ・ハウス・マフィアと、出演予定のなかったザ・ウィークエンドが共に最終日のメインステージに上がることが発表された。ザ・ウィークエンドは今回のステージのために3週間リハに集中していたと報じられているので、カニエ・ウェストのご乱心に振り回される中、主催者は水面化で様々な交渉をおこなっていたのだろう。

左が元の出演者、右がYeキャンセル後のポスター

スウェディッシュ・ハウス・マフィアにとって10年ぶりの帰還となるコーチェラのステージは、ザ・ウィークエンドにとっては4年ぶりに雪辱を果たすステージだったと位置付けていいだろう。というのも、ビヨンセ、エミネムと並んでザ・ウィークエンドがヘッドライナーを務めた2018年のコーチェラは、のちに「ビーチェラ」と呼ばれるようになったことからもわかるようにビヨンセの完全な一人勝ちだったからだ。

当時、ザ・ウィークエンドは内省的なEP『My Dear Melancholy』をリリースした直後。ステージも必然的に同作のムードが反映されたものとなったが、一世一代の歴史的なパフォーマンスを繰り広げたビヨンセとはそのスタンスの時点で既に明暗が分かれてしまった。

今年のコーチェラの各ステージを配信で見ていて痛感させられたのは、2010年代前半にEDMブームがピークを迎えた後、流行としては下降傾向にあるとされてきたエレクトロニック・ミュージックのアクトのフェスの現場での変わらない引きの強さだ。若い白人女性の比率が高いコーチェラの客層との相性の良さもあるのだろうが、フルームやマデオンのステージ、そして観客の熱狂的なリアクションには、「根強い支持」や「リバイバル」といった言葉では片付けられない現役感が漲っていた。

そして、その決定打となったのが、巨大なLEDスクリーンとアクロバティックな可動式ステージセットを駆使して約1時間、全14曲にわたって繰り広げられたスウェディッシュ・ハウス・マフィアの前半のステージだった。2018年に再結成して以来、パンデミックによって一時的な停滞を余儀なくされながらも、虎視眈々と大復活のタイミングを狙っていたスウェディッシュ・ハウス・マフィアだが、結果的に今回のコーチェラはまさに絶好の機会となった。

そんな再結成後のスウェディッシュ・ハウス・マフィアに急接近していたのが、近年エレクトロニック・ミュージックにより傾倒していたザ・ウィークエンドだった。2021年10月にはスウェディッシュ・ハウス・マフィア&ザ・ウィークエンド名義でシングル「Moth To A Flame」をリリース。2022年1月リリースのザ・ウィークエンドの最新アルバム『Dawn FM』では、リード曲「Sacrifice」と「How Do I Make You Love Me?」の2曲にスウェディッシュ・ハウス・マフィアがソングライティングとプロデュースで参加。したがって、今回ザ・ウィークエンドがコーチェラでスウェディッシュ・ハウス・マフィアのステージに登場することが発表された時点で、その3曲にゲストとして参加することは予想できたわけだが、実際にフタを開けてみたらそれどころの騒ぎではなかった。

スウェディッシュ・ハウス・マフィアがステージの前半パートを終えて、「Sacrifice」のイントロが鳴り響く中、「コーチェラアアアアアア!」と叫びながら宙に浮かぶ輪状のステージの真ん中に降臨したザ・ウィークエンド(まさに「降臨」としか言いようがない登場シーンだった)は、そこからほぼノンストップで約50分、実に17曲にもわたって圧倒的なパフォーマンスを披露した。

大半の曲でBPMが早められるなど超アッパーに仕上げられたそのセットリストには、本来このステージに立つはずだったカニエ・ウェストの「Hurricane」、ドレイクの「Crew Love」、フューチャーの「Low Life」、タイ・ダラー・サインの「Or Nah」といった過去に自身がフィーチャーされた曲も含まれていて、まさに今回だけのグレイテストヒッツセットとしか言いようがないスペシャルなものだった。きっと、そこには2018年のコーチェラの少々独りよがりになってしまったステージの反省もあったに違いない。

何よりも印象的だったのは、ザ・ウィークエンドのコンディションの良さだ。第一声から喉の調子が絶好調なだけでなく、心身ともに健康そうな「正」のオーラが出まくっていた。2020年のアルバム『After Hours』以降、ザ・ウィークエンドはミュージックビデオだけでなくスーパーボウルのハーフタイルショーのような大きな舞台であっても、包帯を巻いたり血を流したりと病的で狂気じみた「負」のビジュアルイメージを意識的に打ち出してきたが、ショートのアフロヘアとシンプルな黒いTシャツでステージに登場した今回のステージでは、時に笑顔を振り撒きながら縦横無尽にステージの花道を走り回ってみせるのだ。

観客を煽るコール・アンド・レスポンスも終始前のめりで、「Can’t Feel My Face」や「Blinding Lights」が「Save Your Tears」といった大ヒット曲では観客の大合唱が巻き起こる。いまだに多くのライブで発声が禁じられている日本にいるとなおさら、その現場の幸福感があまりも眩しすぎた。

何度も何度もクライマックスが押し寄せた果てに、やはり最大のクライマックスとなったのは一旦ステージからはけていたスウェディッシュ・ハウス・マフィアと再合流してのラストの「Moth To A Flame」だ。大歓声の中、宙に浮かんだ輪の中へと消えていったザ・ウィークエンドは、直前のタイミングで大ピンチを迎えていた今年のコーチェラにとって文字通りの「救世主」となった。

Written By 宇野維正



ザ・ウィークエンド『dawn FM』
2022年1月7日発売
国内盤CD / LPiTunes Store  / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



スウェディッシュ・ハウス・マフィア『Paradise Again』

2022年4月15日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music YouTube Music




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