今さら聞けない「ポスト・マローンの何がすごいのか?」:その7つの偉業と成功の理由

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Photo courtesy of Republic Records

2019年9月6日に発売となり、11月上旬時点での北米アルバム換算売り上げが約240万枚を記録し、今年アメリカで最も売れたアルバムとなっているポスト・マローンの『Hollywood’s Bleeding』。1995年生まれ、現在24歳の彼がなぜここまで売れているのか? その凄さの理由を音楽・映画ジャーナリストの宇野維正さんに解説していただきました。

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先日発表された第62回グラミー賞のノミネーションで、昨年から年をまたいでの超ロングヒットとなったスウェイ・リーとの「Sunflower」が年間最優秀レコード賞と最優秀ポップ・パフォーマンス賞の2部門の候補に選ばれたポスト・マローン。もっとも、ここで留意すべきなのはグラミー賞の対象となるのが授賞式の前年の8月31日までにリリースされた作品であること。つまり、2019年9月6日にリリースされたサードアルバム『Hollywood’s Bleeding』は対象作品としてギリギリ翌年度に持ち越されたこととなる。当然のようにビルボードのアルバムチャートで初登場1位を記録した同作は、3週連続で1位に君臨した後も、度々トップに返り咲くという異例の強さを見せていて、11月上旬の時点で「今年最も多くの週で全米アルバムチャート1位を記録した作品」に確定。「2019年はポスト・マローンの年だった」として、そこに異論を挟む余地はないだろう。

2018年のフジロックフェスティバルで初来日を果たし、今年は『Hollywood’s Bleeding』のレコーディング終了直後に何故か函館に出没して地元のバーやカラオケで民間交流(?)に勤しんでいたポスト・マローン。日本でもすでに確固たるファンベースを築きつつあるが、北米をはじめとする海外でのケタ外れの人気と比べるとまだまだ「これから」といったところ。待望の単独来日公演の実現に向けて、本コラムでは2015年のデビューから4年で音楽シーンのトップ・オブ・トップにまで上り詰めたポスト・マローンの偉業を振り返っていく。

1.  SoundCloudラッパーの先駆けにして頂点

レコード会社のディストリビューションには頼らず、オルタナティブな回路で音源を広めるミックステープのカルチャーによって発展してきたヒップホップ・シーン。2010年代に入るとそのミックステープの役割はネットで自由に音源を発表できるSoundCloudが担うようになって、「クラウドラッパー」とも呼ばれる新世代のラッパーがシーンに台頭することになるが、ポスト・マローンはその先駆けにして、最大の成り上がりとなった。

すべての始まりは、2015年2月4日にSoundcloudでアップされた「White Iverson」だった。Iversonとは、言うまでもなくNBAの伝説的プレイヤー、アレン・アイバーソンのこと。ポスト・マローンは破天荒なライフスタイルで知られてきたアイバーソンへのリスペクトを込めて自らを「白人のアイバーソン」と名乗り、セックスとドラッグと拝金主義への賛歌をなんのてらいもなくラップしてみせた。同曲は瞬く間に100万回以上の再生回数を叩き出し、ウィズ・カリファ、マック・ミラー、アール・スウェットシャツら数々の有名ラッパーが賛否を寄せるなど論争の的に。一人の白人無名ラッパーのデビュー曲としては、前代未聞のセンセーションを巻き起こすこととなった。

 

2. 白人でありながらヒップホップ・シーンに受け入れられた

「White Iverson」の中でもアイバーソンの他にケビン・デュラント、マイケル・ジョーダン、アンソニー・デイビスに言及し、熱狂的なファンとして知られるダラス・カウボーイズ(NFL)のプレイヤーの中ではマイケル・ギャラップがお気に入り(最新のツアーでもギャラップのシャツを着て登場)。ポスト・マローンの黒人プロ・アスリートへの憧れは、言ってみれば、どこにでもいる白人の少年のようなもの。例えば先行する白人ラッパーであるエミネムは有無を言わせぬスキルによって、ブラックコミュニティから生まれたヒップホップのシーンにおいて一目置かれる存在となったが、ポスト・マローンはその無邪気さによってシーンの懐に入り込んだと言えるだろう。

「ラッパー」と「シンガー」の境界線が曖昧となってきた時代の流れもポスト・マローンの味方をした。カニエ・ウェストはいち早くボーカリストとしてのポスト・マローンの魅力を見抜き、彼がファーストアルバム『Stoney』をリリースする10ヶ月も前の2016年2月にスタジオに呼んで、自身の新曲「Fade」でフィーチャリング。また、今ではすっかり白人ミュージシャンのアルバムに黒人ラッパーが参加するのも当たり前のこととなったが、ポスト・マローンが2016年リリースのファーストアルバムの時点で、クエイヴォ(ミーゴス)や2チェインズといったトラップミュージックを代表するアトランタのラッパーたちと共演を果たしていたことは注目に値する。

その流れから生まれたのが、ポスト・マローンにとって初の全米ナンバー1ヒットにして、各ストリーミングサービスのヒップホップ系プレイリストの鉄板曲となってApple Musicでは当時の再生回数新記録を打ち立てた、21サベージとの「rockstar」だった。

 

3. いかにして現代の「ロックスター」となったか?

「rockstar」は二つのことを世界中に知らしめることとなった。一つは、今の時代はラッパーがかつてのロックスターの役割を担っているということ。もう一つは、ポスト・マローンこそが「ラッパー=ロックスター」というその新しい価値観を象徴する存在であるということ。実際、ヒップホップに対しては無邪気なファン体質(それ故に過去に何度か軽率な失言をしたりもしてきた)を丸出しにしているポスト・マローンだが、ロックの「歴史」へのアプローチはより計算されたものだ。

2018年8月のMTVビデオ・ミュージック・アワーズ授賞式ではエアロスミスと、2019年2月のグラミー賞授賞式ではレッド・ホット・チリ・ペッパーズと。いずれもそのテレビ中継に全米の注目が集まる式典の席で、ポスト・マローンはギター&ボーカルとしてロック・レジェンドたちとステージを繰り広げてきた。

最新作『Hollywood’s Bleeding』の「Take What You Want」にはトラヴィス・スコットに加えてオジー・オズボーンが参加。今年11月24日に開催されたばかりのアメリカン・ミュージック・アワーズ授賞式では3人のパフォーマンスも実現した。現在最もロックスター的カリスマを誇るラッパーであるトラヴィス・スコットと言わずと知れたメタル・ゴッドのオジー・オズボーンを従えるポスト・マローン。その構図は、現在の彼のアーティストとしてのステイタスを明確に表している。

 

4. ジャンルレス時代の象徴

第一線で活躍する人気ラッパーやロック・レジェンドたちとの共演を通して、ポスト・マローンはジャンルの壁を気軽に乗り越えてきた。そのような態度を軽薄と見なす者もいるかもしれないが、彼のジャンルレス志向は筋金入り。ニューヨーク州シラキュースでウェディングDJ(結婚式などを盛り上げるために派遣される出張DJ)の仕事をしていた彼の父親は、職業上の理由であらゆるジャンルを網羅する膨大なレコード・コレクションを持っていた。ポスト・マローンは幼少期からそんな家庭環境の中で、一日中音楽を聴いて過ごしていたという。

最新アルバム『Hollywood’s Bleeding』には、もはやラップでもロックでもなく「ポップ」としか言いようのない曲も多く収められている。それは、彼の音楽性が変化したのではなく、圧倒的な成功によってもはや何者かであることを装う必要がなくなって、もともとジャンルレスであることが信条だったポスト・マローンの「地」が臆面もなく展開された結果と見るべきだろう。

 

5. ネット・カルチャーの申し子

ポスト・マローンの人気と知名度を加速させた要因には、度重なるネットでのバズやミーム化がある。2016年に北米で行われたPurpose Tourでポスト・マローンをオープニングアクトに抜擢したジャスティン・ビーバーとは、業界でのキャリアは異なるもののほぼ同年代の気心知れた仲。ソーシャルメディア上での互いのイジり合いは、毎回大きな話題となった。

プライベートジェットが故障して緊急着陸、交通事故に巻き込まれて愛車のロールスロイス・レイスが大破、引っ越したばかりの元自宅に強盗が侵入。2018年、次々にポスト・マローンを襲ったトラブルも、ニュースサイトを通してネタとして消費されてきた。プライベートジェットにトラブルが発生したという第一報があった際には、彼の死を願う声がネット上に溢れかえることに。着陸後、ポスト・マローンは「みんな、着陸したよ。無事を祈ってくれてありがとう。それにしても信じられないぐらいたくさんの人から俺の死を望むコメントが届いてたな。ファック・ユー。でも今日はやめにしておくよ」とツイッターにポスト。現代のスターにはアンチやヘイターの声にビクともしない、ポスト・マローンのような肝の据わった精神的なタフさが要求される。

また、ネット上のミームを自身の活動に素早く取り込んでいくのもポスト・マローンの武器の一つだ。今年、「Wow」で激しくダンスする中年男性の動画がYouTubeでバズると、その数週間後にはその男性(実はダンスのインストラクターだった)を起用したオフィシャルのミュージックビデオとそのメイキングを公開。デビュー時からゲーム実況サイト(Twitch)でも活動するなど、ネットカルチャーの申し子としての顔を持つポスト・マローン。そのフットワークの軽さとスピード感はスーパースターになった現在も変わらない。

 

6. ライブ映えするシンプルな楽曲

お馴染みのメロウなギターチューンやトラップソングに加えて、8ビートのパンクやアコースティックなギターポップまで飛び出す『Hollywood’s Bleeding』は、ラッパー/シンガーとしてのポスト・マローンの「声」の魅力が全面開花した作品となったが、改めて注目したいのはその楽曲構成だ。

スウェイ・リーをフィーチャリングしたポップラップソング「Sunflower」にしても、ヤング・サグをフィーチャリングしたロッカバラード風ラップソング「Goodbyes」にしても、音楽的にはバリエーションが豊かな一方で、1コーラス目と2コーラス目の担当がはっきりと分かれている。ラッパーのマイクリレーではバースごとに担当が目まぐるしく入れ替わるのが通例だが、ポスト・マローンがゲストをフィーチャリングした曲の大半は、このように曲の前半と後半で担当が入れ替わり、せいぜいサビのコーラスで両者が掛け合う程度(一度も交わらない曲も多い)のシンプルな構成となっている。

ライブを見れば分かるが、これはゲストが登場しなくても一人で1コーラスを歌い切ることができるという点で非常にリーズナブルな手法。「ラップのポップ化」という観点からは賛否両論あるかもしれないが、ポスト・マローンの楽曲はライブでのパフォーマンスも念頭に置かれて、実は構成の時点から考え抜かれている。

 

7. 自由奔放なライフスタイル

滅多にインタビューを受けないポスト・マローンが、『Hollywood’s Bleeding』リリースの際にApple  Music「BEATS 1」でインタビュアーを務めることとなった人気DJゼイン・ロウを呼び出したのは南仏のワイナリーだった。タバコとアルコールをこよなく愛するポスト・マローンは、当地で自身のブランドを冠したワインを醸造中だという。ちなみに、冒頭でも触れたように、その直前まで彼が羽を伸ばしていたのは何故か函館だった。

人気ラッパーの多くがスポーツメーカーとスニーカーを開発している一方で、ポスト・マローンは自ら愛用するサンダルのメーカー、クロックスと組んでコラボモデルを販売。2019年7月には、ロサンゼルスを拠点に現地で合法化されているマリファナのブランド「Shaboink」をローンチ。

一方で、アルバムの表題曲「Hollywood’s Bleeding」の中でも《若くして死ぬのが名誉になっている/でも、一体誰が俺の葬式に来るのか》などと歌っていたように、ハリウッドの狂騒と浅薄な人間関係に嫌気がさしたポスト・マローンは、アルバムのリリースを期にユタ州ソルトレイクシティに新居を購入。「仕事からも知り合いからも遠く離れたユタで、ビールを飲みながら1人でビデオゲームをして過ごす時間が一番好きなんだ」と前述した「BEATS 1」でのインタビューで語っている。

デビュー曲「White Iverson」から一貫して富への欲望を曲にしてきたポスト・マローンだが、巨万の富を手にした今、その理想とするライフスタイルは一般リスナーのそれと大差ない。そんなところも、彼が「2010年代にデビューして最も成功したスター」となった大きな理由に違いない。

Written By 宇野維正


ポスト・マローン『Hollywood’s Bleeding』
2019年9月6日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify




 

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