オリヴィア・ロドリゴ、初の全米ツアーで見せた驚異的な表現力と弱い部分を観客に見せられる強さ
2022年のグラミー賞にて主要部門である最優秀新人賞を含む3部門を受賞したオリヴィア・ロドリゴが2022年5月25日、米ロサンゼルスのグリーク・シアターで行ったデビューアルバム『SOUR』ツアーのレポートが到着。
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初めてのツアー
「中学生の時に両親の車でロサンゼルスの演劇クラスに通ってて、クラスの後、グリフィス公園にハイキングしに来てたんだ。グリーク・シアターの前を車で通る度に、『いつか私、あそこでプレイする』って、両親に何年も言い続けた。今日がその日になったよ! だから、観に来てくれてありがとう。最高に楽しもうね」
LAの観光名所である公園内の野外劇場に立ったオリヴィア・ロドリゴは、ショウの幕開けを飾った「brutal」と「jealousy, jealousy」で大合唱を巻き起こした後、10代の少女達が大半を占める客席に向かってこう言った。約6000人収容の同会場での公演は今日が2日目。4月5日に始まった初の全米ツアーの最後から2回目の公演でもある。
今年のグラミー賞で3部門での受賞を手にした時、彼女が同じように「両親に宣言した夢が叶いました」と語った姿を思い出した。ここと同じく2夜連続で即完売したNYのラジオシティ・ミュージックホールでの公演も、彼女の夢の一つだった。この「SOURツアー」が一般発売から2時間で全公演ソールドアウトになったことを考えると、アリーナ会場にした方が良かったはずだが、彼女は敢えて小規模の会場を選んだ。それは、こうした夢を叶えるためでもあったのだろう。
「drivers license」が持つ力
これらの夢を全て叶えるきっかけを作ったのが、彼女のデビュー曲「drivers license」だ。オリヴィアは観客にお礼を言った後、予想外にも3曲目で数々の歴史的記録を打ち立てた代表曲を披露した。
まず彼女は、毎日電話で泣きついていた親友にこの曲を初めて聞かせた時に「あなたがどうしてそんなに悲しんでいたか、やっと理解できた」と言われたエピソードを語り、「それが音楽の最大の魅力だと思う。音楽って、そんな風に言葉だけでは伝えられない感情を捉えることができるんだよ」と結んで大歓声と「愛してる!」コールを浴び、グランドピアノの前に座って歌い始めた。
当然ながら、この曲でも頭から全ての歌詞を観客が大合唱。オリヴィアは伸びやかで透明感のあるヴォーカルに魂を込めて、圧倒的な歌声を響き渡らせた。斜め上を向いて歌いながら今にも泣き出しそうな顔をした彼女を見て、彼女が人生初の大失恋をした時の痛みと悲しみがそのままこちらの胸に飛び込んできたかのように、私の心は激しく震えた。彼女が車を運転しながら号泣する姿がありありと目に浮かぶ歌詞の力も強力なのだが、そのリアルな歌詞を生々しい感情を完全に曝け出して歌う姿に、人並外れた驚異的な表現力を感じた。
初ツアーとは思えない表現力、そしてロックの要素
ミュージカル・ドラマの俳優として活躍してきた確かな歌唱力に支えられた彼女の表現力は、この夜プレイされたアルバムの全曲で発揮されていた。これは彼女にとって初のツアーで、これまでにやったコンサートは昨年ラスヴェガスで行われたフェスティバルの出演だけだったにもかかわらず、オリヴィアのパフォーマンスはもう何年もステージに立っているかのように堂々としていて鮮やかでキレがあり、スター然としている。そして、どの曲も大ヒットシングルであるかのように大合唱になり、合唱大会かと思うほどだった。
パフォーマンスの素晴らしさに加えてこのショウをユニークにしていたのが、彼女の両親の影響だというロックの要素だ。オリヴィアは多くの曲で鮮やかにギターを弾いていたし、フォーク調の曲のギターの弾き語りも見事だった。
また、彼女の衣装替えの間にバンドのギタリストがギターソロを披露した時のオーディエンスの盛り上がりは、90年代ロック・バンドのコンサートを彷彿とさせた。彼女のバックでタイトな演奏を続けていた5人の女性バンドだけでなく、厚底ブーツを履いた彼女の衣装や、2曲のカバー曲の選択からも、彼女のロックに対する敬愛が感じられた。
オリヴィアがカバーしたのは、アヴリル・ラヴィーンの「Complicated」とノー・ダウトの「Just a Girl」だ。アヴリルもグウェン・ステファニーも、彼女が大好きなアーティスト。こうして先人に敬意を払う姿勢も往年のロック・バンドに似たものを感じるし、スティーヴィー・ニックスと共演したハリー・スタイルズを除けば、近年のポップスターのコンサートでは見られなかった光景だと思う。
ちなみに前日のLA公演では、アラニス・モリセットがサプライズで登場して、「You Oughta Know」をオリヴィアとデュエットしたことが話題になっていた。
この夜の観客は、ショウの冒頭で流れたワン・ダイレクションの「Olivia」を大合唱できる世代がメインで、大人達の多くは幼い子供の付き添いだった。だが、筆者のような大人のロックファンでも、彼女のコンサートは充分に楽しめるものになっていた。オリヴィアがロックの影響を隠さないアルバムを作り、ロックなショウをやってくれたことによって、確実にメインストリームの音楽が変わっていくと思うし、すでにその兆しは見えている。
とはいえ彼女の音楽は一枚目にして引き出しが多く、その魅力はロックとポップに止まらない。ミュージカルの要素もまた、彼女の音楽をユニークにしている。ショウの後半で披露されたディズニー・プラスの配信ドラマシリーズ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』のサウンドトラック曲「All I Want」は、彼女が16歳の時に初めて一人で作詞作曲した曲なのだが、完成度の高さが凄い。オリヴィアはこのドラマチックな曲を切々と歌い上げ、この夜最大級の合唱を創出した。
『SOUR』は彼女がプロデューサーのダン・ニグロと二人で作り上げた作品で、こうした様々な要素をオリヴィアのカラーとして一つにまとめたのは、彼の手腕でもあると思う。ショウが後半に差し掛かった時、ダンがゲストとしてアコースティック・ギターを持って登場した。
「次の曲は、私達が一番好きな曲だと思う。スタジオで彼と作曲していて、その前の週に書いた『あんな扱いを受け入れるなんて、私は心底あなたを愛してたよね』っていう詩から生まれたんだ」
という紹介で始まった「favorite crime」は、再び観客の大合唱と共に美しく場内に響き渡った。
最後に特筆しておきたいのは、オリヴィアの性格の良さと、繊細な人なのに一番弱い部分を観客に見せられる強さだ。そのおかげで彼女の曲は本当に心に浸透するし、心を癒す力を持っていると感じた。彼女の人柄は、親しい友達に語りかけるようなMCに表れていた。寝室で自信を失っていた時に書いたという「enough for you」を披露する前に、彼女は言った。
「私は19歳で、今も大抵はすごく自信がなくて、20歳、21歳、22歳でも、もしかしたら一生そんな風かもしれない。でも、成功している人や最高に美しい人や社交的な人を含めて、世界中の誰もが自分は不十分だって感じる時があるんじゃないかって思ったら、気が楽になったんだ。皆もそう感じる時があったら、私もそうだからあなたは一人じゃないし、私達は大丈夫になるよ、って言いたい。あなた達って最高だよ」
また、「hope ur ok」は辛い思いをしていた旧友に向けて書かれた曲で、一人でギターを手にして歌ったこの曲でも、包容力のある穏やかな歌声から彼女の優しい人柄が溢れ出ていた。だからこそ彼女のファンは、オリヴィアに夢中なのだと思う。
1時間弱というコンパクトな時間内でこれ以上は望めないほど濃厚なショウになっていたが、ラストを飾ったのは「good 4 u」。爆発的なバンドの演奏と場内を貫くオリヴィアのヴォーカルに大合唱にも一層熱がこもり、会場の中程から大量に紙吹雪が噴出されて、圧巻のショウは幕を閉じた。オリヴィアにとっても、チケットが購入できた幸運な観客全員にとっても、一生忘れられない一夜になったことだろう。
Written By 鈴木美穂
2021年5月21日発売
国内盤CD 6月2日発売
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