映画『ミラベルと魔法だらけの家』の音楽を解説:コロンビアやラテン・ルーツのサウンド

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2021年11月26日に劇場公開となったディズニー新作映画『ミラベルと魔法だらけの家』(原題:Encanto)。この映画の音楽について、ラテン音楽について詳しいライターの栗本 斉さんに解説いただきました。

2022/1/11 update:『ミラベルと魔法だらけの家』のサントラが全米アルバムチャート1位を記録し、アニメのサントラとしては『アナと雪の女王2』以来の全米1位を獲得。また収録楽曲の「We Don’t Talk About Bruno」はディズニーの楽曲としては「Let It Go」以来となる全米シングルチャートTOP5入りとなる全米シングルチャート5位を記録した。

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大ヒット公開中のディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』。魔法の力を持つ不思議な家に住むマドリガル家が危機に陥り、一家で唯一魔法の力を持たない主人公のミラベルが危機に立ち向かうという物語だ。このファンタジックなストーリーの舞台は、南米コロンビアの奥地という設定になっている。ミュージカル仕立てということもあり、本作の音楽は非常に重要だ。しかも、コロンビアが舞台ということで、ラテン音楽の要素が取り入れられているのも特徴である。

 

リン=マニュエル・ミランダ

本作でミュージカル部分の音楽を担当するのは、今最も売れっ子といってもいいリン=マニュエル・ミランダだ。彼は『モアナと伝説の海』(2016年)にも作曲家として関わっており、ディズニーのアニメーション映画に参加するのは2作目となる。

1980年に米国ニューヨークで生まれたリン=マニュエル・ミランダだが、両親はプエルトリコやメキシコの血を引いており、いわゆるヒスパニック系である。幼少期より音楽の才能を発揮した彼は、高校で演劇を学び、大学で自身の劇団を創立。2007年にはヒップホップやサルサを取り入れた『イン・ザ・ハイツ』をオフ・ブロードウェイで上演。この作品が話題になったため、2008年にはブロードウェイに進出。本作は大きな話題となり、その年のトニー賞で13部門にノミネート。リン=マニュエル・ミランダはオリジナル楽曲賞を獲得した。なお、『イン・ザ・ハイツ』は2021年に映画化されて話題になったのも記憶に新しい。

他にも数々の舞台、映画、テレビドラマなどの音楽を手掛けているが、米国で最も大きな話題になったのは、ヒップホップを大胆に取り入れたミュージカル『ハミルトン』(2015年)だ。この作品でもトニー賞で話題となり、彼はオリジナル脚本賞とオリジナル作曲賞に輝いている。

 

コロンビア特有の音楽

『ミラベルと魔法だらけの家』において、リン=マニュエル・ミランダが書き下ろした楽曲は8曲。いずれもコロンビアが舞台というストーリーに合ったラテン・テイストのナンバーが揃っている。まず最初に家族の紹介を兼ねて歌われる「The Family Madrigal」に注目したい。

アップテンポのリズムに乗せて登場人物たちが次々と歌い繋いでいく陽気な楽曲だが、バックにアコーディオンが使われていることに気付くだろう。このアコーディオンと数々のパーカッションの音色のコンビネーションは、コロンビア特有の音楽バジェナートの特徴である。

バジェナートはカリブ海沿いの街で発展したローカル音楽だったが、今やコロンビア本国ではどのエリアでも親しまれている大衆音楽である。イメージとしては、日本における演歌や民謡に近いかもしれない。ただ、昨今ではロックやヒップホップなど様々なジャンルと融合し、若手のミュージシャンも多数登場している。

そういったバジェナートのクロスオーヴァーの立役者といわれているのが、コロンビアを代表するポップスターのカルロス・ビベスだ。コロンビアだけでなくラテン・ミュージック・シーンで絶大な人気を誇る彼が、映画のメイン主題歌となる「Colombia, Mi Encanto」を歌っている。カルロス・ビベスはシャキーラやダディ・ヤンキーなどとも共演している実力派であり、バジェナートをモダンでポップな音楽へと変換しながら次々とヒットを飛ばしている。この「Colombia, Mi Encanto」もバジェナートとラテンポップを巧みに組み合わせたナンバーで、レゲトン風のビートとアコーディオンの牧歌的な響きの融合が非常に楽しく、映画のイメージにぴったり合っている。

もう一曲、バジェナートを取り入れた重要な楽曲がある。こちらはコロンビアの若きスター、セバスチャン・ヤトラが歌う「Dos Oruguitas」だ。セバスチャン・ヤトラは、2013年にデビューしたシンガー・ソングライターで、ラテン・アメリカン・ミュージック・アワードなど数々の賞も受賞している実力派。

ここで披露される「Dos Oruguitas」は、アコースティック・ギターで始まるミディアム・バラード調のバジェナート・ポップで、カルロス・ビベスの開放的な歌とは一味違って、繊細で優しい雰囲気の楽曲に仕上がっている。また、「Dos Oruguitas」はスペイン語だが、「Two Oruguitas」という英語ヴァージョンも使われている。

バジェナート以外に、コロンビアの民族音楽にはバンブーコという3拍子のリズムもあるが、「Waiting On A Miracle」ではそのエッセンスを上手く取り入れている。その一方で、「Surface Pressure」ではレゲトンのビートに乗せて少しハードなイメージを作り上げている。全体的にコロンビア特有の音楽をメインに、ラテン・テイストを巧妙にポップ・ソングに取り入れるテクニックは抜群だ。リン=マニュエル・ミランダのソングライティングの才能が見事に表出されているといえるだろう。

 

ジャーメイン・フランコによるスコアの音色

映画のミュージカル部分の作曲は、リン=マニュエル・ミランダが担当しているが、いわゆる劇伴の音楽に関しては、別途ジャーメイン・フランコがスコアを提供している。彼女はメキシコにルーツを持つ新進の作曲家で、映画音楽だけでなくクラシックのオーケストラでパーカッションを担当するなど非常に多彩な音楽家だ。『リメンバー・ミー』(2017年)で5曲の挿入歌を作曲しているといえば、なるほどと思うのではないだろうか。

ジャーメイン・フランコが手掛けたスコアは、ディズニーらしいファンタジックなオーケストレーションを施した楽曲がメインだが、よく聴くとコロンビアらしい音色がふんだんに取り入れられている。カハやグアチャラカといったパーカッション、マリンバといわれる木琴、アルパと呼ばれるハープ、そしてラテン音楽独特の哀愁味溢れるギターなどだ。しかも、これらは実際にコロンビアのミュージシャンを主に起用しており、オンライン上で指示を出しながら形にしていったというから本格的である。

また、リン=マニュエル・ミランダ同様にコロンビア音楽自体をしっかりと研究し、バジェナートやバンブーコだけでなく、クンビアという2拍子のリズムを取り入れたインスト曲も提供。他にもタンゴやボレロといった他のラテン音楽をモチーフにした楽曲もあり、華やかなリズムでストーリーを盛り上げてくれるのだ。

『ミラベルと魔法だらけの家』は、コロンビア特有のマジック・リアリズムに根ざしたストーリー展開や、華やかな色彩に溢れた映画だが、同じくらいプリミティヴな要素を取り入れた音楽も大きな比重を占める。そこには、リン=マニュエル・ミランダとジャーメイン・フランコという2人のラテンをルーツに持つ旬の作曲家がキーパーソンとなっており、彼らの存在が非常に重要であるのがわかるだろう。ぜひ、音楽にも注目しながら映画を楽しんでいいただきたいと思う。

Written by 栗本 斉



映画『ミラベルと魔法だらけの家』オリジナル・サウンドトラック

2021年11月19日配信
国内盤CD:12月17日発売予定
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


【映画情報】

映画『ミラベルと魔法だらけの家』
2021年11月26日(金)日本劇場公開
日本公式HP

監督:バイロン・ハワード(『塔の上のラプンツェル』『ズートピア』)、ジャレド・ブッシュ(『ズートピア』)
音楽:リン=マニュエル・ミランダ(『モアナと伝説の海』)



 

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