マムフォード&サンズの経歴:“ニュー・フォーク”を越えて生み出されるサウンドと新作
英国出身、現在3人組のバンド、マムフォード&サンズ(Mumford & Sons)が2018年のアルバム『Delta』以来、通算5作目となるニュー・アルバム『Rushmere』を2025年3月28日に発売することを発表した。
そんなバンドについてのこれまでと新作についてライターの松永尚久さんに寄稿いただきました。
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“新たな”ポップ・ムーブメント : カントリー
今年(第67回)グラミー賞でビヨンセが最優秀アルバム賞を獲得、またモーガン・ウォーレンやケイシー・マスグレイヴスなど個性・実力を持ったミュージシャンが続々とヒットチャートを席巻、最近はポスト・マローンやサブリナ・カーペンターなども積極的に取り入れるなど、現在では(特に北米地域の)伝統的な音楽という認識を越えて、新たなポップ・ムーブメントを生み出している、カントリー/フォーク・ミュージックの世界。
シンプルなアコースティック・サウンドのなかには、ノスタルジーと同時に、人間の原点とは何かを問いかけるようなメッセージが潜んでおり、それら楽曲は現代を力強く生きていくための大きな推進力を与えてくれる。
実は、21世紀以降、年代ごとにスタイルを変えてアコースティックは音楽シーンに強い存在感を放っている。00年代にはジャック・ジョンソンをはじめとするサーフ系のシンガー・ソングライターたちが自然との調和をシンプル/有機的に表現した楽曲で、音楽だけでなくライフスタイルにも大きな影響を与え、日本でもサーフ・カルチャーが幅広い世代に浸透。人気は現在まで続いている。
2010年代前後に入ると、シンガー・ソングライターからバンドへと進化。より厚みと力強さを感じさせるサウンドで、リスナーに感動や一体感を与えたのだった。この時代の中心的存在として大きな熱狂を呼び時代を牽引したのが、マムフォード&サンズである。
いきなり大ヒットとなったデビューアルバム
2007年に英国ロンドンにて結成されたバンド。オリジナル・メンバーは、マーカス・マムフォード(Vo&G)、ベン・ラヴェット(Key) 、テッド・ドウェイン(B)と、ウィンストン・マーシャル(G、Banjo/2021年に脱退)。
2009年にデビュー・アルバム『Sigh No More』をリリース。(カントリーやルーツ音楽に欠かせないと呼ばれる楽器)バンジョーを駆使したノスタルジックでありながら生命力にあふれたサウンドは、その音楽に親しんでいる世代には懐かしさを、知らない世代には新たな興奮を与え、英国だけでなく全米をも熱狂。アルバムはヒットチャート上位に100週以上ランクインし、2年連続(第53回、54回)グラミーにもノミネート。全世界で800万以上をセールスし、瞬く間に人気バンドとなったのだった。
特にリード・トラックとなった「Little Lion Man」は、メンバーそれぞれの息づかいや汗がダイレクトに伝わるサウンドにのせ、世界がどんな風景に変わろうとも崖の上に悠然と立つライオンのように自分らしさを失わずに生きていく強い意思を感じさせるもので、そこで放たれた孤高の存在感は、彼らの音楽に対する真摯な思いが伝わってきた。それと同時に、誰しもの心のなかにあるライオンのような闘志を目覚めさせ、世界を熱狂と感動の渦に。結果、グラミーなど多くの称賛を獲得し、バンドの人気は世界へと羽ばたく。
アルバムのリリース後は、世界各地をライヴで廻るハードな日々を過ごしながら、着実にファン・ベースを拡大。2012年には2ndアルバム『Babel』をリリースする。
胸を高鳴らせるバンジョーのイントロと、聴き手の心を包み込む力のあるマーカスの真摯的なヴォーカル印象的なリード曲「I Will Wait」などを含む楽曲の数々は、世界に大きな熱狂を巻き起こし、アルバムは全米全英チャート1位を獲得(年間チャートでも全英1位、全米ではテイラー・スウィフトに続く2位に)。
そして第55回グラミー賞で最優秀アルバムに輝き、現在のムーブメントに通じる<ニュー・フォーク>の潮流を音楽シーンに築いたのだった。
その勢いは、もちろん日本にも波及。2013年にはフジロックフェスティバル出演のため初来日(それにあわせて単独公演も敢行)、カントリーなどのルーツ音楽が好きなリスナーはもちろん、幅広いオーディエンスを集め、言語の枠を超えた特別な一体感を生み出し、その名が広まった。
なかでも「Lover of the Light」は、今の自分が大切にしたいことにフォーカスをしていれば、いずれ光が目の前に現れるメッセージをドラマティックに綴った楽曲。これから新しい世界へ旅立とうとするすべての人の背中を推してくれるはずの応援ソングになっている。
<ニュー・フォーク>を越えて
以降も精力的なバンド活動を続けながらも、さまざまな音楽を追求。2015年にリリースした3rd『Wilder Mind』においてはレクトロニック・ギターやドラムといったバンド・サウンドを取り入れ、よりダイナミックなサウンドに。さらに、2018年発表の4th『Delta』においてはエレクトロやジャズ、ラップの要素なども加え、バンドの表現世界がさらに拡大。どちらも高い評価を得て、アルバム・チャート首位を獲得。<ニュー・フォーク>という枠を越えて、マムフォード&サンズという揺るぎないジャンル/地位を確立させたのだった。
日本でも、2019年に2度目の来日公演を敢行。他の国ではスタジアム・クラスでのステージが主流のなか、ライヴハウス規模での公演は、彼らの呼吸がダイレクトに伝わるもので、とてもプレミアムな体験となった。
特に『Wilder Mind』に収録された「The Wolf」は、バンジョーからエレクトロニック・ギターに替え、彼らの持つエモーションを<狼の叫び>のように表現した魂をかきむしるガレージ/オルタナティヴ・ナンバーで、ライヴではフィナーレを飾り熱狂を呼んだ。また、世の中にあふれる理不尽を捨てて、愛する人とじっくり向きあいたいというストレートな思いを伝える歌詞も、痛快な気分にさせる。
しかし、熱狂のツアーの途中でパンデミックが起こり、ツアーは途中終了を余儀なくされてしまうなど、活動が制限された状態に。さらにメンバーの脱退なども重なり、バンドは混迷の時代を迎える。
その間にマーカスは、2022年9月にアルバム『Self-Titled』を発表。バンドでは語られることがなかった自身のトラウマ・出来事を回想するようなシンプルなアコースティック曲を中心にした内容で、全米チャートトップ5入りするなど、好セールスを記録した。
最新作『Rushmere』
マーカスのソロ・プロジェクトが落ち着きをみせた頃、バンドの止まっていた時間が再び動き始める。2024年にはファレル・ウィリアムスとのコラボ・ソング「Good People」のリリースをきっかけに、楽曲制作がスタート。2025年1月に、通算5作目となるアルバム『Rushmere』と、タイトル・トラック「Rushmere」を公開したのだった。<Rushmere/ラシュミア>とは、英ロンドン・ウィンブルドン地域にある湖のほとりをさす。ここで、彼らは出会い音楽活動を開始したという、はじまりの場所。
ここ2作のアルバムで影を潜めていたバンジョーの音色が轟く、ドラマティックな展開のサウンドにのせて<暗闇で疲れ果てた自分に希望の光を/時は二度と期待に背くことはしない>というメッセージを綴っている。メンバー脱退後3人体制でで再スタートをきる、彼らの現在の強い思いが投影されていると同時に、誰しもの人生を祝福している雰囲気も伝わる、希望のナンバーである。
バンジョーと聞くと、日本でいう三味線などに通じる西洋の伝統楽器という印象で、モダンなイメージを持っていない人もいるかもしれない。テンガロンハットを被ったカウボーイが登場し、一歩足を踏み入れることを躊躇させる見えない壁が存在しているような。しかし、彼らの音楽からはそういう伝統の匂いはなく、むしろストイックに音楽と向き合い続ける正直な人間の姿だ。
実際、フロントマンのマーカスは幼い頃から文通で心を通わせていた女優のキャリー・マニガンと結婚し、現在は温かな家族を築いているなど、好きなものに対してとことん一途な様子がどの楽曲からも伝わってくるのだ。その真摯さゆえに、特にマーカスの綴る歌詞からは、人生に気づきを与えるメッセージが多く散りばめられている。
2025年3月28日にリリースされるアルバム『Rushmere』においても、タイトル・トラックを筆頭に先行きの見えない世界をあるべき場所へ導くような光を見せてくれる作品になっているに違いない。また、同時に現代のカントリー系ミュージックとは一線を画したエモーションを感じ、心を昂らせるはずだ。苦手、乗り越えられないと思っている壁を超えてみると、そこには意外と新しい自分と出会えるのかもしれない。そんな予感を与えてくれる音楽であると思う。
Written By 松永尚久
マムフォード&サンズ『Rushmere』
2025年3月28日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Amazon Music
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