惨敗だった1963年ビートルズのアメリカ・デビュー、そして大ヒットを記録した2枚のアルバム

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1964年2月7日、ザ・ビートルズが初めてアメリカに降り立ち、その2日後の2月9日の晩、”エド・サリヴァン・ショー”に初出演して以降、アメリカをはじめとする世界各国でビートルズ旋風が巻き起こってから60年。

その起点となったザ・ビートルズと1964年について様々な角度から焦点をあてる連載がスタート。第2回はアメリカで最初に発売された2枚のアルバム『Meet the Beatles!』と『The Beatles’ Second Album』について。

第1回目:『1964年のザ・ビートルズ』

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ビートルズのアメリカ上陸60周年を記念して、アメリカのキャピトル・レコードからの作品をまとめた8枚組LPボックス・セット『The Beatles : 1964 U.S. Albums in Mono』が11月22日に発売される(2枚組のドキュメンタリー・アルバム『The Beatles’ Story / ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』を除くLP6枚も、それぞれ単独作品として同時発売)。

連載2回目からは、それぞれの作品について具体的に紹介していく。その前に、ビートルズがアメリカの大手キャピトル・レコードと契約するまでの経緯についてまずは触れておきたい。

 

惨敗だった1963年のアメリカ・デビュー

シングル「Please Please Me」がイギリスで1位になることを予見していたプロデューサーのジョージ・マーティンは、アメリカでのレコード契約を視野に入れ、同シングルの発売2週間後の1963年1月25日、10年前にシカゴで設立されたアメリカのマイナー・レーベル、ヴィージェイと2年契約を結ぶ。他にリヴァティ、ローリーともシングル「Please Please Me」の契約を打診したが、即座に却下されてしまう。

そして2月25日に「Please Please Me」、5月27日に「From Me to You」がイギリス盤と同じカップリングで発売されたものの、前者が7月に96位、後者が89位とかろうじてチャート・インする程度。しかも「Please Please Me」のイニシャル・オーダーは、わずか500枚だったという。

イギリスでのデビュー・アルバム『Please Please Me』収録曲の発売権も持っていたヴィージェイは、その結果を受け、7月22日発売予定のアメリカでのデビュー・アルバム『Introducing… The Beatles』の延期(もしくは中止)を決めた。この時点でイギリスでは爆発的な人気を誇っていたビートルズだったが、アメリカではまだまったく“売れないバンド”と見られていたのだ。

9月6日に発売されたシングル「She Loves You」は、同じくアメリカの弱小レーベル、スワンから発売されたが、これもまったくヒットせず。1963年のアメリカ・デビューは惨敗に終わった。アメリカで「She Loves You」までもがヒットに結びつかなかったのは、北米EMI傘下の大手レコード会社キャピトルとの契約が合意に至らなかったことがその背景にあった。だが、マネージャーのブライアン・エプスタインはあきらめなかった。

 

ブライアン・エプスタインの手腕

10月29日、ブライアンはアメリカの映画会社ユナイテッド・アーティスツとの間にビートルズの初主演映画の出演契約を結び、さらにキャピトルによる「I Wanna Hold Your Hand(抱きしめたい)」の強力な宣伝活動の確約を取り付けるために11月6日に渡米。“アメリカで最も有名なテレビ番組”といわれた『エド・サリヴァン・ショー』の司会者エド・サリヴァンと会い、1964年2月の出演を決めたのだ。

そして1963年12月。ビートルズが商売になると判断したキャピトルは、アメリカでのレコード発売権の独占契約を交わす。ただし、キャピトルが提示した契約内容は、シングルとアルバム1枚ずつだったという。

12月初めに新聞(『ニューヨーク・タイムズ』)やテレビ(『CBSイヴニング・ニュース』)がビートルズの特集記事と特集番組を組み、キャピトルも宣伝に5万ドルを費やした。宣伝効果による反響も大きかったため、キャピトルからの第1弾シングル「I Wanna Hold Your Hand」は、当初の1964年1月13日から1963年12月26日に発売が早められた。

その結果、発売3日後に25万枚、1週間余りで100万枚を売り上げ、1964年1月18日付で45位にランク・イン。翌週には一気に3位まで上昇し、3週目(2月1日付)に全米初の1位を獲得した。

 

アメリカでのデビュー・アルバムの発売

そうした中、キャピトルからのデビュー・アルバム『Meet the Beatles!』は、「I Wanna Hold Your Hand」がチャート・インした直後の1964年1月20日に発売された。全12曲の内訳は、イギリスのセカンド・アルバム『With the Beatles』からの9曲に、キャピトルからのデビュー・シングルの2曲「I Wanna Hold Your Hand」と「I Saw Her Standing There」、それにイギリスのシングル「I Wanna Hold Your Hand」のカップリング曲「This Boy」である。

ビートルズのアルバムは、イギリスでは原則としてシングル曲はアルバムには収録しないという方針だったが、アメリカでは、シングル曲をいわば“アルバムの顔”として収録することが慣例となっていた。しかも曲数は、イギリスはほぼ14曲収録だったのに対し、アメリカはほぼ11曲である。

またアメリカでは、ジョージ・マーティンと旧知の間柄で、海外アーティストの窓口役にもなっていたキャピトルのA&R担当のデイヴ・デクスター・ジュニアがイギリスから送られてきたマスターテープに独自のミックスを施したり、アメリカでの発売を急ぐ必要があった際には、最終ミックス前の曲が収録されたりすることもあった。ゆえに、イギリスのオリジナル・アルバムとは収録曲もミックスも異なる、マニア泣かせの独自の作品が数多く生み出されたのだった。

キャピトルからのデビュー・アルバム『Meet the Beatles!』は、イギリスのデビュー・アルバム『Please Please Me』からは「I Saw Her Standing There」を除いて1曲も収録されていない。先に触れたように、アメリカでの販売権をヴィージェイが持っていたためだ。

ヴィージェイはキャピトルの戦略に便乗し、棚上げにしていたアルバム『Introducing… The Beatles』を『Meet the Beatles!』の10日前の1月10日に発売することを決め、さらに1963年にはヒットしなかった2枚のシングルのA面曲をカップリングした「Please Please Me / From Me to You」も1月30日に再発売した。

日本も、東芝音楽工業から、日本独自の編集盤『ビートルズ!』が、こちらは14曲入りで64年4月15日に発売されたが、いずれにしても、アメリカのファンは、『Meet the Beatles!』を、「I Wanna Hold Your Hand」が収録されたデビュー・アルバムとして認識していたということになる。

収録曲を見てみると、12曲中、オリジナルが11曲を占めており、カヴァー曲は「Till There Was You」のみと、オリジナル色の強い構成となっている。1964年2月に3回出演した『エド・サリヴァン・ショー』で演奏された曲が5曲――「I Wanna Hold Your Hand」「I Saw Her Standing There」「This Boy」「All My Loving」、そして唯一のカヴァー「Till There Was You」。

映画『ハード・デイズ・ナイト』で使われた曲は4曲――「All My Loving」「Don’t Bother Me」「I Wanna Be Your Man」、そしてジョージ・マーティン・オーケストラによる「Ringo’s Theme (This Boy)」。

ビートルズのアメリカ上陸に際し、ブライアン・エプスタインはキャピトル・レコードとユナイテッド・アーティストと“いい塩梅”で手を結んでいたことが、『Meet the Beatles!』の収録曲からもうかがえる。

『Meet the Beatles!』は、アルバム・チャートで11週連続1位を記録し、1964年度年間ランキング8位、1965年度年間ランキングでも31位を記録した。

 

 

キャピトルからの2枚目のアルバム

続くキャピトルからの2作目となった『The Beatles’ Second Album』は、『Meet the Beatles!』の3か月後の1964年4月10日に発売された。

収録曲は11曲となり、『Meet the Beatles!』に未収録だった『With the Beatles』からのカヴァー5曲――「Roll Over Beethoven」「You Really Got A Hold On Me」「Devil In Her Heart」「Money (That’s What I Want)」「Please Mister Postman」、イギリスの4枚目のシングルで1963年にスワンが販売権を持っていた「She Loves You」と「I’ll Get You」、 同じくヴィージェイが販売権を持っていた「Thank You Girl」(イギリスの3枚目のシングル「From Me to You」のカップリング曲)、イギリスの6枚目のシングル(当時の最新シングル)「Can’t Buy Me Love」のカップリング曲「You Can’t Do That」、さらにイギリスでは6月19日にEPとして発売された「Long Tall Sally」と「I Call Your Name」が、一足先に収録されている。

全11曲中オリジナルは半分以下の5曲。「She Loves You」以外はほとんどR&B色の強いカヴァー曲やシングルB面曲という構成で、通好みの内容と言える。当時のアメリカのファンは、『Meet the Beatles!』でオリジナル色の強い“表の顔”を楽しみ、『The Beatles’ Second Album』で、チャック・ベリー、リトル・リチャード、スモーキー・ロビンソンなど黒人音楽への造詣も深い“裏の顔”を知ったに違いない。

『The Beatles’ Second Album』は、前作『Meet the Beatles!』に代わってアルバム・チャートで5週連続1位を記録し、計55週チャート・インを果たした。


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