ヒップホップ/R&Bレーベル興亡史:名を残す名門から、時代の荒波に流されたものまで

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ヒップホップやR&Bなどを専門に扱う雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』改めウェブサイト『bmr』を経て、現在は音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベント(最新情報はこちら)など幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第41回。

今回は今年8月11日で50周年を迎えるヒップホップについて開催されたオンラインイベントを抜粋して文章化したものをお届け。第1回第2回第3回第4回は公開中。

ヒップホップ生誕50周年を記念したプレイリストも公開中(Apple Music / Spotify / YouTube)。

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昨年10月に開催されたBETヒップホップ・アワーズ。そこで行われたのが“Loud 30”というパフォーマンスだ。

ヒップホップ・レーベル「ラウド・レコーズ」の30周年記念。たかだか10分強であるが、かつて所属したことがあるアーティストたちがこぞって登場し、秒刻みで交代にパフォーマンスするような、そんな集いだった。

ラウドは確かに偉大なレーベルである。しかし、「60年代のソウル・シーンにおいてモータウンが果たしたような役割を果たしたか?」というと、そこまでのものではない。

それでも「レーベル設立30周年」が祝われるのは、これがヒップホップというジャンルだから。ここは、アーティストが契約している「レーベル」というものが強調され注目される世界なのだ。“Tommy ain’t my motherfuckin’ boy”、つまり「トミーは俺のボーイじゃない」というフレーズに始まり、多くのレーベル名を巧みに読み込んだ”Labels”という曲まであるのだから。

次から次へと設立されてきたヒップホップ・レーベルたちの中には、時間という試練に耐えて名を残すものあり、時代の荒波に流されて行方不明となるものあり。ここでは、そんなヒップホップとR&Bの世界に生まれては消えていくレーベルというものを巡るアレコレについて書いていこう。

とはいえ。例えば、Wikipediaのヒップホップ・レコード・レーベルズというカテゴリーを見ると、驚くほどたくさんのページがあることがわかる。適当に見繕って……というか、例によって自分が思い入れを抱くものを優先して語るしかない。

まず最初は70年代から80年代のニューヨーク。黎明期の立役者レーベルたちを紹介しよう。

Sugar Hill Records

ご存じ、シュガーヒル・ギャングの「Rapper’s Delight」のリリース元。つまり、初めてアメリカのトップ40に入るラップ曲を出したレーベルではある。しかし、ここを「ヒップホップ・レーベル」と断言していいのかどうか。これがいささか悩むところで、むしろ「ラップを出しているディスコ・レーベル」なのかもしれない。とはいえ、シュガーヒル・ギャングやグランドマスター・フラッシュ&ザ・フュリアス・ファイヴ等、黎明期の立役者的なアーティストたちの本拠地となったことは間違いない。

いま挙げた2グループに加え、ファンカデリックのフィリップ・ウィンのソロ作や、女性ヒップホップ・トリオのシークエンスも在籍していた。後者シークエンスは「シンガーを集めてラップさせた」感があるグループ。紆余曲折を経てネオ・ソウル時代に開花するアンジー・ストーンもメンバーだった。

シュガーヒル・レコーズを音楽的に見ると……自由気ままに替え歌を取り込み、ブロック・パーティー気分のポール&レスポンスも頻発。そんなオールドスクールな曲を多々送り出していた会社である。

 

Tommy Boy Records

シュガーヒル・レコーズの本質はディスコ・レーベルかもしれないが、間違いなくヒップホップなのがトミー・ボーイ。

どの時期に焦点を当てるかによってイメージが違うのは当然だが、わたしにとってトミー・ボーイといえばアフリカ・バンバータとデジタル・アンダーグラウンドだし、「宇宙版モーツァルト」のようなジョンズン・クルーもいたので、「未来的」という印象がある。もちろん、クイーン・ラティファもその弟分のノーティ・バイ・ネイチャーも在籍していたし、その見方が一面的なものでしかないのも事実だが。

サウンド面では、先のシュガーヒル・レコーズが流行りのディスコ/ソウル/ファンク曲のトラックをバンドによる生演奏で弾き直していたのに対し、初期トミー・ボーイのサウンドは「ローランドのTR-808を多用した打ち込み」という印象が強い。

 

Def Jam Recordings

先に挙げたシュガーヒルは黒人経営、トミー・ボーイはユダヤ系のトム・シルヴァーマンさんが設立(トムだからトミー・ボーイ)。対して、黒人とユダヤ人の両方が創設と運営に関わっていたのがデフ・ジャムである。

もともとはユダヤ系のリック・ルービンが学生時代に始めたパンクロックのレーベルだったが、音楽業界に関わる黒人青年ラッセル・シモンズ(ヴィンセント・ギャロの紹介で知り合ったとか)が参加してからヒップホップ・レーベルに変身!

LL・クール・Jやスリック・リック、そしてパブリック・エネミーを世に送ったデフ・ジャムがなければ、ヒップホップの全体像は我々が知るものとだいぶ違ったものになっていただろう。

 

Profile Records

さて、ラッセル・シモンズはRun-DMCのランことジョゼフ・シモンズの兄。Run-DMCという——当初は本人たちがメチャメチャ嫌がったという——ネーミングも、ラッセル・シモンズの発案によるものだ。考えてみれば、Run-DMCほどデフ・ジャムのイメージにぴったりのアーティストもいないのではないか。しかし問題は、Run-DMCがデフ・ジャム所属ではないことだ。

デフ・ジャムの本格稼働はトミー・ボーイ(1981年)やシュガーヒル(1979年)より一足遅くて1984年。一方、Run-DMCは1983年、デフ・ジャムが始動していない時期にデビューしているのである。どこから? プロファイル・レコーズからだ!

プロファイルといえば、DJ・クイックや彼がプロデュースする2nd II None(セカンド・トゥ・ナン)が所属していたことが個人的に思い出深いが、元はRob Base and DJ E-Z RockやDr. Jeckyll & Mr. Hydeといったニューヨーク勢中心だった。

後者、ジキルとハイドの「ジキル」がアンドレ・ハレルであり、彼はラッパーとしてプロファイル・レコーズに所属しながら、自らアップタウン・レコーズを起業。続くニュー・ジャック・スウィングの時代の中心的レーベルへと発展する。こういった「あるレーベルに所属するラッパーが別のレーベルを起業し、そこに所属するラッパーが別のレーベルを起業し……」という数珠つなぎフラクタル的なレーベル枝分かれ現象がまま見られるのが、ヒップホップ界の特徴だ。

 

ウェストコーストの系図

枝分かれといえば。N.W.Aメンバーに始まる西海岸ヒップホップ・レーベルたちの系譜はちょっとした見ものである。

まずは、イージー・Eが始めたRuthless Recordsだ。そしてN.W.Aを脱退したドクター・ドレーのDeath Row Recordsあり(厳密には「ドレーが起業した」とは言えないようだが)、続くAftermath Entertainmentあり。

さらに、ドレー同様にDeath Rowから抜けたドッグ・パウンドのD.P.G. Recordzもあるし、Death Rowと契約しなかったドレーの弟であるウォーレン・GのG-Funk Entertainmentも忘れてはならない。そして、スヌープ・ドッグにはDoggy Style Records/Dogghouse Recordsがあるし、イージー・Eの弟子筋や、アイス・キューブ周りの人脈もそれぞれレーベルを持ち……と際限なく続く数珠つなぎ状態である。

続きはオンラインイベント『ヒップホップ/R&Bレーベル興亡史!トミーは俺のボーイじゃない』の本編をご覧ください。

Written By 丸屋九兵衛


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