ヒップホップ50周年の年に振り返る、ラッパー兼アクターたち5選

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Photo: Michael Ochs Archives/Getty Images

ヒップホップやR&Bなどを専門に扱う雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』改めウェブサイト『bmr』を経て、現在は音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベント(最新情報はこちら)など幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第38回。

今回は今年8月11日で50周年を迎えるヒップホップについて開催されている5つのオンラインイベントから、抜粋を3回に分けてお届けします。第1回はこちら

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最近、2パックが死後27年を経て、ようやくハリウッドのWalk of Fameに名前を刻まれるという出来事があった。このハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムは業種によってマークが違う。2パックの場合はレコードのマーク。……ということは、あくまで音楽人としての評価か? 俳優としてなら27年かかったのも理解できるのだ、アクターとして(も)素晴らしいが出演本数が少なすぎると。しかし音楽業界の才能としての評価だとしたら、なぜ27年もかかったのだろう。7,500万枚のレコード/CDを売った人物なのに。

さて、アイス・キューブという前例があり、2パックの活躍を経た90年代後半から00年代半ば過ぎぐらいまでは、ラッパーが演技することが一般化していた。その面で器用そうに見えないドクター・ドレーですら、1996年の映画『セット・イット・オフ』に脇役で出演し、『ザ・ウォッシュ』ではなんと主演である!

ラッパーが演技することが珍しくない……どころか「ラッパーこそがアクターとして採用される率が高い」という当時の風潮をテーマにした映画まである。それが2004年の『Fronterz』。つまり「虚勢を張る者たち」ぐらいの意味だろうか。職にあぶれた俳優たちが、あえてラッパーのふりをして、それによって役を得ようとするという話である。

それから20年近くが過ぎた今、当時の「ラッパー兼アクター」ブームとその後を見つめてみたい。

1. ドレイク

みんな忘れがちなラッパー兼アクター……というよりも「元々アクターだったラッパー」、それがオーブリー・グレアム。フルネームはAubrey Drake Grahamだが、そのミドルネームだけ取ってラッパーとして活動している彼、つまりドレイクだ。

子役俳優としての彼のキャリアを決定付けたのは『Degrassi: The Next Generation』という学園ドラマ。毎年2クールほどやっていたシリーズで、ドレイクは2001年から2008年まで7シーズンで100話ほどに出演。ということは全エピソードに出ているわけではないが、学校ではバスケットボールのスター選手だったのに銃撃戦に巻き込まれて下半身不随となり車椅子に乗る少年という、なかなか難しい役だった。ドレイクはこれで得た収入で、病気がちのお母さんを支えていたらしいから見上げたものなのだ。

 

2. モス・デフ/ヤシーン・ベイ

意識高い系と捉えられる割にはやることが不思議なこの人、ダンテ・スミスAKAモス・デフ改めヤシーン・ベイも「アクター転じてラッパー」の枠に当てはまる。子役俳優として始めて、その後で演技を学びつつラップも開始したという経歴の持ち主なのだから。

1997年のマイケル・ジャクソンのショートフィルム『Ghost』に出ていたことも忘れ難いが、わたしが個人的に思い出深いのは2003年の『ミニミニ大作戦』。彼が演じるキャラクターは気が弱い設定で、ブーヤー・トライブの巨体を見て怯えるシーンがあるのだ。

2005年の『銀河ヒッチハイク・ガイド』では、のちにジョン・ワトソンになる主人公マーティン・フリーマンを助ける親切な異星人の役、準主役だ。VHSという媒体とレンタルビデオ屋さんという存在に対するトリビュートにしてラヴレターである2008年の『僕らのミライへ逆回転』でも、ジャック・ブラックとのコンビで主演、いい味を出していた。

同じ2008年の『キャデラック・レコーズ』ではチャック・ベリー役。全く似ていないビヨンセのエタ・ジェイムズと比較してモス・デフのチャック・ベリーはかなり似ていたが、チャック・ベリーとはいわば「金離れが良いR・ケリー」みたいな人なので、今どう考えるべきかはなかなか難しい……。

 

3. クイーン・ラティファ

ここからは「ラッパー転じてアクター」勢。ウィル・スミスになってしまったフレッシュ・プリンスは有名すぎるので割愛するとして、クイーン・ラティファから始めよう。

「郷ひろみ meets ドニー・イェン」みたいだった時期のジミー・ファロンと彼女が共演した2004年作『TAXI NY』には悪い思い出(ラティファのせいではない。配給側の問題)があるのだが、それ以外はラッパー共演ものが記憶に残る。

たとえば2002年の『ブラウン・シュガー』ではモス・デフと共演、チェコのホテルでの豪快な食べっぷりでジェラール・ドパルデューを感激させる2006年の『ラスト・ホリデイ』ではLL・クール・Jと共演した。

『恋のスラムダンク』という凄い邦題がついた2010年の“Just Wright”ではNBA選手であるコモンの世話を焼く理学療法士役で、去年のNetflix映画『エンド・オブ・ロード』ではついにリュダクリスと姉弟役だ!

 

4. LL・クール・J

さて、先に言及したLL・クール・Jも、「ラッパー転じてアクター」組の代表格の一人。役者としての印象が目立ち始めたのが1999年のアメフト映画『エニイ・ギブン・サンデー』では、NFLチーム内で対立する設定のジェイミー・フォックスと実際にもめたらしい。

2001年の『カモン・ヘブン!』も出色で、ウーピー・ゴールドバーグとアンソニー・アンダーソンとヴィヴィカ・フォックスとジェイダ・ピンケットの家族がいろいろな衝突を経て和解するお葬式映画。R&Bリスナー観点では、従姉妹役でトニ・ブラクストンが出ているのに、最後に歌うのがジェイダであるという謎が頭から離れない……。

といろいろあるものの、LL・クール・Jの俳優キャリアで大きいのはTVシリーズ『NCIS:LA 〜極秘潜入捜査班』だ。2009年から14シーズンも続いて今年ついに大団円! 役者人生の大半を捧げた作品と言えるのではないか。

 

5. アイス・T

そのLL・クール・Jと同時代を生きてきたものの、年齢はなんと10歳上! そんなアイス・Tも「ラッパー転じてアクター」の一人だろう。もっとも彼の場合、デビュー・シングル「The Coldest Rap」を出したのと同じ1983年にはドラマ『フェイム』に出ており、そうしたTV作品を含めるとなかなか充実したフィルモグラフィを誇る。とはいえ、彼が役者としての真価を見せたのは、やはり1991年の『ニュー・ジャック・シティ』だろう。

しかし今振り返って思うのは、「元祖ギャングスタ・ラッパーなのに、なぜ刑事役なのか」ということ。この素朴な疑問をさらに拡大してしまったのが、TVシリーズ『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』である。

2000年のシーズン2からトゥトゥオラ刑事として出演を始めたアイス・Tは、シーズン24に達した現在もまだ活躍中! LL・クール・Jの『NCIS:LA 〜極秘潜入捜査班』より10年近く長いのだ。だから、ソウルジャ・ボーイ (Soulja Boy Tell ‘Em)とビーフになった際、ソウルジャ・ボーイに「あの人、刑事だと思ってたらギャングスタ・ラッパーだったの?」と言われた(諸説あり)というエピソードも頷ける話なのである。

さて、もう一人のアイス、つまりアイス・キューブに関しても語らねばならないが……詳しくはオンラインイベント『こんなにいるぞ、ラッパー兼アクター!』の本編をご覧ください。

Written By 丸屋九兵衛


BLACK MUSIC MONTH 2023 / HIP-HOP 50 YEARS!
丸屋九兵衛オンライン5イベント(アーカイブ公開中)

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