映画『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』公開記念、全10作それぞれのお勧め楽曲

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ヒップホップやR&Bなどを専門に扱う雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』改めウェブサイト『bmr』を経て、現在は音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベント(最新情報はこちら)など幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第36回。

今回は2023年5月19日にシリーズ10作目が公開された『ワイルド・スピード』ついて、今までの全10作品とそれぞれの注目楽曲を振り返って頂きました。

また映画公開にあわせて“ワイスピ・サーガ”の楽曲を新作からまとめたプレイリストも公開中(Apple Music / Spotify)。

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『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』こと“Fast X”のトレイラーで「レッスライ、レッスライ、レッスライ……」と繰り返す声に思わず反応してしまった人も少なくないだろう。それはどこをどう聞いてもノトーリアス・B.I.G.とボーン・サグズン・ハーモニーによる「Notorious Thugs」の一節だから。

この『ワイルド・スピード』こと“Fast & Furious”は、音楽に寄り添ってきた映画シリーズだ。特にヒップホップとレゲトンに。そんな『ワイルド・スピード』正編10作のサウンドトラックと、各アルバムからの推薦曲を紹介していきたい。

 

1. 『ワイルド・スピード』The Fast and The Furious

ロサンゼルスの違法カーレース・コミュニティを描く第1作『ワイルド・スピード』は2001年の映画。同作から今に至る22年間の時の流れを噛み締めるには、サウンドトラックの発売元が「Murder Inc./Def Jam/Universal」であることを知るだけでよい。そう、ジャ・ルールの大ヒットで飛ぶ鳥を落とす勢いだったマーダー・インクだ! ゆえに、ファット・ジョー、スカーフェイス、ネイト・ドッグ、ピーティー・パブロといった名前も並ぶが、アシャンティやキャデラック・ターといったマーダー・インク勢が要所要所に登場する。

いろいろな曲がある中で、先日『ワイルド・スピード』についての対談を行った町山智浩先輩の記憶に残っているのはDMXが吠えるリンプ・ビズキットの「Rollin’ (Urban Assault Vehicle)」らしいが、わたしとしてはやはり映画本編にもドミニク(ヴィン・ディーゼル)やブライアン(ポール・ウォーカー)のライバル・レーサー役で出てくるジャ・ルールによる「Put It On Me (Remix)」を推しておきたい。リル・モーとヴィータも参加。

 

2. 『ワイルド・スピードX2』2 Fast 2 Furious

ヴィン・ディーゼルが降板、ポール・ウォーカーだけが残った第2作『ワイルド・スピードX2』は2003年の映画。同作から今に至る20年間の時の流れを噛み締めるには、サウンドトラックのレーベルの一つとして「Disturbing Tha Peace」の名があることを知るだけでよい。そう、リュダクリスのレーベル、通称「DTP」だ!

前出のジャ・ルールが続編へのオファーを断ったため、同様の準主役キャラクターとしてリュダクリスに出演依頼が舞い込んだ(うえにサウンドトラックでも大活躍)らしいが……まさかこれが20年も続く仕事になるとはリュダ自身も思わなんだろうなあ。アルバムにはDTP勢のみならず、トリック・ダディやエイトボール、リル・フリップやピットブル(アンクル・ルークの弟子時代)も参加していて、やはり南部ヒップホップ色が強い。

なお、この作品からシリーズに登場した人物としては、ジョン・シングルトン監督に連れてこられたタイリース(こちらはポール・ウォーカーと並んで主役)もいて、サウンドトラックではリュダクリス&R・ケリーと共に「Pick Up the Phone」という曲で歌っている。とはいえ1曲選ぶなら、やはり主題歌的な一発、リュダによる「Act a Fool」だろう。

 

3.『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』The Fast and the Furious: Tokyo Drift

ヴィン・ディーゼルはもちろん、ポール・ウォーカーも不参加! 2006年の第3作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』は、そんな苦境にいきなり投入されたジャスティン・リン監督(台湾系アメリカ人)が奮闘した結果、予想だにしない新路線を開拓してしまった画期的な作品である。

タイトル通り東京が舞台、サウンドトラックにはDragon AshやThe 5.6.7.8’sなど日本勢の名もある一方、アタリ・ティーンエイジ・ライオットやN.E.R.D.、DJシャドウ&モス・デフも参加。主題歌扱いの「Tokyo Drift (Fast & Furious)」はTERIYAKI BOYZ®の曲だが、ここではジャスティン・リン監督とも交流があるアジア系アメリカ人グループ、ファーイースト・ムーヴメントの「Round Round」に注目したい。数年後のEDM路線とはだいぶ違い、陽気なトラックで飄々とラップするニシムラくんと仲間たちなのだった。

 

4.『ワイルド・スピードMAX』Fast & Furious

2009年、当初の主演陣が復帰して作られた第4作『ワイルド・スピード MAX』はドミニカからアメリカへ、そしてメキシコへと疾走する物語。ドミニカで石油トラックを強奪するドミニクを手伝うのがテゴ・レオとリコ・サントスというラティーノ・コンビで、演じているのはテゴ・カルデロンとドン・オマール。つまりレゲトン界の大物二人だ!

そんな第4作のサウンドトラックは、ネプチューンズ制作曲とラテン曲が入り乱れる内容。白眉は、やはりドン・オマールが歌うEDM系レゲトン「Virtual Diva」だろうか。

なお、この第4作『ワイルド・スピード MAX』には、前日譚にあたる短編映画『ロス・バンドレロス〜盗賊たち』(Los Bandoleros)が存在する。そのタイトルは同作に出演もするテゴ・カルデロンとドン・オマールのデュエット曲から取られたもの。どれほどレゲトン・フレンドリーなシリーズなのか……。

 

5.『ワイルド・スピード MEGA MAX』Fast Five

前作の最後で逮捕されたドミニクはファミリーの協力で脱走。落ち延びた先はブラジルだったが、そこにアメリカから超強力な捜査官ホブス(ドウェイン・ジョンソン)が派遣されてくる……。

というわけで、2011年の第5作『ワイルド・スピード MEGA MAX』の舞台はブラジル。ゆえにサウンドトラックも、USヒップホップ等にカルリーニョス・ブラウンやMV Billら地元勢が混ざる構成となっている。

中でも出色なのはブラジルのラッパー、マルセロ・D2(マルセロ・デードイス)の「Desabafo / Deixa Eu Dizer」だろう。イヴァン・リンスの有名曲「Deixa Eu Dizer」を引用・再構成した作りで「メイド・イン・ブラジル」感が強いのだ。もっとも、映画本編の撮影は——ブラジルではタイリースとリュダクリス見たさに詰めかける人が多すぎたため——大半がプエルトリコで行われたのだが!

 

6.『ワイルド・スピード EURO MISSION』Fast & Furious 6

ブラジルで強奪した大金で今や優雅に暮らすドミニクと仲間たちは、捜査官ホブスの要請でヨーロッパへ……。2013年作『ワイルド・スピード EURO MISSION』はそんな映画だが、その音楽は特にヨーロッパ寄りでもない。このあたりから、『ワイルド・スピード』シリーズのサウンドトラックは「現在進行形のUSヒップホップ(&レゲトン他)のショウケース」感が強くなるのだ。

主題歌という位置づけであろう「We Own It (Fast & Furious)」は、2チェインズとウィズ・カリファによるもの。この2チェインズがリュダクリスと同郷のカレッジパーク(アトランタ近郊)出身であり、それどころかリュダの来日公演でも“Tity Boi”名義で相方を務めていた……と思えば、なかなか感慨深い。

 

7.『ワイルド・スピード SKY MISSION』Furious 7

自動車がビルとビルの間を飛んだり、輸送機から地上にダイブしたり。2015年の『ワイルド・スピード SKY MISSION』から、このシリーズは科学の法則を大胆に破壊し始める。が、この第7作を忘れがたいものにしているのは撮影途中で(映画の制作とは無関係に)起きたポール・ウォーカーの事故死だ。

サウンドトラックは例によってヒップホップにラテンを混ぜた構成となっているが、1曲だけ選ぶとしたら、ウィズ・カリファとチャーリー・プースの「See You Again」しかないだろう。去り行く友と「いつかまた会おう」と誓う同曲は、聴く者の胸を打つ。ドミニク(ヴィン・ディーゼル)とブライアン(ポール・ウォーカー)のラストシーンと相まって。

 

8.『ワイルド・スピード ICE BREAK』The Fate of the Furious

主人公ドミニクがファミリーを裏切り、悪の組織の手下に! そんな第8作、2017年の『ワイルド・スピード ICE BREAK』サウンドトラックは、先に書いた「現在進行形のUSヒップホップ(&レゲトン他)のショウケース」の典型だ。2010年代後半のシーンをまとめたヒップホップ・コンピレーションとして推薦したい。

良曲が多すぎてセレクトに悩むが、いくつか選ぶとすれば……。今は亡きPnBロックが冒頭からトレードマークの「オヨ」を聴かせてくれる「Horses」(PnBロック/コダック・ブラック/エイ・ブギー・ウィット・ダ・フーディ)。音楽面でシリーズの常連であるピットブルがJ・バルヴィンとカミーラ・カベロを迎えたメロディアス極まりないレゲトン曲、「Hey Ma」。

そして最後、定番のバーベキュー場面で流れるジェレマイとタイ・ダラー・サインとセージ・ザ・ジェミニの「Don’t Get Much Better」。もちろんジェレマイの歌唱は不安定なものだが、そんな特性すら持ち味として愛おしく思えるのがブラック・ミュージックの美しさだ。ジー・イージーとケラーニによる「Good Life」との相乗効果で「人生謳歌」感は絶大、「シリーズはここで終わっていいかも」とすら見える。復活すべき人物の不在を除けば。

 

9.『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』F9

2021年の第9作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』は主人公のドミニク・トレットのオリジン・ストーリーでもあり、ドミニクには弟がいること、ドミニカで強盗仲間だったレゲトン勢が若いころに刑務所で知り合った仲であること、等が明かされる。さらに、殺されたはずのハン(サン・カン)を含む『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』組(北川景子は除く)が驚きの再登場を果たすのだ!

公式ミックステープ『Road to Fast 9』を経てリリースされたサウンドトラックは24kGoldnやトリッピー・レッド、NLE・チョッパーやリル・テッカといった若手が参加していて、「よりアップデートされたコンピレーション」感が強い……が、ここでは「Lane Switcha」を勧めておきたい。スケプタ(ナイジェリア系イングランド人)とポップ・スモーク(故人)がエイサップ・ロッキーとジューシー・Jとプロジェクト・パットをフィーチャーした曲。ロンドンっ子もニューヨーカーもいるのに、最後の2人に引きずられたかのような南部感溢れる曲調に好感が持てる。

 

10.『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』Fast X

第5作『ワイルド・スピード MEGA MAX』から作品内時間で10年。あの時の敵ファミリーが、カルマのようにドミニクのファミリーに逆襲を始める……。

そんな第10作、2023年の『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』のサウンドトラックは、「ますますアップデートされたコンピレーション」感が強く、ついにBTSのJIMINが参加! コダック・ブラック、NLE・チョッパー、JVKE、ムニ・ロングをフィーチャーした「Angel Pt.1」を歌っている。

だがここでは、冒頭に触れたノトーリアス・B.I.G.とボーン・サグズン・ハーモニーの「Notorious Thugs」をサンプリングしたYGとタイ・ダラー・サインとLambo4oeによるメインテーマ曲「Let’s Ride」を挙げておきたい。

『トリプルX:再起動』の主題歌も担当したタイ・ダラー・サインは、『ワイルド・スピード』シリーズのサウンドトラックにも頻出、既に「ヴィン・ディーゼルの音楽監督」という感すらある……。

Written By 丸屋九兵衛


*月刊丸屋町山オンライン・トーク開催中(アーカイブ公開中)

【月刊丸屋町山:『ワイルド・スピード』を愛する理由】
アーカイブチケット販売期間:~2023年6月21日23:55〆切



『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト オリジナル・サウンドトラック』
Fast & Furious / Fast X Original Sound Track
2023年5月19日発売
日本版CD(ボートラ1曲追加)
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

<国内盤CD収録楽曲>
1. Angel Pt. 1 – Kodak Black & NLE Choppa (feat. Jimin of BTS, JVKE & Muni Long)
2. Won’t Back Down – YoungBoy Never Broke Again, Dermot Kennedy & Bailey Zimmerman
3. Nothing Else Matters – Jessie Murph
4. My City – 24kGoldn, Kane Brown & G Herbo
5. Te Cura – Maria Becerra
6. Countin’ On You – Lil T Jay, Fridayy & Khi Infinite
7. Spinnin’ – Lil Durk (feat. EST Gee)
8. Toretto – J Balvin
9. Furious – BIA
10. Sigue La Fiesta – Justin Quiles, Dalex & Santa Fe Klan
11. Vai Sentando – Skrillex (feat. Ludmilla, King Doudou & DUKI)
12. 9 In My Hand (Fast X Remix) – Kordhell & Key Glock
13. Gasolina (Safari Riot Remix) – Daddy Yankee (feat. Myke Towers)
14. Bando (Fast X Remix) – ANNA (feat. MadMan & Gemitaiz)
15. Crazy (Safari Riot Remix) – Doechii *
*国内盤CDボーナス・トラック

<デジタル配信サウンドトラック収録楽曲>
1. The End of The Road Begins (Intro) – Kai Cenat
2. Spinnin’ – Lil Durk (feat. EST Gee)
3. Get It – Anti Da Menace, Luh Tyler
4. Won’t Back Down – YoungBoy Never Broke Again, Dermot Kennedy & Bailey Zimmerman
5. Angel Pt. 1 – Kodak Black & NLE Choppa (feat. Jimin of BTS, JVKE & Muni Long)
6. My City – 24kGoldn, Kane Brown & G Herbo
7. Countin’ On You – Lil T Jay, Fridayy & Khi Infinite
8. SupaFly – Cootie, BiC Fizzle & Big X Tha Plug
9. Reaper – Babyface Ray, BabyTron & Peezy
10. Steppers – NLE Choppa & Nardo Wick
11. 9 In My Hand (Fast X Remix) – Kordhell & Key Glock
12. Datura – Suicide Boys
13. Furious – BIA
14. Toretto – J Balvin
15. Te Cura – Maria Becerra
16. Sigue La Fiesta – Justin Quiles, Dalex & Santa Fe Klan
17. Gasolina (Safari Riot Remix) – Daddy Yankee (feat. Myke Towers)
18. Vai Sentando – Skrillex (feat. Ludmilla, King Doudou & DUKI)
19. Bando (Fast X Remix) – ANNA (feat. MadMan & Gemitaiz)
20. Let’s Ride – YG & The Notorious B.I.G feat. Lambo4oe, Ty Dolla Sign & Bone Thugs-N-Harmony
21. Nothing Else Matters – Jessie Murph


映画情報

『ワイルド・スピード/ファイアーブースト』

日本公開日:5月19日(金)※世界同時公開
映画公式サイト:https://wildspeed-official.jp/



プレイリスト
『ワイルド・スピード』シリーズ・ベスト・ソングス

Apple Music / Spotify

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