5つのポイントで改めて知る、ジョージ・クリントンの凄さ

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George Clinton - Photo: Jason Mendez/Getty Images

ヒップホップやR&Bなどを専門に扱う雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』改めウェブサイト『bmr』を経て、現在は音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベント(最新情報はこちら)など幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第35回。

今回は、2023年5月10日からBillboard Live TokyoとOsaka、そして5月13日にはLOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023のヘッドライナーとして出演するジョージ・クリントン(George Clinton)について。

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2018年に発表した「来年でコンサートは引退」宣言を撤回! そんなジョージ・クリントンが、パーラメント/ファンカデリックと共に、ひさしぶりの来日公演を敢行する。1970年代にアメリカ黒人音楽界を激震させてから数十年、今も活動を続けるPファンク軍団の総帥、我らがジョージ・クリントン師匠(1941年7月22日生まれ、現在81歳)の凄さを5項目にまとめてみた。

 

1. その正体は劉邦だ

英語版WikipediaのGeorge Clintonのページを見ると、冒頭の概要部分にこうある。

“Clinton is regarded, along with James Brown and Sly Stone, as one of the foremost innovators of funk music”、つまり「ジョージ・クリントンはジェームス・ブラウンおよびスライ・ストーンと並んで、ファンク・ミュージックの元祖にして本家本元のイノヴェイターと見なされている」。

ファンク・ミュージックのイノヴェイターという点に関してはまさにその通り、異論はない。とはいえ、「ジョージ・クリントン」と「ジェームス・ブラウンおよびスライ・ストーン」の間には、大きな違いがあるのだ。

まずジェームス・ブラウンは人類史上でも稀なほど傑出したヴォーカリストだ。一方、スライ・ストーンはもちろんシンガーでもあるが、ギターと鍵盤を中心にさまざまな楽器をこなすマルチ・インストゥルメンタリストとして記憶されている。

でも、ジョージ・クリントンはどちらでもない。本来はシンガーなのだが、その実力に関しては……高名な評論家のネルソン・ジョージにアッサリと「まあ彼は歌えないから」と形容されたことがある。

 

しかし! なぜかは知らねど、ジョージ・クリントンのもとには才気にあふれた人々がやってくる。そして彼は、それら集まってきた才人たちをまとめ、使いこなす。本人に飛び抜けた技はなくとも、他人の才能を見抜き、適材適所に配置し、偉業を成し遂げる……こんなナチュラルボーン・プロデューサーを、我々は2200年ほど前に目撃したのではなかったか? そう、楚漢戦争(BC206年〜BC202年)で項羽に勝ち、中華帝国の代名詞的な王朝「漢」を築いた劉邦にそっくりなのだ!

ジェイムズ・ブラウンのもとを離れたキャットフィッシュ・コリンズとブーツィ・コリンズのギター&ベース兄弟をはじめ、やはりJBのバンドを辞めたフレッド・ウェズリー&メイシオ・パーカー、オハイオ・プレイヤーズを去ったウォルター“ジュニー”モリソン、元スピナーズのフィリッペ・ウィン、ヘッドハンターズに在籍していたドウェイン“ブラックバード”マクナイト。こうした面々が続々と集まってくれたおかげで、70年代後半にパーラメント/ファンカデリックの黄金時代が築かれるのであった。

 

2. 語りと騙りのマエストロ

シングル中心のマーケットだったアメリカの主流ブラック・ミュージックがアルバム時代に移行するキッカケとなったのはジェームス・ブラウンの1963年作『Live at the Apollo』である。だがJBその人自身がアルバム・アーティストへと転身することはなかった。1970年前後から、アイザック・ヘイズやスライ&ザ・ファミリー・ストーン、マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーといったネクスト・ジェネレーションが「一つの作品として聴けるアルバムの創造」ということに腐心してようやく、アルバム・アーティストたちの時代が到来することになる。

しかし、複数のアルバムにわたって共通のキャラクターたちを登場させ、プログレッシヴ・ロックの皆さんも腰を抜かす(そして脱力する)であろう長編ストーリーを展開したという点では、ジョージ・クリントン師匠率いるPファンク軍団が空前絶後だろう。

パーラメントのアルバム群で展開された「スターチャイルド&ドクター・ファンケンシュタイン対サー・ノウズ・ディヴォイドブファンク」という戦いを中心とする物語世界は、『トワイライト・ゾーン』や『アウターリミッツ』がグリム童話と交わり、『オズの魔法使い』が『スター・トレック』と正面衝突し、『セサミストリート』がロビン・フッドやアーサー王と直結する混沌としたもの。ワケわからないながらもめちゃめちゃ魅力的で、アメリカ黒人文化に巨大なインパクトを残す。やがて、1990年代から特に注目される黒人SFムーヴメント「アフロフューチャリズム」の基盤の一つとされるに至った。

Pファンクとアフロフューチャリズムの関わりは、拙著『丸屋九兵衛が選ぶ、ジョージ・クリントンとPファンク軍団の決めゼリフ』という本のメインテーマなので、本稿ではこの程度に。

 

3. 元祖、ビーフ上等!

ブラック・ミュージックとはビーフが絶えない世界である。実はヒップホップより前の時代から。

中でもジョージ・クリントン師匠は早くも70年代から、ビーフというものをエンタテインメントに昇華していた。ただし、曲で悪口を歌うのではない。表現の場はレコード・ジャケットに描かれたコミックだ。

そこで揶揄されるのは、スリック・ジェイムズもしくはイック・ジェイムズ(=リック・ジェイムズ)、アズ・バンド(=ダズ・バンド)、ジョージ・ドゥーキー(=ジョージ・デューク)、キャプテン・トライ(=キャプテン・スカイ)、ミック・ジャグーフとローリング・ドローンズ(=ローリング・ストーンズ)といった面々。さらにバレバレな、ジェイムズ・クラウン(clownはピエロの意味)、スライ&ザ・ファミリー・ブリック(ストーンならぬレンガ)、フール&ザ・ギャングといった名称もあった。

それらをクリントン師匠はこう説明する。

「そもそも俺たちは子供の頃からゲットーの基礎教育として悪口合戦をやってたし、こうやってディスしあって楽しむことがヒップホップの土台になった」

そこまではいいだろう。しかし、「俺は尊敬できるアーティストしか茶化していない」という主張はどうだろう。どうも、師匠独特の雄弁に丸め込まれている気がしてならない。

 

4. 歌は天下の回りもの

ギルバート・オサリヴァンがビズ・マーキーを相手どり、自曲の無許可サンプリングを巡って起こした「Alone Again」裁判は、ヒップホップ・ファンにとってある種のトラウマである。

だが、あの一件を「ヒップホップという文化を理解しない白人ミュージシャンだから」と断定するのは早計だ。法廷まで持ち込むか否かはともかく、ブラック・ミュージシャンでも上の世代には、引用を旨とするヒップホップに対して批判的な人々もままいるから。例えばオハイオ・プレイヤーズなぞは、サンプリングを毛嫌いする発言を繰り返していたものだ。

しかしジョージ・クリントンは、態度がまったく違う。

ファンカデリックの「(Not Just) Knee Deep」をサンプリングした「Me Myself and I」をヒットさせたデ・ラ・ソウルに対して、「俺たち自身は新作を出したわけでもないのにファンが増えている」と感謝。さらにクリントン師匠の語りは「デ・ラ・ソウル・ファンの少年たちが親のレコード棚からファンカデリックのアルバム『Uncle Jam Wants You』を発見、“(Not Just) Knee Deep”を聴いて“なんてこった! 15分もある超ロングバージョンがあるなんて!”と驚くわけだ」と発展し、とめどなく広がっていくのである。

このようなクリントン師匠だからして、「他曲から引用したフレーズが一つでもある場合は、原曲のソングライターをクレジットすべし」という最近の風潮には強い反発を見せている。そもそも、Pファンク軍団で最大のヒット曲の1つである「Give Up the Funk (Tear the Roof off the Sucker)」は、デイヴィッド・ボウイの「Fame」をカバー&ジャム・セッションしているうちにどんどん変化し、別の曲となってしまった……という起源を持つもの。

文化とは先人の影響を受け継ぎ、自分の工夫を加えて、次の世代に伝えて行くものである。そんな思想を垣間見せるクリントン師匠に、しかるべきリスペクトを捧げたい。

 

 

5. 実録:コークをやめて元気になった

スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『Fresh』の冒頭を飾る「In Time」という曲には、“I switched from coke to pep”という一節がある。かつての日本では、これを「表面上は“コカコーラからペプシコーラに切り替えた”と読めるが、本当は“コカインをやめて元気になった”の意味」とする解釈がまかり通っており、理屈っぽく音楽を語りたい盛りだった少年時代のわたしもそれを信じ込んでいた。

が! 実際には、pepが意味するところはアンフェタミン(日本で「シャブ」と呼ばれる覚醒剤”メタンフェタミン”の近縁種)であり、つまりスライは「コカインはやめてシャブにしました〜」と歌っていたのだ。まったくもって清々しくないやんか。

ところが、ウチのジョージ・クリントン師匠は一味違う。まず、流行りに乗って、コカイン由来のクラックというドラッグにハマったのが1980年代前半というから、40歳を過ぎたあたり。けっこうええトシである。

普通はこういう薬物をやると映画『ニュー・ジャック・シティ』におけるクリス・ロックのようにガリガリと痩せ細るものだが、クリントン師匠は正反対でムクムクと巨大化。師匠自身は「クラックに含まれる塩分が体内に残存、それをなんとか薄めようとする体の自浄作用により水が滞留してしまったがために俺は太ったのだ」と説明していたが、どうもドクター・ファンケンシュタイン独特の妙な理屈に騙されている気がしてならない。

なんにせよ、長年にわたってユーザーだったクリントン師匠は、30年近く経ってからクラック断ちをした。その直後と思しき2010年代初頭のクリントン師匠にインタビューした経験がある。声が極端に嗄れており、聞き取りが困難を極めたことが忘れられない。

しかし! 2015年にタワーレコードにおけるインストア・イベントで再会した時の師匠は、うって変わって元気はつらつ! 普通は健康を蝕むであろう長年のクラック使用に耐えたのみならず、やめた後に少しの間をおけば原状回復が可能とは! 体力のカタマリのような傑物である。

だからこそ、師匠が発表した「2019年でコンサートは引退」宣言を聞いた時も、わたしは信用する気になれなかったわけだが……うむ、案の定。しかし、先に書いた通り、クリントン師匠は「語りと騙りのマエストロ」であるからして、これでいいのだ。

Written By 丸屋九兵衛


*月刊丸屋町山オンライン・トーク開催中(アーカイブ公開中)

【月刊丸屋町山:ダンジョンとドラゴンとファンタジー映画の世界】
アーカイブチケット販売期間:~2023年5月10日(水)23:55 〆切


LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023
(埼玉  秩父ミューズパーク)
5月13日
*海外出演者:George Clinton & Parliament Funkadelic / DOMi & JD BECK

5月14日
*海外出演者:Dinner Party(Kamasi Washington/Robert Glasper/Terrace Martin)、Blue Lab Beats


ジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリック来日公演
2023年5月10日、11日、12日(東京 Billboard Live Tokyo
5月15日(大阪 Billboard Live Osaka



パーラメント『Mothership Connection』
1975年12月15日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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