『スター・ウォーズ』の原点、1977年に起こったSFとファンクの化学反応を追え【丸屋九兵衛連載】

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ヒップホップやR&Bなどのブラックミュージックを専門に扱う音楽情報サイト『bmr』を所有しながら音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベントなど幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第15回は、『スター・ウォーズ』エピソード9公開で盛り上がるSFとブラック・ミュージックについて解説頂きました。

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2019年12月下旬現在、封切り直後の映画『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の話題で、世の中はもちきりである。そこで!『スター・ウォーズ』を含むSF系の映画やTV番組がブラック・ミュージック――というか、ほぼファンク――に与えてきた影響を考えてみよう。

もちろん、『スター・ウォーズ』のテーマ曲をディスコ・ファンクに仕立て、『Star Wars and Other Galactic Funk』なるアルバム(なんちゅうタイトル)までリリースしてしまったMECOという怪人もいる……だがファンク界でSFに影響されたのは彼だけではないのだ、まったくもって。

 

宿敵なくしてフラッシュライトなし!

振り返ってみると、1977年は凄い年だった。SF映画の当たり年と言っていいだろう。『スター・ウォーズ』の第1作、今で言うエピソード4『スター・ウォーズ/新たなる希望』は、本国公開が5月25日。そして、半年後の11月16日には『未知との遭遇』が公開されているのだから。

そんな「SFイヤー」1977年を象徴するのが、パーラメントのアルバム『Funkentelechy vs. the Placebo Syndrome』だ。同年11月28日にリリースされた傑作である。

発売時期こそ後者『未知との遭遇』の後になってしまったが、前者『スター・ウォーズ』にインスパイアされたものだろう。これまではスター・チャイルドやドクター・ファンケンシュタインといった善(ファンク)側のキャラクターしかいなかったのに、同アルバムで展開されるストーリーには悪のキャラクターが登場するのだ。『スター・ウォーズ』を見て「物語には悪役が必要やな」との確信を深めたのであろう、そんなクリントン師匠が生み出した、善の勢力と対決する悪。

それがサー・ノウズ・ディヴォイドブファンクだ。悪役だが、やはりダース・ベイダー同様に魅力あるキャラクター。スヌープ・ドッグは子供時代を振り返って「サー・ノウズが俺のヒーローだった」と語ったという。

ただし、全身黒で「ダークサイド」を象徴するダース・ベイダーに対して、サー・ノウズは「全身を白い衣装で決めた悪」なのだ。このヒネリが、さすがジョージ・クリントン師匠! さらに声も、名優ジェイムズ・アール・ジョーンズ先生(『コナン・ザ・グレート』の悪の帝王役で知られる)によるダース・ベイダーのディープ・ヴォイスと正反対、ヴォイスチェンジャー的な加工で素っ頓狂な高音なのがサー・ノウズの特徴である。

近年のクリントン師匠が『ゲーム・オブ・スローンズ』を好んでいるのも、そこには「腐敗しきったキングズガード(王の近衛兵たち)が白マントを着ている」という設定の妙、ファンタジーの常識に対する挑戦があるから、ではなかろうか。

なおPファンクに関しては、1960年代の怪奇SF系TVシリーズ『アウターリミッツ』、そして映画『2001年宇宙の旅』の影響も大きいことは書き添えておく。

 

ブラジル製のディスカバリー号

そう、『2001年宇宙の旅』といえば。この1977年に起こったSF映画ブームにキャリアを救われた(かもしれない)バンドの話もしなければ。

デオダートというモノニム(単名)で知られるエウミール・デオダート・デ・アルメルダは、ブラジル人のキーボード奏者/アレンジャー/プロデューサーだ。彼を世界的に有名にしたのは「Also Sprach Zarathustra (2001)」。ドイツ語の部分は「アルゾー・シュプラッハ・ツァラトゥストラ」と読む。つまり、「ツァラトゥストラはかく語りき」だ。リヒャルト・シュトラウスによる同名交響詩(約1時間)の冒頭にあるファンファーレを流用した、ジャズ・ファンクなインストである。タイトルに「2001」とあるのは、もちろん『2001年宇宙の旅』に言及したもの。同映画での「ツァラトゥストラはかく語りき」の使用は、とても印象深いものだったから。

 

その『2001年宇宙の旅』は1968年の映画なのに、デオダートが「Also Sprach Zarathustra (2001)」をレコーディングしたのは1972年、リリースしたのは1973年。ずいぶんとのんびりしたものだが、Billboard Hot 100で2位まで上昇する大ヒットとなった。

興味深いのは、ここからの展開だ。この「Also Sprach Zarathustra (2001)」が収められたアルバムは、デオダートの1973年作、通算8枚めにしてアメリカでの初作『Prelude』。しかし、このアルバムはのちに『2001』と改題され、リイシューされるのだ。

いつ? 1977年!

このタイミングで『2001』というタイトルで再発するとは……SF映画ブームに乗っかってやろうという魂胆が見え見えだ! しかし、このときデオダートに注目した連中がいる。人気低迷にあえぎ、ディスコ・ブームに乗ろうと試みるもあえなく失敗したインスト中心のファンク・バンド。

それがクール&ザ・ギャング!

プロデューサーとしてデオダートを招き、リードシンガーとしてジェイムズ”JT”テイラーを加えた彼らは1979年に奇跡の復活を遂げ、80年代に最も活躍した古参ファンク・バンドとなった。

 

ピラミッドと宇宙船

「クール&ザ・ギャングの曲名だっけ?」

SFとは縁もゆかりもないが……映画『ロミオ・マスト・ダイ』でのアリーヤは、若いながらもレコード店を経営する役。その店の名を見た、アンソニー・アンダーソン演じるギャングの子分が「クール&ザ・ギャング?」と問うのである。

店名は”Serpentine Fire”だから、正解はアース・ウィンド&ファイアー(EW&F)なのに! しかもアンソニー・アンダーソンの役名はMaurice(モーリス)なのに!

EW&Fといえば、それ以前から何だか神がかった集団ではあった。だが、超過去と遠未来を結びつける長岡秀星によるイラストをまとってから、その神々しさは倍加する。その路線の第1作『All ‘n All』――邦題『太陽神』――も、やはり「SF当たり年」こと1977年の11月21日リリース! パーラメントと1週間ちがい!

この『All ‘n All』、ジャケット表のピラミッドばかりが語られるが、ジャケット裏は宇宙船発着所だぞ。アルバムからのセカンド・シングル「Fantasy」も、「宇宙船ファンタサイ号の旅」がテーマ。だから、まさに「宇宙のファンタジー」なのだ。3ヶ月かかっても仕上がらない難産曲だったが、モーリス・ホワイトが『未知との遭遇』(の試写と思われる)を見て霊感を得るなり、いきなり完成!というから、まさに1977年のSF映画ブームの産物だったのだなあ。

 

寸劇:ファンク大作戦

遡って1975年。パーラメントの成功に勢いづいたのか、カサブランカ・レコーズは新たに設立した傘下レーベルに彼らのアルバム名をつけた。それがチョコレート・シティ・レコーズであり、その第1弾アーティストはキャメオである。

そんなキャメオがアルバム『Cardiac Arrest』で満を持してデビューしたのも、やっぱり1977年! ただし、こちらは年始のリリースであり、『スター・ウォーズ』の影響は見えない。しかし、A面最後に当たる4曲めに収められた「Funk Funk」冒頭のスキットは驚愕ものである。曰く……

女性士官「艦長、転送の準備ができました」
男性艦長「よし。大尉、惑星表面の状況は?」
男性科学士官「正確を期するのは困難です。しかしながら計器による測定では、極度のリガー・モーティスが急速に拡がっているようです。極めて非論理的です」
男性艦長「チョコレート・シティに進路を取れ。9人の上陸班で転送降下せよ。フェイザー銃はファンク・ファンクに設定」

……まるっきり『スター・トレック』やんか! ミスター・スポックに当たる人物――とても理屈っぽい――が大尉に設定されているのが不思議ではあるが(スポックは初登場時からもっと偉い)、とにかく『スター・トレック』以外のなにものでもない。

と、一見すると驚きの展開ではあるが……ジョージ・クリントンがパーラメントのスペースオペラを紡ぎ出す一大インスピレーションとなったのが『スター・トレック』であることを思えば、彼らの成功を受けて設立された(と思しき)レーベルの第1弾アーティストの第1弾アルバムに、こんなスキットが収められているのはとても真っ当な展開なのである。

 

SF・イズ・リアリティ

2010年代初頭。ジョージ・クリントンは『スター・トレック』について、わたしにこう語ってくれた。

「あの番組は、実現するかも知れない、さまざまな可能性というものを感じさせてくれた。おまけに、宇宙船エンタープライズにはちゃんと黒人が乗ってた! まあ、レギュラーで出てる黒人は1人だけど、それでも当時としては画期的だ。それにクリンゴンもいた……彼らは黒人に数えてもいいかもな。とにかく、『スター・トレック』を観て、俺はマザーシップを作った。ブラックがもっとたくさん乗ってる宇宙船を」

時おりわたしが思うのは……Pファンクにとってのマザーシップとは、カーティス・メイフィールドやボブ・マーリーが歌う”トレイン”同様に、神話化された故郷へと連れ帰ってくれる乗り物なのではないか?ということ。

ただし、彼らを現在地に連れてきたのも、また船なのだ。

同じく2010年代初頭。ファンクではなく、ヒップホップとも括れないが、『スター・トレック』をモチーフにしたEDM/ラップ曲として、凄い髪型のアジア系アメリカ人イーニック・リン(Enik Lin)が率いるグループ、IAMMEDICがリリースした「Spaceship」を紹介しておきたい。

同曲のビデオは、『スター・トレック』の惑星連邦・宇宙艦隊の制服(23世紀バージョン)を着用した彼らが繰り広げる、宇宙船でのパーティらしきものが中心となっている。

 

このビデオの終盤には、さまざまな人種の女性に呼びかけるリリックに対応して、女性陣が船内に転送されるシーンが出てくる。が、この場面に黒人女性が登場しないことに注意してほしい。故郷アフリカから無理やりさらわれ、奴隷として船で連れてこられた歴史を持つ彼女たち/彼ら相手に、軽々しい気持ちでそんな描写をしてはならないのだ。我々(Asian)のような他人種が関わる際は、配慮が必須である。

先のジョージ・クリントンによる発言――と、彼が紡ぎ出した物語――から分かる通り、SFとは絵空事ではなく、さまざまな角度から現実を映す鏡のようなものなのだから。音楽と同様に。

Written by 丸屋九兵衛


丸屋九兵衛トークライブ



ジョン・ウィリアムズ
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け (オリジナル・サウンドトラック)』
2019年12月20日発売
CD / iTunes /Apple Music / Spotify


連載『丸屋九兵衛は常に借りを返す』 バックナンバー


■著者プロフィール

丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)

音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2018年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共に展開。他トークイベントに【Soul Food Assassins】や【HOUSE OF BEEF】等。

bmr :http://bmr.jp
Twitter :https://twitter.com/qb_maruya
手作りサイト :https://www.qbmaruya.com/

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