HIP HOP/R&B専門サイトbmr編集長が語るK-POPの魅力(中編)
ヒップホップやR&Bなどのブラックミュージックを専門に扱う音楽情報サイト『bmr』の編集長を務めながら音楽評論家/編集者/ラジオDJなど幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第9回の中編(全3回)。今回はK-POPにも造詣が深い丸屋さんが、なぜK-POPを好きになったのか? そしてK-POPの魅了を、ブラックミュージック専門家の側面から語っていただきました。
丸屋:あとBINGBANGについて言っておきたいのは、テヤン、日本ではSOLと呼ばれている彼のこと。彼は物凄いR&Bマニアなんです。2007年にbmrの取材で会った時に、好きなアーティストをみんなに聞いたんですよ。他のメンバーはカニエ・ウエストとか当時人気のR&B、ヒップホップのアーティストをあげてたんですが、テヤンは、「ジョンテイ・オースティンが好きです」って。
なんと!アルバムデビューできなくて数曲だけ残して消えちゃった人じゃないですか!
18、9歳の子が「ジョンテイ・オースティンを好きです」って……よく掘ってるなぁと思いました。それに加えて、初期のBIGBANGのミニアルバムの中にテヤンのソロ曲が入ってるんですが……
まだ若い頃、テヤンの声も今みたいに完成する前ですが、実はこの曲ってオリジナルじゃなくってフィリピン系オーストラリア人R&Bシンガーのイスラエルのカバーなんです。
もう一回言いますよ。フィリピン系オーストラリア人R&Bシンガーのイスラエルです。
そのオリジナルはヒットした曲なんですか?
いえ、たぶん全く。だからこそ、「その掘りっぷりが凄い」と思ったんですよ。なんでそんなに知ってるの?! ちなみにさっきの曲、テヤンのは「MA Girl」なんだけどイスラエルのは「My Girl」なんですね。この曲のちょっとあとに、イスラエル君のアルバムの日本盤が出たことはあります。
彼らのような人達と話して思ったのが……韓国の「アイドル」と呼ばれるアーティストたちは、日本のちょっとしたR&Bマニアよりも凄い詳しいし音楽を聴いているんじゃないか、ということ。例として挙げておきたいのが、テヤンと、まだ東方神起だったころのジュンスのピアノ対決っていう謎のテレビ企画。二人が向かいあってピアノを弾いて歌うんです。そこでテヤンが選んだ曲がフランキー・Jのデビュー曲の「Don’t Wanna Try」。フランキー・Jってベイビー・バッシュの「Suga Suga」にゲスト参加して初めて有名になったのに、そのデビュー曲なんてもっと前ですよ。「Don’t wanna try, don’t wanna try, don’t wanna try」とテヤンがピアノを弾きながら歌うと、ジョンスもちゃんと口があってたんですよねえ。2PMのニックンもよくこの曲を歌ってます。なのでフランキー・Jに会った時に「あなたは絶対に韓国で営業したほうがいい」って伝えました。
(笑)。「あの曲のオリジナルわしやで」ってことですね。
ちゃんとピアノ対決の動画もフランキーJに見せておきました(笑)。
それが2008~10年ぐらいの最初のK-POPブームの頃ですかね。
多分そうですかね。私は日本のK-POPブームとぴったり寄り添ってはいないので、知っている範囲が偏ってますが。
とにかくBINGBANGのテヤンのマニアックなぶりが凄すぎて。テヤンはソロアルバムを3枚出したんだけど、2枚目のアルバムでベイビーバッシュの「Suga Suga」とかフランキー・Jの「Obsession」をプロデュースしていたハッピー・ペレスをプロデューサーに迎えてたりするんですよ。
本気で好きだったんですね。
そんなBIGBANGを送り出したYGエンタテインメント。この会社、ヤン・ヒョンソクって方が作ったものなんだけど、このヤンさんがソテジワアイドゥルのThe Boysの一人だったんです。
なるほど、つながりますねー!
ソテジさんがいきなりアメリカに行ったあとに、会社を作ってアーティストを送り出すことになったヤンさん。で、YGの第一号アーティストというのがジヌション。ジヌさんとションさんのヒップホップ・デュオです。彼らとm-floのVERBALが仲良いんですよ。そのVERBALはbmr(雑誌時代)に連載していたんです。「僕の文章に疑問がある時はこの番号に連絡下さい」と言って韓国に出かけたのでそこにかけたらジヌションのションさんが出たっていう事件がありました。しかもなぜか日本語喋れるんだよ!
さっき言ったオマリオン感を感じるのは……ジヌションのジヌって人は、私がBINGBANGのインタビューをした時にツアー・マネージャーみたいに形でついてきたんです。だからアーティストが次の世代のアーティストの面倒を見てるいうこと。イマチュアがB2Kの面倒をみるのと同じ感じなんですよね。
BTSにインタビューされたのはいつ頃ですか?
2014年日本デビューの頃に会いましたね。
【メルマ旬報も……BTSの話で!】
あの出会いから4年。
「世界が我々東アジア人を見るときの視線が変わりつつある……我々は、そんな歴史的瞬間を目撃しているのかもしれない。
つまり。
防弾少年団を聴かないことは、今や、時代の流れに取り残されることを意味するのだ」https://t.co/4TYzuhVkYX pic.twitter.com/YwcMIntSrF— 丸屋九兵衛 (@QB_MARUYA) 2018年6月21日
それもbmrの取材ですか?
スペースシャワーTVプラスというチャンネルで、BTSの番組を作ることになったんです。そこにインタビューのコーナーがあって。質問は既に決まっているんだけど、彼らに語りかける役として、番組スタッフやレポーター然として人がやるより、たぶん私のような顔面や服装のほうが彼らにはいいんじゃないか……と番組ディレクターが判断したんでしょうね。その時点で既にBTSはK-POPの中でも特にヒップホップ色が強いってことはわかっていたので私が選ばれたんだと思います。私も実際にBTSを聴いていましたし。番組は基本的には私が質問を読み上げて通訳の方が韓国語に訳してという進行でしたが、たまに英語と英語で話したり。相手は主にRMですね。私が凄いなと思ったのがファーストミニアルバム。ここに入っているこの曲がネイト・ドッグ感満載なんです、“ウェッサイ・ウェッサイ”言ってるし。これは曲としても素晴らしいんですね、最初に入っている効果音はローライダーがホッピングしてる音ですね。これを持ってくるのは凄いですよ。
この曲のプロデューサーは?
BTSのメンバーとチームで曲を作るPDoogっていうプロデューサーがいて、彼が担当していますね。ちなみに彼のスタジオはDoog Bounceというらしい。やりすぎだ!
PDoogっていう名前を名乗る時点でウェッサイ感が満載ですね。特番ではどんなことを話したんですか?
番組のディレクターが用意した質問以外だと……さっきの曲の冒頭のホッピングの音って韓国で通用するの?って聞いたら、RM曰く「通じない。でも、そういう文化があることを伝えていくのもアーティストとしての役割なんじゃないのかと思います」。当時19歳と思えない受け答えをするなぁと。
そういう自信に満ち溢れていたことに感銘を受けたので、「自身たっぷりですね」って聞いたら、「Of course. Gotta be」って。19歳の子にこう言われるおっさんの図!
もう一人SUGAっていう子も要注目。彼はラッパーなんですが、音作りの要でもあるんです。その特番の時、みんなに好きなアーティストを聞いたらシンガー組はクリス・ブラウンが多かったんですよ。で、RMが好きなのはエイサップ・ロッキーとかケンドリック・ラマーとか当時の最先端のラッパーだったんですが、SUGAはその正反対で「スリー・6・マフィアとボーン・サグズン・ハーモニーが好きです」って。
おー、90年代のヒップホップが好きなんですね!
生きてる時代が20年ぐらい違うぞ!90年代生まれに90年代ヒップホップを語られるとは思わなかったよ!
同じブラック・ミュージックが好きでも聞いている幅が違っているのでグループとして面白くなるんでしょうね。
そのインタビューの翌日ぐらいにスリー・6・マフィアのDJポールが六本木でDJするっていう偶然があってそれをSUGA君に教えたら「えー?!」ってなってましたね。
シンガーの中だと、JIMINっていう子が印象深いですね。だって「213が好きです」って言ったんですよ! 213ってスヌープ・ドッグとネイト・ドッグとウォーレン・Gがソロ・デビュー前に組んでいて、それぞれソロで活動を始めたので自然に消滅、その後で一回だけアルバムを出したっていうユニットですよ!
その堀りっぷりは凄いですね。みんながみんなちゃんと音楽を聴いていて、根っこから好きなんでしょうね。
【丸屋九兵衛今後のトークイベント】
2018年9月24日(月・祝) 13時00分~14時30分
丸屋九兵衛トークライブ【Soul Food Assassins vol.8】
黒人英語講座III スラング論を超えて。
2018年9月24日(月・祝) 15時00分~17時00分
丸屋九兵衛トーク【Q-B-CONTINUED vol.25】
がんばれ、イエローレンジャー! アジア系アメリカ人が歩んだ道
- 第1回 :ニュー・ソウルの四天王
- 第2回 :誰にだって修行時代はある
- 第3回 :憎悪と対立の時代を見つめて
- 第4回 :ゲーム・オブ・スローンズと音楽
- 第5回:その頃は『ネオ・ソウル』なんてなかった
- 第6回:トゥパック伝記映画公開記念 映画を見る前の基礎知識
- 第7回:映画「ゲット・アウト」監督のルーツ「キー&ピール」とは?
- 第8回:ファンク好きこそ大注目の「ディスコ・フィーバー・キャンペーン」
- 特別編:トークイベント「ブラックカルチャーと命名哲学」文字起こし
- 特別編:トークイベント「S差別用語の基礎知識:Nワード編」文字起こし
■著者プロフィール
丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)
音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2018年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共に展開。他トークイベントに【Soul Food Assassins】や【HOUSE OF BEEF】等。
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