ファンク好きこそ大注目の「ディスコ・フィーバー・キャンペーン」(後編)

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音楽情報サイト『bmr』の編集長を務めながら音楽評論家/編集者/ラジオDJなど幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第8回の後編(全3回)です。今回は今月・来月に1枚千円、全99タイトルが再発となる「ディスコ・フィーバー・キャンペーン」のタイトルの中で、モータウンの映画『ラスト・ドラゴン』、後にリスペクトされることになるデバージ、など語っていただきました。

*コラムの過去回はこちら


他に気になるものは?

丸屋 ロックウェルが入っていたのに驚きましたよ!

その驚きというのは?

丸屋 まぁ一発屋ですからねぇ。でも、わたしはこの『Somebody’s Watching Me』の次のアルバム『Captured』も好きです。「Peeping Tom」っていう曲が、85年の伝説的カルト黒人カンフー映画「ラスト・ドラゴン」のサウンドトラックに入ってたんですよ。それも当然でロックウェルって、モータウンの社長の息子なんですね。で、マイケル・ジャクソンが参加してる「Somebody’s Watching Me」は凄く売れたんですが、ロックウェル自身は一発屋でしたね。ただ、さっきも言った『ラスト・ドラゴン』。モータウンは、たぶん70年代からカンフー映画を作りたいとおもっていて、10年越しの85年にやっと『ラスト・ドラゴン』が実現したんでしょうね。この『ラスト・ドラゴン』のサウンドトラックは、当時のモータウンの力がものすごく入っていて、スティーヴィーの新曲とか、デバージの曲とか、モータウンに移籍したばかりのヴァニティの新曲とか、スモーキー・ロビンソンの曲も入ってて。ただ、映画自体は当たらなくて、今ではカルト・クラシックになっています。当時の黒人の皆さんは笑いながら見に行ったらしく、バスタ・ライムスの「Dangerous」のビデオで、『ラスト・ドラゴン』の悪役そっくりの恰好で「I’m The Shogun Of Harlem!」って出てくるシーンもあるほどですね。

 

テイスト・オブ・ハニーはどうでしょうか?

丸屋 彼女たちの「上を向いて歩こう」のカバーの「Sukiyaki」がなかったらスリック・リックは「La Di Da Di」を果たしてやったのか。エルトン・ジョンの「Bennie And The Jets」同様に、本来はソウルとして作られていないのに、ソウル・クラシックになっている曲が世の中にはあって、坂本九のこの曲もその範疇で愛されているんですよね。テイスト・オブ・ハニーがカバーし、スリック・リックがやったおかげでスヌープ・ドッグも「Lodi Dodi」やってて。オリジネーターうんぬんの話は先ほどしましたが、オリジネーターから継承され共有されていくっていう意味では、「上を向いて歩こう」は、黒人音楽から見れば外部の文化なのに、それにかまわずに継承していくっていうのが面白い。


 

丸屋 あと、ギャップ・バンドですが、彼らが困るところは、アルバムのタイトルが全て1,2,3なんだよね。ギャップ・バンドの『The Gap Band』っていうタイトルのアルバムが12つあったりね。『The Gap Band III』には「Yearning for Your Love」が入ってて、これはクラシックですね。

丸屋 さっき言ったキャメオもそうなんですが、ギャップ・バンドも3人でバンドと名乗るそのおこがましさ! チャ―リー・ウィルソンが基本的にボーカルと鍵盤で、ロニーがボーカルとトランペットとフルーゲルホーン、金管をやりながら鍵盤をやる人ですね。で、ロバートがベースとギター、この両方をやるってきつくないか!? でもどっちかを選べて言われたら、ファンクの世界ではベースですよね。だからベースの人、鍵盤の人、そして鍵盤を弾きながら歌うチャーリー・ウィルソンっていう。例によってGLAY同様にその状態ではライブできませんが。

 

丸屋 デバージだ。デバージ! シャーデーもそうなんだけど、デバージも活動しない間にコミュニティにおいてどんどんリスペクトされるようになっていって、絶対的なリスペクト領域に入ってしまったアーティストですね。シャーデーは当初は日本のお堅い評論界では“ブラック・ミュージックの要素を使ったポップ・ミュージックでしょ”とも言われていたのに、アメリカ黒人のUK観を覆して、あれ以来UK訛りの黒人女性がモテるという法則が打ち立てられてしまったほどの恐るべきグループなんです。シャーデーは最初の「Smooth Operator」の時からかっこいいのはわかったんだけど、デバージはねえ……。80年代半ば当時ですら髪の毛がもりもり過ぎて半ば笑われる存在だったのに、90年代になると時代が追いついたのか尊敬されるようになり、クラシックとしてどんどんサンプリングされて愛される存在になったんです。90年代半ばにはエル・デバージのソロ・アルバムをベイビーフェイスがプロデュースしたり、90年代後半になるとドラッグ関係で刑務所にはいってたチコ・デバージが出所して『Long Time No See』っていうアルバムを出したり。

デバージは80年代のジャクソン5だったんだろね。エル・デバージはドラッグで身を持ち崩して、再起したのにまたリハビリで入っちゃうとかもあったんですが、この86年のアルバム『Rhythm Of The Night』の時点では、ドラッグにはまっていない唯一のメンバーだったんです。だからモータウンは彼に、「おたくの兄弟たちの尻を叩いて、ちゃんと集めて、アルバムを完成させてくれ」って頼んだらしいんです。このアルバムには「Rhythm Of The Night」とか「Who’s Holding Donna Now?」がはいっていて。だけどクラシックとして一番愛されているアルバムは『All This Love』ですね。ジャケットはどうしようもなくて、このジャケをみたらデバージなんだか、キッド・クレオール&ザ・ココナッツなんだかわからない!でも『All This Love』は「I Like It」っていう黒人音楽界に数えるほどしかない絶対的クラシックが入っているから重要なんです。

 

丸屋 しまった!メイズの話をしていませんでした!『We Are One』ですね。メイズの場合、いわば「クオリティの高い金太郎飴」。激し過ぎる曲はほぼないし、メロウな感じでフランキー・ビヴァリーが常にクオリティを保ち続けてます。レコーディング・アーティストとしては70年代から80年代のバンドですが、ライブに関しては90年代以降が全盛期かも。90年代半ばからニューオリンズで開かれているエッセンス・ミュージック・フェスティバルっていう黒人音楽の祭典があるんですが、たいていの場合、トリはメイズだった! アイズレー・ブラザーズが来ててもやっぱりトリはメイズ。ヒットの規模としては負けてるんだけど、ライブ・アクトとしての絶対的な信頼があって。あと、メイズはフィラデルフィア出身のベイエリア経由のバンドであって、ニューオリンズのバンドじゃないんだけど、なぜかニューオリンズで愛される。ニューヨークのバンドなのに、デトロイトで愛されて、デトロイトのバンドだと思われるキッスと同じですね。

そろそろお時間ですが、最後に何かありますか?

丸屋 あの、、、「ファンク・フィーバー」作らない?
なんで「ファンク・フィーバー」をやりたいのか? 実はきっかけがありましてね。
アメリカの人気番組で「リップ・シンク・バトル」っていうのがあって、それにジェイソン・デルーロがリック・ジェームスのかつらを被って「Super Freak」のビデオそっくりにして上手くできてたんです。ところがドラマ「Empire 成功の代償」とか映画「ハッスル&フロウ」でお馴染みのテレンス・ハワードもこの番組に出てきて、彼のパフォーマンスはもっと凄かったんです。リック・ジェームスかつらを被って、リック・ジェームスらしい赤の皮ブーツを履いてるんだが、スケスケであみあみの服だし、股間にはプロテクターらしきものをつけてキャメオも混じってる。なおかつ歌うのはコモドアーズの「Brick House」! 70年代から80年代のファンクの要素を一人で全部乗せしてて、それが見事にはまってたの。テレンス・ハワードのファンク理解はすごいなーと。ああいうファンク詰め合わせ的な瞬間を「リップ・シンク・バトル」で見て、これは私への天啓かもしれない!これは私にコンピを作れっていうことかしれない!っていうまとめでいかがでしょうか?

 

ありがとうございました!



連載『丸屋九兵衛は常に借りを返す』 バックナンバー


■著者プロフィール

丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)

音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2018年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共に展開。他トークイベントに【Soul Food Assassins】や【HOUSE OF BEEF】等。

【今後のトークイベント】
5月26日(土)東京・銀座『Rethink World:マイノリティ・リポート vol.1』 
6月20日(水)東京・秋葉原GOODMAN:<片目と語れ>丸屋九兵衛×ダースレイダー
6月23日(土)東京・麻布:Q-B-CONTINUEDSoul Food Assassins
7月12日(木)大阪・ロフトプラスワンウエスト:サモアン・ゴッドファーザー追悼講演

bmr :http://bmr.jp
Twitter :https://twitter.com/qb_maruya
手作りサイト :https://www.qbmaruya.com/

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