ファンク好きこそ大注目の「ディスコ・フィーバー・キャンペーン」(前編)
音楽情報サイト『bmr』の編集長を務めながら音楽評論家/編集者/ラジオDJなど幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第8回の前編(全3回)です。今回は今月・来月に1枚千円、全99タイトルが再発となる「ディスコ・フィーバー・キャンペーン」のタイトルの中で気になるものについて語っていただきました。
*コラムの過去回はこちら。
丸屋 こうやって「ディスコ・フィーバー・キャンペーン」の旧譜再発ページを見ると非常に私好みなんですよ。それにしても、ブルーノ・マーズやマーク・ロンソンあたりから、ディスコとブギーとファンクがなんとなく渾然一体と語られるようになっている気がしますね。かつては割とディスコとファンクが対立概念になっていたこともあって。ブギーというのはもっと曖昧な表現だからここでは語らないようにするけど。例えばファンカデリックの曲で「Undisco Kidd」っていう曲があったでしょ? ファンカデリックのジョージ・クリントンは自伝でも言ってるけど、ディスコに対する反発があったみたいね。私はそこまでディスコに反発しないし、ディスコが特にゲイ・ピープルの文化が開花した場所として意義深いものと思うけどね。
ディスコとゲイでいうと、タイの映画で「アタック・ナンバーハーフ」っていう実話ベースのLGBTバレーものがあって、その続編で「アタック・ナンバーハーフ2 全員集合!」っていうのがあるんです。「アタック・ナンバーハーフ」は社会人バレーボールのトーナメント戦でほぼゲイだけのチームが優勝するという実話を元にしているんですが、その続編では彼らのその後と過去の学生時代を交差させて描くんですね。その大学時代の場面で、当初は主人公たちを揶揄の対象にしていたマッチョな学生が、大学の寮の室内にはボディビルダーのポスターは貼ってるわ、グロリア・ゲイナーのカセットテープを置いてるわ…で、バレるっていう話があって。
―音楽がそのまま人物を表す演出なんですね。
丸屋 で、ディスコと言われるものの中にも色々あって、例えばダイアナ・ロスの「I’m Coming Out」っていうのはファンクでもあり、ソウルでもあり、なおかつゲイ応援歌であり、ディスコでもあるっていう全てを満たしている曲なんだと思うんです。
グロリア・ゲイナーだって、ディスコであり、ソウルであり。だけど、私は同じ文脈でアバが出てくるのは違和感があるんですよ。ヴィレッジ・ピープルは存在として面白いからいいけど。ただセクシャル・ファンタジーを満たすために、ネイティブ・アメリカンの扮装が使われてるのがね…今だと大問題になりますよ…と言いかけたんですが、ヴィレッジ・ピープルの「インディアン」担当の人は、本当にハーフ先住民らしいですね。
―とはいえ、他のメンバーは職業の扮装なのに、違和感はありますよね。
丸屋 同じような話で、例えばメジャーリーグ。ミルウォーキー・ビール職人ズ(ブルワーズ)とか、ピッツバーグ・海賊ズ(パイレーツ)とか、シアトル・船乗りズ(マリナーズ)とか職業系チーム名の中に突然、クリーブランド・インディアンスっていう人種系ネーミングが出てくるじゃないですか。ヴィレッジ・ピープルの場合、他のキャラクター設定は、妄想の対象になり易い職業のバイカーとか、ファイヤーマンとか。ファイヤーマンは男女関係なく妄想の対象でしょ? そういえばスヌープ・ドッグが「子供の時に何になりたかったですか?」って聞かれた時に、アメリカン・フットボール選手か消防士って言ってましたね。
―あとはGIとか道路工事人。
丸屋 これは消防士と同じ肉体酷使系プロフェッショナルですよね。
―あとは、カウボーイ。
丸屋 カウボーイとネイティブ・アメリカンを一緒に混ぜるなんて! っていう風にまぁ色々あるんですが、こうやって「ディスコ・フィーバー」の名の下に発売されるアルバムのリストを見てると私が好きなディスコ…っていってもそれはほぼファンクなんだけど…そんなアルバムもあるんですよ。
―ではここからはアーティスト別に語っていただきます。まずはバーケイズ。
丸屋 アルバム・リストをみると、バーケイズが2枚あったりして素晴らしいですね。最近、私のトークライブでも言ったんですが、“オリジネーターがそんなに偉いのか?”っていう問いかけが心の中に渦巻いているんです。DMXがジャ・ルールに対して「俺のマネしやがって!」っていうディス曲を作ったんだけど、ジャ・ルールに言わせると元々自分がやってたスタイルがあって、自分がシーンから消えている間に、自分のように「Bow Bow!」って吠える人が出てきてそれがDMXだったと。その事の真偽はともかくとして、そもそも黒人音楽というのはコミュニティで共有され継承されていくものなので、“それってオリジネーターが誰かっていう議論が成り立つの?”と思ったんです。コミュニティとは別なんですが、19世紀のフランスで、作家のアレクサンドル・デュマが、盗作で訴えられたんです。で、裁判でデュマは「うん、盗作したよ。でも俺が書いたやつのほうがおもろいやろ?」と言い放ったという逸話があって。
―(笑)
丸屋 今のデュマの話は真偽不明ではあるんですが、バーケイズってまさにデュマの発言を地でいくグループなんですよ。時として、アース・ウインド&ファイアーそっくり、時としてPファンクっぽかったり、後のほうになるとなんでこんなにプリンス風味なのか?とか、色々あるんですよ。例えば、ミッドナイト・スターというグループがいたんです。80年代半ばに電子的な音でトークボックスじゃなくてボコーダーを使った「No Parking (On The Dance Floor)」っていう曲で売れたんですね。
丸屋 この曲をあっという間にパクって、よりキャッチ―な曲にしたてたのがバーケイズ。タイトルが「Freakshow On The Dance Floor」っていう。
―タイトルがほほ同じ!(笑)
丸屋 テンポをあがると突然キャッチーになるんですよね。バーケイズを聞いてみましょう。
丸屋 サビを先にもってくることの勝利ですよね。そしてバーケイズのほうが歌が上手い。しかし、このパクリ具合! この人たちの後半キャリアはほぼパクリなんだけど、中でも一番凄いのはこの曲でしょうね。でも、どっちの曲が出来がいいかっていうとバーケイズのほうが良くて、シングルとしてもバーケイズのほうが売れてるんですよ。他にもプリンスのアルバム『1999』を研究した上で、特にプリンスの「Automatic」にイメージを重ねた「Sexomatic」とかがあったり。パロディみたいなんだけど、聴いてみると歌が上手くて演奏もタイトだなぁって。アレクサンドル・デュマの魂がここにあるんだなって気がしますね。最近はライブだけですが、まだ活動を続けているのが凄いです。
―続いてはバリー・ホワイト。
丸屋 バリー・ホワイトの場合は、ストリングスの多用がディスコとしてのリスニングに耐えうるんでしょうね。最近で言うと映画「トリプルX:再起動」で、ヴィン様(ヴィン・ディーゼル)チームの暴走運転手の紹介場面で、なぜかバリー・ホワイトがかかってましたね。例えば映画『ヘルボーイ』の中でヘルボーイがアル・グリーン大好きって描写があるんだけど、ごつい人がソウルを好きっていう認識があるのかね。あと、バリー・ホワイトの特徴はタイトルが長いこと。ボビー・ウォーマックの「(If You Don’t Want My Love) Give It Back」みたいな「You’re The First, The Last, My Everything」とか、とにかく長いんですよ!
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■著者プロフィール
丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)
音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2018年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共に展開。他トークイベントに【Soul Food Assassins】や【HOUSE OF BEEF】等。
【今後のトークイベント】
5月26日(土)東京・銀座『Rethink World:マイノリティ・リポート vol.1』
6月20日(水)東京・秋葉原GOODMAN:<片目と語れ>丸屋九兵衛×ダースレイダー
6月23日(土)東京・麻布:Q-B-CONTINUED / Soul Food Assassins
7月12日(木)大阪・ロフトプラスワンウエスト:サモアン・ゴッドファーザー追悼講演
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