ジョーダン・ピール監督のルーツ「キー&ピール」とは?(前編)
音楽情報サイト『bmr』の編集長を務めながら音楽評論家/編集者/ラジオDJなど幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第7回の前編です。今回は見事、第90回アカデミー賞脚本賞を受賞した映画「ゲット・アウト」で監督・脚本を担当したジョーダン・ピールのルーツであるコメディ・デュオの「キー&ピール」について語っていただきました。
*コラムの過去回はこちら。
アカデミー受賞映画「ゲット・アウト」と猫映画「キアヌ」
──今回の連載は、映画「ゲット・アウト」を題材にと思いまして、映画そのものを語るのもおもしろいんですが。
丸屋 あれは素晴らしい映画だけど、一回しか使えないネタであるのも事実ですからね。何回見ても面白いんだけど、「Never As Good As The First Time(初めてより良いものはない)」likeシャーデーってとこだな。それはいいとして、皆さんに、この映画の監督のことをもっとちゃんと知って欲しいっていうこともあって。
──ジョーダン・ピール監督ですね。
丸屋 ジョーダン・ピールって人がどんな人物かわかってないだろうし、たぶん映画そのものには顔は出してないよね。この監督は、実はこの作品が映画デビュー作なんですね。
──あれ、「キアヌ」は監督じゃなかったですっけ?
丸屋 「キアヌ」はプロデュースと脚本ですね。なので「ゲット・アウト」が監督としてはデビュー作なんです。
──ちなみに「キアヌ」っていうのはどういう映画ですか? 日本では残念ながら劇場公開されませんでしたが。
丸屋 「キアヌ」は素晴らしいですよ。これだけ猫ブームな日本でなぜあれを上映しないのか、意味がわからないですよ!
──猫の声優をしているのが有名なトップ・スターなんですよね?
丸屋 そうです!あのキアヌ・リーブス様が、本当に「ミャーオ」って言うんですよ。その瞬間を劇場で見逃したのはもったいないですよねぇ。
──劇場公開されなかった大きな原因の一つは、主演の知名度が日本では無名という問題もありますかね。
丸屋 「キアヌ」という映画の制作に携わって、なおかつ主演をしているコンビが「キー&ピール」というコメディアン・コンビで、キーガン・マイケル・キーというややこしい名前の男と、ジョーダン・ピールという「ゲット・アウト」の監督をする男。この2人は元々コメディアンで「キー&ピール」という番組を数年やってきたあとに、そのコメディ番組のノリで90分ほどもある猫映画を作ってしまったというのが「キアヌ」なんです。あの映画は猫好きには暖かく迎え入れられたと思いますね。しかも、あれは凄くいいシャレになってるんですよ。というのも、キアヌ・リーブス主演の「ジョン・ウィック」という映画がありまして。
──殺し屋の映画ですね。
丸屋 妻と死に別れた元殺し屋が、妻が残してくれた子犬を可愛がっていたがそれをロシアン・マフィアのバカ息子に惨殺され怒りのあまり元の殺し屋に戻ってしまう、っていうストーリーで。そのバカ息子を演じているのが、シオン・グレイジョイこと、アルフィー・アレンだったりするのが「ゲーム・オブ・スローンズ」ファンにはたまらないわけですが。その亡き妻が残してくれた子犬を可愛がる殺し屋っていうのを色々逆転させて、恋人に酷い振られ方をされたちょいオタク気味の黒人男性が子猫を見つけて・・・・・・と「ジョン・ウィック」の逆をいっているので映画のタイトルに「キアヌ」をつけたんだと思いますね。
──なるほど!
丸屋 そしたら、キアヌ・リーブス自身がその話にのってきてくれて、キアヌという猫ちゃんの声をあてるっていう、まさかなことが起ったんです。
──そもそも猫に声優がいるのかっていう。
丸屋 「キャッツ & ドッグス 地球最大の肉球大戦争」とか以外ではいらないはずですよね(笑)。「キアヌ」は日本公開されませんでしたが、ホームエンターテイメントでは楽しめるので是非見て頂きたい。最後に猫のキアヌが決める技というのが、生物学的に正しい猫のありかただったいうことはお伝えしておきたいですね。
──その部分もちゃんとしてるんですね。
丸屋 猫なので、みんなで長距離かけたりはしないですね。このキー&ピール、今までは「キー&ピール」っていうコメディ番組の中で2分とか3分とかコントをやってて、そのコントの中で人種ネタとか、ちょっと怖いネタとかをやってきたんです。で、そういうのを2時間近くの映画にしてみたらどうだろう……とジョーダン・ピールが作ってしまったのが「ゲット・アウト」と言えますね。しかもアメリカのメジャー・スタジオの作品としては異常な低予算作で。たしかにほぼ1つのお屋敷の中で話が完結しているので、制作費的には楽だったのかもしれないですが。
──制作費は、日本円で5億円ぐらいですよね。日本映画でも大作レベルだとちょっと足りないぐらいの安い予算ですね。
丸屋 なのに、なのに、スーパー・ウルトラ・ジャイアント・キング・グレート級のサプライズ・ヒットとなり、ゴールデングローブ賞にノミネート、アカデミー賞では脚本賞を獲得という。確かにキー&ピールがやってきた人種コメディの延長線上にあるのも事実で、だからこそここでキー&ピールについて、もっと学んでおくべきじゃないかと。
──彼の原点ですよね。
丸屋 黒人コメディの面白さや、彼らがコメディ・ビデオでやってきたことを見つめ直すべきではと思うんです。
父が黒人、母が白人だったキーとピール
──では、最初にお伺いしたいのですが、そのキー&ピールの二人はどういった人物なんでしょうか?
丸屋 キー&ピールの芸風を考えるうえでも重要なのが、二人ともハーフなんですよ。両方ともお父さんが黒人で、お母さんが白人です。ついでにいうと細長いほうのキーは、養子にもらわれていったんですが、実の父親も養父も黒人で、実の母親も養母も白人です。ジョーダン・ピールのほうもお父さんが黒人で、お母さんは白人で、彼はシングルマザーの家庭で育てられました。「キアヌ」の中で、2人は従兄弟同士っていう役柄で出てきたんですが、キーが演じる役どころはジョージ・マイケルが大好きで「“Faith”の腰の動かし方最高!」っていうセリフがあるのにストレートで娘がいるっていう設定なんだけど。そのキーが「俺はデトロイト出身だから、お前みたいなニューヨーカーよりもよっぽど酷いやつに殴られてきただんだ」って自慢をするんですね。
──(笑)。
丸屋 どういう自慢だかわからないんですが、そのバックグラウンドは事実で、キーはデトロイト出身で1971年生まれ、ピールのほうが割と歳下で1979年ニューヨーク生まれですね。
──8歳違いなんですね。
丸屋 この2人のメリットっていうのが、ハーフということもあって、色んな人種に化けることができるんです。変な眼鏡をかけたジョーダン・ピールが白人漫画家スタン・リーになったりとか、キーが妙なかつらを被るとインド系の青年に見えてくるとか、色んなことができる。そこがコメディアンとしてメリットになっているんだと思います。この2人はそれぞれ大卒でコメディをやってきたんですが、2人は「MADtv」という番組にキャストされた時に知り合ったんですね。それでこの2人が非常にいいコンビネーションをみせたので、この2人はとっておいたほうがいいんちゃうとなって、そこで2人の冠番組「キー&ピール」ができたんです。その時代の「MADtv」にしても「キー&ピール」にしても、日本の視聴者には縁遠いものと思われがちですが、ただ我々はキー&ピールの姿を目撃してるんですよ。我々って誰やねんって話ですけど(笑)。それが、ウィーアード・アル・ヤンコヴィックのビデオなんですね。彼はマイケル・ジャクソンのパロディで「Eat It」とか「Fat」とか、他にも「Smells Like Nirvana」って曲とかを歌ってる人で。
──「Smells Like Teen Spirit」のパロディですね(笑)。日本にも昔きて「オレたちひょうきん族」にも出たことがあるぐらいの人ですね。
丸屋 コメディアンじゃなくて、あくまでパロディ・ソングの大家ですね。音楽家としても素晴らしいですし、替え歌だけではなくて、そのアーティストのムードを真似るということもできるんですよ。
──毎回顔はあまり似てないですもんね。
丸屋 素晴らしいなと思ったのは、エクストリームの「More Than Words」そっくりのビデオで曲調は似ているんだけど違う曲を作ったりとか。ボブ・ディランの「Subterranean Homesick Blues」へのトリビュートとしてビデオはそっくりなんだけど違う曲で、その名も「BOB」っていう曲を作ったんです。「BOB」って上から読んでも下から読んでも「BOB」じゃないですか、サンディエゴの市外局番「619」と一緒なんですよ。そこで作ったのが、全ての歌詞の行が回文になっているという恐ろしいもので。そういう音楽を通じてお笑いをやってる人で、そんな彼の「White & Nerdy」という曲が2006年にあるんです。当時、ラッパーのカミリオネアの「Ridin’」という大ヒット曲があって。この曲は「Ridin’」という曲なんだけどみんな「Ridin’ Dirty」という曲と思っているほど、「Ridin’ Dirty」って繰り返し歌うんですが、ヤンコヴィックはこれを「White & Nerdy」に変えてみたという。
──元々の原曲「Ridin’」はどんな曲なんですか?
丸屋 この曲は、「車を運転しているだけで警察の野郎は俺が何か違法なブツを積んでるに違いないと勝手にみなしてすぐに職務質問してくる」っていう「Racial Profiling(個人の属性を人種によって勝手に決めつけること。特に黒人を犯罪者扱いすること)」っていうやつですね。他には「Driving While Black」とも言いますが。黒人であるだけで、警察に目をつけられるという現実を歌ったプロテスト・ラップなんです。それをヤンコヴィックは、白人オタクの生態に変えてしまった。しかもそれを聴いたカミリオネアが、あまりのラップの上手さに驚嘆して自分のMySpaceにリンクを貼ってくれちゃったりする心温まる展開もみせていて。
そんなアル・ヤンコヴィックの「White & Nerdy」のミュージック・ビデオ。最初にアルが演じる郊外にすむ白人のオタク青年が出てくるんです。白人の小金持ちの人は、家の庭の芝刈りをするじゃないですか。それをやっていたら、そこにすっごいイカしたインパラにのった2人の黒人ギャングスタがやってきて、白人オタクを見て「怖い!」っていって逃げていくっていう。
──(笑)。
丸屋 自分に理解できないものは怖いわけですよ。その黒人ギャンスタ役を演じてるのがキー&ピールだったと。そりゃ当時は気づきませんよ。私、昔に白人オタクの生態はこうであるという論文を「SFマガジン」に発表したことがあって、「我々と白人オタクはこんなに似てるではないか、ホワイトという点を除けば」という論旨で。というのも「White & Nerdy」の最後のほうにでてくる人生の最大の難問っていうのが、カークを選ぶかピカードを選ぶかっていうスタートレックのネタなんですよ。話しを戻しますが、そのPVに出てくる2人組のギャングスタは「MADtv」時代のキー&ピールだったと。ただギャングスタ姿が全然似合ってない。
──(笑)板についてないですね。
丸屋 全然ついてない(笑)。後に「キー&ピール」をやる頃になると、色んな役ができるようになってくるけど、この当時は紫色の帽子に赤いドゥーラグかなんかで、似合ってないんだこれが。
──この色使いはあんまり見ないですね(笑)。
「キー&ピール」の音楽ネタのコメディ
丸屋 私はこのビデオを見ていたから、それで後に「キー&ピール」で彼らを見た時に「あれ?どっかで見たな」っていう既視感があったんです。アル・ヤンコビックのPVで出てきたからではないんでしょうけど、キー&ピールは、まぁ黒人コメディアンだけじゃなくてコメディアン全般も往々にしてそうですけど音楽実演ネタが本当に上手い。つまり、歌とかラップのパロディが本当にうまくて、なんといっても私の音楽的嗜好を鑑みるに心打たれたのが、私が好きなグループ「ボーン・サグズン・ハーモニー(Bone Thugs-N-Harmony)」のパロディの「ボーン・サグズン・ホームレス(Bone Thugs-N-Homeless)」というネタです。今のアメリカ英語だと「AR」つまり「アー」の音がほぼ消滅しかかってまして、「AR」は「オー」となってるんですね。つまり「Charge」とかは、「チャージ」ではなく「チョージ」になってるんですよ。
──ほぼ「オー」なんですね。
丸屋 なので、充電器は「Charger(チョージャー)」になるので「Call You(コール・ユー)」で、韻が踏めてしまうんです。つまり「Harmony(ハーモニー)」も「Harmony(ホーモニー)」となって「Homeless(ホームレス)」とめちゃくちゃ近いんです。なので「ボーン・サグズン・ホーM」までほぼ同じ発音になるんです。ボーン・サグズン・ハーモニーって長髪風情がかっこいいんですけど、ややもすると、偏見のある人から見ると汚く見えるかもしれない。それをこのネタでは上手く取り入れてますよね。
丸屋 うまいでしょ、これ。めちゃくちゃボーン・サグズン・ハーモニーに聞こえる。途中の三連がむちゃむちゃうまい(笑)。これはボーン・サグズン・ハーモニーの1996年の大ヒット曲「Tha Crossroads」の見事なパロディになっていて、たぶんピールはウィッシュ・ボーンの役なのかな。キーがビジー・ボーンなのかね。他に2人、クレイジー・ボーンだったり、レイジー・ボーンだろうと思われるメンバーがいたりとかね。フルメンバーは5人なんですけど、少なくとも4人そろえてボーン・サグズン・ハーモニーらしきものをアカペラで披露する、、、素晴らしいですね。
──「キー&ピール」のほうはどういうことを歌ってるんですかね?
丸屋 このコメディが2012年ぐらいですが、ボーン・サグズン・ハーモニーも全盛期ほどの人気は当然ない頃なので、「俺達落ちぶれてホームレスになってしまった、でも俺達のフローはタイトだよな。でも何か臭う、あ、俺達だ」っていうのを素晴らしい韻を踏みながら披露する。ボンサグのファンは怒るんじゃなくて、笑うべきだと思います。
──次のおすすめは、「Bling Benzy & Da Struggle」ですね。
丸屋 これはヒップホップの2つの顔といいますか、本当は2つではないし、1つであるともいえるし、100個あるともいえるんですけど、とりあえず2つに分けてみた場合、コモンみたいな社会派で、黒人の伝統や文化や憤りや、そんなものを感じさせる…オッケー、こう言おう“意識高い系”。
──意識高い系(笑)。
丸屋 それとは逆の、「俺達、金持ってるぜ」とか、アクセサリーのブリン・ブリンつけて、「モエ飲もうぜ」とか歌ったり、PVには必ず車と女性が出てきて、水泳得意じゃないのにプールが出てくる。その手の系統を“態度悪い系”“と言っておきましょうか。そんな“意識高い系”と“態度悪い系”、この対立を1曲のなかで表現するという。
丸屋 最初のDa Struggleのほうは音もジャジーなんですが、曲がつながったままでブリン・ブリンでベンツに乗ったっていう意味のラッパーBling Benzyに変わるですよね。
(Bling Benzy登場で爆笑)
丸屋 その後のDa Struggleのひきつった顔がね(笑)。
──「お前がいるからヒップホップはバカにされるんだ!」って表情ですね(笑)。
丸屋 途中に出てくる黒人女性をクイーンとして称えようとDa Struggleが言ってんのに、Bling Benzyがあんなことをしちゃう。
──酷いですね(笑)
丸屋 歌詞については説明しませんが、ここで意識高い系のDa Struggleを演じているのが細長いキーの方で、態度悪い系にしてはコミカルすぎるBling Benzyをピールが演じている。
──発声が違いますよね。
丸屋 ピールはボンサグの時は全然違った声だったのに、それをああいう声にできるっていう。
──一聴しただけで頭が悪そう。
丸屋 (笑)。音楽芸ができないブラック・コメディアンはまず成功しないだろうし、スタンダップはまだしも、特にこういうコントになると音楽できないとキツイんだろなと。ボーン・サグズン・ハーモニーは90年代からいるグループだし、Bling Benzy & Da Struggleはこの20年近くのある種の対立をステレオタイプとして描いたものですけど、そうでなくて割りと近年の事件をモチーフにR&B界の痴情の縺れをネタにしたのが、次の「Chris Brown & Rihanna Video」です。全然似てないのに似てるっていう。
──そのタイトルになってるクリス・ブラウンとリアーナというと。
丸屋 一時期付き合っていたんですが2009年グラミー賞前夜祭の会場から帰る車の中で揉めて、こともあろうにクリス・ブラウンがリアーナをぶん殴ってしまい処分されたという。
──リアーナの殴られた顔の写真も当時出ていましたが、ボッコボコでしたね。当時2人とも人気絶頂で、アメリカ芸能界の大スキャンダルでしたね。
丸屋 痴情の縺れなら可愛いんですが、暴力があるんでね。似たようなケースで、ホイットニー・ヒューストンとボビー・ブラウンが揉めたこともあって、その時にはホイットニーがドロップキックをかましたそうですよ。
──ドロップキック!?
丸屋 上手かったらしいよー。可愛そうなのは、ボビー・ブラウンはそれまでマリファナしか吸ったことなかったのに、ホイットニーと付き合ってからハードなドラッグを知ってしまって…。話を戻して、クリス・ブラウンの事件をネタして作ったのがこのパロディPVで、2人が歌っている曲名は「Together」ですね。
──顔も体型も全然似てないですけど、なんか雰囲気は似てますよね。
丸屋 リアーナ、オートチューン使いすぎ(笑)。このビデオはあの事件の後に2人が復縁して、新たなスタートを切りましょうと言っているんですね。ただクリス・ブラウンの歌詞の「Hit That」というのは、R&Bの歌詞に出てくるとセクシャルな意味になるんだけど、何度聞いても「俺は殴るぞ」っていう風にしか聞こえない(笑)。それと「誰もいないところにいこう」ってクリス・ブラウンが言ってるんですが、この2人だと意味が違ってくるっていう。この曲の最後には、なるほどっていうオチになりますんで、最後まで見てみて下さい。で、オートチューンといえば次のLMFAOのネタにいきたいんですが、キー&ピールは2人いるので、コンビものが上手くできるんですね。私は、LMFAOのことをEDM界の薫&匂宮と呼んでいるんだけど。薫と匂宮はわかります?
──いえ、どなたでしょうか?
丸屋 源氏物語の最後の10章ぐらいに出てくる2人なんですけど。薫は光源氏の息子なんですよ、表向きには。実際は、柏木っていうやつが光源氏の妻に産ませた子供で、光源氏はかつて自分が同じような事をやったから、カルマを悟るんです。
当時はそんな言い方しなかったと思いますけど。匂宮のほうは、源氏が他の女性との間に作った子供の子供、つまり孫ですね。で、その薫と匂宮は、子供と孫なんだけど同世代。その意味でLMFAOに近いかな、と。もっともLMFAOの二人は7ー8才の差があるはずですけど、モータウンの創業社長のベリー・ゴーディー・Jrの息子と孫の2人組っていう。なのに随分モータウン色のない音楽やってるね君達、って言いたくなるようなLMFAOにキー&ピールが扮するのが次のビデオです。曲名が「Non-Stop Party」で、アルバム・タイトルが『Songs In the Key of Party』というスティーヴィー・ワンダーの『Songs in the Key of Life』のもじりやろっていう。
──(笑)。このネタは日本でも大ヒットした「Party Rock Anthem」のパロディですね。
丸屋 あの眼鏡とあの髪型だったら誰でも似るのかな?(笑)。でもほんとそっくりだよね。
──これが本物ですって言われてもわかんないですよね(笑)。良くあるEDMのステレオ・タイプなビデオなんですが。
丸屋 これもオチを言えないんですが、ステレオタイプなEDMがどこまでもステレオタイプで、しかもノンストップで終らないっていうのがパロディの肝になっているところですね。
──星新一か筒井康隆のショートショートにありそうな話でもありますね。
丸屋 それにこの曲の歌詞なんですが、色んな都市の名前をあげるけどどこへも行かないっていうのがEDMへのちょっとした当てこすりになっている(笑)。EDMはEDMで私はもちろん好きですけどね。
──愛しているからこその批判精神ですね。次も音楽ネタのコントですがまたモノマネですね。
丸屋 ピールだけが出て来るレイ・パーカー・Jrのモノマネ芸があって、これもレイ・パーカー•Jrの曲は全部同じに聞こえるっていうのがモチーフで、歌う曲全てが映画「ゴーストバスターズ」の主題歌「Ghostbusters」そのまんまの曲調になっている。
──レイ・パーカー・Jrといえばの曲ですよね。
丸屋 本当は他にも良い曲作っているんだよ(笑)。彼はもっとメロウな人なのに、あの曲で売れたばっかりに(笑)。
──これはアメリカのテレビの通販番組によくある本人が出てきて宣伝してするやつのパロディでもあるんですね。
丸屋 彼がそこで売ろうとしているのが「映画のサウンドトラックになりかかったが、使われなかった曲集」というタイトルのコンピレーション・アルバムで、全ての曲がほぼゴーストバスターズにしか聞こえないっていう。売り文句としては「ハリウッドの重役しか聞かなかったあの曲が手に入る!」っていう。
──(笑)。
丸屋 最初にでてくる「ジュマンジ」なんか今聞くべきだよね。
──リブート作がアメリカで大ヒットしてますもんね。しかしこのネタも歌がうまいからこそできるネタですね。
丸屋 そういう古めのものでいうと、なぜかファンク・バンド、どこをどう見てもPファンクのバンドに扮して演奏しちゃったりしてるものもあって。
──画面もちゃんと当時の4:3比率ですね。
丸屋 ただ一言言わしてもらうと、服装がPファンクなのに曲調が地味ですね。
──(笑)。
丸屋 途中Pファンクっぽいところもあるけど、出だしとかはオハイオ・プレイヤーズがビートルズの「Come Together」やってるみたいな感じで。歌い方もオハイオ・プレイヤーズっぽいぞ、ただ見てるぶんにはほぼPファンクっていう。ピールはほぼKISSのエース・フレーリーじゃないか。
──格好が確かに(笑)。歌詞は何を歌っているんですか?
丸屋 これがよくわかんないんだよ(笑)。
──タイトルが「Funky Nonsense」だから、その通り意味なしなんですね。これも歌はもちろんファンクの事をわかってるからこそですよね。
丸屋 古い方向に行きましたが、現在ピールが39才でキーが46才か。そこそこ年いってる割りに、ラップをもなかなか素晴らしい。さっきのBling Benzyとかボンサグのネタも素晴らしいんですが、次は「キー&ピール」の番組じゃなくって、「Epic Rap Battles of History」っていうYouTubeでやってるシリーズにキー&ピールが出たやつを紹介したいんです。このシリーズは色んな人たちがMCバトルをするんですが、人気のやつに「サンタクロース対モーゼ」っていうのがあって、モーゼがスヌープ・ドッグなの。
──へー(笑)。このシリーズは一時期すごい流行りましたよね。
丸屋 私が好きなのは、「東洋の賢人vs.西洋の賢人」っていうやつで、「孔子&老子&孫子vs.ニーチェ&ソクラテス&ヴォルテール」。西洋の方はニーチェがキレてる感じだったり、孔子がラップ上手すぎだと思ったらMCジンだったり、孫子がティモシー・デ・ラ・ゲットーっていうYouTubeラップ芸人みたいな人で、その2人に比べると老子がちょっと弱いんですけど、孔子と孫子がラップ上手すぎてすごかったですね。そのシリーズの中で、キー&ピールがラッパーとして出演してて、キーがインド人のように見える外見を利用してガンジーに扮し、ピールのほうはマーティン・ルーサー・キングに扮しててます。ガンジーが喋ってるとこっておそらくあんまり映像で残ってないと思うので、ある意味ステレオタイプな北米人が考えるインド英語みたいになってますね。でもキング牧師の喋りを聞いたことのない黒人っておそらくいないじゃなですか、あの「アーーイ」ってなんでそんなに母音が延びるんだっていうあの感じ。
──「I Have A Dream」の名演説のやつですね。日本の教科書にも載っているので、日本人でも聞いたことがある人は多いんじゃないですかね。
丸屋 文字で聞くのと声で聞くのと大違いのあの喋り方。私がキリスト教を好きなのは、ああいう喋り方を生みだしたことね。キリスト教会がなければ黒人達、キング牧師もそうだし、トゥパックの母親の本物のアフェニ・シャクールの喋り方はよく知らないが、映画「オール・アイズ・オン・ミー」に出てきたアフェニ・シャクールはあんな感じの喋り方だったね。
──教会の中で響くようにしたらああなるんですかね。
丸屋 キング牧師は似てますねー。母音が伸ばしがちだからビートに遅れがちになるっていうのが素晴らしいですね。この2人の組み合わせが実に素晴らしいのは、実際にキング牧師がガンジーを手本にしていたからですね。ガンジーのバースの中に「お前が言ったことは全て最初に俺が言ってるだろ!」って。
──(笑)。
丸屋 それはほぼ事実なので、この組み合わせ実に旨いですよね。
──ラップのリリックも彼らが考えたんですかね。
丸屋 そう思いますよ。
──ヨガ・ファイヤーだったりガンジー(Gandihi)の「h」を発音しないだったり、細かいところも最高ですね(笑)。
丸屋 あとはこの2人は、マイケル・ジョーダンvs. モハメド・アリとかもやってますね。
映画『ゲット・アウト』
全国ロードショー/4月11日Blu-ray&DVD発売
■プロフィール
丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)
音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2018年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共に展開。他トークイベントに【Soul Food Assassins】や【HOUSE OF BEEF】等。
【今後のトークイベント】
3月6日(火)大阪 19:30~「丸屋九兵衛×久保憲司 サブカルチャー徹底討論会 in 大阪」
3月7日(水)京都 19:00~「丸善丸屋ゼミナール in 京都」
3月8日(木)名古屋 19:00~「丸善丸屋ゼミナール in 名古屋」
3月25日(日)東京 13:00~「【Soul Food Assassins】黒塗り総決算!」
東京 15:00~「【Q-B-CONTINUED vol.22】コスプレと仮面の世界史!」
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