“Z世代のサッド・ポップ・プリンス” コナン・グレイを構成する7つの魅力

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2020年3月に発売して新人ながら異例の全米チャート初登場5位を記録したコナン・グレイ(Conan Gray)のデビュー・アルバム『Kid Krow』。このアルバムは12曲中7曲の作詞作曲は本人のみ、4曲はコナン本人とアルバムの共同プロデューサーを務めているダン・ニグロの二人でのクレジット(ダンはオリヴィア・ロドリゴの「drivers license」の共同作曲とプロデュースを担当したことでも話題)という昨今のUSでのメインストリームで見られる多人数での作曲体制でないことも注目されています。

そして2021年2月19日には、久しぶりとなる新曲「Overdrive」を発表した彼の魅力について、米国在住のZ世代で様々なサイトに寄稿されている竹田ダニエルさんによる解説を掲載します。

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1. コナンの音楽は世界中のZ世代の日常の中にある

コナングレイには、「Z世代のサッド・ポップ・プリンス」の称号がとても似合う。Z世代が共感するテーマ、そしてZ世代を惹きつけるサウンドの音楽を彼は作っているからだ。同世代が抱える虚無感と絶望、嫉妬と鬱、恋と希望を楽曲に詰め込み、デビュー・アルバムの『Kid Krow』は2020年3月に全米アルバムチャートで初週5位を記録し、わずか21歳にして2020年最大のデビューアーティストと称された。

親密さで溢れ、壊れそうなくらいに繊細であると同時にキャッチーな破壊力を持った彼の楽曲のポップさは、数多いるZ世代シンガーソングライターの中でも圧倒的に異色な輝きを放ち、TikTokやSpotifyでのバズを通して知ったカジュアルなリスナーもファンに変えてしまう力を持つ。

 

2. 人間として、そしてアーティストとしての愛しい魅力

コナンのアーティストとしての魅力を語る際には、人気YouTuberとしての背景を知る必要がある。彼のチャンネルでは、他愛のないおしゃべりや日常の動画とともカバー動画やオリジナル楽曲の演奏を、12歳の頃からカメラに向かって、そしてインターネットを通して全世界に配信していた。

インターネットが当たり前にある時代に育った彼は従来の音楽業界のあり方にとらわれることなく、彼の個性的で親しみやすいキャラクターや独特な音楽性に魅力を感じていた同世代からの支持によって、SoundcloudやYouTubeを通して自由に成功を収めることができた。

他のYouTuberやアーティストと一線を画すのは、間違いなく彼がもつ「リアルなストーリー」と「共感性しやすさ」だ。日本のハーフである彼は人種的マイノリティとしてアメリカ中を転々と引越しをし、アウトサイダーとしていじめにあっていた。その経験を美化するでも悲観するでもなく、古くからの友達に近況報告をするようにネット上で繋がっているファンに向けて赤裸々に吐露する姿は目を背けられないほどに「リアル」だ。若者特有の孤独や葛藤だけでなく、ありのままの自分を受け入れるまでの成長過程や音楽との出会いなどをリスナーとも共有することによって、コナン・グレイという人物像に深いストーリーが生まれている。

 

3. 音楽関係者やスターたちからの強い支持

コナン自身が最も尊敬し、憧れるテイラースウィフト本人が「(『Kid Krow』に)夢中だし、”Wish You Were Sober”は傑作。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、これは一生リピートする」と絶賛。

コナンのことを夢のコラボ相手だと発言したホールジー、楽曲を制作するときのインスピレーションにしていると紹介したBTSのV(キム・テヒョン)、ファンだと自称するノア・サイラス、ツアーのオープニングアクトとして指名したパニック!アット・ザ・ ディスコなど、音楽業界の最先端で活躍するアーティストたちが声に出してコナンを熱烈に応援している。

 

4. 「コナン・グレイ」という新時代ポップスのジャンル

Z世代の特徴として、ジャンルではなく「バイブス」で音楽を聴くということが挙げられる。配信サービスの普及によって「ムード別プレイリスト」で音楽を聴く彼らは、日常的に様々な年代やジャンルに触れている。

コナングレイのディスコグラフィーを聴いて誰もが感じるのは、カントリーからロック、シンセポップからエレクトロまで、多様なサウンドを取り入れていることだ。「いろいろなジャンルや時代の音楽を聴きます。90年代のグランジやレディオヘッド、ニルヴァーナの大ファン。一方で、2020年のポップミュージックも大好き」と語っているように多様な音楽的影響を受けつつも、流行に左右されない、非常に洗練されたスタイルを確立している。

“率直なメロディ×ひねくれた歌詞”、“ポップなサウンド×悲観的な世界観”など、旧来的なキラキラなポップスとは真逆の一捻り加えた卑屈さこそが中毒性を生み出し、彼を輝かせる。音楽的なDNAで言えばテイラー・スウィフトの緻密なストーリーテリングとロードの歯に衣着せぬリアルさが合わさり、内緒にしたくなるほど汚い感情もありのままに吐き出し、その飾らず自然に流れ出るネット世代の孤独や嫉妬の感情を痛いほどリアルに描く。

YouTuber時代から変わらぬDIY精神から生まれる歌詞を聴いたリスナーは、コナンの日記を読んでいるような気分になるのだ。

 

5. SNS世代に響くリアルな価値観

「僕はインターネットに育てられたんだ」と話すコナンは、まさにYouTubeやSNSを使いこなすSNS世代。TikTok上で彼の音楽がバズり続けていることを見れば、同世代のリスナーに怪奇現象といえるほどグサグサと刺さっていることがひと目でわかる。

2020年最大のTikTokトレンドの一つとして、確実に「Heather」が挙げられる。曲中ではコナンの片思いの相手の好きな人の名前として、嫉妬の矛先で使われていた「Heather」だが、TikTokをはじめとしたSNSでは瞬く間に「外面も内面も美しい女性」を表すスラングとして「Heather」を使うことが定着した。

さらに外見的な美しさだけではなく、女性同士でエンパワーし合うための励ましの言葉として使われたりと、ボディポジティブやフェミニズムムーブメントとの相性もとても良く、今やZ世代ボキャブラリーの重要ワードだ。

「Heather」がZ世代に刺さる理由は、美しい歌声や歌いやすいメロディ以外にもアンチ恋愛主義(「Crush Culture」)、曖昧なセクシャリティ(「Heather」「The King」)、将来への不安(「Generation Why」)、反パーティーアンセム(「Maniac」「Wish You Were Sober」)など、旧来的なポップスが扱う題材とは正反対のひねくれた毒々しさをもった特徴的な歌詞が挙げられる。絶望的な世界の中でユーモアと行動力を持って生きる同世代の若者たちにコナングレイの音楽が響くのは、彼はその絶望や鬱も等身大で皮肉な強めなポップスに変換していることにある。

 

6. 常に進化を続ける自由でZ世代的なアイデンティティ

「僕にレッテルを貼り付けたり、型にはめようとするのはやめてくれ」とツイートしているように、セクシャリティやジェンダー、価値観などを誰かに定義されたくない、何かのステレオタイプに縛られたくないという自由な意思は、音楽やファッションにも強く反映されている。アンドロジナスなルックスや古着をユニークに着こなすファッションセンスはモデル並みで、数々のファッション紙やブランドとのコラボレーションに起用されている。

また、今Z世代で最も注目されている「ジェンダーニュートラル」な価値観をまさに体現しており、E-boy風のファッションやYouTuber時代からシェアを続けてきた独自の古着スタイル、そして「Heather」のMVでも見られるスカート姿など、全てに自己流の信念があるからこそアイコニックに仕上がる。

わずか1/3だけが「ストレート」だと自認しているZ世代は、まさに「規範に囚われない」世代だ。アイデンティティにおいてはセクシャリティやジェンダーの流動性を大切にし、外見に関しては急に髪を切って染めたり、ファッションもマスの流行ではなく、自分の気分で気軽に変える。コナンのビジュアル、ファッション、音楽、全てがその「流動性」を体現し、同世代からの共感を集めるのだ。

 

7. 「個人」と「本音」で繋がる、パーソナルな魅力

クローゼットで音楽を作り、ベッドの上でYouTube動画を作るところから始まったコナンは、まさに「セルフプロデュース」。現在でもMVやグッズ制作をディレクションするなど、大人によって作られたわけではないその常に「リアルで正直」なオリジナリティと生き方こそが、ありのままのコナンを愛するファンとの健康的な関係性を築く。

音楽性の成長や変化も、その時々で聞いている音楽や感じていることによって流動的に影響を受けているということをコナンは何度も公言しているが、この「曖昧さ」こそが今後の業界の中で生きるにおいて必要とされる柔軟性であり、同時に「個性とオリジナリティ」に最も価値を置くZ世代的に響くものでもある。

音楽を聴く側も個性や自己表現の一環としてストリーミングを活用している時代において、音楽が一人ひとりにとって解釈が異なる大切なものになっている。人生にとって何が大切なのか、なぜ恋愛に悩まされるのか、という本質的な問いとぶつかる歌詞は、大人が作る「若者向けのポップス」よりも遥かにZ世代当事者に響く。

コナンが作る音楽がジャンル分けされる「ベッドルーム・ポップ」とは、「ベッドルーム同士で繋がってる」現象を指しているとも言えるが、コナンのそのパーソナルなストーリーや苦悩が、誰かの人生のサウンドトラックになっているのだ。

曲中での嘘偽りない赤裸々な歌詞に加え、SNSでは政治や社会に関する発信をし、「学び続けること」の大切さをシェアしている。さらに、日系ハーフである彼は、今までは白人が中心でアジア人の活躍の場がほとんどなかった音楽業界において、アジア系アメリカ人の若者たちにとっては希望のような存在だ。

「僕はどんな箱にも当てはまらなかったから、将来的には小さな箱に収まらなくてもいいということを伝える存在になりたいと思う」と語っているように、YouTuber時代から変わらないそのファンとの距離感の近さは、まるで仲の良い友達と交換日記をしているような親密感を与えてくれる。

Written By 竹田ダニエル



コナン・グレイ「Overdrive」

2021年2月19日発売
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music




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