ファボラス来日インタビュー:「My Time」の再ヒットやドミニカ系、ドレイクとのコラボを語る

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photo courtesy of BAIA

WBCで村上宗隆選手が入場曲として使用して話題となり、それ以前には格闘家の堀口恭司選手が使用していたことでも有名なファボラスの「My Time」。

この盛り上がりのタイミングにあわせるように2023年4月29日にファボラスが「HOT 97 SUMMER JAM TOKYO」以来7年ぶりに日本でコンサートを行った。会場は渋谷の宇田川町に昨年オープンし、リアーナのアルバム『Anti』のアルバムカバーのデザインを手がけたロイ・ナチャムが内装を手掛けた「BAIA」。

そんなこの一夜限りのフォボラスのライヴの前にライター/翻訳家の池城美菜子さんがインタビューを実施、ライブレポートともに寄稿いただきました。

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ハードコアでセクシー。ギャングスタ・ラップをはじめ、ハードコアを全面に押し出しているラッパー多い。だが、一方の“セクシー”はそうでもない。女性関係のネタはみなラップするが、露骨な下ネタや、ハードコアと裏返しにある女性を下げるミソジニーが強いリリックは、「セクシー」とは少しちがうからだ。

その両方を持ち味にしているのが、ファボラスである。

21世紀に入ってすぐ、クールな語り口のラップと、R&Bシンガーのコーラスを効果的に組み合わせて人気者の仲間入り。ジャスト・ブレイズが作ったリル・モーとの「Can’t Let You Go」(2002)や、タミアとの「Into You」(2003)はヒップホップ・クラシックだ。

 

2007年にアトランティック・レコーズからデフ・ジャムに移籍、ハード&セクシー路線に磨きがかかった。ティンバランドがトラックを作り、Ne-Yoをフィーチャーした「Make Me Better」(2007)、やる気爆上がり系のクラブ・バンガー「My Time」(2008)といったヒットを次々と放った。以来、コンセプトごとにまとめたミックステープ・シリーズや、リアリティTVのカメオ出演など新しいサウンドと話題をコンスタントに提供。CDが売れまくった00年代から、ストリーミング全盛の現在まで、第一線で活躍し続けている。

2023年、日本では「My Time」が総合格闘家の堀口恭司選手の入場曲と、ヤクルト・スワローズの村上宗隆選手の登場曲の1打席目、そしてWBC準決勝・決勝の全打席に使用され改めて話題を集めた。4月29日、渋谷の新しいクラブ、BAIAの一夜限りのスペシャル・ゲストとして来日。マイクを握る前の短い時間で、インタビューに応じてくれた。モノトーンの装いに、ダイヤとプラティナムのジュエリーを「これでもか!」と身につけたファボラスはクールの一言。

––「My Time」が日本で改めて話題になっているのはご存知ですか?

「ああ、マネージメントを通じて聞いているよ。ありがたいよね。ビデオでメッセージも送ったよ」

–– リリースされてから14年、さまざまな選手の入場曲だけでなく、スポーツイベントでもよくかかる定番になりました。The Runnersとこの曲を作ったとき、どんなコンセプトがあったのでしょうか?

「もともとは、自分のために作った曲だよ。デフ・ジャムに移籍したばかりで、“さぁ、やるぞ”っていう気持ちを込めたんだ。(ヒップホップ)ゲーム全体の潮目も変わっていたし、いまだ、俺の出番だって鼓舞するために作った」

–– その頃、ニューヨークに住んでいたのですが、スポーツの試合で必ずかかってた記憶があります。ヤンキーズ・スタジアムでもかかっていたし、NBAのドラフトをテレビで観ていてもガンガンかかっていて。スポーツイベントで使われるかも、という狙いもあったのでは?

「いや、全然なかった。だから、嬉しいサプライズだったよね。人生には必ず、自分と対峙する瞬間、それからはっきりした相手がいて勝負しないといけない瞬間ってあるんだよ。野球選手だったら、バッターボックスに入ったときとか。そういうときの心情に、あのリリックはぴったりハマるんだろうね」

–– 意図していない局面でヒットしたわけですね。

「物事は、理由があって起きると思っている。だから、あの年にあの曲を作って、結果的に大きなヒットにつながったのも、みんなが聞きたかった言葉だったからだと思う」

–– 自分でもスポーツ観戦に行かれると思いますが、マディソン・スクエア・ガーデンなどのヴェニューで自分の曲が流れるのはどんな気分でしょう?

「そりゃ、最高の気分だよ。俺も試合を見て元気をもらって、その選手たちも俺の曲でインスパイアーされているわけだからね」

–– 元気をもらう、と言えば、パンデミックの間に盛り上がったVERZUZがありました(ネットで配信された、ヒップホップ/R&Bの対決イベント)。2020年の4月に行われたあなたとジェイダキッスの対決は、とくに盛り上がりましたよね?

「あの企画が始まって早い段階だったからね。ジェイダ(キッス)は友だちだから、ちょっとやりづらいかな、と思ったけど、すごく盛り上がったからやってよかった。あれは、単なる対決、競争ではなくてセレブレーションの意味もあったんだ。ふたりとも長くやっていて、第一線に残ってきたから」

–– あなたはブルックリン出身で、ドミニカ系ですよね? ジャマイカ系ならビギー(・スモールズ)やバスタ・ライムズ、プエルトリコ系ならファット・ジョーなど、すぐに思い浮かびますが、ドミニカ系のラッパーはそれほどバックグラウンドが話題にならないように思います。とくに理由はありますか?

「単純に数が少ないからじゃないかな。あと、いま名前が出たカルチャーは音楽がすごく盛んだよね? どの文化にも強みがあると思うんだ。ドミニカの場合は、野球だね。メジャーリーガーならたくさんいる」

–– それを聞こうと思っていました。国の規模から考えると、非常に高い割合です。理由はなんでしょう?

「俺もわからないよ(笑)。ただ、みんなすごく野球が好きで熱心だ。プロ入りする人もたくさんいて層が厚いせいか、トップまで登り詰めるプレーヤーが多いよね」

–– あなたが出てきた時代は、R&Bのメロディアスな要素が多いと、ハードコアなヒップホップ・ファンにあまりよく言われませんでした。それが、いまでは主流ですよね? 2019年のミックステープ(『Summer Time Shoot Out 3 ; Coldest Summer Ever』)ではご自分で歌っていたし、時代を先取りしていた、と言えるのではないでしょうか?

「たしかにいまはラッパーもみんな歌うから、そう見えるかもね。俺はヒップホップが大好きだけれど、R&Bもたくさん聴いて育った。メロディアスな曲も好きだから、ごく自然にやったんだ。いろんな世界とコラボレーションするとおもしろいものが生まれると思っている」

–– 最近、ドレイクがあなたからの影響について語って話題になりましたよね。彼は歌うようにラップするスタイルが得意なので、とても納得しました。近々、ドレイクとコラボレーションする予定はありますか?

「しばらくやっていないから、やるべきだよね。“Throw It In Bag”のリミックスに参加してもらったのが2009年か。だいぶ時間が経っているね」

ここで時間切れ。四半世紀に渡って人気を保持している理由など、まだ聞きたいことがあったのだが。ゴールデンウィークで満員だったBAIAのフロアーでは、1曲目から「My Time」をパフォーマンスするサービスぶり。

「Breathe」、「You Be Killin Em」など代表曲を次々と披露すること40分。音響設備が整って抜群に音がいいため、低音のファボラスの声がよく通り、居合わせたファンは貴重な体験だったはず。インタビューが終わってから、ヤクルト・スワローズのマスコット、つば九郎のぬいぐるみをファボラスに渡した。「小さい子どもがいるから」と受け取りながら、「こいつ、日本では俺より有名なんだろうね」とジョークを言ったのがとてもチャーミングで、ずっと人気がある理由がよくわかった。

Written By 池城美菜子(noteはこちら



「My Time」収録アルバム
ファボラス『Loso’s Way』
2009年7月28日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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