ゼッドの代表曲「Stay」を振り返る:EDMの熱狂が収束していく地平から生み出された新しい幕開け

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Photo: Fuente externa

音楽プロデューサー/DJのゼット(Zedd)がアレッシア・カーラ(Alessia Cara)をゲストに迎えた楽曲「Stay」が2022年2月23日に発売5周年を迎えた。

彼の代表曲の一つにもなったこのヒット曲について、制作/プロデュース会社、株式会社一二三の代表でもありプロデューサーとして活動する佐藤 讓さんに寄稿いただきました。

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2010年代前半、EDMの熱狂

現在から10年前の2012年は、スクリレックス、ディプロ、A-Trakの3人がBilboardの表紙を「DANCE DANCE EVOLUTION」という文言と共に飾り、EDMというメインストリームを巻き込んだ巨大なダンス・ミュージックのムーヴメントが加速しだした年となった。

実際にその年の前後には象徴的な楽曲がいくつもリリースされている。いわゆる直球のEDMからメインストリームのポップスに派生したものまで、こうして並べてみると当時の勢いと熱狂が蘇ってくるような感覚を受ける。

・スクリレックス「Rock n Roll (Will Take You t the Mountain)」(2011/6/21)
・デヴィッド・ゲッタ「Where Them Girls At feat. Nick Minaj, Flo Rida」(2011/6/28)
・リアーナ「We Found Love feat. Calvin Harris」(2011/10/20)
・アヴィーチー「Levels」(2011/11/30)
・アウルシティ&カーリー・レイ・ジェプセン「Good Time」(2012/7/24)
・ゼッド「Spectrum feat. Matthew Koma」(2012/8/16)
・スウェディッシュ・ハウス・マフィア feat. ジョン・マーティン「Don’t Worry Child」(2012/9/14)
・ポーター・ロビンソン「Language」(2012/11/29)
・アヴィーチー vs, ニッキー・ロメロ「I Could Be The One」(2012/12/25)
・ゼッド「Clarity ft. Foxes」(2013/1/11)
・アヴィーチー「Wake Me Up」(2013/7/30)

EDMが巨大化した理由には、エイコンやNE-YO、クリス・ブラウン、ブラック・アイド・ピーズなど、アメリカのHIPHOP/R&B系のアーティストが、エレクトロ以降の4つ打ちのサウンドを積極的に取り入れたことが大きなきっかけになっている。具体的な事例を挙げるなら2009年のデヴィッド・ゲッタとエイコンのコラボレーションだったり、2011年のカルヴァン・ハリスのロック・ネイションへの電撃契約からのリアーナとのコラボ、2012年のUltra Music Festivalでアヴィーチーのステージにマドンナが登場したことだろう。刺激を求めたポップ・ミュージックが接近することで化学反応が生まれ、ダンス・ミュージックは至上最も大きなムーヴメントへと変貌を遂げたのである。

 

「Stay」が発売された2017年のシーン

今回発表から5周年を迎えるゼッドの「Stay」は、そうしたEDMの熱狂が陰りを見せた地平から生み出された彼のヒットメーカーとしての新しい幕開けを告げる名曲だ。

リリースされたのは2017年。それまでの流れを振り返ってみると、メジャー・レイザー&DJスネイク「Lean On」や、スクリレックス&ディプロ「Where Are U Now with Justin Bieber」、カイゴ「Firestone feat. Conrad Sewell」が特大のヒットを記録した2015年の流れを受け、よりチルな色合いが顕著になってきた年と言えるだろう。

具体的にはEDMの後を受けたフューチャー・ハウスやトロピカル・ハウスなどの人気。Lidoやフルームなど10年代初頭から動いていたフューチャー・ベースのトラックメーカーたちの台頭が挙げられる。アメリカでも成功し、年間79億円を稼ぎ出していたカルヴァン・ハリスも「My Way」「Slide feat. Frank Ocean, Migos」「Feels feat. Pharrell Williams, Katy Perry, Big Sean」など『Funk Wav Bounces Vol. 1』収録の一連の作品で大きく作風をシフトしている(そのせいかド派手に盛り上げたSUMMER SONIC 2017でのステージで、評論家筋や一部の音楽ファンからの批判があったことは皆さんの記憶にも残っているのではないだろうか)。

特にフューチャー・ベースはエモーショナルでメロウなアプローチと相性のよいジャンルで、2010年くらいのジャンルが産声を上げた頃に比べ非常にレンジも広くなっており、ポップ・ミュージック的にもヴォーカルをより活かしやすいジャンルに育っていたこともあって、R&Bなどを巻き込み一連の流れは大きな広がりを見せていた。象徴的なのは2016年の「Closer」などで大ヒットを飛ばしたザ・チェインスモーカーズだろう。「Paris」でトドメを刺して、アルバム『Memories…Do Not Open』で、スーパースターの地位を確固たるものとするなど、EDMの天井知らずの盛り上がりとはまた異なる形で、ダンス・ミュージックとポップ・ミュージックはそのあり方を更新したのである。

では、ゼッドはどうだったのかというと、2015年の時点ではアルバムリリースを控えていたこともあってか、押し寄せてくるチルな波に乗ることはなく、セレーナ・ゴメスとの「I Want You To Know feat. Selena Gomez」、そしてセカンド・アルバム『True Colors』という作品で、彼なりにEDMというものを総括しながら、より多くの大衆を魅了する方向へと自らの音楽を発展させた年となった。

そして、一区切りをつけたゼッドは、周囲の流れを受け、2016年より新しいモードへと一気に舵を切っていくこととなる。アヴィーチーとの共演で知られるアロー・ブラックとのM&Mの75周年キャンペーンソング「Candyman」や、ヘイリー・スタインフェルドとグレイによる「Starving feat. ZEDD」でフューチャー・ベース系のサウンドを巧みに導入。後者に関しては全英5位、全米12位に送り込み改めて存在感を示した。そして、これらの作品の流れを受け、満を持してリリースされたのが「Stay」という訳だ。

 

「Stay」のサウンドと歌詞

アロー・ブラックとの「Candyman」からの繋がりを思わせるアーシーな男性ヴォーカルのフェイク(サンプリング元はBanksの「Poltergeist」で、ピッチを落として使用している)、デフ・ジャムの秘蔵っ子であるカナダ出身の新人シンガーソングライター、アレッシア・カーラの柔らかなヴォーカルが徐々にテンションを高め、ドロップ部分ではか彼らしいパツパツにコンプレッサーのかかったビートが、これまでの4つ打ちではなくダウンテンポ気味に展開されていく。そしてドロップのリフは極めてシンプルに削ぎ落とされている。

「古いゼッドと新しいゼッドを融合した」「僕は音楽のジャンルを囲い込む壁をとり取り除こうとしてきた。この曲は僕にとって音楽の未来へ一歩前進する曲なんだ。型に収められず、自分が求めるあらゆるジャンルの音楽を作れる。そういう音楽の未来だね」

「よく『昔のゼッドのようなスタイルには戻らないの?』って言われることもあって、もちろん戻ることもできるけど、僕は楽しんで音楽を作り続けたいから、新しいものを探して作ろうとするんだ」

こうした彼の発言とサウンドが示している通り、「Stay」ではこれまでのゼッドのビートの質感を活かしつつ、広義のフューチャー・ベース、ロー・ビートへと大きくシフト・チェンジしながら、誤解を恐れずに言うと、もはやオーセンティックなポップスにまで昇華された楽曲だ。

歌詞では女性目線で、時の経過とともに恋人との別れを確信していながら、それでも愛する人にとどまって欲しい(「Stay」)と願う、一つの恋に思いを馳せる若者の切ない心情がビビッドに描かれており、ラヴ・ソングとして非常に王道かつ共感値の高い歌詞になっており、それがフレッシュなアレッシアの歌声をマッチしている。

興味深いと思うのは、歌詞では男性にとどまることを求めながら、トラック・メイキングに関してはむしろとどまることを止め、前に進んでいるという点だろう。どこまで意図があったかは是非本人に確認を取ってみたいところだが(そして、その問いに本人も苦笑してしまいそうであるが)、女性のシンガーが「Stay」と歌いながら、ゼッド自身は(サウンドを)前に進めることを望むという構図になっており、この曲の構造そのものが、はからずもこの曲で描かれている男女の避けがたいすれ違いを体現しまったのかもしれないというところに、筆者はクリエイティブの妙、面白さを感じてしまうのである。

 

商業的成功

さて、「Stay」は全英チャート8位、全米チャート7位を記録。全米のメインストリームチャート、ダンスチャートでは1位を記録するだけでなく、年間チャートでも17位に残るなど、当時の彼のキャリアの中で、歴代最高となるチャートアクションを記録している。YouTubeにおいても現在までにリリック・ビデオが4.6億回。ミュージック・ビデオが1億回を突破。また、グラミー賞ではベスト・ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンスにノミネートされ、ヴォーカルを担当したアレッシア・カーラが最優秀新人賞を受賞するというおまけまでついた。

チャートアクション、賞レースという側面から見れば、その座は翌年にリリースされた「The Middle」に譲ってはいるものの(全英7位、全米5位年間8位、グラミー3部門ノミネート)、新たなチャレンジで最高の結果を残したという意味では、彼は「Stay」という曲で前進することで、間違いなく賭けに勝利し、新たな地平を切り拓いたのである。

この後の流れはファンの方ならご存知の通り。ワン・ダイレクションのリアム・ペインをヴォーカルに招いた「Get Low」をリリース。そして、前述した通り「The Middle」を翌年2018年にリリースし、ゼッドのセカンド・シーズンはキャリア最良の結果を勝ち取ることとなる。

業界屈指の好人物でありながら、非常に負けず嫌いで、野心的な側面を併せ持つ彼の攻めの姿勢と、ポップ・ミュージックへの愛情が結晶化した「Stay」。同曲で感じることのできた、彼の尽きることのないチャレンジ精神は、今年発表されたディスクロージャーとのコラボ曲「You’ve Got To Let Go If You Want To Be Free」を通過することで、また新たな局面を迎えるのではないだろうか。そんな彼の第2シーズンを象徴する楽曲として5周年を迎えた「Stay」には、今もなお聴くべきエッセンスが散りばめられ、我々を強く魅了してやまないのである。

Written By 佐藤 讓



ゼッド&アレッシア・カーラ「Stay」
2017年2月23日配信
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