クリスマスチャートの地殻変動:新たに全米1位になったブレンダ・リーとその理由
ロックの殿堂、カントリー・ミュージックの殿堂入り歌手として知られるブレンダ・リー(Brenda Lee)のクリスマス曲「Rockin’ Around The Christmas Tree」が、デビューから65年を経て、全米シングル・チャート(Billboard Hot 100)で初の首位を獲得。
その他、昨今のストリーミングサービスの拡大に従って、12月の米チャート上位はクリスマス曲が多くを占めることがここ数年続いている。
この現象について、様々なメディアに寄稿される辰巳JUNKさんに解説いただきました。
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ホリデーソングのチャート競争
クリスマスは、今や洋楽のビッグイベントになった。楽曲ごとの人気を追跡できるストリーミングサービスが普及したおかげで、冬になるたび、ホリデーソングの熾烈なチャート競争が展開されるようになったのだ。
たとえばアメリカ12月3日週のビルボードチャートでは、トップ20中の半分以上をホリデーソングが占めている。ボビー・ヘルムズ「Jingle Bell Rock」やワム!「Last Christmas」といった定番はもちろん、アリアナ・グランデ「Santa Tell Me」などのポップ近作も上位入りしている。
「新たなる定番ホリデーソング」の座を狙うスターたちも派手な動きを見せている。2023年、アリアナは「Santa Tell Me」の後半の歌詞が少し大人向けのNaughty Versionバージョンを配信で解禁したばかりか、日本では人気キャラクター『ちいかわ』とのコラボも発表。
エルトン・ジョンの場合、ケイト・モスら人気モデルが出演するキャンペーンによって、旧曲「Step into Christmas」の50周年を盛りあげている。
リトル・ミス・ダイナマイト:ブレンダ・リー
「クリスマスの女王」はもちろんマライア・キャリーだ。しかし、2023年には地殻変動が起きた。4年間にわたってホリデーチャートの頂点だった彼女の「All I Want for Christmas Is You」は2位に後退。かわって頂点に立ったのは、歴代ナンバーワンヒットとしても史上最高齢となる79歳の歌手、ブレンダ・リーによる「Rockin’ Around The Christmas Tree」。さらに驚きなのは、今から65年前となる1958年、13歳のとき歌われた楽曲であることだ。
「クリスマスの女帝」というべきブレンダ・リーは、もとより伝説的なアーティストだ。1944年アメリカ南部の極貧家庭に生まれ、8歳のころ父を亡くしてから音楽の才能で大黒柱となった、いわゆる天才少女。12歳にしてエルヴィス・プレスリーと共演を果たした彼女の二つ名は、大人顔負けのパワフルな歌唱をあらわす「リトル・ミス・ダイナマイト」。
かつて彼女の前座をつとめたビートルズのジョン・レノンいわく「もっとも偉大なロックンロール・ボーカリスト」であり、同じカントリー出身のテイラー・スウィフトいわく「失恋歌唱のマスター」。1960年代のビルボードチャートでは、エルヴィス、ビートルズ、レイ・チャールズに次ぐ4位のヒット記録保持者であり、日本をふくめて国際的成功をおさめた最初期のアメリカン・ポップスターとも言われている。
ただし「Rockin’ Around the Christmas Tree」自体は、65年にわたって数奇な運命をたどってきた。新人時代「Rudolph the Red-Nosed Reindeer(赤鼻のトナカイ)」の作曲家ジョニー・マークスからご指名が入り一発録音したものの、1958年リリース当時はとくにヒットしなかったという。
しかし1960年、15歳となったブレンダ本人が出世。テイラー・スウィフトもカバーしたバラード「I’m Sorry」が大ヒットしたのだ。こうしてレーベルがホリデーソングを再リリースし、1960年代の冬の定番となった。
そこから30年ほど経った1990年、ふたたび「Rockin’ Around the Christmas Tree」がポップカルチャーの一線に舞い戻った。これまたクリスマスの定番化することとなる映画『ホーム・アローン』の劇中で流されたことにより、新世代にも親しまれることとなったのだ。
21世紀に入ると、2,000万枚の売上を達成し、ジャスティン・ビーバーらもカバーする不動の地位を確立していた。前述どおりストリーミングが普及してビルボードでデータ収集されるようになると、チャートにも登場。過去4年間では、ホリデーソングとしてマライアに次ぐ人気を見せていた。
新1位への道
こうして2023年の冬、65周年を祝した「Rockin’ Around the Christmas Tree」大キャンペーンがはじまった。ブレンダは79歳にしてTikTokアカウントを開設し、マライアにならうように、ハロウィンが終わったころ「クリスマスのはじまり」を告げる動画を投稿した。
https://www.tiktok.com/@brendaleeofficial/video/7296526541477907755?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7010614862536821000
少女時代の声を口パクするかたちで製作されたミュージックビデオには、盟友タニヤ・タッカーも出演している。
さらに、ステージを引退した身ながら、キース・アーバンらと共演したばかりか、飛行機内でサプライズ歌唱して同乗者を歓喜させる「ミス・ダイナマイト」ぶりにより、SNSバズを持続させていった。こうしたブレンダ・リー祭りの結果、大量のストリーミング再生を稼ぐかたちでチャートのトップに届いたのだ。
https://www.youtube.com/watch?v=WyIAJBVVu8k
「Rockin’ Around the Christmas Tree」は65年間で幾多もの転機と幸運に恵まれていた。しかし、本人が言うように、結局は楽曲の素晴らしさこそ長寿の秘訣だろう。
「1960年代にはじめて日本に行ったとき、寒い季節で“Rockin’ Around the Christmas Tree”が流れていたんです。本当に驚きました。(伝説的プロデューサー)オーウェン・ブラッドリーがよく言っていました。良い曲であることがすべて。良い曲なら、人々に聴かれるのです」(ブレンダ・リー)
「Rockin’ Around the Christmas Tree」の魅力は、ブレンダ・リーの才能なくして語れない。元々、彼女が業界入りした1950年代終盤とは、アメリカ音楽の過渡期だった。リトル・リチャード引退とエルヴィス入隊によって勢いを失っていたロックンロールを「いっときの流行りで終わるジャンル」と判断したマネージャーによって、ブレンダはフランク・シナトラ的バラード路線を歩むこととなった。しかしUKでは荒々しいロカビリースターとして人気だったため、国によって異なるパフォーマンスを行っていたという。
だからこそ、若者と親世代の両方を魅了するスターとなったわけだが、彼女の適応範囲はさらなるものだった。たとえば14歳で歌った「Sweet Nothin’s」は当時R&Bチャートでも好成績をのこしたソウルフルなヒットで、今ではプリンス「Kiss」、カニエ・ウェスト「Bounds 2」のサンプリング源としておなじみだ。1970年代以降はルーツたるカントリーに集中していき、1980年代に至るまでヒットを出していった。
つまるところ、ブレンダ・リーとは、現代USポピュラーミュージック基礎形成期にポップからロック、カントリー、ソウル、R&Bまで行き来したボーカリストなのだ。その多彩で柔軟な才能は、初期曲「Rockin’ Around the Christmas Tree」時点で発揮されていた。
「“Rockin’ Around the Christmas Tree”はファミリー向けのミッドテンポでありながら洗練されていて、弦がつんざくのにソウルフルで、踊りやすいのに重くなりすぎず、巧みに歌われているのにリスナーが合唱しやすく、キャッチーで世代を超えて楽しめる。もはや、季節すら問わない曲なのかもしれない。7月に流れたていたら奇妙だろうが、それでも、すべてのオーディエンスを満足させるだろう」(アニー・ザレスキー、音楽ジャーナリスト)
このバランスこそ、現役スターたちがしのぎを削る「新たなる定番ホリデーソング」化の秘訣かもしれない。この曲には、アメリカンミュージックの普遍的な魔法が宿っている。なにより、ブレンダ・リーの歌声は、いつまでも「ダイナマイト」だ。
Written By 辰巳JUNK
ブレンダ・リー『A Rockin’ Christmas with Brenda Lee』
2023年11月3日発売
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