長谷川町蔵インタビュー:映画サントラの過去、現在、未来(後編)
ライターとして活躍され「文化系のためのヒップホップ入門」や「ヤング・アダルトU.S.A.」、「21世紀アメリカの喜劇人」といった映画音楽関連著書だけではなく、今年には初の小説「あたしたちの未来はきっと」を発売と活躍されている長谷川町蔵さん。彼がこの10月に発売した新刊「サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画」の話を中心に、映画サントラについてお伺いしたインタビュー後編です(前編はこちら)。
スコアもので目立つ作曲家
──デビット・フィンチャーも音楽をわかっている監督ですもんね。
長谷川 最近はトレント・レズナーを使っていますし。逆にスピルバーグはジョン・ウィリアムスに全てを丸投げですよね(笑)。
──ジョン・ウィリアムスでいうと「ジョーズ」とか「E.T.」とか「スター・ウォーズ」とかお茶の間でも通じるようなスコアを聴いただけで「あの映画だ!」ってわかるものがいっぱいありますよね。歌詞のある曲を使うのではなくてスコアでいうと最近の作曲家や映画で注目されるものはありますか?
長谷川 スコアでいうとクリフ・マルティネスとかすごいキャラが立っていると思いますね。作品で言うと「ドライヴ」とか「ネオン・デーモン」とか、ソダーバーグの作品とか。「スプリング・ブレイカーズ」もそうなんですよ。「ネオン・デーモン」はニコラス・ウィンディング・レフン監督で、「スプリング・ブレイカーズ」はハーモニー・コリン監督ですけど同じジャンルの映画じゃないですか。音が映画のトーンを支配しているんですよね。だからクリフ・マルティネスはキャラが凄い立っていると思いますね、音楽面から映画を支配していて。あと最近だとやっぱり「ワンダーウーマン」のテーマの「Wonder Woman’s Wrath」はスコアとしては大ヒットと言えるんじゃないですかね。あれはハンス・ジマーとジャンキーXLが「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」のサントラで作った「Is She with You?」をルパート・グレグソン=ウィリアムズが今回改編したものですよね。
──今と昔を比べるとスコアよりも歌ものをサントラに使うことが多くなってきましたね。
長谷川 そうですね、いわゆる純クラシック的にサントラを聴く文化っていうのが残念ながら廃れちゃっていて、アレクサンドル・デスプラとかそういう人たちもいますけどね。
──でもそういうタイプのサントラがバカ売れって言う時代じゃないですよね。
長谷川 この本には、個人的な好みとかもあって取り上げなかったですけれどもデスプラ以外だとトーマス・ニューマンとかちゃんとした仕事している人はいて、彼が「アメリカン・ビューティー」でやったマリンバを使った現代音楽みたいなやつは、他の映画の作曲家もみんな真似していたりして、地味な中にもトレンドっていうのはありますよね。
──あとスコアものだとマックス・リヒターの「メッセージ」の主題歌は反響ありましたね。あれはまさに純文学的な使い方になるんでしょうか?
長谷川 そうですね、あれは曲の生まれた背景込みで使っているっていう面白い使い方ですよね。歌詞がないから分かんないんですけど、いろいろ調べてみるとそういうことだったんだっていうのがわかってくるのが面白かったですね。(*長谷川町蔵さんによる寄稿:映画『メッセージ』とマックス・リヒターはこちら)
──本来はメインテーマも含めて全てヨハン・ヨハンソンがやる予定だったそうですね。
長谷川 ヨハン・ヨハンソンは「ブレードランナー 2049」からも外されてちゃってかわいそうですよね。結局ハンス・ジマーになってまたパーカッションがボコボコ鳴ってて(笑)。
──「ブレードランナー 2049」は実際映画を見てどういう音になってました?
長谷川 割とヨハン・ヨハンソンに音は寄せた感じなんです。でもパーカッションはバカスカ鳴ってて、逆にヴァンゲリスっぽいテクノっていう音ではなかったですね。むしろ「マイティ・ソー バトルロイヤル」の音楽がマーク・マザーズボーで、すごいテクノでした。今まで「マイティ・ソー」はいわゆるクラシックだったんですけど今回はリブートっていうか、神話だったのが宇宙人の話になっていて、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の世界観に寄せてってるんですね。だからノリも軽いんですね。だから音楽もそこを狙ってマークに頼んでいるんだと思います。ピコピコいっているすごい呑気な曲とかあるんですよ。
ミュージシャンがサントラを担当するブーム
──トレンドで言うと、本の中にもありましたが、いわゆるハンス・ジマーとかのサントラ職人がファレルだとか、ジャンキーXLをフックアップしている最近の流れは面白いですね。ファレルの「ハッピー」なんか、映画の曲って知らない人も多いですよね。
長谷川 そうだと思います。ファレルの「ハッピー」って主題歌で使われた映画「怪盗グルーのミニオン危機一発」と曲がヒットしたタイミングにズレがあるんですよね。あの曲はアカデミー賞の主題歌にノミネートされてほんとにヒットしたのはそこからなんです。そこでようやく映画じゃなくて、一つの曲として聞かれてそれで売れたから、映画のタイミングとちょっとズレてるんですよね。
──ファレルもそうですが、そういうミュージシャンをフックアップしてサントラを書かせるっていうのは面白いですよね。新刊の中にもハンス・ジマーと仲間たちについて書かれていて、まとめてみると結構いて面白かったです。
長谷川 ジョニー・マーとかもそうですよね。クラシック・ベースの音楽で全部仕切るにしては今の映画ってあまりにもテクノロジーが使われていて映画としてポップなので、クラシック・ベースだとちょっとズレて聞こえちゃうことが多いんでしょうね。ただ、オーケストラが生み出したサウンドの演出力っていうのを超える音っていうのはなかなかないので、何とかそれをアップデートするため、あとはハンス・ジマーが元々はロック上がりっていうのもあるから、色んなミュージシャンを仲間に引き入れてて映画音楽をアップデートしていかないとまずいんじゃないかという気持ちがあるのかもしれないですね。
他にもダニー・エルフマンとか、マーク・マザーズボーとかのただのロッカーだった人が今や大家になってるの人もいて、逆に言うとオーケストレーターは雇えますけど、センスは雇えないんで。そういう感覚的なものはやっぱり別物なので、だから今後も増えてくるんじゃないですかねレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドとかのそういうパターンが。
──本の中にもありましたが、ミュージシャンがソロ・アルバムを出す時には、とりあえずお試しとして最初に出すのはサントラが多いと。ジョージ・ハリスン(『Wonderwall』)、パール・ジャムのエディ・ヴェダー(『Into the Wild』)とかもそういう風にセンスを求めてアーティストにお願いしたってことでしょうか?
長谷川 そうですよね、きっと。映画の種類にもよると思うんですけどもミュージシャンにとっては正直数字を気にしなくていいっていうのが救いなんじゃないですかね。ぶっちゃけギャラももらえるわけじゃないですか、自分で持ち出さなくても音楽が作れるってわけで。しかもいろいろ実験的なことも試せるし、売上や成果もそれほど求められないなので腕試しをするのにちょうどいいというのがありますよね。
日本のサントラが抱える課題と問題
──昔だとレコーディングスタジオに入らないと音が作れないっていうのもありますよね。ちなみに日本のサントラで「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」みたいな、ありものの曲だけ集めたサントラがほとんどないっていうのは使用料の問題、以外には何があるんでしょうか?
長谷川 英米だと、カウンターカルチャーと一緒に始まったロックとか、それがメインの音楽になったと言う経緯があって。だからそういう昔のロックを寝かせて使うとカッコいいし、みんな過去のヒット曲も知ってるいんですよね。それが日本の場合だと、それがメインになったのが90年代に入ったJ-Pop以降で、もちろん80年代の歌謡曲もいいものあるけどヒップかっていうと断言するのは難しいし、あと90年代以降のJ-Popも90年代いっぱいはヒットしたものがあるけれども、それ以降はヒットしていてもみんなが知っているわけではなくなってきたので、そこが理由の一つだと思うんですよね。それと日本の場合、娯楽映画でも監督自体のメンタルが純文学的というか、いろんなファクターでそうなっているんだと思いますが、別にやってもいいと思うんですよね。
──クラシック的なスコアのサントラものが多いですよね。
長谷川 あとは書き下ろし主題歌とか頼んじゃうとか、過去の曲使ってそんなのものおいしくないと言われて終わっちゃうところがあるんでしょうね。エイベックスとかが主導でそういう青春映画を作ればいいんじゃないかと思うんですよね、TRFとかみんな知っているわけだし。それだと面白いもの作れそうだと思うんですよね。
2018年注目のサントラは?
──今年はサントラ当たり年というか「ラ・ラ・ランド」や「SING/シング」や「ベイビー・ドライバー」、「ワイルド・スピード」だったりヒットが色々ありましたが、来年サントラが期待できそうな映画はありますか?
長谷川 さっきのスピルバーグの話の続きにもなるんですけれども、彼が監督する「レディ・プレイヤー1」という映画があって、その原作を読んだんです。原作の中では、「オアシス」って呼ばれるオンラインゲームでバーチャルワールドに入ってゲームをするんですが、そのゲームを作ったスティーブ・ジョブズのような大富豪のスター創立者が亡くなるんです。でその人は、その「オアシス」を管理する巨大企業の支配権をゲームの中に紛れ込ませたから、全部解いた人に譲るみたいなことを残して死んじゃうんです。そこでゲーマーが参戦して「オアシス」の中でバトルするというストーリーです。で、その死んじゃった大富豪は80年代オタクと言う設定なんですよ。だから小説の中にもありとあらゆる80年代トリビアが入っていて、音楽も入っているし映画も入っているし。映画では、既存の映画の版権をどれくらい使えるかっていうハードルがあって、音楽も相当出てくるんですが、スピルバーグなんですよね。大丈夫か? わかっているのか? っていうのが心配で。そもそもこの小説の映画化自体、スピルバーグがやるような映画じゃないし、なんならスピルバーグは原作では言及される側で、スピルバーグの映画も出てくるんですよ。本当ならエドガー・ライトとかが撮るべき映画なのにスピルバーグが撮ることになって、さてどうなるのかっていう、怖いもの見たさがありますね。
──今公開している予告編ではそういう面はあまり出てないですね。
長谷川 ただアイアン・ジャイアントの影だけが見えると言う。
──アイアン・ジャイアントの映画も80年代でしたっけ?
長谷川 あれは90年代ですよね。「アイアン・ジャイアント」の監督はピクサーに合流する前のブラッド・バードですよね。テッド・ヒューズの原作をピート・タウンゼントが大好きでアルバムやミュージカルも作っていたので映画でもエグゼクティブプロデューサーになっているという。
──「レディ・プレイヤー1」の原作にはどういうミュージシャンが出てくるんですか?
長谷川 色々ですね。出てくるのはそれこそゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツとかミッドナイト・オイルとか、曲名とかアーティスト名も物凄く出てくるんです。
──他の映画だと「デトロイト」はとかはどうでしょうか?
長谷川 「デトロイト」は良かったですね。舞台がデトロイトなのでずっとモータウン流れていて、それと実はあの映画はドラマティックス物語なんですよね。主人公がドラマティックスのメンバーで、彼が巻き込まれるんです。
──予告篇で拷問されている彼ですか?
長谷川 そうです、そうです。彼はドラマティックスのメンバーなんですよ。ドラマティックスがこんなにフィーチャーされる映画はすごいなと思って。ドラマティックスはデトロイト出身でタレントショウに出ようとしていて、それで事件に巻き込まれちゃうんです。それに劇中のラジオとかではずっと地元のレーベルのモータウンが流れていて。
──ドラマティックスはモータウンじゃなくてスタックスですよね?
長谷川 ドラマティックスがスタックスからデビューするのは、デトロイト暴動からちょっと後のことなんで、下積み時代のドラマティックスが出てくるんですよ。
──なるほど、実は意外とソウルファンも見るべき映画なんですね
長谷川 予告編だけ見るとデトロイト暴動だけの話なんですけど、実はビックリ、ドラマティックスの映画なので、音楽ファンも見て頂きたいですね。
──最後にお聞きしたいですが、この本の見所はどこでしょうか?
長谷川 どの章から、どこから読んでもいいので肩肘はらずペラっと読んで、気になった音楽も聴いてもらえればと思います。
──ちなみに、音楽ライター映画ライターとして活躍されていながら、今年は小説「あたしたちの未来はきっと」を出されていますが、書こうと思ったきっかけはなんでしょうか?
長谷川 2014年に「ウィッチンケア」って言うインディー文芸雑誌から原稿を頼まれたんですが、テーマは何でもいいけど普段書かないものがいいと言われて。だとしたら普段頼まれないようなことをした方がいいと思ったんで小説、フィクションを書いてみようと思って年1本書いていたんです。第1章にあたる所はその前に自分のブログで冗談でシャレとして書いていたやつで。誰も気にしてないと思うんですが、ブログで書いたものに出てくる登場人物が、他の章にも必ずどこかに登場するってルールを自分で作って勝手に世界を広げていったんです。そういうものを書いていたら2016年の夏にタバブックスからまとめて出さないかっていう話があって、その時点で4本連載のストックがあったんですけど残り6本を一気に書き上げました。読んでくれたら嬉しいです。
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新刊情報:『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』
著:長谷川町蔵 定価:本体1800円+税
ISBN 9784800313461
紀伊國屋書店・Amazon
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新刊に出てくる音楽を長谷川さんがまとめたApple Musicプレイリスト公開中