[映画公開記念] 日本を代表するレゲエミュージシャン、HAN-KUNが語るボブ・マーリーとジャマイカ
海外で2024年2月14日に劇場公開され全米興行収入2週連続1位を記録、英仏ではあの『ボヘミアン・ラプソディ』を超える初日興行収入、母国ジャマイカでは初日興行収入としては史上最高数を記録したボブ・マーリー(Bob Marley)の伝記映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』。
日本では2024年5月17日に公開されたことを記念して、ライター/翻訳家の池城美菜子さんによるボブ・マーリーの生涯と功績についての連載企画を掲載。
今回は連載の特別編として、湘南乃風のメンバーであり、ソロをしても精力的に活動を続ける日本を代表するレゲエ・ミュージシャンのHAN-KUNへのインタビューを掲載。
・連載第1回「改めてボブ・マーリー、そしてレゲエとは」
・連載第2回「ボブ・マーリーの音楽のどこが時代を超えて人々の胸を打つのか」
・連載第3回「ボブ・マーリーの11人の子供と100人近い孫」
・連載第4回「ボブ・マーリーを巡る音楽関係者」
・連載第5回「事前にこれだけは押さえておきたい4つの知識」
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「ジャマイカからの移民がいないのに、どうして日本ではレゲエが人気があるの?」とジャマイカ人からもアメリカ人からもよく尋ねられる。答えは筆者もわからないのだが、日本のレゲエ・アーティストやサウンドマンが音を鳴らし続けているのは、人気の理由として大きいだろう。なかでも、湘南乃風のHAN-KUNはよりジャマイカのレゲエに近い音にこだわって活動してきたアーティストである。ボブ・マーリーのタフ・ゴング・スタジオで何度もレコーディングした彼に話を聞いた。
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ソロ活動15周年
―― ソロ15周年、おめでとうございます。
ありがとうございます。日比谷(公園大音楽堂)と大阪は服部緑地(野外音楽堂)でやらせていただいて、天気予報を裏切って両日とも天気が晴れに変わったのが、うれしかったです。
―― あれ、今年でまだ15周年? と思ったのですが。
じつはソロ・デビューは2008年だから去年なんですけど、それだと湘南乃風のメジャーデビュー20周年と被ってしまうので、僕のほうを1年ずらしてカウントしています。実質、16年目です。
ボブ・マーリーとの出会い
―― なるほど。今回は映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』にちなんだインタビューです。ボブの彼の音楽について、最初の印象を覚えていますか?
ふり返ってもなかなか思い出せないくらい、よく知らないうちから聴いていましたね。あらためて聴こうと思ったのは、クラブに遊びに行って、レゲエを聴き込むようになってから。カティ・ランクスも参加しているココ・ティーの「Waiting in Vain」が流れて、アルバムを買って聴いているうちに、あれ、これボブの曲じゃなかったっけ? と思って向き合ったという順番かもしれないですね。
―― 80〜90年代に湘南で育つとボブ・マーリーが街で流れているってことですね。
流れていましたね。先輩の車に乗せてもらっても、街を歩いていても、スケーターの友だちのラジカセからも、ショップに行っても、彼の曲が流れていました。
―― ご自身でマイクを握って、歌詞を書くようになって、ボブの凄さにあらためて喰らうと思うのですが。
そうなんですよね‥‥なんだろう、英語ができる、できないは別として、あ、(ボブの曲は)歌いやすい、と思いました。たとえば、サビの部分とかも意味はわからなくても口ずさめる。メロディーと譜割、言葉数のバランスがいいんだ、こういうのがヒットするんだな、と始めた頃に思いました。自然とメロディーが残るし、一緒に口ずさんだらちゃんと歌えている気がするから、メロディーセンスがいいんだな、と。
―― ボブ・マーリーでとくに好きな曲、ステージでふっと取り入れるような曲はありますか?
「Waiting in Vain」は最初から好きで聴いていましたね。それから、制作に参加したジュニア・マーヴィンの間奏のギターソロもすごく好きでした。あとになってから、その背景の話を読んで、そういうすばらしい出会いがあったんだ、って学んだのですけど。世界中で歌われている「One Love」にかんしては、僕もライヴ中のMCでなんとなく愛のことに触れるときは、自然と出てきますね。さっきの話につながって、なんかふとメロディーを思い出したり、ちょっと口に出すと自然にみんなも一緒に参加できたりする力を持っているのはすごいなぁと思っています。
ジャマイカのタフ・ゴングでの録音
―― サード・アルバム『VOICE MAGICIAN III ~ROAD TO ZION~』と次の『VOICE MAGICIAN IV ~Roots&Future~』で、ダミアン・マーリーの『Welcome to Jamrock』や彼とNASの『Distant Relatives』のエンジニアを務めたボンザイ・カルーソを起用しました。じつは、私がコーディネイターを務めたんですが、すごく楽しいお仕事でした。どのあたりにこだわってオファーしようと思ったのでしょうか?
ダミアン・マーリーのアルバムを聴いて、どうやったら近い音に持っていけるんだろう、と思ったのがきっかけですね。ジャマイカのタフ・ゴングで現地のミュージシャンとレコーディングしたサウンドをより理想の形に近づけるには、やっぱり同じミックス・エンジニアにお願いするのがまちがいないのかな、と。それで、連絡した次第です、はい(笑)。
―― ラスベガスを拠点にしているアメリカの方だったんですけど、通常のミックスともうひとつ「ボンザイ・ミックス」を用意してくれたのが印象的でした。そちらはアルバムでは少し浮いてしまうくらいメリハリが強かったけれど、単体ではかっこよくて。そのプロフェッショナルな姿勢がマーリー・ファミリーとの仕事につながるのかな、と思いました。タフ・ゴングでのレコーディングはいつから?
ソロの前、湘南乃風でレコーディングすることになったときから行っていました。
―― 00年代前半からになりますね。
そうです、メジャーデビューが決まったので、制作費を持ってジャマイカに行きました。
―― クリス・ブラックウェルがザ・ウェイラーズときちんと契約する前にいきなり4,000ドルを渡した話と近いものを感じますが、現金を持って行ったわけですね。
はい、4分割して(笑)。曲作りのプロセスとか全然知らないまま、ジャマイカ行ったらどうにかなるだろうって。ミュージシャンをどうする? という相談から先輩の力を借りて。集まってくれたミュージシャンたちにその場でイメージで伝えて、気づいたらオケができ上がっている、みたいな場所でした。でも、(作業が進むなかで)何も言えない、どうにか立ち戻ってもらえるように勇気を出して言ってみる、そうしたら嫌がられる、ウーどうする‥みたいな(笑)。最初から、(スティーヴン)レンキー(※)とかに来てもらえたんです。
※レンキー:スティーヴン“レンキー“マーズデン。キーボーディストにして、モンスター・リディム「Diwali」を生んだ人気プロデューサー。
―― レンキーはすごいですね。
浅知恵かもしれないけれど、ボブ・マーリーのスタジオは聖域ですから。そこでモチベーションが上がって、絶対に制作の時はこのタフ・ゴング・スタジオでしよう、(ジャマイカに)仕事で帰ってこられるようにしよう、という気持ちになれました。ありがたいことに、それが実現できました。ここ数年はパンデミックで戻れていないですけど。
―― タフ・ゴングの機材はどんな感じですか?
ドラムにガムテープが貼ってあるし、毛布もその辺に置きっぱなしなんですよね。エンジニアの人もガンマイクをスネアやパズドラにしっかり差さなくて、クネってなっているままだったり。日本から一緒に行ったエンジニアも「大丈夫かな」って言っていました。湿気や気候の違いもあると思うんですけど、結局、叩き手のスキルなんだな、と。楽器も大切だけど、その人が持っている力やグルーヴがすべてなんだな、と、その環境下で強く感じました。もちろん昔からある楽器や機材のメンテナンスもやっているし、大事だけれど、結局ミュージシャンの持っている底力で決まるんだと思いました。
―― ジャマイカのミュージシャンの演奏は、命がけというか、人生かかっているんだろうな、と思わせる迫力がありますよね。
そうですね、その回のレコーディングでどれだけ見せるかに、ワンテイクに賭ける重みがちがいますよね。そこにクオリティ、生き様がすべて吹き込まれるというか。
―― スタジオの隣にレコードのプレス工場もありましたね。
ありますね。稼働しているのを見たことはないですが。
―― ジャマイカには何回くらい行かれていますか?
2019年までは毎年行っていました。
―― ジャマイカに行ったら、必ずやることはありますか?
基本、ホテルとスタジオの往復です。ダンスは、疲れていなかったらちょっと行く、みたいな。
―― 私はボブ・マーリー・ミュージアムへ必ず行きます。神社みたいに一応行かないとまずい、みたいな。
わかります。僕も行きますね。
日本の名曲をカヴァー
―― HAN-KUNは『Musical Ambassador』の連作で、日本の名曲をレゲエにしましたよね。レゲエはジャズやR&Bをジャマイカ流にして発展した音楽で、いまでもアメリカのヒット曲をレゲエ・カヴァーにする文化があります。ボブ・マーリーもザ・ウェイリング・ウェイラーズ時代にやっていたわけですが、あの企画は、そのあたりも参考にしたのですか?
それが、一番やりたいなと思った理由です。僕は日本にレゲエを広めたい想いを持ってやっているけど、なかなか届きづらい部分もあって。もっと、ワンステップで大きく届く方法はないかなと思ったときに、そうだ、カヴァーがあるじゃん、って思い出したんです。ジャマイカの文化でもあるし、日本にはたくさん名曲もあるし、僕も日本人としてたくさん好きな曲もあるし。日本の名曲の力を借りて、みんなが歌える歌がレゲエにアレンジされれば、みんなもバリアーを貼らずに耳を傾けて、心を開いてくれるかなと。
―― カヴァー・ソングはレゲエを聴くきっかけとしていいですよね。
そう。自分も純粋に好きな曲を歌える楽しみもあったし。日本の名曲に改めて向き合う時間でもあって。なんでこの名曲はここまで受けられたんだろう、と考えながら歌詞と向き合いました。それで、名曲には「間」がつきものなんだ、と腑に落ちたんです。レゲエも「間」の音楽ですよね? だから、そこでつながる部分があって。日本の名曲とも手法の部分でつながる、同じ落とし所があると、あらためて気がつきました。
―― レゲエ・カヴァー向きの曲と、意外と難しい曲があるかと思います。選曲はどうやってされたのですか?
2枚のうち、1枚目は実際に歌ったことがある曲だけを選びました。友だちとカラオケで歌ったとか、よく街や車で流れていた、親が好きだったといったか自分の素地になっている曲だけを歌わせてもらって。歌詞を見ないで歌える曲ですね。レコード会社の方たちも僕の気持ちに賛同してくれたので、すんなり決まりました。自分で歌いたい、という気持ちを載せるのが原曲の方に対するリスペクトになるので。
2枚目は、自分でもレゲエで聴いてみたい、女性シンガーの曲をアレンジして歌いました。それから、1曲目から1970年代から始まって2010年代までに10年区切りで選曲しています。70代の人たちが、お孫さんやお母さんとかも一緒に聞いて楽しんでくれるアルバムになるといいな、と思って。
―― カヴァーしたアーティストからのフィードバックはありました?
ありました。モンパチ(MONGOL800)の清作に直接DMで聞いたら、ヤシの木のスタンプが送られてきて、あ、沖縄流のOKなんだな、と(笑)。
T-BOLANは紹介していただいて、食事をしながらお願いしました。リリース記念のライヴにお呼びしたら、「僕らもライヴがあるから行けないけど、どうしても聴きたいから」と、リハーサルに来てくださって。会場の真ん中に座っている森友(嵐士)さんに向かって一生懸命歌う、オーディションみたいなことになりました(笑)。歌い終わったとたん、わかった、みたいな感じで出て行かれて、ありがたかったです。
―― SKY-HIさんとの「HEAD SHOT」はダンスホールっぽいけれど、サビは少しレゲトンになりますね。この組み合わせが実現した経緯は?
フェスでは顔を合わせているうちに、ジャンルも生きてきたレールも違うけれど、グループにいながら自分の好きな音楽に向き合う姿勢が同じだな、と感じていました。彼もアイドルグループをやりながら、1人でフリースタイル・バトルに名前を変えて出場するくらいカルチャーを愛しているから。一昨年、ラジオに呼んでくれたときに、向こうも僕の動きを見ているのがわかって、いつか一緒に曲をできたらいいよね、という話になって。今回15周年のタイミングでお願いしたら、ダンスホール・ベースでやりたい、と言ってくれたんです。レゲトンのほうがヒップホップに近いから、ブレンドして落とし込みました。
映画で最もグッときたところ
―― 声の相性がいいですよね。映画の話に戻します。『ボブ・マーリー:ONE LOVE』はどの場面で一番、グッときましたか?
いろいろあったんですけど‥.自分も歌を書いているので、歌詞が生まれる瞬間の描写、「Turn Your Lights Down Low」の歌詞を書いている場面が良かったですね。こういう空気感の中で生まれたのか、と歌詞と絵がつながったのがうれしかったです。自分でも、あらためて話しかけるような歌詞、いま話しているように伝えたい言葉にメロディーをつけるのが、やりたいことなんだと思えましたね。自分の目指すところはそこだな、と。
―― レゲエ・アーティストとして、伝えたいことがあれば。
この映画は、レゲエを知らない人こそ、観てほしいです。それから、現場と呼ばれる場所に来てほしいですね。本国ジャマイカとレゲエを愛して、それを日本に広めていこうとしている若い子たちから先輩たちまで音を鳴らしているので。いつ爆発してもおかしくないような才能もたくさんいるし、より多くの人に気づいてもらうために、間口を広げるのが俺たちの仕事だと思っています。だから、チャンスがあれば、歩み寄っていただけたらうれしいです。
***
ミックスのコーディネイトをした際、ボンザイ・カルーソ氏に音源とともにHAN-KUNの歌詞を英訳して渡した。「ハンパねぇ」だけぴったり来る単語が見つからなかったため、口頭で説明しようと電話をしたところ、「ノープロブレム、歌を聴いたらわかったよ、“ハンパねぇ” 、わかる」と即答されて驚いた。感情やヴァイブは言葉を超える、と身に染みた瞬間だった。
Written By 池城 美菜子(noteはこちら)
『One Love: Original Motion Picture Soundtrack』
2024年2月9日配信
日本のみフィジカル(CD、LP)発売決定
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2024年3月10日
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映画情報
『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
■監督:レイナルド・マーカス・グリーン(『ドリームプラン』)
■出演:キングズリー・ベン=アディル(『あの夜、マイアミで』)、ラシャーナ・リンチ(『キャプテン・マーベル』)
■脚本:テレンス・ウィンター(『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』)、フランク・E ・フラワーズ、ザック・ベイリン(『グランツーリスモ』)、レイナルド・マーカス・グリーン
■全米公開:2024年2月14日
■日本公開:2024年
■原題:Bob Marley: One Love
■配給:東和ピクチャーズ
■コピーライト:© 2024 PARAMOUNT PICTURE
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