【コラム】“念願は、諦めかけた頃に現実になる”ガンズ・アンド・ローゼズ『Appetite For Destruction』リイシューについて by 増田勇一
1987年に発売されロック史に残るガンズ・アンド・ローゼズのデビュー・アルバム『Appetite For Destruction』。2018年6月29日に発売されるこの名盤の初のリマスター、そして全5形態でのリイシューについて、バンドをデビュー前から現在まで追い続けてきた音楽評論家の増田勇一さんに今回の発売の意義や内容について寄稿していただきました。
「天災は、忘れた頃にやって来る」という言葉があるが、ガンズ・アンド・ローゼズをめぐるあれこれにもそれによく似たところがある。正確に言えば「念願は、諦めかけた頃に現実になる」ということになるだろうか。一昨年の春から続いているリユニオン・ツアーもそのひとつだし、そこに〈Not In This Lifetime〉、すなわち〈この一生を通じて起こり得ないこと〉という意味合いのタイトルが掲げられていたりするのを見ると、こうした感覚というのは復活をずっと待ち焦がれていたファンのみならず、当事者にとってもきっと同じなのだろう、と確信させられる。
今回の『Appetite For Destruction』のリイシューに関しても同様のことがいえる。このアルバムが世に出たのは1987年7月のこと。日本盤のリリースは2ヵ月後の同年9月のことだった。計算の苦手な僕でも、その発売30周年という記念すべきタイミングが訪れるのが2017年の夏だということは前々からわかっていた。リユニオンについてもそれを見据えたものなのだろうと解釈していたし、きっとその時期には特別な何かが世に出たり、信じられないような出来事が起きたりするに違いないと想像していたものだ。実際、昨年7月20日にはニューヨークはハーレムのアポロ・シアターで招待制のスペシャル・ライヴが行なわれていたりはする。が、そこに〈あの頃の5人〉が集結することはなく、『Appetite For Destruction』が完全再現されることもなかった。噂は、噂のまま終わった。そこでファンの多くは「そんなこと起こるはずないよな? 期待しすぎた自分が悪かったよ」などと口では言いつつも、「いや、もしかしたら……」と希望を捨てきれずにいたのではないだろうか。
そしてなんと、発売から満31年を迎えつつある不思議なタイミングで、この歴史的名盤が装いを新たに登場することになった。その情報が公開されたのは、日本が黄金週間の真っ只中にあった頃のこと。連休モードで気持ちを緩めていたところに、緊張が走った。しかもこれがただのリマスター盤などではない。収録内容などの詳細については説明し始めると長くなるのでこの場では触れずにおくが、なんと海外旅行に行けそうなくらいの価格のボックスセットまで登場する。僕のツイッターのタイムラインはその話題で一気に埋め尽くされ、ボックスはいつの間にか〈箪笥〉などと呼ばれるようになり、「箪笥、予約した?」「いや、さすがにアレはきつい」「勢いでポチッとしてしまった」といった微笑ましくも悩ましいやりとりが目に飛び込んでくるようになった。
というわけで、いよいよ『Appetite For Destruction』を新たな形で味わうことのできる日が近付きつつあるわけだが、僕自身が今回、何よりも楽しみにしているのは、これまで31年間にわたり聴き続けてきたこのアルバムの〈今〉の基準に則ったリマスター音源そのものだ。発売から長い時間を経てきた名盤たちの多くがリマスター盤としてリイシューされ、音楽ファンのCD棚には同じアルバムが複数枚並ぶ傾向が強まっているはずの今日この頃だが、そうしたアイテムが登場するたびに、多くの人たちは〈ずっと慣れ親しんできた音のイメージを壊したくない〉などと思いつつも、実際にいざ新たな音源に触れてみれば、かつては聴こえていなかった音の存在に気付かされたり、全体的な聴こえ方の違いに驚かされたりしてきたはずだ。そうした興奮とスリルを、いよいよこの『Appetite For Destruction』で味わえるようになるのだ。念のために補足しておくと、この作品については過去にSHM-CDでの再発や紙ジャケ仕様での復刻などはあったものの、いわゆるリマスター音源の登場は今回が初ということになる。
同時に、今回初めて世に出ることになるレア・トラックの数々も見逃せない。今回のアイテムからの先行リリースという形で登場したのが“Shadow Of Your Love”だという事実がまたファンの心を刺激せずにおかない。これは過去、『ライヴ・フロム・ザ・ジャングル』の邦題で発売されていたEPにライヴ音源で収録されていた楽曲。資料によれば、今回収録されている音源は、『Appetite For Destruction』のレコーディング開始を前に、同作のプロデューサーに起用されたマイク・クリンクにより録られたものであるようだが、このトラックが先行公開されると「この曲のスタジオ音源が存在していたとは!」といった驚きの声のみならず、「だけどこの声、今のアクセルのようにも思えるんだけど?」といった疑念までもがインターネット上に飛び交うようになった。いや、まさか現在の彼らがこの曲を録り直しているとは考えにくいし、収録内容についてのクレジットに嘘があるとも考えられない。が、これまで数えきれないほどの〈まさか〉を重ねてきたこのバンドだからこそ、簡単に〈あり得ない〉とは言い切ることができない。もしかしてあのボックスセットには、告知もクレジットもされていない秘密の何かがこっそり収録されていたりするんじゃないだろうか? なんだかそんな歪んだ期待感まで膨らんできてしまう。
話は少しばかり逸れるが、〈Not In This Lifetime〉と銘打たれたツアーは現在も継続されており、去る6月3日からはヨーロッパでの公演がスタートしている。その初日となったベルリン公演では、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーの“Slither”が初披露され、ファンを驚かせている。そして6月6日、デンマークはオーデンセでの公演では、その“Slither”に加え、“Shadow Of Your Love”が演奏されているのだ。彼らがこの曲をライヴで演奏するのは、実に1987年6月のロンドンはマーキー・クラブでの公演時以来だという。しかも6月6日というのは、1985年にガンズ・アンド・ローゼズが〈あの5人〉でのライヴを初めて行なった記念すべき日でもある。
満30年という大きな節目を素通りするかのように見せかけておいて、こうして31周年直前になって『Appetite For Destruction』復刻を実現させているガンズ・アンド・ローゼズ。やはり夢は、諦めかけた頃に実現するものなのかもしれない。そしてこの先にも、〈あり得なかったはずのこと〉が次々と現実になっていくさまを楽しみ続けたいものである。
Written By 増田勇一
『Appetite For Destruction』6/29発売
- BOX SET : 超豪華ボックス Locked N’ Loaded Edition
- 4CD+1Blu-ray:スーパー・デラックス・エディション
- 2CD:デラックス・エディション
- 1CD:リマスター
- 2LP:リマスター、180g重量盤
- ガンズ・アンド・ローゼズ アーティストサイト
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(シンコーミュージック刊)