『BETTER MAN/ベター・マン』を見る前に聞くと映画をより楽しめる5つの楽曲

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Robbie Williams - Photo: Mike Marsland/WireImage

英米では2024年12月末に一部劇場で限定公開された後に拡大公開され、日本でも3月28日に劇場公開が決定している映画『BETTER MAN/ベター・マン』

2017年の長編映画監督デビュー作品『グレイテスト・ショーマン』が世界中で大ヒットを記録したマイケル・グレイシー監督による長編第2作となるこの作品は、英国随一のポップ・スターであるロビー・ウィリアムスをCGを使って“サル”として描き、そのビジュアルで観客に衝撃を与えながらも、ミュージカル映画としても評価され、映画批評サイトのRotten Tomatoesにて批評家からのレビューが90%、観客のレビューが95%という高い数値をたたき出している(2025年1月9日現在)。

では、この映画で描かれたロビー・ウィリアムスとは、どういったアーティストなのか? 彼をデビューの頃から追い続けている音楽ライターの新谷 洋子さんに連載として解説いただきます。その第4回は、知っていると映画をより楽しめる5曲についてご紹介。

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1. My Way

映画『BETTER MAN/ベター・マン』の序盤では幼いロビーが父親と一緒に歌う形でフィーチャーされているがゆえに、裏主題歌と位置付けてもいいのかもしれない。そう、親子が愛してやまない20世紀を代表する名曲のひとつ「My Way」のことである。

元を正せば1967年にフランスで誕生し、クロード・フランソワとジャック・ルヴォーが作曲、クロードとジル・ティボーが作詞した「Comme d’habitude」にポール・アンカが英語の歌詞を与え、フランク・シナトラが1969年に「My Way」としてリリース。以来無数のアーティストによって様々な言語で歌い継がれてきたことは、今更繰り返すまでもないだろう。

いわゆるザ・ラット・パック――1950~60年代のエンタメ界を席巻したフランク、ディーン・マーティン、サミー・デイヴィスJr.の三大エンターテイナー――を崇拝していた父親の影響で、自らも彼らの歌に親しんで育ったロビー。

初のスウィング・アルバム『Swing When You’re Winning』(2001年)ではフランクの代表曲のひとつ「It Was A Very Good Year」のヴァーチャル・デュエット(フランクが1965年に録音したオリジナル音源を用いて、ロビーのヴォーカルをプラスした)で1998年に亡くなった彼にオマージュを捧げ、

「My Way」も2000年以降度々ライヴで歌ってきたのだが、実はまだ正式にレコーディングしたことはない。唯一正式にリリースされているのは『Swing When You’re Winning』のリリースを記念して2001年10月1日に行なった、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでのコンサートの模様を収めたDVD『Robbie Williams: Live At The Albert』で観ることができる、ライヴ・パフォーマンスのみ。同公演のフィナーレで、58人編成のオーケストラを従えて「My Way」を歌い切った彼は、感無量の面持ちでうっすら涙さえ浮かべていたものだ。

あれから四半世紀が経ち、ロビーもそろそろ、この曲を録音した当時のフランクと同じ年になる。何しろ死が近付いていることを意識した男が人生を振り返っている曲だけに、半世紀の人生経験を踏まえて改めてレコーディングしても良い頃合いなのではないだろうか?

 

2. Angels

それは、2005年のブリット・アワードでのこと。25回目の開催を記念し、BBCラジオのリスナーの投票で過去25年間のベストソングが25曲の候補から選ばれたのだが、クイーンの「We Are The Champions」、ジョイ・ディヴィジョンの「Love Will Tear Us Apart」、オアシスの「Wonderwall」といった強力な候補を抑えて1位に浮上したのが、ほかでもなくロビーの「Angels」だった。

授賞式ではテイク・ザットのゲイリー・バーロウとハワード・ドナルドに扮したコメディアン/俳優のマット・ルーカス&デヴィッド・ウィリアムスのコンビからトロフィーを渡され、「ごめんよ、ゲイリー、テイク・ザットで才能があったのは俺だったんだ」とうそぶいていたが、彼がこの曲で実力を証明したことは間違いない。

1997年12月にファースト『Life Thru A Lens』(1997年)からカットされた「Angels」は、全英チャートでの最高ポジションこそ4位ながらトップ10圏内に12週間留まって、国内だけで240万枚以上のセールスを記録。ソロ・アーティストとしては初のブリット・アワード(1999年の国内部門最優秀シングル賞)をロビーにもたらした、キャリア最大のヒットソングだ。

自分を見守ってくれる守護天使に捧げたスピリチャルな曲とあって、『BETTER MAN/ベター・マン』ではまさに彼の守護天使だった祖母の死を悼むシーンにフィーチャーされているが、自分の脆さや弱さをさらけ出すことで、ロビーはそれまでに定着していた生意気で挑発的イメージを刷新。人間的な厚みを与え、彼をスーパースターにした曲だったとも言える。

そんな「Angels」は言わばモダン・クラシックとして幾度かカヴァーされており、2018年6月にはなんと、ウェンブリー・スタジアムでライヴを行なったテイラー・スウィフトが、ロビーをステージに招いてこの曲を披露(正確にはロビーの独壇場だった)。客席で起きた途方もないボリュームの大合唱は、テイラーのファンの世代にも曲が浸透していることを証明し、同時に「何これ?」と言わんばかりの彼女の表情は、アメリカと英国でのロビーの認知度の落差を如実に物語っていたように思う。

 

3. Relight My Fire

『BETTER MAN/ベター・マン』のサントラに収録された2曲のテイク・ザットのヒットソングのうち、「Relight My Fire」(1993年発表のセカンド『Everything Changes』からのサード・シングル)は、カヴァーでありながらも彼らにとって2曲目の全英ナンバーワン・シングルとなった、代表曲のひとつ。かつ、リリース当時から現在に至るまでライヴのハイライトであり続け、昨年11月の29年ぶりの来日公演においても例外ではなかった。

そして、『BETTER MAN/ベター・マン』でもやはりライヴのシーンで登場する。このシーンでメンバーが身に付けている衣装は、1994~1995年のツアーで着用していたものをかなり正確に再現しているのだが、「Relight My Fire」を歌う時はそのブラック&レッドのボンデージ風コスチューム然りで、毎回やたら露出度が高い衣装で現れ、大勢のダンサーを引き連れたド派手な演出が成されるのが常だった。

また、映画に描かれているリード・ヴォーカルを託されていたロビーがレコーディングに失敗しゲイリーが録り直したという経緯は実話で、2014年にBBCが放映したドキュメンタリー番組『When Corden Met Barlow』の中でゲイリーは、「他のメンバーに失礼なことをしてしまいました」と後悔を口にしている。

そんな「Relight My Fire」のオリジナル曲は、ダン・ハートマンが1979年に発表し、全米ダンス/クラブ・プレイ・チャートで1位に輝いたディスコ・クラシックだ。

テイク・ザットのマネージャーのナイジェル・マーティン・スミスの提案でカヴァーするに至り、ゲストにフィーチャーされていたロレッタ・ハロウェイのパートはスコットランド出身の大御所シンガー、ルルが担当(1964年にデビューした彼女にとってはこの曲が初の全英ナンバーワン・シングルだった)。以来ルル本人はもちろんのこと、ビヴァリー・ナイトからリタ・オラまで多数の女性シンガーが様々な機会にこの難易度の高いパートを歌ってきたが、ロビーがグループに復帰して行なった2011年のツアー『Progress Live』で披露した際には彼にこのパートが委ねられ、20年越しで歌い手として名誉を挽回している。

 

4. She’s the One

こちらもカヴァー曲、ジョージ・マイケルの「Freedom」の独自ヴァージョンでソロ・デビューを果たしたロビーは、2枚のスウィング・アルバムでアメリカン・スタンダードの数々を歌うなど他者の曲の再解釈も得意としているわけだが、運命の人に捧げたこの美しいラヴソング「She’s The One」(1998年発表のセカンド『I’ve Been Expecting You』からの4枚目のシングル)も自作曲ではなかった。

作者は昨年3月に亡くなったカール・ウォリンジャー。ザ・ウォーターボーイズに結成から間もなく加わったカールは、リーダーのマイク・スコットと共に、“ビッグ・ミュージック”の通称で知られる一時代を築き上げたのちに脱退。ワールド・パーティーを始動させることになる。そのワールド・パーティーの4作目『Egyptology』(1997年)に収められていたのが「She’s The One」であり、カールにアイヴァー・ノヴェロ賞をもたらした曲だ。

ロビーの長年の音楽的パートナーであるガイ・チェンバースがワールド・パーティーに在籍していたことから、ガイがロビーにこの曲を薦めたものと察せられるが、ロビーのヴァージョンのレコーディングにはワールド・パーティーのメンバーが揃って参加(ドラマーのクリス・シャロックはその後ロビーのバンドに加わり、さらにオアシスの一員となって、現在はノエル・ギャラガーとコラボしている)。カールはそれを知らされず、長い間わだかまりが残ったらしい。

アレンジについてもピアノがリードする原曲のスタイルを踏襲しつつ、オーケストラを配してスケールアップさせて、1999年11月に「It’s Only Us」とのダブルA面シングルとしてリリース。すると全英チャート初登場1位を獲得して「Millennium」に次ぐ2曲目のナンバーワンとなり、2000年のブリット・アワード国内部門で2年連続の最優秀シングル賞を受賞している(当時英国のフィギュアスケートのチャンピオンだった、ジョナサン・オドハティとパメラ・オコナーのペアが出演する異色PVも最優秀ビデオ賞にも輝いた)。

『BETTER MAN/ベター・マン』には、より一層シンフォニックにアップデートされた「She’s The One」が、1990年代末に交際していたオール・セインツのニコール・アップルトンとのデュエット形式で織り込まれ、映画の中でも最もロマンティックなシーンを演出。

デュエットと言えば、2010年にオーディション番組『Xファクター』にゲスト出演したロビーが、デビュー前のワン・ダイレクションと「She’s The One」を歌う映像も残っている。かつての自分を彼らに重ね合わせたロビーは、メンバーと交流を続け、折に触れて助言をしていたという。

 

5. Let Me Entertain You

『BETTER MAN/ベター・マン』のクライマックスで描かれるのは、2003年8月に3日間で計375,000人を動員し、英国での観客動員記録を更新した、イングランド南部ネブワースでの野外コンサートの模様だ。その冒頭でロビーは、5枚目のアルバム『Escapology』のジャケットを模して逆さ吊りの状態でステージに現れ、挨拶代わりに「Let Me Entertain You」を歌い始める。

同曲は「Angels」がまだ全英チャートの上位に留まっていた1998年3月、『Life Thru A Lens』からの最後のシングルとして発売され、同チャートで最高3位を記録。生粋のエンターテイナーであるロビーのテーマソングみたいなこの曲は、以来ほとんどのライヴでオープニングを飾り、オーディエンスの高揚感と期待感をかき立ててきた。『BETTER MAN/ベター・マン』が始まって最初に聴こえてくる音楽? それもやはりインストゥルメンタル・ヴァージョンの「Let Me Entertain You」だ。

また、2012年のエリザベス女王即位60周年祝賀コンサートでトップバッターを務めた際にも演目に選び、英国軍の近衛歩兵連隊の楽隊とBBCコンサート・オーケストラを従えてバッキンガム宮殿前の特設ステージに立ち、圧巻のパフォーマンスを見せつけた。

聞けばロビーは、当時公開されて間もなかったザ・ローリング・ストーンズのライヴ映画『ロックンロール・サーカス』をガイと一緒に観てインスピレーションを受け、「Let Me Entertain You」をふたりで書き上げたといい、ロックオペラ的なドラマ性は、この映画にも登場したザ・フー、或いはクイーンの影響を感じさせるものだ。

他方でPVではキッスにオマージュを捧げており、色んな意味で王道のロックンロール・スターたちへのリスペクトを感じさせる。ちなみに、ネブワース公演でロビーが着用しているブラック&ホワイトの衣装の元ネタは、キッスに劣らずエンターテイニングなスウェーデン出身のガレージ・バンド、ザ・ハイヴスだ。

Written By 新谷 洋子


映画公開にあわせてベスト盤が再発ロビー・ウィリアムス『Greatest Hits』
2004年10月18日発売
CDiTunes Store / Apple Music / Spotify / YouTube Music / Amazon Music


映画情報

映画『BETTER MAN/ベター・マン』

2025年3月28日(金)日本全国ロードショー

<監督> マイケル・グレイシー(『グレイテスト・ショーマン』)
<出演>ロビー・ウィリアムス
<原題>『BETTER MAN』

公式HP:https://betterman-movie.jp/
2024 Better Man AU Pty Ltd. All rights reserved




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