『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』サントラ全曲解説:ジョーカーとハーレイ・クインが歌う名曲たち
トッド・フィリップス監督による新作映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(Joker: Folie à Deux)。2019年に公開され世界中でムーブメントとなった『ジョーカー』に続く物語では、ホアキン・フェニックスが引き続きジョーカーを演じ、今回にはレディー・ガガが演じるハーレイ・クインが登場して、スクリーン上で二人は往年の名曲を歌いあげる。
本国では10月4日に公開、日本では10月11日に公開されるこの映画のサウンドトラックで二人が歌う楽曲のオリジナル曲について、新作のネタバレなしで音楽ライターの石川真男さんに解説いただきました。
また、今回のサントラの楽曲とオリジナルや有名となったヴァージョンを聴き比べられるプレイリストも公開となっている(Apple Music / Spotify / YouTube)。
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1. Slap That Bass / Get Happy / What The World Needs Now Is Love
冒頭を飾るのは3曲のメドレー。
ジョージ・ガーシュイン作曲の「Slap That Bass」は、1937年のミュージカル映画『踊らん哉』でフレッド・アステアが歌っていた曲。ハロルド・アーレン作曲の「Get Happy」は、1950年のミュージカル映画『サマー・ストック』でジュディ・ガーランドが歌ったナンバー。バート・バカラック/ハル・デイヴィッド作の「What The World Needs Now Is Love」は、1965年にジャッキー・デシャノンが歌ったヒット曲。
本盤に収録された楽曲は、基本的にはアーサー/ジョーカー役のホアキン・フェニックス、リー/ハーレイ・クイン役のレディー・ガガのいずれかの歌唱、もしくは二人のデュエットによるものだが、この曲のみ、ポスト・パンク期から活躍するオーストラリア出身の異才ニック・ケイヴが歌っている。
さらには、クラシックからジャズやポップスまでクロスオーヴァーに活躍するシンガー、ジャマル・ムーア、そしてテイク6のエルヴィン・チェアやヴィンテージ・トラブルのタイ・テイラーらも参加しているようだ。
2. For Once in My Life
まだティーンエイジャーだったスティーヴィー・ワンダーが1968年に放った全米2位のヒット曲。スティーヴィーのヴァージョンは溌剌としたビートが心地好いアップテンポのソウル・チューンだが、もともとはロン・ミラー作詞、オーランド・マーデン作曲のスロー・バラードで、スティーヴィー以前にジーン・デュションやナンシー・ウィルソン、トニー・ベネットらがバラードとしてレコーディングしており、後にはフランク・シナトラもカヴァーしている。
3. If My Friends Could See Me Now
フェデリコ・フェリーニの名作映画『カビリアの夜』を1966年にブロードウェイでミュージカル化した『スイート・チャリティー』からの一曲で、サイ・コールマン作曲、ドロシー・フィールズ作詞。
1969年にはシャーリー・マクレーンを主役にハリウッド版映画も制作されており、マクレーン版もお馴染みだ。1978年にはリンダ・クリフォードによるディスコ・ヴァージョンもリリースされ、ビルボード・ホット・ダンス/ディスコ・チャートのNo.1に輝いている。
4. Folie à Deux
レディー・ガガが書き下ろした、本サントラでの唯一のオリジナル曲。映画のタイトルでもある”フォリ・ア・ドゥ”とは、フランス語で「二人狂い」を意味する感応精神病。一人の妄想がもう一人に感染し、二人あるいはそれ以上の複数人で妄想を共有するという。
5. Bewitched
リチャード・ロジャーズ作曲、ロレンツ・ハート作詞の1940年初演ブロードウェイ・ミュージカル『パル・ジョーイ』からの魅惑のバラード・ナンバー。正式タイトルは「Bewitched, Bothered and Bewildered」だが「Bewitched」と略されることが多い。
ドリス・デイ、メル・トーメ、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラらによって歌い継がれ、ジャズ・プレイヤーたちにも頻繁に取り上げられることでスタンダード・ナンバーとして親しまれるようになった。
6. That’s Entertainment
アーサー・シュワルツと ハワード・ディーツが1953年のミュージカル映画『バンド・ワゴン』に書き下ろした楽曲。フレッド・アステア演じる落ち目の俳優が演出家や劇作家らから励まされるシーンで歌われるショウビズ賛歌だ。ジュディ・ガーランドが1960年にレコーディングし、ステージでのレパートリーにしていたことでもお馴染み。
7. When You’re Smiling (The Whole World Smiles With You)
ラリー・シェイ、マーク・フィッシャー、ジョー・グッドウィンの共作。1928年に楽譜として出版され、1929年にルイ・アームストロングがレコーディングしたことで広く知られるようになった。
アームストロングは計3度録音、デューク・エリントン楽団やフランク・シナトラ、ナット・キング・コール、ディーン・マーティンらが取り上げ、スタンダード曲となった。
8. To Love Somebody
ビー・ジーズが1967年にシングル・リリースした楽曲。オーストラリアで人気を博したギブ三兄弟が、故郷イギリスへと戻り、2人のサポート・メンバーを加えて5人編成のバンドでソフト・ロックやサイケ・ポップなどを演奏していた時期の作品で、後のブルーアイド・ソウル期を予見させるかのような、サム&デイヴやオーティス・レディングを想起させるソウル・バラード。
全米17位、全英41位という成績は、後の大ヒット連発期に比べると物足りないが、彼らの作品の中では最もカヴァーされてきた人気曲である。大胆に歌い崩したジャニス・ジョプリン、ファンキーにグルーヴィーに歌い綴ったニーナ・シモン、しっとりとしたゴスペル・バラードとして歌い上げたロバータ・フラックなど名カヴァーが多い。
9. (They Long To Be) Close To You
バート・バカラック/ハル・デイヴィッド作のポップス史に燦然と輝く名曲。1963年に米国の俳優/歌手リチャード・チェンバレンによって初録音され、ディオンヌ・ワーウィックやダスティ・スプリングフィールド、ダイアナ・ロス、B・J・トーマス他数多の歌手に歌われてきたが、最も知られるのは1970年に全米チャート4週連続No.1を獲得したカーペンターズによるヴァージョン。恋する乙女の募る想いが綴られている。
10. The Joker
1964年に英国で、1965年にブロードウェイで上演されたミュージカル『ドーランの叫び、観客の匂い』からの一曲。英国の作曲家レスリー・ブリカッスと、同じく英国の俳優/歌手/作曲家のアンソニー・ニューリーが脚本及び作詞作曲を手掛けたこのミュージカルからは「フィーリング・グッド」というヒット曲も生まれているが、この楽曲もサミー・デイヴィス・Jr.やシャーリー・バッシー、あるいはセルジオ・メンデス&ブラジル’66らが歌い、ウェス・モンゴメリーやハービー・マンらジャズメンにも取り上げられ、スタンダード曲となった。
11. Gonna Build a Mountain
こちらもレスリー・ブリッカスとアンソニー・ニューリーのコンビが、ミュージカル『地球を止めろ — 俺は降りたい』のために書いたもの。ミュージカルは1961年にニューリーの主演で英国で初演され、翌年ブロードウェイでも上演。1978年のリバイバル公演ではサミー・デイヴィスJr.も出演した。この曲はその後もサミー・デイヴィスJr.やマット・モンローらがステージなどでのレパートリーとしていた。
12. I’ve Got the World On A String
ハロルド・アーレン作曲、テッド・ケーラー作詞。コットン・クラブのジャズ・レヴュー用に1932年に書かれたもので、同年キャブ・キャロウェイがレコーディングしてヒットさせている。その後もビング・クロスビー、ルイ・アームストロング、ペリー・コモ、フランク・シナトラ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンなど錚々たる面々が歌い、スタンダードとなった。
13. If You Go Away
ベルギーで生まれ、フランスで活躍し、デイヴィッド・ボウイやニルヴァーナをはじめ世界中のアーティストに楽曲が歌われたシンガーソングライター、ジャック・ブレル。1959年に作られたこの曲は、オリジナルのフランス語でもニーナ・シモン、サンディ・ショー、アリソン・モイエらに、また、ロッド・マッケンが英詞を手掛けた英語ヴァージョンでもダスティ・スプリングフィールド、フランク・シナトラ、スコット・ウォーカー、シンディ・ローパー他多くのアーティストにカヴァーされている。
14. Gonna Build a Mountain (Reprise)
11曲目「Gonna Build a Mountain」のリプリーズ(注:リプリーズはミュージカルやポピュラー音楽のアルバムなどで見られるように、同一曲がアレンジや長さを変えるなどして再び現れること)。
15. That’s Life
ディーン・ケイとケリー・ゴードンが書いたこの曲は、1963年に女性ジャズ歌手マリオン・モンゴメリーによって初録音され、1966年にフランク・シナトラがレコーディングしたことで広く知られることとなった。
紆余曲折の人生に翻弄されながらもポジティヴに前進していこうというメッセージが込められており、アレサ・フランクリン、ジェームズ・ブラウン、ヴァン・モリソン、デヴィッド・リー・ロスなど数多の歌手が各々の人生観を込めて歌い綴っている。前作映画『ジョーカー』でも「マレー・フランクリン・ショー」テーマ曲としてなどいくつかの場面で使用された。
16. True Love Will Find You in The End
ここまではショウビズ華やかなりし50~60年代、あるいはそれ以前のミュージカル・ナンバーやスタンダード曲が並んでいるが、本曲のみ異色のナンバーと言えるだろう。
ニルヴァーナのカート・コバーンにも影響を与えたとされる、今は亡き米国のシンガーソングライター、ダニエル・ジョンストンが1984年に作曲し、自主制作のカセット『Retired Boxer』にて初めて発表した楽曲。ベックからウィルコ、スペクトラム、ノエル・アクショテなど多方面からカヴァーされており、素朴な筆致で紡がれる祈りにも似た言葉が聴く者の心に沁みる。
Written By 石川 真男
2024年10月4日発売
国内盤CD:2024年10月9日発売
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楽曲聴き比べプレイリスト
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【映画情報】
映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
日本公開日:2024年10月11日(金)
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、レディー・ガガ
配給:ワーナー・ブラザース映画
https://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
レディー・ガガ『Harlequin』
2024年9月27日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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