Join us

Columns

UKの注目新人バンド、イングリッシュ・ティーチャーが語る音楽の源流やバンド名の由来

Published on

Photo by 諸田渉吾(vanishock)

2024年に発売したデビューアルバム『This Could Be Texas』が英国で最も権威のある音楽賞のひとつマーキュリープライズを受賞し、UKアルバムチャートでもTOP10入りを果たし、2025年1月20日に東京・渋谷のWWW Xで一夜限りの初来日公演を行ったUKリーズの4人組インディー・バンド、イングリッシュ・ティーチャー(English Teacher)。

彼らの来日中に実施した音楽ジャーナリストの粉川しのさんによるインタビューを掲載します。また彼らは2025年のFUJI ROCK FESTIVALにも出演が決定しています。

<関連記事>
サーシャ・アレックス・スローン、初来日公演レポート
d4vdとは:フォートナイトから生まれ、スマホで作り上げた“孤独”なサウンドの魅力


 

2024年リリースのデビュー・アルバム『This Could Be Texas』が高い評価を集め、今最も勢いのあるUK新星として注目を集めるイングリッシュ・ティーチャーが、待望の初来日公演を行った。圧倒的にスキルフルな演奏と予測不可能な展開で、オーディエンスを異次元の興奮へと誘った彼らを直撃。イングリッシュ・ティーチャーがかくもユニークなバンドである理由に迫った。

 

結成の経緯

―― まずはイングリッシュ・ティーチャー結成の経緯から教えてもらえますか?

ニコラス: 元々はリリーとダグと僕の3人でバンドを組んでよく演奏していたんだけど、その後に、リリーがルイスと出会ってね。

リリー: そう、元々バンドを組んでいたの。

ニコラス: 途中でギタリストが必要になる事態になってね。

―― 今の音楽センスにすぐたどり着いたんじゃないんですね。最初はドリーム・ポップ的なことをやっていたと聞いたので。

リリー: そう、3人でだらだらと元バンドをやっていた頃はそんな感じで、そこからヘヴィーになっていったという感じ。

ルイス: 恥ずかしい話なんだけど、バンドに参加することになった当初、僕らはみんな2018年以降のサウス・ロンドンのバンドを聴いていたんだ。当時はそういう潮流があったからね。そこから始まって、どんどん変化していったと思う。バンドというのは従来、具体的なマニフェストや、“こんなバンドが好き”みたいなことを話しながら、バンドがどうあるべきかというアイディアを共有して結成されるものだと思うんだけど、僕らはそうじゃなかった。もう少し回りくどい方法で結成された気がする。

―― 皆さんは、それぞれどんな音楽的バッググラウンドを持っていますか?

リリー: 私には、演奏したいと思わせてくれた人と、作曲したいと思わせてくれた人、それぞれ1人ずついる。エイミー・ワインハウスの影響で歌手になりたいと思ったし、アークティック・モンキーズを知ったことで、音楽を書きたいと思うようになった。

―― リリーは音楽ジャーナリストを目指していた頃もあるんですよね

リリー: その通り。ちょっとだけ齧っていた時期があった。良かったけど、少し大変だった(笑)。出版社で働いていて、いい仕事を紹介されたんだけど、私は、この人たちと一緒にいるためにリーズに戻って、バンドをやりたいと思った。そして今、こうして東京に来ることができたってわけ。

ニコラス: 僕は兄や父の影響が大きかったと思う。父はプログレッシブ・ロックに興味を持っていたんだ。

ダグラス: 僕は母親が音楽の先生で、幼い頃からピアノを教わっていたし、父はクラシック・ロックが好きで、スーパートランプのようなバンドのファンだったんだ。

ルイス: 大きな転機になったのは、15歳くらいのときに、それまで聴いたこともなかったようなオルタナティブな音楽を聴かせてくれる人たちに出会ったことかな。ペイヴメントやテレヴィジョンのようなね。

 

―― 結成した時点でバンドのコンセンサス、「こういうことをしたい」という意思疎通は取れていたんですか?

ニコラス: 常に総意は取っていたと思う。「よし、これは総意だね。みんな賛成だ」っていう感じで。

ルイス: それこそ、僕が君たちに音楽を初めて演奏したときに感じたことだよ。「R&B」のあとでいくつかの曲を書いていたときに、いろんなアイディアが浮かんではいながらも、混乱していたときがあってさ。その時に、メンバーの誰かから「これがイングリッシュ・ティーチャーらしい楽曲なのかわからない」って言われたんだ。そうしたら、別の誰かが「それってどういう意味? 何だってアリなんじゃない?』って言ったんだ。僕はこれまでにもいくつか別のバンドにいたことがあって、そのときは特定の役割を演じたり、特定の目標や目的を持ったりすることが普通だったんだけど、そのやりとりを聞いて、興奮したのを覚えているよ。キャンバスのようなものを手にする機会に恵まれて、まるで数学のようだと思ったんだ。何でもアリなんだなって思って。

English Teacher – R&B

 

―― 馬鹿な質問なんですけど、どうしてイングリッシュ・ティーチャーというバンド名にしたのですか?

ニコラス: 大きな深い意味はなくてね。僕らの家族に英語の先生が何人かいて、その先生たちからすごく影響を受けたんだ。名前をつけた当時はクールで良い名前だと思ったんだけどね。でも今じゃ耐えられないよ(笑)。

リリー: 私も嫌い(笑)。

ニコラス: もう手遅れだけどね(笑)。インスタグラムでいまだに英語のレッスンの問い合わせが来たりするけどね。

 

―― デビューアルバム『This Could Be Texas』は、聴くたびに印象変わる作品です。マキシマリズムと同時に転調も過剰で、次々に直前のものを裏切る展開が一曲の中で行われていきますよね。

ダグラス: それこそが、僕らが最初に出会ったときに望んでいたものなのかもしれない。裏切りたかったんだ(笑)。

リリー: “Betray”(裏切る)って、たぶん理想的なバンド名だよね。

ルイス: 単に、優柔不断の副産物だと思う。僕らは何かを組み合わせようとするとき、二つの決断を行ったり来たりして、それにまとめて名前をつけようとするんだ。それで、最終的には奇妙なことをやってしまうということが頻繁にあるんだと思う。

ダグラス: 数年前に作曲していたときは、頭の中ではもっと違うサウンドにしたいと思っていて、少しそれをやり過ぎてしまったところがあったと思う。だけど今は、すべてを封じ込めたいと思っている。これからの僕らの音楽は、もっと簡潔で、面白くて、それでいて違うものにしたい。

ニコラス: 以前は6分以上とか、すごく長い曲を求めていたけど、今は3分以上の曲はいらないと感じるよ。

I’m Not Crying, You’re Crying

 

―― 「Albert Road」はリリーの故郷の道の名前だそうですね。MVでは昔の自分の映像で涙していましたが、やはりパーソナルなテーマを持つ曲なんでしょうか。

ダグラス: あれは本当の涙なんだよ。

リリー: ダグラスがビデオの監督をしたんだけど、どうしても最後に涙を流してほしいって言われたの。だから私はワインを2杯くらい飲んで、その状態で映像を観たんだ。アルバート・ロードというのは、町の真ん中にある大通りの名前なの。その半分が商店街になっていて、ディスカウント・ショップとして知られているFulton’sやFarm Foodsのようなお店がある。それから道の反対側には、ヒップな感じの店がある。レコードストアとか、クールなレストランとかね。だから、この曲は、その地域に対して私が抱いているさまざまな感情を表現しているの。ある種の貧しさもあれば、喜びや美しさもあるっていうことをね。

English Teacher – Albert Road

 

―― そうした二面性は、例えば「The World’s Biggest Paving Slab」でも描かれていますよね。この曲には俳優のジョン・シムや小説家のシャーロットブロンテなど、リーズに縁のある有名人の名前が出てきますけど、その一方で、自分の生まれ故郷とリーズを、都市と田舎を対比させているようで。

リリー: 確かにその二律背反はあるかもしれない。でも、その中間みたいな感じでもあって。私は決断するのがとても苦手で、決断することの間にある、いわば並列の領域に存在するようなもの、あるいは、2つの異なる人種の中間にいるようなものかな。そういうものがあって、このアルバムのテーマの大部分は、ただ物事を並列に並べるのではなく、その中間地点で、それらが混ざり合って新しいものを生み出すということをテーマにしているの。

English Teacher – The World’s Biggest Paving Slab

 

―― 昨年はマーキュリー・プライズを受賞しましたね。授賞式の映像を観ましたけど、みなさん感極まっていましたね。

リリー: 私は泣いていたし、震えてしまった。言葉が出てこなかったの。

ダグラス: まだ実感が湧かないよ。正直に言うと、あまり覚えてない。ぼんやりした夢を見ていたみたいだったね。

リリー: あの瞬間は人生で最高の瞬間だった。私たちの名前が呼ばれたときはね。あんな気持ちになったことは今までになかった。

 

―― デビュー・アルバムの成功であなた達の世界は180度変わったと思うんですが、この1年で経験したことは、次のアルバムでどういうインスピレーション与えそうですか。

ダグラス: 2作目のアルバムにはもっと堂々と自信を持てるといいな。

リリー: より良いものにしたいね。

ダグラス: 去年は本当にクレイジーだった。去年最初にやったツアーは、その前にやったツアーとは全然違っていた。ショーの規模が360日の間にどれだけ変わったか。すごかったよ。今もまだ、みんなそれに適応しようとしていて、自分たちの境界線を見つけ出そうとしているところなんだ。

Written By 粉川しの / All Photo by 諸田渉吾(vanishock)


イングリッシュ・ティーチャー『This Could Be Texas』
2024年4月12日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss