【ネタバレあり】『デッドプール&ウルヴァリン』サントラ全曲+α解説【完全版】
破天荒なスーパー・ヒーロー、デッドプールの最新作にして『LOGAN/ローガン』以来となるウルヴァリンの復帰作となった映画『デッドプール&ウルヴァリン』。日本では全世界に先駆けて2024年7月24日に公開されたこの作品は全世界的なヒットとなり、初週オープニング興行成績は今年の全世界で1位、R指定映画でも歴代1位を記録し、日本でも今年公開の洋画として1位となっている。
サウンドトラックも7月24日より配信開始に配信、同26日にはCDも発売された。このアルバムについて、7月18日に公開した解説に、劇中での楽曲の使われ方やサントラには未収録だが印象的に使用されている楽曲の解説などを追加したものを完全版として公開。山﨑智之さんによる解説です。
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デッドプールとウルヴァリンの2大ヒーローが遂に歴史的合体を果たす。
“マーヴェル・コミックス”を舞台に活躍してきた両雄が映画館のスクリーンで初めて対面したのが『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009)だった。ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンとのラスト・バトルで対決するのはウェポンXIという“別キャラ”だったが、同じライアン・レイノルズが演じ、他人をナメたウザイトークなどは既に確立されていた。
そうしてライアン/デッドプールの単独主演作『デッドプール』(2016)『デッドプール2』(2018)は世界的に大ヒットを記録するが、1作目で「誰にペコペコして主演をゲットしたと思う?“プルヴァリン”と名前が似ている人だよ」と発言、2作目では串刺しになったウルヴァリンのオルゴールが登場するなど、執拗なウルヴァリンいじりを繰り返してきた。そして2024年、『デッドプール&ウルヴァリン』で2人は宇宙の存続を賭した戦いへと向かうことになる。
スーパーヒーロー映画として、そしてコメディ映画として絶大な支持を集める『デッドプール』シリーズだが、その音楽も魅力のひとつだ。第1作ではワム!フィーチュアリング・ジョージ・マイケルの「Careless Whisper」がラストを盛り上げたし、第2作ではなんとセリーヌ・ディオンが新曲「Ashes」を主題歌として提供。それ以外にも新旧のヒットからマニアックなナンバーが流れるのに加えて、セリフでも盲目の老婆アルをロニー・ミルサップ、X-MENのネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドをシネイド・オコナーに例えるなど、さまざまな音楽ネタが散りばめられている(ちなみにネガソニックの名前もモンスター・マグネットの曲タイトルが元ネタだったりする)。
『デッドプール&ウルヴァリン』でも全編さまざまな音楽が流れ、作品をより起伏に富んだものに。懐かしのオールディーズから最新ポップ・ヒットまで、時代もサウンドも多彩な楽曲をコレクションしたサウンドトラック・アルバムだ。
1. プラターズ「Only You (And You Alone)」
『LOGAN/ローガン』(2017)で壮絶な死を遂げたウルヴァリンの墓標のバックに流れるのがプラターズのムード・バラード。1955年に発表されてから時代を超えて愛され、本作で聴くことが出来るのは再録音ヴァージョンだ。
2. イン・シンク「Bye Bye Bye」
全米を代表するボーイ・バンドで、ジャスティン・ティンバーレイクらが在籍したことでも知られるグループの2000年のヒット・シングル。オープニング・タイトルで流れ、デッドプールが時間変異取締局(TVA)の実働部隊を血祭りに上げる。
3. メリリー・ラッシュ&ザ・ターンアバウツ「Angel of the Morning(朝の天使)」
第1作では1981年のジュース・ニュートンによる同曲が使われていたが、本作では1968年、メリリー・ラッシュのヴァージョンが収録されている。オリビア・ニュートン・ジョンやニナ・シモーンなども歌ったこの曲を書いたのは映画『メジャーリーグ』でもおなじみ「Wild Thing(恋はワイルド・シング)」のチップ・テイラーだ。束の間の平和なひととき、ウェイド(デッドプール)の誕生日を祝うパーティーでバックに流れている。
4. Stray Kids「SLASH」
韓国の8人組ボーイズグループによる新曲。2017年のデビューからあっという間に世界制覇、日本でも5大ドーム・ツアーを成功させる人気ぶりで、その勢いに乗って『デッドプール&ウルヴァリン』に殴り込みをかけることが決定。シングル化もされている。
5. ファーギー「Glamorous」
元ブラック・アイド・ピーズ…という枕詞はもはや不要。ソロ・アーティストとして活躍するファーギーの2006年のナンバー。アルバム『プリンセス・ファーギー』とシングル・ヴァージョンではリュダクリスをフィーチュアリングしていたが、こちらは彼女の単独ヴァージョンだ。デッドプールの新コスチューム披露シーンのバックで聴くことが出来る。
6. グー・グー・ドールズ「Iris」
1990年代後半の全米を席巻したモダン・ロックを代表する曲のひとつで、1998年にヒット。映画『シティ・オブ・エンジェル』でも使われた。モダン・ロックはちょうど笑いのツボに入りやすい湯加減なのか、2023年にも『バービー』でマッチボックス・トゥエンティの「Push」が再注目されたところだ。本作では前半、パラドックスを頭突きして逃走するシーン、そして最終バトル後の復活シーンと2回使われている。
7. ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「The Power Of Love」
1980年代アメリカン・ロックの超大物。この曲は1985年に映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主題歌に使われ、今回は各マルチバースでの“ウルヴァリン探し”の音楽として聴くことが出来る。なお作中では「If This Is It(いつも夢みて)」も使用された。
8. ウェイロン・ジェニングス「I’m a Ramblin’ Man」
アメリカの伝説的カントリー・シンガー、1974年に発表した代表曲のひとつ。1959年、バディ・ホリーやリッチー・ヴァレンスが亡くなった飛行機事故をギリギリで逃れ、1985年には「We Are The World」のレコーディングでスタジオを訪れながら参加を拒否するなど、さまざまな逸話を残したアウトロー。
9. パッツィー・クライン「You Belong To Me」
1952年に初吹き込み、ポップ・スタンダードとしてパティ・ペイジから江利チエミ、トニー谷、映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』サウンドトラックでのボブ・ディラン、『アイリッシュマン』でのジョー・スタッフォードまで数多くの幅広いシンガーに歌われてきたナンバーだが、本作に収録されているのはパッツィー・クラインによる1962年のヴァージョンだ。
* AC/DC「Hell’s Bells」
サウンドトラック盤には未収録だが、ヴォイド(虚無空間)の荒れ地でのデッドプールとウルヴァリンの殺伐とした対決シーンでこの曲が効果的に使われている。AC/DCといえば『アイアンマン2』(2010)で大々的に使われており、本作でフィーチュアされているのはデッドウールのMCU入りを祝っているのかも知れない。
10. クリス・デ・バー「Lady In Red」
1986年、クリス・デ・バーによるヒット曲。
1980年代ラヴ・バラードの象徴としてパロディ的に使われることも多く、『ワーキング・ガール』『ドッジボール』などのコメディ映画、また『アメリカン・サイコ』では変態シリアル・キラーのパトリック・ベイトマンがこの曲を聴いている描写もある。本作ではメリー・パピンズことドッグプールの初登場シーンで流れる。
11. アヴリル・ラヴィーン「I’m With You」
アヴィリルのデビュー作『Let Go』(2002)からのパワー・バラード。同年早くもTVシリーズ『ヤング・スーパーマン』で使われるなど、スーパーヒーローとは縁がある。本作ではデッドプール&ウルヴァリンがホンダ・オデッセイを駆って虚無空間を突っ走る旅路のロード・ソングとして使われている。
12. ヒュー・ジャックマン、キアラ・セトル、ザック・エフロン、ゼンデイヤ、 ザ・グレイテスト・ショーマン・アンサンブル「The Greatest Show」
ウルヴァリンいじりはさらにエスカレート。ヒュー・ジャックマンが主演、自ら歌う『グレイテスト・ショーマン』(2017)挿入曲だ。ヒューに加えて『スパイダーマン』シリーズでおなじみゼンデイヤ、『アイアン・クロー』でケビン・フォン・エリックを演じたザック・エフロンなど、ヒーロー関係者が揃っていることに驚かされる。…とは言っても本作で使われているのはイントロのアカペラ部分のみ。そのままメドレーで次曲に雪崩れ込む。
13. ジョン・トラヴォルタ、オリヴィア・ニュートン・ジョン「You’re The One That I Want(愛のデュエット)」
ウルヴァリンに痛いところを突かれたデッドプールがキレて反撃。車内で見苦しい血闘が繰り広げられる。この曲は『グリース』(1978)の終盤を彩る名デュエット。それまでお嬢さんキャラだったオリヴィアが黒レザーに身を包み歌いまくるナンバーだ(JK役だが実際にはアラサー)。
* T.I.「Bring ‘em Out」
アトランタ出身のラッパーT.I.の2004年のヒット・ナンバー。本サントラアルバム未収録だが、スーパーヒーロー軍団がカサンドラ・ノヴァの要塞に襲撃をかけるシーンを盛り上げている。
14. ジミー・デュランテ「I’ll Be Seeing You」
1938年、ブロードウェイ・ミュージカル『ライト・ジス・ウェイ』挿入曲として初演。フランク・シナトラやビング・クロスビー、ノラ・ジョーンズなどが歌ってきたジャズ・スタンダードであり、映画『きみに読む物語』でビリー・ホリデイのヴァージョンがフィーチュアされた。
本作に収録されているのはジミー・デュランテによる1965年のもの。バスター・キートンとの共演でも知られる彼は、その容貌から“デカッ鼻”と呼ばれた。デッドプールとウルヴァリンが虚無空間から現実空間に脱出、束の間の戦友となったヒーロー達に別れを告げるシーンに流れる。
15. エリック・カルメン「Make Me Lose Control」
デッドプールとドッグプールとの再会シーンで流れるこの曲は「All by Myself」など心を打つメロディで知られるエリックの1988年、最後のヒット・ナンバー。ミュージック・ビデオでは『アメリカン・グラフィティ』へのオマージュも込められている。2024年3月11日に亡くなった彼への追悼ともいえる本作での使用だ。
* マドンナ「Like A Prayer」
サウンドトラック・アルバムには未収録ながら、トレーラー(予告編)で大々的にフィーチュアされるなど、本作の“看板”的ナンバー。デッドプール&ウルヴァリンのデッドプール軍団との決戦(というか殺戮)シーンで流れる。また、同曲の“エピック・ヴァージョン”がクライマックスを彩る。
16. アレサ・フランクリン「You’re All I Need To Get By」
“ソウルの女王”アレサも『デッドプール』ワールド入り。オリジナルはマーヴィン・ゲイだが、彼女のヴァージョンは1971年にヒットした。最終決戦を終えた2人がしみじみとシャワルマ(『アベンジャーズ』(2012)ラストでおなじみ)を食べるシーンからエピローグまで流れる。
17. グリーン・デイ「Good Riddance (Time of Your Life)」
パンクの枠を越えてアメリカン・ロックの大御所となったグリーン・デイの1997年のナンバー。しっとり聴かせるナンバーでバンドの新機軸を切り開き、今やアメリカのハイスクールなどでは卒業式の定番ソングだ。デッドプール&ウルヴァリンを筆頭に超豪華ヒーロー達とヴィラン達が勢揃いした“祭り”の終わり、そしてヒュー・ジャックマンのウルヴァリンとパトリック・スチュワートのエグゼビアという2大ヒーローにとってこれが最後の出陣と考えると、落涙を禁じ得ない(エグゼビアは本編では活躍しないが)。
18. ロブ・サイモンセン「LFG(Theme from “Deadpool & Wolverine”)」
アルバムのラストはインストゥルメンタル・スコア。『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2021)や『ザ・ホエール』(2022)などで頭角を現してきたロブ・サイモンセン(日本ではシモンセンと表記されることもあるが、本人はサイモンセンと発音)が盛り上げるトラックで、本CDは幕を下ろす。
バトルありギャグありミュージックあり、『デッドプール&ウルヴァリン』はまさに無敵の映画作品である。
Written by 山﨑智之
2024年7月24日 配信
2024年7月26日 CD発売
CD / Apple Music
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