全米1位の楽曲「Rockstar」にダベイビーが込めた想いとブラック・ライヴス・マター
2020年4月に発売された米ラッパー、ダベイビー(DaBaby)のアルバム『Blame it on Baby』に収録された楽曲「Rockster」が6月18日現在、全米シングルチャート2週連続1位、全英チャートでは4週連続とヒットを記録しています。
この曲は何について歌っているのか? そして先日、ブラック・ライヴス・マター(Black Lives Matter)を受けて公開されたBLM REMIXについて、ライター/翻訳家である池城美菜子さんに解説いただきました。(この楽曲の歌詞・対訳はこちら)
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2020年一番人気ラッパーのBLMへの反応
ダベイビーの勢いが止まらない。ロディ・リッチをフィーチャーした「Rockstar」がビルボードのストリーミング・チャートを4週間にわたって制したあと、7週間をかけて全米シングルチャートの1位に上り詰め、さらに2週目に突入した。6月12日にはブラック・ライヴス・マター・リミックスをドロップ、2020年の一番人気ラッパーがどう反応したか、注目が集まった。
ブラック・ライヴス・マター運動は「人種差別の撤廃」と「警察官の黒人にたいする暴力への抗議」と掲げる大義は同じでも、自衛のために銃を持つべきか、#DefundPolice(警察予算を差し止めよ)は現実的なのか、など細かい論点では意見がわかれる。アトランタ市長の要請でスピーチをおこなったキラー・マイクのように身内に警察官がいる人と、アイス・キューブのように実体験から「ポリス」を示す言葉すべてに拒否反応を示す人もいる。そして、これは健全な反応だろう。
ダベイビーはアイス・キューブに近い反応を示しつつ、抗議運動には興味がなさそうだ。6月1日の連投ツイートでその理由を公にしている。
「俺はゆったり腰かけて、ハイプが過ぎ去るのを待ってから考えを伝えるタイプ。そうすれば、俺の見解は、いいね!やコメントを欲しがったり、体面を保ちたかったり、PR担当者、レコード会社やマネージメントに“何か言った方がいい”と言われただけの人たちと一緒くたにされずに済むから。(彼らは)高潔な感じを出してファンや仕事、ブラック・コミュニティからのサポートが減るのを避けようとしている。俺は賛同しているふりや、悲しいそぶりを見せる必要はない。俺はベイビーだ。 いままで奴ら(警官)は敵だし これからもやっちまえって態度だ。あいつらがNIG**って片付けるタイプなんだよ。こんなの俺の日常だ」
「現実として俺は人種差別主義と警官の暴力の犠牲者だ。ネットで騒いでいる人の95%は警官にぶっ叩かれたことも、やってもいない罪を被せられたこともない。俺はある🙋🏾♂️ 2017年に警察官に襲われたんだ。調べてみて。俺は頭を使って出し抜く、奴らの作った仕組みで勝ってやる」
「もう少し(状況を)知れば、警察だけの問題ではなく法律自体の問題だってわかるはずだ。構造全体の問題。それ自体が壊れていて、俺たちの大多数がその仕組みの犠牲者になっている。俺なんていくつか裁判沙汰を抱えている身だ。自分の闘いに集中しろ、頭を使って勝つんだ」
「この話を終える前にネットのクソリプ野郎どもは、手錠をかけられた経験がないなら俺に話しかけないでほしい。何もわかっていないんだから、自分のことに集中しろ。“有名人”が影響力を使ってやっていることを気にして、自分の考えを薄めるな。みんな、安全にね♥」
ダベイビーは音楽で片をつける
ブラック・ライヴス・マターのムーヴメントにたいして、ダベイビーは音楽で片をつけるスタンスだ。このリミックスを出した前後のTwitter では、禁煙して筋トレに励んでいる様子を見せたり、お勧めの旅行先をフォロワーに聞いたり、スタジオに入ったりして通常モードで過ごしている。
では、どう音楽で片をつけるのか。
警察やシステムにたいする複雑な感情が見え隠れするのが、現在メガヒット中の「Rockstar」である。ヒップホップの曲で「Rockstar」がタイトルのヒット曲は多く、2007年にはヒューストンのカミリオネアがリル・ウェインを招いて作ったし、2017年にはポスト・マローンも21サヴェージと同じタイトルでヒットを飛ばした。
ヒッホップに出てくる「Rockstar」には原義そのものの、女性にモテて、ドラッグやお酒に溺れながら金を稼いで派手な生活をしている人、という意味の場合と、それをギュッと縮めて「派手で目立ちながら、やるときはやる人」の場合がある。動詞の「rock」はポジティブな意味合いが強く、「you rock」は「やるねぇ」とのほめ言葉だ。韻を踏みやすいため、リリックにもよく出てくるし、そもそもロック好きのリル・ウェインもよく使っている。
ダベイビーの「Rockstar」はふたつの感情が入り混じっている。まず、ランボルギーニに乗ってロックスターみたいにかっこいい俺を見せたい。ギターの代わりに持っているのは銃だ。腰から銃をぶら下げている様を「警官みたいだろ」というのだが、そこには職務だと言い張って同胞に銃口を向ける警官にたいする怒りと恨みの隙間に、畏怖の感情も見え隠れする。
ダベイビーは大型ドラッグストアのウォルマートという、だれもが行くような場所の駐車場で襲われ、正当防衛で相手を撃ち殺して無罪になった過去がある。文章で書くと1行だが、これを実体験した人のトラウマは想像はできても、安易に「わかる」などと言えない。そこで出てくるのが、次のラインだ。
My glock told me to promise you gone squeeze me
You better let me go the day you need me
Soon as you up me on that nig** get the bussin’
And if I ain’t enough go get the choppa’
その銃が俺に語りかけるんだ おいらを肌身離さず持ってろって
出番の日が来たら おいらをぶっ放せって
あのニ**にすぐさまおいらを突きつけてやっちまえって
おいらで足りなかったら ライフルも手に入れろよだってさ
ダベイビーに安心感を与えるのは、生身の仲間ではなく腰につけた銃なのだ。それが、「おいらを離すんじゃねぇぞ」とイマジナリー・フレンド(架空の友だち)のように語りかけてくる状況。少しダウナーなダベイビーのフロウで言われると、大ごとではないように響くが、銃が自分の分身となって本音を語り始めているのだから、しゃれにならない心理状態だ。「トラウマになったよ 風邪みたいに冷や汗をかいて目覚めるんだ」という正直なラインもあり、派手な生活をするロックスターどころではない。
2019年に早逝したニプシー・ハッスルの秘蔵っ子であり、「The Box」の大ヒットで一気にトップに躍り出たロディ・リッチも自衛についてのヴァースだが、相手は風邪薬を違う用法で使ってラリっている若者や敵対するグループの人たちだ。誇張があるものの、彼がひとりでいるときに大勢に狙われる状況になったのは事実で、ほかの曲にも出てくる。
ROCKSTAR (BLM REMIX)
6月12日、ダベイビーは「BLM REMIX」として、激高したヴァースを頭に入れたリミックスをドロップした。出だしこそチャートに君臨する自分を誇るが、15秒を過ぎたあたりから本題に入ってくる。そこで語られるのは、高級車に黒人が乗っていると目を光らせ、隙があれば止めて職務質問をしようとし、黒人の少年を威嚇するためだけに銃口を向ける警察、人種差別的な態度を隠さない貧しい白人(クラッカーズ/crackers)にうんざりしている心情だ。
クラッカーズ自体が蔑称だが、自分たちが恵まれていないのは、同じ外見をした人が仕切る政府による政策のせいだとは思わず、短絡的に移民や有色人種コミュニティの増大のせいだと頑なに信じている人たちを指し、ヒップホップではよく出てくるワードだ。また、ダベイビーは、警察が罪のない黒人を殺しても、殺人罪に問われないうえに、殺されたり、嫌がらせをされたりしている側が「ならず者」になってしまう状況を怒っている。言葉数が多いのがラップの強みとはいえ、これを30秒ほどにまとめているのは、見事だ。
日本でもSNSを通じて関心が高まっている人種差別の問題。ダベイビーが指摘するように「トレンド」で片付けるにはあまりに重い話だ。たまたま、四半世紀ほどブラック・ミュージックと文化について寄稿してきた私から言えることは、いままでも何回か大きなうねりがあったのに、なかなか改善されなかった根深い問題であり、これからも心が折れるようなニュースは飛び込んでくるだろう、ということ。
悲観論ではなく、現実問題として「少しずつ」一緒に変わっていく以外にないのだ。日本に住んでいると、また自分のちがう闘いもある。ダベイビーの意見から、「Stay focused w/ your fight, out smart em」は取り入れようと思う。
Written By 池城 美菜子(ブログはこちら)
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ダベイビー『Blame it on Baby』
2020年4月17日発売
CD / Apple Music / Spotify / Amazon Music
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