『ボン・ジョヴィ:Thank You, Goodnight』は私たちに贈られたアナザー・ストーリー
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第83回。
今回は、4月26日にディズニープラスで配信されたドキュメンタリー『ボン・ジョヴィ:Thank You, Goodnight』について。
<関連記事>
・ボン・ジョヴィ新作『Forever』6月発売決定
・ボン・ジョヴィ、YouTubeにて過去の名曲MVをHD化
この映像を通して何を伝えたいのか
ボン・ジョヴィのドキュメンタリー・シリーズ『ボン・ジョヴィ:Thank You, Goodnight』がDisney +で公開になりました。ドキュメンタリーのエピソード1はデビューまでの経緯、エピソード2は『Slippery When Wet』の成功や世界の頂点に立ったバンドの歓喜、エピソード3は走り続けての疲労困憊や燃え尽き症候群、そしてリッチーの苦悩、エピソード4は、アレックの死、シンガーとしてのジョン、バンドの行末、で構成され、コロナ禍を経て、再度シーンに戻ってきたボン・ジョヴィの真実のストーリーとなっています。
今なぜドキュメンタリーで真実を語ることになったのか⁉ 40周年という節目だからなのか⁉ その答えが見つけられず、あまり知りたくはないな、とネガティヴな私がいました。それは、ボン・ジョヴィが過去のバンドではなく、レジェンドと呼ばれている今も、ジョンはボン・ジョヴィを続けていくために努力し、ティコ・トーレスとデヴィッド・ブライアンは、常に彼を支え、さらにギターのリッチー・サンボラの復帰を願うファンの声が絶たない、今のバンドだからです。
ジョンは、この映像を通して何を伝えたいのだろうか…。それは最後のエピソードで明らかになり、ようやく私は理解することになったのです。安易にリッチー復帰を唱えている私は、ボン・ジョヴィに対して、もう少し違う見方をしなければいけないと気づかされました。
公開されて、一気に4話を見終え、それでも細部を見ないと彼らの本当の気持ちを理解することができないのではと2度目に挑戦。さらに、自分の考えと照らしあわせるように3度目を見ながら原稿を書いています。そこまで慎重にならなくても、80年代の彼らの栄光を共に楽しめばいいじゃないか、と言われてしまうかもしれませんが、彼らの初来日からリアルタイムで見続けてきた(正確には応援してきた)身としては、ドキュメンタリーを通して新たな真実を知ることには、かなりの勇気が必要だったのです。
涙を堪えて振り返るジョン
ジョンがたった一人で売り込みに必死だった「Runaway(夜明けのランナウェイ)」を巡る話、パワーステーションのスタジオでコーヒーボーイをしていた時のエピソード、この辺りは微笑ましい思いで見ることができました。その後、成功を得て、トップスターになった彼らの苦悩、マネージャーとのトラブルは、世界を制覇したロック・バンドのサクセス・ストーリーには欠かせない、彼らにも訪れたエピソード。でも、ボン・ジョヴィだから、心が痛むのです。
このドキュメンタリーは、2022年、満を持してツアーに挑んだ時期のジョンのインタビューが中心となっています。もちろん、過去の発言、映像も十分過ぎるほど扱われ、それを証明するかのようなジョンの言葉であり、デヴィッド、ティコ、そして辞めたリッチーの言葉が織り込まれ、かなりリアルになっています。「俺は自分の心を見せない。でも俺を信じてついてきてほしい。僕はメンバーを裏切ったことはない」と涙を堪えて振り返るジョンは、私が知っているジョン・ボン・ジョヴィの姿ではありませんでした。
私のジョンの印象は、どちらかというと、神経質で、インタビューの時も、思わず顔色を窺ってしまうぐらい、こちらも緊張していました。でもこの映像を見て、本当のジョンは、とても真面目に音楽に取り込んできた人で、ボン・ジョヴィを成功させることに真剣で、その真面目さ故に、常に自分と闘っていた人であることがわかったのです。ジョンは、ロックンロール・ライフをエンジョイできたメンバーとは、明らかに違っていました。もちろん、バンドにはそれぞれの役割がありますから、どれが良くてどれが悪いということではありません。
ジョンはリッチーをずっと待ち続けている
ここでドキュメンタリーのすべてを明かすことはしませんが、昔を回顧するシーンでは、ジョンとリッチーが同じ思い出を共有している発言に、ほんわかした気持ちになります。意外だったのは、ジョンがリッチーをずっと待ち続けていたこと、それは変わらず今も。リッチーには、辞めたい理由がちゃんとあったわけですが、その辞め方が不味かったと自己反省しているシーンを見て、二人の関係が終わりではなく、次に繋がるのではないかと思わせてくれました。
ただ、このドキュメンタリーでは、リッチー不在のボン・ジョヴィを支えてきたミュージシャンたちの存在の大きさも伝えられています。リッチーが辞めたことで、ギタリストとしてだけでなく、ソングライター、バック・ヴォーカルなど、何役もこなしてきた彼の代わりを見つけるのは容易ではなく、事情を理解した上で参加したジョン・シャンクス、フィル・Xたち、またそれ以前に加入したヒュー・マクドナルドに至っても、尊重しなければならない存在なのです。
ジョンは、2022年のツアー以降、ボン・ジョヴィのヴォーカリストとして、完璧な歌声を披露するために、喉のトリートメントに集中しています。2022年のツアーでの葛藤は、彼自身のシンガーとしてのキャリアに暗雲を残しました。それによって、声帯手術を受け、リハビリをし、声を取り戻したのです。新曲「Legendary」には、歌声が戻ってきた彼の喜びが表現されています。ジョンは、今もボーカルセラピーを受け、ツアーに出るための努力をしています。
デビュー40周年にあたる新作『Forever』は、そんなバンドの希望に溢れた作品であることは間違いありません。その後ツアーを敢行するかどうかは、ジョンが102%の準備ができた時点で行われるはずです。日本のボン・ジョヴィ・ファンは、彼らと共に変わることなく、40年間を歩いてきました。『ボン・ジョヴィ:Thank You, Goodnight』は、そんな私たちに贈られた ボン・ジョヴィ・アナザー・ストーリーです。今直面している問題を乗り越え、また新たなページが開かれることを楽しみに、ドキュメンタリーのラスト・シーンの最新のジョンの言葉を噛み締め、私たちは信じて待つだけです。
P.S. ドキュメンタリーの公開日、リッチーがソロ曲「I Pray」を配信しました。5月から毎週連続で新曲を次々とアップしていくようです。リッチーらしいサウンド、歌声を聴き、ドキュメンタリーを冷静に受け止めてはいましたが、アルコール依存症から立ち直り、娘との絆を深め、ボン・ジョヴィという家族の元に戻ってきて欲しい、という気持ちを抑えることはできませんでした。
Written By 今泉圭姫子
2024年6月7日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music
<Tracklist>
1. Legendary
2. We Made It Look Easy
3. Living Proof
4. Waves
5. Seeds
6. Kiss The Bride
7. The People’s House
8. Walls Of Jericho
9. I Wrote You A Song
10. Living In Paradise
11. My First Guitar
12. Hollow Man
- ボン・ジョヴィ アーティスト・ページ
- ボン・ジョヴィ新作『Forever』6月発売決定
- ボン・ジョヴィ、YouTubeにて過去の名曲MVをHD化
- ボン・ジョヴィ40周年を記念するドキュメンタリーの予告編が初公開
- 名曲「Livin’ on a Prayer」のMVがYouTubeにて10億再生を突破
著者の新刊
『青春のクイーン、永遠のフレディ 元祖ロック少女のがむしゃら突撃伝』
2023年9月5日発売
発売
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
- 第34回:ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第35回:ボン・ジョヴィのジョンとリッチー、二人が同じステージに立つことを夢見て
- 第36回:テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズによるリモートコンサート
- 第37回:ポール・ウェラー、初来日や英国でのインタビューなどを振り返って
- 第38回:ザ・ヴァンプスが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第39回:セレーナ・ゴメス、BLACKPINKとの新曲と過去に語ったこと
- 第40回:シン・リジィの想い出:フィル、ゲイリーらとのインタビューを振り返って
- 第41回:クイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』
- 第42回:【インタビュー】ゲイリー・バーロウ、7年ぶりのソロ作品
- 第43回:コロナ禍にステイホームで聴きたい新旧クリスマス・ソング
- 第44回:ジャスティン・ビーバー、成長が垣間見えた約3年ぶりのライヴ
- 第45回:アルバムが控えるポール・スタンレーとKISSの想い出を振り返って
- 第46回:コナン・グレイ、孤独の世界に閉じこもって生まれた音楽と希望の新曲
- 第47回:グレタ・ヴァン・フリート、“ツェッペリンらしい”と言われることを語る
- 第48回:クイーンの隠れた名曲:映画で彼らを知った人に聴いて欲しい楽曲
- 第49回:ブルー(Blue)「The Gift」の魅力:今も日本で愛される名曲の想い出
- 第50回:「ハイスクール・ミュージカル」シリーズとは?
- 第51回:ブライアン・メイ初のソロアルバムを振り返る
- 第52回:離婚を歌ったケイシー・マスグレイヴスが3年前に語っていたこと
- 第53回:ロジャー・テイラーのヴォーカルと楽曲
- 第54回:ABBAの新作と、“第2のビートルズ”と言われていた40年前
- 第55回:ザ・ウォンテッドの復活:休止前の想い出と最新インタビュー
- 第56回:アンとナンシーのウィルソン姉妹、ハートの想い出
- 第57回:80年代後半に活躍したグラス・タイガーを振り返る
- 第58回:ブライアン・メイのソロ2作目『Another World』を振り返る
- 第59回:ブライアン・メイ復刻盤『Another World』の聴き所
- 第60回:ポリスのドキュメンタリー『Around The World』とインタビュー
- 第61回:フィル・ライノットの生涯と音楽を振り返るドキュメンタリー映画
- 第62回:10代のジャネット・ジャクソンとのインタビューを思い返して
- 第63回:ブロンディのデボラ・ハリーとUK音楽シーンの女性達を振り返る
- 第64回:セバスチャン・イザンバールが語る新作や、故カルロス・マリンへの想い
- 第65回:クイーン『The Miracle』当時の想い出と未発表の新曲「Face It Alone」
- 第66回:『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』で描かれる3兄弟と『小さな恋のメロディ』」
- 第67回:アリアナ・グランデとのインタビューを振り返って
- 第68回:サム・スミスの最新アルバム『Gloria』と初来日の時に語ったこと
- 第69回:ブライアン・アダムス、6年ぶりの来日公演前に最近の活動を語る
- 第70回:洋楽アーティストが歌う“桜ソングス”のおすすめ
- 第71回:The 1975、過去のインタビューからの発言集
- 第72回:『ガーディアンズ』新作とザ・ザのマット・ジョンソンとのエピソード
- 第73回:『ガーディアンズ』新作とザ・ザのマット・ジョンソンとのエピソード
- 第74回:50周年のエアロスミス、1988年の来日インタビューを振り返って
- 第75回:オリアンティとのインタビューを振り返る
- 第76回:クランベリーズのドロレス・オリオーダンとのインタビューを振り返る
- 第77回:オリヴィア・ロドリゴ、2ndアルバムへのプレッシャーを語る
- 第78回:ロビー・ウィリアムスのインタビューとテイク・ザットとの関係性
- 第79回:今年クイーンが出場するNHK紅白歌合戦
- 第80回:ボン・ジョヴィを後押しした日本のファンとバンドからの愛
- 第81回:クイーン+アダム・ランバート来日公演
- 『ロッキー』と『プリティ・イン・ピンク』のサントラを振り返る