サウンドトラック解説:『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』
現在公開中の映画、キャプテン・アメリカという“正義の象徴”を受け継いだサム・ウィルソンの活躍を描くマーベル・シネマティック・ユニバース最新作『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』。ファン待望の新キャップの活躍をどんな音楽が彩っているのか、サウンドトラックの聴きどころについて山﨑智之さんに寄稿いただきました。
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映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』が2025年2月公開、大ヒット上映中だ。マーベル・シネマティック・ユニバース=MCUの最新作である本作は2代目キャプテン・アメリカ(実際には3代目)サム・ウィルソンの活躍を描くストーリー。悪のヴィラン達から世界の平和を守るスーパーヒーローを描く一方で、ポリティカル・スリラーの側面のある作品となっている。
過去作でアベンジャーズとソリが合わず、スーパーヒーロー達を敵視していたサディアス・ロスが大統領に就任、重要な役割を占めることになる(過去作ではウィリアム・ハートが演じていたが2022年に亡くなったためハリソン・フォードが引き継いでいる)。日米の外交摩擦もテーマとして扱われ、もし現実の日本がこれほどアメリカに対して強気になれたら…と思う一方で、本当にやった場合、報復でとんでもない関税をかけられそうな気もする。
本作は『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)に続くTVシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)で正式にキャプテン・アメリカとなったサムを中心に、2代目ファルコンのホアキン・トレス、元ウィンター・ソルジャーことバッキー・バーンズ、ワカンダの戦士たちも登場。ウルヴァリンの爪の材質として知られるアダマンチウムもクローズアップされるなど、MCUのファンには嬉しい作りであるのに加えて、真っさらな状態から本作を見ることも可能であり、過去作へと遡っていく楽しみを味わうことが出来る。
そんな『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』のドラマを盛り上げるのが、その音楽だ。新旧のアーティストによる楽曲を取り入れることで、世界観がさらに奥行きを増している。
一般市民をマインドコントロールして凶行に駆り立てるスイッチに使われているのが「ミスター・ブルー」だ。男1+女2のヴォーカル・グループであるザ・フリートウッズが1959年に発表したこの曲は全米ナンバー1ヒットを記録。このような使い方をされるのはソングライターやアーティストにとっては決して有り難くないことかも知れないが、このポップの名曲が世代も国籍も超えて新しいリスナー層に届くことは喜ばしい限りである。
本作のサウンドトラック・スコアを手がけているのはローラ・カープマンだ。1959年にロサンゼルスに生まれ、オペラとジャズを修めてからジュリアード音楽院で学ぶという経歴を持つ彼女は映像作品の音楽を手がけるようになり、スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮/トビー・フーパー監督のTVシリーズ『TAKEN』(2002)で注目される。劇場作品・TVを問わず音楽を担当、ゲーム『エバークエストII』(2004)も手がけるなど多彩な活動を行ってきた彼女だが、常に高いクオリティをキープしており、ミュージカル『アスク・ユア・ママ』(2009)でグラミー受賞、劇場映画『アメリカン・フィクション』(2023)ではアカデミー賞にノミネートされるなど、高い評価を得ることになった。
カープマンがマーベル作品に関わるようになったのはTVシリーズ『ホワット・イフ…?』(2021)からのことだ。同作と『ミズ・マーベル』(2022)のTV作を経て『マーベルズ』(2023)で劇場作品に進出した彼女は、アラン・シルヴェストリ、ブライアン・タイラー、タイラー・ベイツらと共に“MCU音楽アベンジャーズ”の一員となったといえる。そんな期待を背負った彼女が2025年、手がけることになったのが『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』だ。
「ヒロイックでスリリング、サスペンスフルな映画のエモーションを出すためにパーカッションを多用して、オーケストラとシンセサイザーが不可分なほどに一体化している」とカープマンは説明しているが、“まず作品ありき”という彼女のプロフェッショナリズムは、本作においても貫かれている。
オープニングの「Captain America: Brave New World Main Title」のようにじっくり聴かせる楽曲を収録しながらも、現在デジタル・リリースされているサウンドトラック・アルバムは全35曲・81分という、各シーンを最大限に盛り上げることを重視。1分に満たないトラックも少なくなく、始まったと思ったらすぐ終わってしまうのがじれったくもある。
また、キャラクターや状況を描写するライトモティーフ的な表現は最小限に抑え、「〜のテーマ」はない。「President Ross」「Samuel Sterns」「Betty and Ross」「Sam and Joaquin」など、キャラクターの名前を冠した曲はあるものの、彼らが登場するたびに流れるわけではなく、ストーリーの展開における彼らの役割を音楽にしたものだ。
物語の水面下を流れる“陰謀”を描写した「Conspiracy Theme」、クライマックスの“変身”シーンを彩る「Transformation」なども、音楽のみでも情景が目に浮かぶ表現力豊かなスコアで魅了してくれる。カープマンの音楽そのものが、MCU音楽ユニバースに属する作品だといえるだろう。
さらに本作の音楽に関わっているのがケンドリック・ラマーだ。現代のヒップホップ・シーンを代表するアーティストである彼は『ブラック・パンサー』(2018)でMCU音楽ユニバースに参入、大きな反響を得ている。その彼が久々に戻ってきたのが本作で、トレーラー(予告編)で「N95」が使われた。
また映画本編のエンド・クレジットでもグラミー賞で2部門受賞を果たしたた「I」が流れて、本編の余韻と次回作への期待を高めることになった。ちなみにキャプテン・アメリカ/サム・ウィルソンを演じるアンソニー・マッキーは映画公開前のインタビューでラマーが新曲を提供していると語っていたが、今回それは実現しなかった。サウンドトラック・アルバムにはラマーの楽曲は収録されていないものの、彼の音楽は物語の色彩をさらに豊かにしてくれる存在だ。
それに加えてサムとホアキンがベテランのスーパー・ソルジャー、イザイアとトレーニングするシーンでテイム・インパラの「Elephant」が流れるなど、随所で“音楽的”に楽しめるシーンが散りばめられている。『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』は視覚と聴覚がせめぎ合うマルチメディア・スペクタクルなのだ。
Written by 山﨑 智之
Laura Karpman, Nora Kroll-Rosenbaum
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド(オリジナル・サウンドトラック)』
2025年2月12日配信
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