ブランディーとは? ディズニープリンセスのテーマソングを歌う歌姫の経歴を振り返る

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2021年4月28日、ディズニープリンセスの“勇気と優しさ”をテーマにしたプロジェクト「Ultimate Princess Celebration(アルティメット・プリンセス・セレブレーション)」の開催が決定。日本を含め全世界で展開されるこのプロジェクトのオリジナルテーマソング「Starting Now」をR&B歌手のブランディー(Brandy)が担当することが決定しました(5月21日配信)。

アメリカでは幅広い活動で大人気のブランディー、そんな彼女の経歴について、本人にインタビューをした経験もあるライター/翻訳家である池城美菜子さんに寄稿いただきました。

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圧倒的な才能と存在感で、憧れのスターとして輝き続けるアーティストと、親しみやすさが先に来て安定した歌唱力や演技力で広く長く愛されるアーティストがいる。今年、42才になるブランディー・ラヤナ・ノーウッドは後者だ。洋楽ファンなら、モニカとデュエットした1998年の「The Boy is Mine」を思い浮かべ「懐かしい!」と思うだろう。7枚のスタジオ・アルバムを追いかけながら、ブランディー本人の音楽的な軌跡を見守ってきた熱心なR&Bファンも多いかもしれない。

そのブランディーが2021年、ディズニープリンセスを讃える『アルティメット・プリンセス・セレブレーション』のオリジナルテーマソング「Starting Now」を担当する。この起用になった背景を紹介しつつ、アメリカのエンタメ界においてブランディーがどのような存在なのか、つまびらかにしたい。

 

天才少女シンガー、人気子役としてのデビュー

アラバマ生まれのブランディーは、天才少女シンガー、そして人気子役として世の中に出た。まず、1994年9月に15才でセルフタイトル・アルバム『Brandy』で、アトランティック・レコードからデビュー。これが、翌1995年にかけて大ヒットし、アメリカで400万枚、全世界で600万枚を売り上げた。彼女の魅力は、徹底的にコントロールを効かせたハスキー・ヴォイス。当時はまだ幼さが残っていた特徴的な歌声で、ヒップホップ・ソウルを取り入れた「Baby」と「I Wanna Be Down」を歌い上げ、世間を驚かせたのだ。

さらに追い風になったのは、ホイットニー・ヒューストンが主演した映画『ため息つかせて(原題:Waiting to Exhale)』のサントラのシングル「Sittin’ Up in My Room」への大抜擢。ホイットニーは20世紀最高のディーヴァと呼ばれたR&B/ポップ・シンガーであり、1992年に初出演した『ボディガード』は映画だけでなく、サウンドトラックも大ヒット。4,500万枚のセールスを記録、サントラでは歴代第1位、アルバム全体では第5位のモンスター作品だ。『ため息つかせて』は『ボディガード』の次にホイットニーが主演した作品であり、プロモーションの力の入り具合も凄まじかった。

その映画のシーンを挟んだ「Sittin’ Up in My Room」のビデオは、MTVや BET でヘヴィ・ローテーションとなり、映画とブブランディー両方の格好の宣伝となった。4人の黒人女性の恋愛と友情を描いた『ため息つかせて』は大ヒットを記録し、アンジェラ・バセットが不倫夫の高価な持ち物を車に詰めて燃やすシーンは、今でもあちこちで引用される。ちなみに、ベイビーフェイスが全面プロデュースを担当したサントラからは、ホイットニーの代表曲「Exhale (Shoop Shoop)」やアレサ・フランクリン「It Hurts Like Hell」のなど名曲が収録されているので、R&Bファンはチェックしてみよう。

ブランディーの快進撃は続く。1996年、新興テレビ局だったUPNのシットコム『モエシャ』に主演したのだ。LA の高校性、モエシャが成長する姿を描くコメディ・ドラマだが、10代の妊娠やドラッグなどリアルな社会問題を題材にして黒人以外の視聴者を得てUPNで最高視聴率を誇り、6シーズンも続いた。

1990年代に一気にアメリカのメインストリームに、ヒップホップとR&Bを土台にしたヒップホップ・カルチャーが食い込んだ大きな理由の一つに、テレビが黒人やラティーノの音楽のみならず、ファッションを含めたライフスタイルを広く紹介したことがある。ラッパー、シンガーから俳優へ転身したり、音楽と演技を両立させたりスターも出てきた。その先駆けが『ベルエアのフレッシュ・プリンス』のウィル・スミスであり、LL・クール・Jや、クィーン・ラティファたちが続いた。その流れにおいてブランディーは次世代のスターであり、オーディエンスのターゲットを若者に設定していたUPNにはまったのだ。

 

ブランディー主演の黒人版『シンデレラ』

ブランディーとディズニーの20年以上に渡る縁は、1997年に始まった。ウォルト・ディズニー・テレビジョンとホイットニー・ヒューストンがテレビ局のABCの特別番組として共同制作したロジャース&ハマースタインのミュージカル版『シンデレラ』で主役を務めたのだ。

前述のように90年代のホイットニーはアイコンのような立ち位置にいて、映像プロデュースに乗り出していた。黒人のシンデレラは「自分と同じような外見の少女たちに夢を与えたい」とのホイットニーの悲願だったそう。もともと、彼女自身がシンデレラを務めるはずだったが、すでに33才だったホイットニーは主役を降りてフェアリーゴッドマザーを演じた。ブランディーにシンデレラ役の白羽の矢を立てたのはホイットニー自身だ。ブランディーだけでなく、王子はフィリピン系、意地悪な姉たちは白人と黒人を起用した画期的な配役が話題になって週間最高視聴率を獲得、エミー賞の芸術監督賞も受賞した。

 

「The Boy is Mine」の大ヒット

1998年には、やはり天才少女シンガーとして出てきたモニカとのデュエット「The Boy is Mine」が、その年を代表するヒット曲となる。マイケル・ジャクソンとポール・マッカートニーの1982年のヒット「The Girl is Mine」からインスピレーションを受けた曲である。甘いメロディーが得意なロドニー・“ダークチャイルド”・ジャーキンズが作ったトラックの上で、ブランディーとモニカが一歩も引けを取らないで歌唱力をぶつけ合った奇跡の曲だ。18週もトップ10にチャートインし続け、年間シングルチャートで2位を記録し、グラミー賞の最優秀レコード賞にもノミネートされた。この曲で、ブランディーは作詞にも参加している。

「The Boy is Mine」を収録したセカンド・アルバム『Never Say Never』はアメリカで500万枚を記録。ロドニー・ジャーキンスが多くプロデュースしたバランスの取れた作品であり、ダイアン・ウォーレンとデヴィッド・フォスターというバラードの黄金コンビによる「Have You Ever?」など、ブランディーの代表曲が生まれた。

2002年のサード・アルバム『Full Moon』もプラチナム・セールスを記録。この頃、ブランディーはロドニー・ジャーキンスの従兄弟と電撃結婚をして娘を授かる。だが、結婚生活が続かなかったため、2004年の4枚目『Afrodisac』はロドニー陣営を外し、斬新な音作りをするティンバランドをメイン・プロデューサーに据え、まだ駆け出しのプロデューサー/ラッパーだったカニエ・ウェストをフィーチャーした「Talk About Our Love」がヒットした。

『Afrodisac』のアメリカでのセールスはゴールド(50万枚以上)に留まり、当時はブランディーの作品としては失敗と評されたが、彼女のクールな歌唱とフーチャリスティックなサウンドの組み合わせが時代を先取りしていただけである。その証拠に、いまではオルタナティブR&Bの先駆けと評価されている作品だ。

 

ブランディーとのインタビュー

実は、私は3枚目と4枚目のアルバムのためにブランディーと2回対面取材をしている。2002年の時点で「運命の人に出会った」と目を輝かせて語っていた彼女が、2年後にジャマイカのモンティゴ・ベイで取材陣を集めて行われたプレス・カンファレンスでは冷静に音楽の話だけをしていたのは、よく覚えている。そのとき、「優等生のモエシャのイメージを重ねられるのが辛い」とも話していた。ティーンの女優として絶大な人気があり、LAレーカーズの故コービー・ブライアントやボーイズIIメンのウォンヤと恋の噂が出るほどの知名度をもたらした番組『モエシャ』だが、本人としては重荷だったのかもしれない。

2006年の暮れに、優等生イメージがさらにマイナスに働く事件が起きる。玉突き衝突事故に巻き込まれ、死者が出たのだ。ブランディーが一方的に悪かったわけではないが、死者が出たために人気に陰りが出てしまう。そのせいか、ロドニー・ジャーキンスと再タッグを組んだ2008年のアルバム『Human』は、人間の機微を歌う曲が多い。ブブランディーにしてはポップ寄りの曲が多く、セールスは振るわなかったが、筆者は今でも好きな作品だ。このアルバムにはブレイク寸前だったブルーノ・マーズが作った「Long Distance」が収録されており、彼女の新しい才能をいち早く見抜くセンスが再び証明された。長距離恋愛の辛さを歌った「Long Distance」は隠れた名曲であり、ブルーノ本人もカバーしている。

 

芸能一家と近年の活動

ブランディーは芸能一家の生まれで、弟のレイ・JもR&Bシンガーであり、ラッパーのスヌープ・ドッグは従兄弟に当たる。レイ・Jは、『バチュラー』のように彼女探しをするリアリティ番組に出演し、高視聴率を得た。その流れで2010年と2011年は、両親も巻き込んで『Brandy & Ray J: A Family Business』と題したリアリティ番組が2シーズン放映され、ケーブルテレビ局の番組だったにもかかわらず、100万人以上の視聴者を獲得した。

2010年代のブランディーは、ミュージカル『シカゴ』に挑戦するなど女優業と音楽をバランス良く行っている。あけっぴろげだが品がある人柄とシングル・マザーとして娘をきちんと育てている姿で、人気はすっかり回復している。何よりも、彼女には類い稀なヴォーカリストとしての圧倒的な信頼感がある。2012年『Two Eleven』と2020年『B7』の両作とも守りに入らず、新しいR&Bを打ち出したのだ。

2020年代に入り、ベテランの域に達したブランディーだが、あい変わらず話題に事欠かない。昨年は、インターネットの対決プログラム「Verzuz」で宿命のライバル、モニカと対決して記録破りの100万人が視聴した。そして、2021年2月には24年ぶりに『シンデレラ』がアメリカのディズニープラスに戻ってきた。有色人種のディズニープリンセスを世界に紹介しただけでなく、もうこの世にいないホイットニー・ヒューストンとブランディーが歌い合った点でも歴史的な作品である。『アルティメット・プリンセス・セレブレーション』のオリジナルテーマソングをブランディーが担当するのは、時代が一周巡った証であり、感慨深い。「いまから始めよう」と題された曲を聞くのが、今から楽しみだ。

Written by 池城美菜子




ブランディー「Starting Now」
2021年5月21日配信
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