ボン・ジョヴィ、そしてジョンが行ってきた慈善活動
2024年はデビュー40周年の年であり、それを記念して4月にはドキュメンタリー『ボン・ジョヴィ:Thank You, Goodnight』をディスニープラスで配信し、6月には4年振りとなる新作アルバム『Forever』を発売したボン・ジョヴィ。
11月6日には日本限定のベストアルバム『All Time Best 1984-2024』が発売となり、千葉と宮崎ではボン・ジョヴィの楽曲での花火大会が行われるなど、話題が続く彼らだが、9月12日に、ジョン・ボン・ジョヴィが橋から身を投げようとした女性を助けたという報道でアメリカはもとより日本でも大手メディアほぼ全てが報じるほど話題となった。
そんなボン・ジョヴィ、そしてジョンは今回の報道だけではなく、今まで積極的に慈善活動を行ってきたことについて音楽ライターの安藤さやかさんに寄稿いただきました。
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“真面目”なジョン・ボン・ジョヴィ
先日、知人であるロック好きの老紳士から「ボン・ジョヴィって曲は知ってるけど、どういう人たちなのかはあんまり知らないんだよね」という話を聞いた。なおその際「曲を知らない人にも人柄は知られているアーティスト」として例に出されたのは生きたコウモリを丸かじりするなどの奇行を繰り返すシンガー、オジー・オズボーンである点にご留意頂きたい。MV撮影途中のジョン・ボン・ジョヴィが橋から飛び降りようとする人に自ら語り掛け、抱き寄せて助けたニュースが飛び込んできたのは、その日の帰り道のことだった。
変わり者の多い洋楽ハードロック/ヘヴィ・メタル界隈において、「人柄をあまり知られていない」とは「真面目な人柄である」ことに結びつく。その中でもジョン・ボン・ジョヴィの人柄は“真面目”と称されることが多い。曲をギャグに使ってるなかやまきんに君に「僕らのスペシャル・アンバサダーになって欲しい」と提案したあたりからもおおらかさがうかがえるが、特筆されるべきは慈善活動に対する積極的な姿勢であろう。
今までの慈善事業
1995年に発生した阪神・淡路大震災の際には、その4か月後に兵庫・阪急西宮スタジアムで行われた日本公演のチケット代の一部を寄付。翌年にも同会場にて公演を行い多くの人々を勇気づけた。1999年にはジャニーズ事務所が行った阪神・淡路大震災へのチャリティープロジェクト・J-FRIENDSへ、リッチー・サンボラと共に楽曲「Next 100 Years」を提供、このとき集まった寄付金は数億円にものぼる。
さらに2010年にはハイチ地震への復興支援チャリティに参加。2011年、東日本大震災が日本を襲った際にはチャリティー・アルバム『Songs For Japan』にも楽曲を寄せている。また、今秋に千葉および宮崎で行われる40周年記念の花火ショーの収益の一部は、1月に発生した能登半島地震のために寄付されるという。
こういった巨大災害復興に関連する金銭的・精神的支援のほか、ボン・ジョヴィは音楽業界の薬物汚染に対しても批判的な立場を取っており、1980年代には薬物撲滅キャンペーン「Rock Against Drugs」CMシリーズにバンドとして参加した。
JBJ Soul Kitchenとは?
そして彼独自の活動として、「JBJ Soul Kitchen」の存在が挙げられる。ボン・ジョヴィは生活困窮者に向けて住居を提供する活動を行っており、JBJ Soul Kitchenはその一環として2011年にオープンしたレストランだ。小洒落た雰囲気の店内では1,500~3,000円程度の価格帯の料理が提供され、味はかなり美味しいそうで、地元住民のほか世界中からボン・ジョヴィのファンが訪れる。
これだけ聞けばよくあるミュージシャン経営の店舗なのだが、同店には大きな特徴がある。それは“メニューに値段が書かれていない”ことだ。
JBJ Soul Kitchenで食事を終えると、客は任意の金額を支払うか、店で皿洗いや接客などのボランティア活動をするか選択できる。これはボン・ジョヴィの妻ドロテアの提案によるもので、お金を払う場合は自分の食事代である15ドル(2,000円)前後に、困っている誰かへの寄付を任意でプラスする形になる。お金を払えるならば払い、払えないなら働く。これがJBJ Soul Kitchenの原則にして、活動の主たる部分だ。
一見回りくどく思えるこの活動は、貧困の根本的な解決に向けて大きな役割を担っている。炊き出しによってただ食料を提供するだけでは、その日の腹は満たされても、長期的な生活の安定にはつながらない。JBJ Soul Kitchenでは食事支援も行われるが、主な目的は働くことで自尊心を高め、地域のコミュニティから孤立する人に精神的な支柱を作り、雇用を創出して社会復帰を促すことだ。これは単なる炊き出しではなく、炊き出しに並ぶ人の数そのものを短くするための活動なのである。
従業員の大半はボランティアによって賄われ、2020年からのコロナ禍で洗い場に人を入れられない時はボン・ジョヴィ自身が皿を洗うこともあったが、中には有給で雇われている者もいる。セラピストやメンタルヘルス協会の職員である。これらのスタッフは、困窮して店に駆け込んだ人が必要な場所に繋がれるようサポートするのだという。精神的な困難を抱えて貧困に陥る人にも配慮が行き届いた支援の形だ。
この活動について、ドロテアは「人間性の回復」と語る。これは多くの貧困支援において見落とされがちなポイントだ。ボン・ジョヴィのような成功者にとって支援金を出すのは簡単なことだが、格差社会における貧困の根本的解決のため、何ができるかを考えるのは難しい。その中でひとつの回答を示しているのがJBJ Soul Kitchenと言えるだろう。
もちろんこのレストランには、ミュージシャンとしてのボン・ジョヴィのスター性、そしてキリスト教社会の寄付文化やチップ文化があるからこそ上手く行っている部分があるだろう。JBJ Soul Kitchenに人が途絶えないことには、ボン・ジョヴィのファンが“聖地”として世界中から訪れているという部分が無いとは言えない。ただ、このレストランに連日多くの人が来店し、たくさんの寄付をしていくことには、活動理念そのものへの賛同と共感が大きい。
そんな活動を続けるボン・ジョヴィが、今まさに橋から飛び降りようとする人を見つければ、声をかけるのは当然のことだろう。その日そのときボン・ジョヴィがそこを通ったのは偶然でも、彼の行いは必然だ。しかし思い詰めた人にとって、助けられたことがハッピーエンドになるとは限らない。そしてボン・ジョヴィの活動の本質は、まさに“橋の上から助けられた、その先”を見据えたものである。
件の報道は単なる著名人の善行のニュースとして聞き流されず、彼が向き合う社会と貧困やメンタルヘルスの問題について、多くの人が“自分ごと”として感じるべきものだ。難しいことではない。まずは、今まさに自ら命を断とうとしている人にどう声をかけるかを考えるのではなく、いつも顔を合わせる友人・知人について考えていこう。
Written By 安藤さやか
2024年11月6日発売
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2024年6月7日発売
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