オーロラのニューヨーク公演ライヴレポ:キャリア最高レベルのステージで語ったこと
2025年2月17日に東京・ガーデンシアター、2月18日に大阪・Zepp Nambaで最新アルバム『What Happened To The Heart?』を引っ提げての単独来日公演を行うオーロラ(AURORA)。
そんな彼女が2024年12月5日、ニューヨークのビーコン・シアターで行ったライヴの音楽ジャーナリストの中村 明美さんによるレポートが到着。
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来日が迫ったノルウェー出身のSSWオーロラ。『アナと雪の女王2』のサントラにも参加し、アカデミー賞授賞式でもパフォーマンスを披露。ケミカル・ブラザーズから、ブリング・ミー・ザ・ホライズンなどともコラボするなど幅広い層を魅了し活躍を続ける彼女の最新世界ツアー『What Happened To The Earth?』を、去年12月にNYのビーコン・シアター(キャパ3000人・2日間ソールドアウト)で観た。
昨年は、日本のサマーソニックはじめ、世界最大級のフェス、イギリスのグラストンベリーなどにも出演したが、その後開始したこのツアーではイギリスではロイヤル・アルバート・ホールなど由緒ある会場でも決行。その歴史に見合うように、彼女の世界観が壮大に広がった文句なしにキャリア最高レベルの完成度だった。彼女のパフォーマーとしての多岐にわたる才能から曲の幅広さが、独創的でハイレベルな映像や照明と融合し、期待を上回るドラマチックでエモーショナルなライブになっているので絶対に観逃さないで欲しい。
森の精霊と化した秘密の儀式
ライブは、青い光に照らされて神秘的な森に深く入り込むように始まる。彼女がまるで森の精霊と化し秘密の儀式でも始まるように、スピリチュアルかつ衝撃的な「Churchyard」で幕開け。ピアノ弾き語りの「Invisible Wounds」で終わる約1時間半のライブは、高評価の最新作『What Happened to the Heart?』を軸にしつつもキャリアのハイライトが詰め込まれた最高のセットリストになっている。
先住民のリーダーによる手紙にインスパイされたという最新作のタイトルは、「心に何が起きてしまったの?」と世界に投げかける内容だが、ツアーのタイトルでは「心」を「地球」に置き換えて、さらに大きく明確な問いかけをする。
ライブ中も、「私たちは今これまでになく分断されている。地球は傷付いている」と語っていた。しかし、繊細なアコギによるフォークから、会場中が飛び跳ねるエレクトリックやディスコ・シンセのダンス・ポップ・ミュージック、さらには文学性の高いゴス、メタル、プログレとも言える激しくヘビーなサウンドへオーガニックに変貌する彼女のサウンドを通して、会場は一体化した。つまり、少なくともここに集まった人達の「心」は、ひとつになれると実感させてくれるライブだった。
彼女自身は、「新作の曲をパフォーマンスするとものすごいカタルシスを得る」とも語っていたけど、この日氷点下の極寒の中集まった熱狂的なファンにとっては、彼女の世界に心酔する予想を遥に超える体験となったはずだ。
ちなみに、会場に着いてまずファン層の良さに驚いた。老若男女だし、人種も様々。彼女の髪型やドレスを真似するハードコアなファンもいれば、LGBTQコミュニティのファンもいる。みんな熱心な音楽ファンなのも伝わるし、さらにオシャレ。こんなバランスが良く、素晴らしい観客層ってなかなかない。この多様な観客1人1人が、オーロラの音楽性の幅広さを象徴していたようにも思えた。
世界の美しさと恐怖心が共存する
スクリーンに映し出された巨大な彼女の顔が不安の面持ちで会場を覗いたと思うと、すぐに笑顔に変わり「起きている?」と問いかける。しかし次の瞬間には何かに囚われたように狂気の叫び声を上げる。予期できない自然の脅威を表現するかのような映像の後、大喝采の中彼女が登場して1曲目の「Churchyard」を披露。激しいビートと透き通るような彼女のボーカルが交わる瞬間がとりわけ気持ち良い曲だが、ハーモニーが鳴り響いた時その音があまりに美しくて思い出した。実は、この会場は世界最新鋭の音響システムが設備されていることでも有名なのだ。だから、彼女のライブには最適だった。
儀式の始まりを告げるような激しいビートの熱狂的なオープニングに続き、一変して柔らかなエレクトロの曲「The River」。コーラス隊4人が取り囲むアカペラのアレンジで披露。自然に語りかけるような優しく瑞々しい美しいハーモニーが会場に広がった。しかし続く「Soulless Creatures」では、彼女の青い瞳が巨大な鍵穴から会場を見つめている映像が映し出される。世界の美しさと恐怖心が共存する見事な映像表現だ。
3曲歌い終わるとホッとしたか急に可愛らしい素の声で「ここまで照明の影に顔を隠していてごめんなさい。時々シャイになるの(笑)」と笑顔で語ったから大喝采。緊迫感のあるライブを会話で和ませる。17歳で初めてN Yでライブしたことや、「それから時が経ち、今日みんながここに集まってくれたなんて本当に感動で感謝しかない。だから私が持っている全てをここで出し切ると約束するから」と語り再び大歓声。
続けて、「今あなた達の国は大変な時期だと思う」ともコメント。大統領選挙後だったからだろう。「でも、私達は長い歴史の中で何度も希望を失うような経験してきた。人と自分の考えがあまりに違うと思うようなことを。でもそれは政治家が得意とするところで、お互い恐れ合うように、文句を言い合うように仕向けたりする。だけど、政治は一時的なものでしかない。あなた達は永遠なのだと言うことを忘れないで!」と言ったから会場は熱狂。ボブ・ディランにも影響を受けたと言う彼女だけに、神秘的な曲の中にも政治的なメッセージが託されている。
「今日ここに来てくれた人達には何かしらの共通点があるはず。だから周りにいる人達を信じる心を忘れないで。世の中には美が存在しているから」と語った。それを新作でも、この日のライブで表現しようとしていたと思う。
悲しい物語を語る
「これから悲しい物語を語る。でも今はそうすることが大事。傷付いている人達の話を聴いてあげることが」と語り、悲痛に消え入るような声で「Murder Song (5,4,3,2,1)」をパフォーマンス。続いて、それを複雑に進化させたような最新作からの「When The Dark Dresses Lightly」。「新作でも最も重要」と言うこの曲では、「人を傷つけ合うのではなくて違いを理解し合うこと」が歌われている。真っ赤の照明の中、トライバルなドラムと、違いの壁を打破するように響く切迫感のあるボーカルが強烈だ。それでいて「自分の内面にナイフを長い間隠しておくべきではなかった」と繰り返すフレーズは優れたアレンジで単にポップ・ソングとしても楽しめるから素晴らしい。
「The Blade」では、バンドサウンドがより激しくなり、彼女もステージを駆け回り踊る。「世界が彼女の魂を 深く影の中で引きずる時(When the world / Drags her soul / Deep in the shadow)」と女性が抱えた怒りを炸裂。そこから手拍子が鳴ると「Starvation」。トゥールやナイン・インチ・ネイルズなどを彷彿とさせるインダストリル・サウンドの中、彼女も暗く赤い光の中で髪を振り乱して踊り出す。それが、アングラのレイブ、テクノサウンドに変貌し、AIに脅かされた人間が真の結び付きに“飢えている”ことを歌う。
「90年代ドイツのテクノシーンや、ベルリンのアングラレイブカルチャーに影響を受けて作った曲。ザ・プロディジーやアンダーワールド、ケミカル・ブラザーズの大ファンであることも影響している」
とも語っていたが、会場もハイテンションで踊りまくりハイライトのひとつとなった。
曲が終わると、再びチャーミングな笑顔になり「ここからはテンションを少し下げます。私が書いた唯一のラブソングです(笑)」と照れたように紹介して「Exist for Love」。
「パンデミックの最中に何か素敵なことが必要だったから書いた曲。でも今の世界を見るとこの曲の最初の歌詞、『男女の間には/戦いがあると言う人もいるけれど(They say there is a war / Between the man and the woman)』がまた違う意味に聴こえるところが好き」と言っていた。
再びアコギでコーラス隊に囲まれメランコリーに奏でた。続けて、「今の世界に必要なのはこの曲のように“子供の目を通して世界を見ること”」と「Through the Eyes of a Child」をフォークソングのように披露。そしてトライバルのリズムで魔法にかかったような「A Soul with No King」は、行き場を失った魂を哀しむように響いた。そしてビートはそのまま、今度は光を見つめたようなポップでアンセミックな曲「Queendom」で、人々の違いを祝福する。最後には観客席からレインボーの旗を受け取って、LGBTQコミュニティへのサポートを示したので大喝采になった。
NYで観たオーロラの最新世界ツアー。
“Queendom”では観客席からレインボーの旗が渡された。旗を持って踊る姿も優雅❤️ https://t.co/hyOu8Gu9yK pic.twitter.com/NhBfWBMxvj— akemi nakamura ☮️ (@aaakkmm) January 20, 2025
物語が美しく完結する本編の最後
ここから本編の終わりに向けては、最も人気がある曲が次々に披露され前奏が流れた瞬間に会場の熱気も上がりまくる。逃避を歌う「Runaway」では早速大合唱になり、「この曲は先住民の方達に捧げる」と紹介された「The Seed」も同様。「お金は食べられない(You cannot eat money)」と世界の矛盾をクレッシェンドで演奏し訴えるこの曲は強烈なカタルシスも感じ、エモーショナルなライブのハイライトともなった。
そして軽やかなエレクトロサウンドが聴こえた瞬間、「キャー!」と歓声が上がったのは「Running With the Wolves」。人間の内に潜む動物的な本能を歌い、最後はウルフのような野生的な声も響かせ激しく終わった。
そして「ニューヨーク、本当に本当にありがとう!」と本編を締め括ったのは、「Giving it to the Love」。太陽のような暖かい照明の中で、再びトライバルな大胆なドラムサウンドが響き渡るが、あくまでポジティブに、最後には、「愛」が全てであると唱える。美しい高音で「ラララ〜」で彼女が歌いながら飛び跳ねると、観客は自然に手を左右に振って答え、手でハートマークを掲げている人たちも多かった。物語が美しく完結したような瞬間。
“歌を歌うと魂を取り戻せる”
アンコールでは、再びその温度を冷たく落として、背景には独創的なモダンダンスのような映像が映し出され「Cure for Me」。「世界があなたを理解してくれなくても、あなたのせいじゃない。あなたはあなたのままで良い」と叫び、軽やかに歌い踊った。LGBTQコミュニティへのサポートでもあり自己愛を訴えた曲。
引き続きポジティブな空気感のまま新作から「Some Type of Skin」。手拍子が自然と沸き起こり、世界の受けた傷は、「一時的なもの(It’s only temporary)」と歌う。エレキのギターソロもパワフルで、混乱の中から希望を見出すようなアンセムソングだ。
最後にまた可愛らしい声に戻り、「本当に本当にありがとう。歌を歌うと魂を取り戻せる」と語ると、観客から「アイ・ラブ・ユー!」と次々に歓声が飛ぶ。
「あなた達のような人達と会えると人間を信じられる。あなた達が目から光を放ってくれるから、それが私の中で光になるの。この最後の曲では、みんなが心に自由を感じ踊ってくれたら嬉しい。私は自分のあなた達が抱えた闇に向かってこの曲を歌うから」と1人キーボードで「Invisible Wounds」を透き通るような声で歌い始める。会場全体が彼女の声に包まれハグされているようなスピリチュアルな瞬間となった。
そこからバンドが登場し、ゆっくりと世界観を広げ、「ラララ」で大合唱。この日のライブで彼女は、時にトライバルなドラムサウンドで自然の脅威と対峙しながら、ヘビーなギターで政治家の愚かさを訴え、エレクトロポップで人間の真の姿を信じると歌ったりする。
豊かな物語性の中で、メッセージも掲げながら、様々なサウンドが共存する完成度の高いエンタメを披露した。しかも、最終的には魂を揺さぶるような感動的なパフォーマンスで、会場が一体化した。彼女も言うようにライブが終わった後のカタルシスとこの多幸感を1人でも多くの人に味わって欲しい。
Written and Photo by 中村 明美
2024年12月5日NYビーコン・シアターセットリスト
1. Churchyard
2. The River
3. Soulless Creatures
4. Murder Song (5,4,3,2,1)
5. When the Dark Dresses Lightly
6. The Blade
7. Starvation
8. Exist for Love
9. Through the Eyes of a Child
10. A Soul with No King
11. Queendom
12. Runaway
13. The Seed
14. Running With the Wolves
15. Giving In to the Love
Encore
16. Cure for Me
17. Some Type of Skin
18. Invisible Wounds
オーロラ『What Happened To The Heart?』
2024年6月7日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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