アリアナ・グランデと『ウィキッド』:幼いころから願い続けた夢の役とそれを掴み称賛されるまで

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Ariana Grande in ‘Wicked’ - Photo: Universal Pictures

2024年11月22日に海外で公開されると大ヒットを記録した実写映画『ウィキッド ふたりの魔女』(原題:Wicked)。日本では2025年3月7日に公開されるこの映画で、シンシア・エリヴォとともに主役を演じるアリアナ・グランデ。

彼女はポップスターとして大ヒットを連発している歌姫だが、“善い魔女” であるグリンダを演じることは幼いころからの彼女の大きな夢の一つであった。そんなアリアナの想いと夢を掴んだ経緯について、様々なメディアに寄稿されている辰巳JUNKさんに寄稿いただきました。

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映画『ウィキッド ふたりの魔女』が、ひとあし先に公開された海外で文化現象を巻き起こしている。興行収入はすでにブロードウェイミュージカルの映画化としては史上最高。サブリナ・カーペンターやビリー・アイリッシュといった人気歌手も挿入歌をカバーする盛りあがりを見せている。

魔法大学での友情と危機を描く映画において、嬉しいサプライズとなったのが、歌手アリアナ・グランデが演じる主人公の親友グリンダ(旧称ガリンダ)。人気を重視するお調子者としてコメディ要素が強いキャラクターだが、批評家ローレン・ラマグナの言葉を借りれば「おバカだけど誠実で悲劇的なバランス」を成り立たせなければいけない難役だ。そのため、初の映画本格進出となるアリアナに不安の声もあがっていたのだが、公開されると絶賛されていき、映画界の最高峰アカデミー賞でノミネートされるまでに至った。

 

幼いころからの夢の役

じつはグリンダは、アリアナ・グランデが幼いころから願い続けた夢の役だった。2010年代にSpotifyで最も人気の女性アーティストとなるほどの成功をおさめた彼女だが、そのルーツは舞台演劇にある。

1993年フロリダに生まれ、幼いころから『ウィキッド』のベースとなった『オズの魔法使』のジュリー・ガーランドを真似して歌っていたというアリアナ。舞台版『ウィキッド』をはじめて観たのは10歳のころ。すべての歌詞を暗記するほど夢中になり、観劇回数は二桁に至った。ファンイベントを通して、大好きなグリンダを演じたクリスティン・チェノウェスに歌声を披露したこともある。

キャリアも俳優としてはじまっている。14歳のころ『13』にてブロードウェイデビューを果たし、ティーンドラマ『ビクトリアス』シリーズで人気を集めていった。歌手として契約した18歳のころにも、こんなSNS投稿を残している。

「また『ウィキッド』を観られて幸せ」
「いつか絶対にグリンダを演じたい」

ポップスターとしての音楽も、ミュージカルとともにあった。初期ヒットとなったMIKAとの2012年コラボ「Popular Song」からして『ウィキッド』におけるグリンダの曲「Popular」をサンプリングしたダンスポップだ。

 

夢を追い続ける

アリアナ・グランデ「私のキャリアは劇場から始まりました。今も昔も舞台オタクなんです。あまり知られてないのですが、舞台こそ私の魂」
クリスティン・チェノウス「あなたのDNAね!」
(『ヘアスプレー ライブ!』プレミアでのかけあいより)

歌唱派としての師匠には、元祖グリンダであるクリスティン・チェノウスがいた。2016年、ミュージカル番組で共演した際、クリスティンはアレンジを加える場合「それで価値が増すのか」と気を配っていたのだという。この姿勢こそ、アリアナの創作基準となっていった。その成果が顕著なのは、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の名曲をラップで現代化してみせた「7 rings」だろう。

その後も『ウィキッド』15周年番組でメドレーを披露したり、クリスティンのアルバムに参加したりしていったアリアナ。なかでも感動的だったのは、2017年のことかもしれない。

自身のマンチェスター公演で爆破事件の被害に遭ったアリアナは、すぐに現地へと戻り、愛と団結を掲げるチャリティライブを開催した。そこで涙ながらに捧げたのは『オズの魔法使』でジュディが歌った名曲。まだ見ぬ素晴らしい世界を夢見る「Over the Rainbow(邦題「虹の彼方に」)」だった。

 

映画オーディションへの意気込み

ポップスターとして活躍する10年のあいだも『ウィキッド』映画化の情報を追いつづけていたというアリアナ。2021年、ついにキャスティングオーディションに参加できたものの、状況は不利になっていた。グリンダ役に無名俳優を検討していたジョン・チュウ監督は、有名歌手を起用するつもりはなかったのだ。しかし、いざオーディションが始まると、監督は衝撃を受けた。

「アリアナは、入室した瞬間からグリンダそのものでした」
「歩き方や、声まで。なにを見ているのか信じられませんでした」

それもそのはず。オーディションの開催を知ったアリアナは、多忙にもかかわらず、数ヶ月にわたる猛特訓を行っていたのだ。指導をつとめたベテラン演技コーチ、ナンシー・バンクスすら、台本もないままさまざまな演技をこなしていった彼女の努力量に圧倒されたという。

ボーカルも猛特訓した。アリアナいわく、ポップ音楽の歌い方と『ウィキッド』での歌唱はまったくの別もの。グリンダ役の場合、コロラトゥーラ唱法を用いる古典的オペラソプラノが必要で、超高音での明瞭な発音も求められる。この超技工を自然にできる状態にまで引き上げるべく、声帯のかたちを変えるほどのトレーニングを行っていった。

その成果は、映画で早々に味わえる。壮大なオープニングナンバー「No One Mourns the Wicked」では、今まで聴いたことがないアリアナのオペラティック歌唱が披露される。

グリンダ役の合格が発表された際、アリアナは涙を流しながら「絶対この役を大切にする」と宣言していた。実際、制作現場では、主人公エルファバ役のシンシア・エリヴォとともに、舞台と同じ生歌での撮影を懇願。さらに、グリンダの曲をヒップホップアレンジするアイデアを「キャラクターに合わない」として止めることもあった

オリジナル演出でも喝采を浴びた。とくに人気を博したのが「Popular」。劇中、人気者のグリンダが魅力の秘訣を伝授する楽しいナンバーで、アリアナはシャンデリアに飛び乗るアクロバティックな演技に挑戦している。アウトロで披露した即興のハイキックは、アカデミー賞の名演紹介にも選出された。

 

掴んだ夢と称賛される演技

「『ウィキッド』におけるアリアナ・グランデの魅力的なコメディ演技は、感情の深みと見事に両立されています。個人的にも、あなたの演技を何度も見返し、そのたびに学ばせてもらいました」
(『ウィキッド』が作品&監督賞を受賞した第96回ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞でのライアン・レイノルズの演説)

アリアナのグリンダの魅力は、古典的なコメディ演技にある。絶妙なタイミングと大袈裟な動作で観客を笑わせるオペレッタ流パフォーマンスは、ハリウッドの伝説ルシル・ボールと比較されるほどの魅力を放つ。

重要なのは、アリアナが役柄の人間性も大切にしていたことだろう。世間からの人気に依存しているグリンダの不安や人間らしさを重視した役づくりを行ったのだ。こうした感情を繊細な表情や動作によって伝える手法は、カメラを用いる映画版ならではの強みでもある。

アカデミー賞候補になるまでの評価を得た理由も、愛らしいユーモアとシリアスな感情表現の両立にあった。彼女の受賞を推す批評家も、惜しみない称賛を贈っている。

「アリアナ・グランデは、ミュージカルに入る前、驚くべき深みをキャラクターにもたらす。そして、次の瞬間には、音楽で観客を笑わせてしまう。何を見ているのか信じられなくなるほどの演技だ」
(グレゴリー・エルウッド)

夢の役たるグリンダとして、あらたな高みに達したアリアナ・グランデ。一生に一度の熱演を『ウィキッド ふたりの魔女』で目撃しよう。

Written By 辰巳JUNK


『ウィキッド ふたりの魔女 – オリジナル・サウンドトラック』
2024年11月22日配信
日本盤CD:2025年3月5日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify

<収録曲>
1.「No One Mourns the Wicked」Ariana Grande ft. Andy Nyman, Courtney Mae-Briggs, Jeff Goldblum, Sharon D. Clarke & Jenna Boyd
2.「Dear Old Shiz」Shiz University Choir ft. Ariana Grande
3.「The Wizard And I」Cynthia Erivo ft. Michelle Yeoh
4.「What Is This Feeling?」Ariana Grande & Cynthia Erivo
5.「Something Bad」Peter Dinklage ft. Cynthia Erivo
6.「Dancing Through Life」Jonathan Bailey ft. Ariana Grande, Ethan Slater, Marissa Bode & Cynthia Erivo
7.「Popular」Ariana Grande
8.「I’m Not That Girl」Cynthia Erivo
9.「One Short Day」Cynthia Erivo & Ariana Grande
10.「A Sentimental Man」Jeff Goldblum
11.「Defying Gravity」Cynthia Erivo ft. Ariana Grande

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