オリヴィア・ロドリゴが持つ5つの音楽的魅力:グラミー主要4部門ノミネート、19歳の最大注目新人
2022年、日本時間4月4日午前10時から行われる第64回グラミー賞授賞式。ここに主要4部門を含む全7部門にノミネートされているオリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)。
・デビュー・シングル「drivers license」で全米・全英初登場1位
・全米史上初「初登場から8週連続全米シングル・チャートで1位」
・デビュー・アルバム『SOUR』は全米チャート初登場1位を獲得
・デビュー・アルバムとデビュー・シングルの両方で全米1位を獲得した最年少アーティスト
・Spotify「2021年世界で最も再生された楽曲、最も再生されたアルバム」の両方で 1位
・Apple Music の年間賞も3部門受賞
など2021年を代表する大ブレイクを果たした彼女の音楽的魅力について、辰巳JUNKさんに解説いただきました。
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・新人オリヴィア・ロドリゴによる記録的ヒットの理由
・オリヴィア・ロドリゴのデビューアルバム『SOUR』全曲解説
・オリヴィア・ロドリゴがApple Musicで語った影響を受けた音楽や親との関係
1. 前代未聞のデビュー
「この先 人生が変わるよ」。音楽プロデューサーのダン・ニグロが、一年にわたるアルバム制作最後の日、オリヴィア・ロドリゴにかけた言葉だ。デビュー作を完成させたオリヴィアは、このように漏らしている。「学校最後の日みたいな気分」。青春映画のようなやりとりだが、ダンの予言は真実になる。
2003年アメリカ生まれのオリヴィアが自身の青春を詰め込んだデビュー・アルバム『SOUR』は、大成功をおさめた。デビュー曲「drivers license」はBillboardメディアが「前代未聞」とするほどの歴史的メガヒットを達成(*)。その後のシングルもヒットさせていき、デビュー・アルバム『SOUR』は易々と「Billboard史上最大の初週売上を達成したデビュー・アルバム」(*)となった。さらに重要なことに、リリースから10ヶ月以上、多くの楽曲が人気を保つロングヒットとなっている。全米レコード協会認定に限っても、アルバムは300万ユニット、うち4つのシングルが200万ユニットだ(2022年3月7日認定)。
7部門ノミネートを果たした日本時間4月4日開催の第64回グラミー賞では、主要四部門の独占も有望視されている。ダンの言う通り、現19歳のオリヴィアの人生は『SOUR』によって完全に変わった。同時に、新たなるスーパースターの誕生により、音楽界も変革されたと言える。
2. ロック女子ブームの開拓者
「ポップパンクとエモ系の音楽が大好き。みんなが憧れる音楽の瞬間とは、洗練されていない、超エモーショナルなものだと思います。だから、パンクの攻撃性は魅力的なんです」(オリヴィア・ロドリゴ :米Billboardインタビューより)
オリヴィアの音楽シーンへの影響として頻出するのは、ポップパンク・リバイバルだ。破局相手を「ソシオパス」と罵って怒りを爆発させる「good 4 u」は、同ジャンルの最ブームを象徴するアンセムとなった(*)。
ただし、もっと広い範囲としては、ロックブームだろう。アラニス・モリセットを意識した『SOUR』で展開される「ロック調サウンドと辛辣で赤裸々な感情表現」の組み合わせは、GAYLE「abcdefu」、テイト・マクレー「she’s all i wanna be」など、ティーン女子のポップシンガーのヒット定形となっている。かつて「brutal」をアルバムの一曲目にしようとしたオリヴィアがレーベルを戸惑わせたというエピソードを考えれば、彼女の挑戦によって、若者間のロックサウンド人気は一気に前進したと言える。
ロックファンの母親のもと、スマッシング・パンプキンズなどを愛聴してきたオリヴィアは、とりわけ「ロック界の女性」への想いが強い。このたびディズニープラスで配信されたドキュメンタリー映画『オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー』の歌唱シーンでは、女性中心のバックバンドを揃えたほか、若手ベーシストのブルー・ディティガー、ギタリストのトワ・バード も客演に招致。「女性ロッカーは十分な注目を浴びていない」と考えるオリヴィアのロック街道は、今後もつづくようだ。
3. 聴く者を呑み込むリリシズム
「世界が終わった気がした 誰も私の気持ちをわかってくれなかった だから架空の友達に聴かせるように曲を書いた」(オリヴィア・ロドリゴ、アルバム『SOUR』について)
オリヴィア自身も「歌詞主導のソングライター」を自称するように、彼女の音楽ではずせないのがリリシズムだ。ドラマ共演者との三角関係を噂された「drivers license」が象徴するように(*)、想像を掻き立てる私小説風スタイルは、3歳の頃よりファンだったというテイラー・スウィフトとも共通する。
ただ、オリヴィアの楽曲の特徴と言えば、リスナーに「歌われているエモーションと一体化する感覚」を与えるほどの没入感だろう。思春期の失恋を描いた『SOUR』は、もちろん同世代リスナーに愛されているが、一方「ティーンのころの心情に戻れるアルバム」として大人たちの心も掴んだ。オリヴィアの心情をよく知る人すらそうだ。彼女のセラピストは「drivers license」を聴いて「結婚してもう10年の40歳なのに、この歌で泣いてしまう!」と電話してきたという。加えて「いっそ消えたい」と苦しみを語る「brutal」に関しては「私たちが(セラピーで)話していることとまったく同じ」とのこと。心情表現の赤裸々さはお墨付きだ。
4. 一世代に一人の作詞作曲スキル
「オリヴィアは、一世代に一人のシンガーソングライターです」(2022年オリヴィアが契約を結んだマネージャー、アリーン・クシュシアン )
アメリカにおいて作詞作曲技術を持つスターは珍しくないが、オリヴィアは、ことさら「ポップスターではなく、シンガーソングライター」としてのキャリアを目指している。現在の所属レーベルと契約した理由も「作詞作曲能力を重視してくれたから」だ。
レーベル側も、契約に踏み出したきっかけは、彼女の卓逸したソングライティングだった。実は、俳優出身のオリヴィアは、メジャーデビュー前の2019年、ディズニープラス配信シリーズ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』キャストとして「All I Want」という曲を発表していた。
番組ファンコミュニティからバイラルしていき、Billboard HOT100にランクインを果たしたこの「隠れた名曲」は、なんとオリヴィア一人で作詞作曲されている。さらに『SOUR』も、リリース後、影響を受けたテイラー・スウィフトらがクレジット追加されたりしたものの、ほとんどの楽曲が彼女とダン・ニグロの二人で作られている。現行ポピュラー音楽シーンにおいてチーム制作が普及していることを考えれば、オリヴィアが多くのロングヒットを生んでいった事実の凄みが増す。
5. どんなジャンルも乗りこなす歌唱力
エモロックやポップパンク分野で注目されるオリヴィアだが、アルバム『SOUR』のサウンドは幅広い。アメリカ年間13位のロングヒットとなった「deja vu」は、ロード以降の「ポピュラー化したインディポップ」とされたし、アルバム最後を飾る「hope ur ok」の場合「絶望のなかの希望」を示すためフォーク調でつくられている。
さまざまなサウンドが混在するアルバムの架け橋となっているのは、オリヴィアの柔軟でパワフルな歌だ。驚異の適応能力を立証しているのがドキュメンタリー映画『オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー』だろう。
2022年春開始予定の欧米ツアーに来られないファンのために作られたというロードムービー調の同作は、たくさんのパフォーマンスを収めたコンサートムービーでもある。ここで、オリヴィアは、多くの楽曲にアレンジを加えている。フィオナ・アップル調のオルタナポップ「jealousy, jealousy」はガールズバンドとのポップパンクに変身しており、逆にポップパンクだった「good 4 u」はオーケストラ演奏で彩られる。残念ながら、来日公演はまだ決まっていないものの、この映画を観れば、期待が増すに違いない。
この記事の冒頭で引用したダンとのやりとりも『オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー』で映されたものだ。ここで、デビュー作を完成させたオリヴィアは「悲しいアルバムはもう作りたくない」ともこぼしている。加えて、今までの小規模事務所から、ジェニファー・アニストンやセレーナ・ゴメスを手掛ける有名マネジメント「Lighthouse Management + Media」への移籍も発表された。新体制下で制作中とされるセカンドアルバムでは、また違った彼女に出会えるかもしれない。第64回グラミー賞のあとも、目が離せなそうだ。
Written By 辰巳JUNK
2021年5月21日発売
国内盤CD 6月2日発売
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- オリヴィア・ロドリゴ アーティストページ
- 第64回グラミー賞、オリヴィア・ロドリゴが主要4部門ノミネート
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