トゥパック伝記映画公開記念:対訳公開その①「Keep Ya Head Up」
トゥパックの伝記映画「オール・アイズ・オン・ミー」の公開を記念して新規解説、新規対訳を収録して発売となったベスト盤『2Pac Greatest Hits』。全25曲の英語・日本語対訳、そしてアルバム解説を含めて全64ページにもなったこのアルバムの日本盤ブックレットから、対訳者の渡辺志保さんが選ぶ5曲の対訳を渡辺さんの解説コメントとともに特別に掲載(他の曲はこちらから)。
最初の1曲は「Keep Ya Head Up 」
イントロ:
俺のゴッドソン、エライジャに少し伝えたいことがある
そしてコリンという名の少女にも
(※エライジャは2パックの地元の親友の息子、コリンはソルト・ン・ペパのソルトとの間に生まれた娘だと言われている)
ヴァース1:
果実の色が濃いほど、果汁は甘いと言うヤツがいる
俺は肉体の色が濃いほど、そのルーツ(根)は深いと思うのさ
生活保護を受けている俺のシスター達たちに呼びかけたい
誰が気にしてなかろうとも、2パックは君たちを気にかけているんだ
アイツらは君たちのことを力づくで黙らせることも多いだろ
君が近所を歩けば、ブラザー達がひどくからかう
でもお願いだから泣かないで、涙を拭い、あいつらに負けるな
許してやっても忘れるな、ガール
下を向いてちゃダメだ
あいつに「お前には価値なんて無い」と言われても信じるな
もしもそいつが愛し方を学べなけりゃ、そいつのところから去ればいい
だってシスター、君にそんな男は必要ない
君に変な知恵を押し付けようとしてるわけじゃないぜ
見たままのことを言ってるのさ
なぜ俺が悲しんでるのか分かるか?
ブラザー達は赤ん坊を作っても
若い母親に父親役まで押し付ける
俺たちはみんな女性から産まれ
女性から名前を授かり、女性に育てられたってのに
なぜ俺たちはその女性から奪い、レイプまでしてしまうんだ
-俺たちは女性を憎んでいるのか?
俺たちの女性のために、こんなことはもう止めるべきだ
これからは女性を癒し、女性のためにリアルを貫くべきなのさ
そうしなけりゃ出生率だけが上がっちまう
その上、子供は自分を産んだ母親たちを憎むようになっちまう
男が一人で赤ん坊を作れるわけじゃねえ
男には、いつ、どこで赤ん坊を作るか女性に指示する権利なんてないのさ
だから、リアルな男たちは立ち上がってくれないか?
もうこんな状況にはウンザリしてるって分かってるぜ、レイディース
前を向いてくれ
フック:
前を向いてくれ
状況は良くなるはずさ
だから前を向いてくれ
もっと明るい世の中になるさ
(x2)
ヴァース2:
マーヴィン・ゲイ(*)も歌っていたのを覚えてるぜ
彼のおかげで、黒い肌に産まれたことには意味があると思えたんだ
すると急に、ゲットーでの生活もそんなに苦しくないと感じた
一筋縄じゃいかない生活だったけど、いつだって充ち足りていた
俺は門限が気に入らなくて、ルールを破ってばかり
地元の仲間たちと走り回って、ウィードを幾つか吸ってたのさ
でも気がついたんだ、全て母ちゃんのおかげだってこと
母ちゃんは俺をきちんと育てるために、人生を投げ打ってくれたようなものだった
そんな彼女に話していたのは、俺の絵空事みたいな夢の話
俺がラップで成功して、映画にも出てやるってな
手元の15セントを、1ドルに増やそうとしてたんだ
リアルでいながら、家賃を払い続けるのはラクじゃない
結局、俺はペンを走らせることになるのさ
仲間を探そうとしたが、みんな風のように去っていった
昨夜、俺の相棒は家族全員を失っちまったらしい
俺の中の男が、この狂気に打ち勝とうとしてるんだ
この雨はなかなか止みそうにないが
常に上を向いて、濡れないようにしてるのさ
おかしいだろ、雨が降れば土砂降り(**)って言うもんな
あいつらには戦争のためのカネはあるくせに、貧乏人を食わせるカネは無いのさ
若者たちが抱く希望すら無いなんて言いやがる
実際は、未来への希望が無いってこと
あいつらはなぜ俺たちがクレイジーなのかって不思議に思ってやがる
俺は、自分の兄貴がクラック・ベイビー(***)になっちまったのは母親のせいだと責めた
俺たちはサヴァイブできない運命なんだ
なぜなら全て仕組まれたことだから
お前はもうウンザリしてるかもしれねえけど
前を向いてくれ
*ソウル・シンガー。ラヴソングのみならず、社会問題や環境問題なども取り上げて歌っていた。口論の末に実父に撃たれ、1984年没
**不運が続くという意味のことわざに掛けて
***胎内にいる間、母親が使用する薬物によって中毒状態になって生まれてきた子供を指す
フック:
前を向いてくれ
状況は良くなるはずさ
だから前を向いてくれ
もっと明るい世の中になるさ
(x2)
ヴァース3:
自分の手で子供を育てているレイディース達
とても辛くて、孤独を感じていると思う
ダディはとっくにいなくなっちまって、寂しさだけが残された
もし誰にも求められなくとも、自分の子供のことは神様に感謝するんだぜ
俺たちならきっとできる、本当に自信があるんだ
もし君が失敗しても、まっすぐに立ち上がってもう一度立ち向かってくれ
だってこれ以上悲惨なことはないぜ
自分の息子に「なぜパパは僕のことをもう愛していないの?」と聞かれることよりも
問題に立ち向かってきた君は不満を言うことも出来ず
男の手を借りぬまま、無力さを感じただろう
だって君には他にも立ち向かわねばならない問題がありすぎる
身体の中身はボロボロでも、表向きには勇敢に振舞って
涙が頬を伝っても
「今週はなんとか切り抜けられますように」と強く祈っている
だって、もしも何とかならなけりゃ、君の手には負えなくなっちまう
俺を責めるなよ、俺はこの世界に産み落とされただけ
世界を作ったのは俺じゃない
俺の息子はどんどん成長していくんだ
そして肩にのし掛かる状況は悪くなるばかり
リッチなガキたちがベンツを乗り回しているってのに
俺は何とかして仲間たちと生き延びようとしてる
クレイジーだぜ、決して終わりそうにない
でもお願いだ、前を向いていてくれ
Translated by Shiho Watanabe
『2Pac Greatest Hits』
品番:UICY-15691/2 発売日:2017年12月6日発売 価格:¥2,500 (税込)
国内盤のみ:英語歌詞・新規対訳(渡辺志保)、新規ライナー(長谷川町蔵)