映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズの代表作10選:『スター・ウォーズ』や『E.T.』など必聴の傑作選
映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズの代表作10選
去る11月25日に発表された第63回グラミー賞ノミネーションで、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)がBest Score Soundtrack For Visual Media部門にノミネートされ、通算72回のグラミー賞ノミネート(これまでに25回受賞)を記録することになった映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズ。
その1週間前にあたる11月18日には、イギリスの権威あるロイヤル・フィルハーモニック協会から最高栄誉のゴールド・メダル(過去の受賞者にブラームス、ホルスト、シベリウス、ストラヴィンスキーなど)を授与され、ウィリアムズは名実ともに現代最高の現役作曲家となった。
その彼が過去に音楽を担当した大作映画、名作映画の多くは近年4Kリマスターが進んでおり、劇場公開時の35mmプリントないしは70mmプリントに匹敵するクオリティを4K UHDや放送、配信で楽しむことが可能となっている。
以下にご紹介する楽曲(今回はウィリアムズならではの醍醐味が集約された“フライング・テーマ”を中心にセレクト)は、いずれも彼の音楽を語る上で欠かせない代表作ばかりだが、もしも映画本編をまだご覧になっていなければ、年末年始のお休み中にぜひとも本編をご覧いただきたい。映画音楽作曲家としてのウィリアムズの凄さ、その偉大な芸術の真髄が堪能出来るはずである。
鮫狩り/檻の用意!~『ジョーズ』(1975)から
アメリカ東海岸の観光地アミティの沖合に巨大なホウジロザメが出現し、住民や海水浴客を次々に食い殺す。地元の警察署長ブロディ(ロイ・シャイダー)は漁師クイント(ロバート・ショー)や海洋学者フーバー(リチャード・ドレイファス)と共に鮫狩りに向かうが……。
ウィリアムズが初めてアカデミー作曲賞を受賞したスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』は、鮫の原始本能を「ジャンジャンジャンジャン……」という短二度のモティーフで表現したテーマが有名だが、本編後編の鮫狩りの部分を試写で見たウィリアムズは「この映画は海賊映画だ」と看破し、鮫狩りのシーンに海賊映画風の陽気な音楽を付けた。
後半部《檻の用意!》の原題は《シャークケージ(檻かご)のフーガ》。ウィリアムズは、さまざまな声部が主題を追いかけていく(=追跡していく)フーガ技法を用いることで、果てしなく続く鮫の追跡を象徴的に表現しているが、それだけでなく、フーガ主題を導入するコントラバスとピアノをユニゾンで重ねたユニークな楽器法を用いることで、映画音楽らしい重量感あふれるサウンドを生み出している。
抜粋~『未知との遭遇』(1977)から
世界中で謎のUFOが目撃される怪事件が続出。ある夜、眩いUFOを目撃した電気技師ロイ(リチャード・ドレイファス)は、それ以来不思議な山のイメージに取り憑かれてしまう。その山がワイオミング州にある巨岩、通称デビルズタワーだと知ったロイは、軍隊の制止を振り切り、デビルズタワーに向かう……。
本編の撮影に先立ち、スピルバーグ監督とウィリアムズは地球人と宇宙人のコンタクトの手段として、シンプルな音列を用いることにした。数百にも及ぶ音列のパターンを検討した結果、ようやくふたりが見つけ出したのが、本作で有名になった5音のモティーフである。
この《抜粋》では、まず本編オープニングの音楽が序奏として流れた後、デビルズタワーの上空に巨大な宇宙船(マザーシップ)が現れるシーンの音楽となり、ペンデレツキ風の不気味なトーンクラスターが光の洪水を思わせる壮麗な和音に変化していく。その後、ラコーム博士(フランソワ・トリュフォー)と宇宙人が音階手話(ハンドサイン)で5音のモティーフをやりとりするシーンの音楽を経て、地球人がマザーシップを見送るラストの音楽となり、5音のモティーフがシンフォニックな“フライング・テーマ”となって展開される。
メイン・タイトル~『スター・ウォーズ/新たなる希望』(1977)から
ひょんなことから銀河帝国と反乱軍の争いに巻き込まれた青年ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)は、反乱軍を指揮する王女レイア(キャリー・フィッシャー)を救うため、ハン・ソロ船長(ハリソン・フォード)らと共に帝国軍秘密基地デス・スターに向かう……。
『スター・ウォーズ』サーガの生みの親ジョージ・ルーカス監督は「ロボットや宇宙船など、見慣れぬものがひしめく中で、音楽だけは耳慣れたものにしたい」という理由から、当初はクラシックの有名曲を本編で流すつもりでいた。ところが、ルーカスの友人スピルバーグから作曲担当に推薦されたウィリアムズはそのアイディアに反対し、19世紀ロマン派のスタイルに基づいた音楽を書き下ろすことを提案。その結果生まれた本作の音楽で、ウィリアムズは2度目のアカデミー最優秀作曲賞を受賞した。
一般に《スター・ウォーズのテーマ》として親しまれている《メイン・タイトル》の音楽は、主人公ルークを表すだけでなく、サーガ全体を通じて反乱軍の勝利と結びつけられたり、あるいはスカイウォーカー家そのものを表すために用いられたりすることもある。
マーチ~『スーパーマン』(1978)から
惑星クリプトンの唯一の生き残りとして、たったひとり地球に送り込まれたカル=エル。子供のいないケント夫妻に育てられ、クラーク・ケント(クリストファー・リーヴ)として成長した彼は、自らの超人的な能力を駆使し、正義の味方スーパーマンとして活躍する。そんな彼の前に、カリフォルニア壊滅を計画する大悪人レックス・ルーサー(ジーン・ハックマン)が現れた……。
この《マーチ》は、スーパーマンの“フライング・テーマ”として書かれたメインテーマの主部と、もともと挿入歌《キャン・ユー・リード・マイ・マインド》として作曲された愛のテーマの中間部からなる三部形式の祝典行進曲として書かれている。
夜の旅路~『ドラキュラ』(1979)から
ブロードウェイで初演され、ロングランを記録したフランク・ランジェラ主演の舞台を、ジョン・バダム監督が格調高く映画化したゴシック・ホラー。それまでの吸血鬼映画と異なり、セクシーでロマンティックなドラキュラというキャラクター設定が、公開当時大きな話題となった。
この《夜の旅路》は本編のメインテーマ、すなわちドラキュラの化身であるコウモリの“フライング・テーマ”を変奏したラブシーンの音楽で、アンネ=ゾフィー・ムターのためにヴァイオリンの技巧的なセクションが新たに書き加えられている。
あまり知られていないが、『ドラキュラ』のロマンティックなスコアは、直後に作曲された『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』のスコアと共通する部分が多く、特に『帝国の逆襲』に登場するクラウド・シティの音楽は、『ドラキュラ』の変奏曲的な性格を備えている。
帝国のマーチ~『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)から
本作のクライマックスにおいて、ルークの父親だと自ら素性を明かすダース・ベイダー(デヴィッド・プラウズ)のテーマを勇壮にアレンジした軍隊行進曲。ベイダー個人だけでなく、シスの暗黒卿として彼が率いる帝国軍のテーマとしても用いられ、《スター・ウォーズのテーマ》と共にサーガ全体を代表する“裏テーマ”として親しまれている。
なお、ベイダーを演じたデヴィッド・プラウズは、去る11月28日に85歳で逝去した。彼の名演を偲ぶ意味でも、ここに《帝国のマーチ》を挙げておく。
レイダース・マーチ~『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)から
考古学の教授として大学で教鞭をとるかたわら、世界中の秘宝を探し求める冒険家インディアナ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)。モーゼの十戒の破片を納めた伝説のアーク(聖櫃)の探索を米陸軍に依頼され、インディはかつての恋人マリオン(カレン・アレン)と共に冒険に旅立つが、ふたりの行く先々でナチス・ドイツの魔の手が忍び寄る……。
スピルバーグ監督&ルーカス製作総指揮の『インディ・ジョーンズ』シリーズ第1作の作曲に際し、当初ウィリアムズは主人公インディを表すテーマとして、候補曲を2曲作曲した。ところが2曲とも気に入ったスピルバーグは「両方使えないだろうか?」と提案し、ウィリアムズは5度音程で跳躍するテーマをメインテーマ、もうひとつのテーマをブリッジ部分に使用することで2曲を合成し、《レイダース・マーチ》の主部を書き上げた。中間部には、愛のテーマの役割を果たす《マリオンのテーマ》が登場する。
地上の冒険~『E.T.』(1982)から
地球探査中に取り残されたE.T.(地球外生命体)は、偶然身を寄せた一軒家の住人エリオット少年(ヘンリー・トーマス)と交流を深め、エリオットはなんとかE.T.を宇宙に帰そうと努力する。しかし、E.T.の捕獲を試みるNASAのスタッフが近づき……。
ウィリアムズが3度目のアカデミー作曲賞を受賞した『E.T.』の《地上の冒険》は、NASAからE.T.を救い出したエリオットたちがマウンテンバイクで逃走するシーンと、ラストシーンの音楽を中心とした組曲で、E.T.の“フライング・テーマ”として書かれたメインテーマが巧みにアレンジされている。
サントラ録音時、ウィリアムズはこの部分の音楽をフィルムに合わせて指揮したがテンポがうまく合わず、録音セッションに居合わせたスピルバーグ監督が「シンクロのことは気にせず、思い通りのテンポで自由に指揮して」と提案した。その演奏に合わせてスピルバーグがフィルムを編集し直し、音楽と映像の見事なコラボが生まれたという逸話が残っている。
シンドラーのリストのテーマ~『シンドラーのリスト』(1993)から
ナチス・ドイツに強制収容されていたユダヤ人を軍需工場に雇い入れることで、最終的に1000人以上ものユダヤ人をガス室から救い出したドイツ人事業家オスカー・シンドラー(リーアム・ニーソン)の実話をスピルバーグ監督がモノクロで映画化し、アカデミー賞計7部門を受賞した3時間17分の大作。
試写を見たウィリアムズは「私より相応しい作曲家がいるはずだ」といったん作曲を辞退したが、「わかってる。だが、その作曲家たちはみな故人だ」というスピルバーグの殺し文句にほだされ、作曲依頼を受諾。撮影前の構想では、本編の中にユダヤ人のフィドラー(ヴァイオリン弾き)が登場する予定だったが、ウィリアムズはその構想を活かし、独奏ヴァイオリンが哀歌を奏でるメインテーマを作曲した。この作品でウィリアムズは4度目のアカデミー作曲賞を受賞している。
ヘドウィグのテーマ~『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)から
魔法魔術学校ホグワーツに入学が許可されたハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)は、友達のハーマイオニー(エマ・ワトソン)やロン(ルパート・グリント)らと共に魔法の勉強に励むが、3人はホグワーツに隠された“賢者の石”をめぐるトラブルに巻き込まれる……。
ウィリアムズは、J・K・ローリングの原作の大ファンだった子供や孫に勧められ、小説第1作『ハリー・ボッターと賢者の石』の映画化が決まるずっと以前に原作を読んでいた。その後、『ホーム・アローン』(1990)などでウィリアムズとコンビを組んだクリス・コロンバス監督が映画化に着手すると、コロンバスは即座にウィリアムズを作曲担当に指名。
通常、ウィリアムズは試写の第一印象に基づいて作曲を始めることが多いが、この作品に限っては、すでに読了していた原作の印象に基づき、予告編用音楽を直接書き下ろした。それが、ふくろうヘドウィグの“フライング・テーマ”として書かれた《ヘドウィグのテーマ》である。
Written By 前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)
■リリース情報
2020年8月14日発売
ジョン・ウィリアムズ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』
CD+ブルーレイ / CD
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music
2021年2月5日、新バージョンが発売
『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン 完全収録盤』
SA-CDハイブリッド(限定盤)
*ライヴで演奏された全19曲と、ジョン・ウィリアムズによるMCも全て収録した2枚組
*日本盤のみSA-CDハイブリッド仕様
収録内容詳細はコチラ
*公演全曲の映像が収録
*13曲のハイレゾ音源収録
*ジョン・ウィリアムズとアンネ=ゾフィー・ムターの対談のボーナス映像収録
収録内容詳細はコチラ
- ジョン・ウィリアムズ アーティスト・ページ
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