最新インタビュー:津軽三味線「吉田兄弟」×1台4手連弾「レ・フレール」コラボアルバムについて語る
伝統芸能の枠を超え、唯一無二の津軽三味線アーティストである、吉田兄弟【吉田良一郎(兄),吉田健一(弟)】と、独自の奏法で“ピアノ革命”と称された1台4手連弾、Les Frères【斎藤守也(兄),斎藤圭土(弟)】。
撥弦(津軽三味線)×打弦(ピアノ)…それぞれがコンポーザーでもある4人の“弦の匠”たちが、楽器や兄弟デュオの垣根を超えて共鳴。至高のコラボレーション・アルバムがついに誕生。
―伝統芸能の枠に留まらず音楽の地平を拡げる津軽三味線の第一人者〈吉田兄弟〉と、1台4手のピアノ連弾で新しい世界を切り拓いてきた〈レ・フレール〉(※フランス語で“兄弟”の意)、この2組のデュオが出会うのは必然にして、運命だったのでは?
【健一】そうかもしれませんね! 2017年のライヴがきっかけでした…両方を知る人が企画を持ってきてくれたのです。最初は「対バン」方式のステージを考えていたのですが、それぞれの作品から選んで共演してみたら面白くて、がっつりコラボするようになり「これはもうレコーディングで残したいよね」ってことになって、やっと3年越しで実現しました。
―今回のアルバムには、これまでステージで一緒に演奏して観客を熱狂させてきた6曲に、新曲3曲を加えた全9曲が収録されています。
【健一】作曲家/アレンジャーが4人も揃っているので、これを贅沢に活用させていただきました。既存の6曲は全て新たにブラッシュアップ済み。新曲についてもコンペを勝ち抜いて選ばれた精鋭3曲です。
―アルバムは新曲[01]〈BUSHIDO〉(斎藤圭土/吉田健一)で幕を開けます。それぞれの組の聴かせどころが交互に登場して、このコラボを象徴するような曲ですね。
【圭土】最初に土台となる部分を書いたのは自分ですが、お互いにアイデアをキャッチボールのように投げては返しするうち、ドラマティックに生まれ変わりました。
【健一】圭土さんらしい美しいイントロだったので、激しくて耳に残る格好いいフレーズを繋げたかった。それぞれの熱心なファンの方なら「あっ、これは圭土さんだな」「この部分は健一が書いたな…」って、きっとわかっていただけると思います。
【圭土】正直、ここまで深く他のアーティストとコラボしたことはなかったです。これまで長い時間をかけて築き上げてきた信頼が形になりました。
【健一】6分弱って結構な長さの曲だと思うのですが、シーンがきり変る度にいろんな世界が映し出されるかんじで飽きさせない“推し”ナンバー。アルバムの1曲目を飾るに相応しいです。
―どの曲も物語を持っていますね。しかもそれが様々に変化していく。[02]〈冬の桜〉(吉田良一郎)も『全国ツアー2006 飛翔 実況完全録音盤』などで聴けるのは素朴な太鼓に導かれた厳かな曲ですが、ここではピアノによる宮城道雄の〈春の海〉を思わせるイントロが印象的です。
【良一郎】レ・フレールさんが得意とする弦を抑えて弾くミュート奏法で、もろ日本の音階で作った旋律を弾いてもらったら、まるで筝の音色みたいで素晴らしかった。ライヴでも好評だったし、ぜひCDに残したくて。三味線ってアタックの強い楽器のイメージですが、ここではピアノと同様にシンプルな単音で勝負しています。
― [03]〈Parallel world〉(斎藤守也)は4thアルバム『4-Quatre』に収録されていたオリジナルもパラレルワールド感のある曲でしたが、今回の2組の演奏が並んで疾走するような編曲により強い“並行世界”を感じました。
【守也】お二人に三味線のフレーズを付け加えてもらって、すっかり吉田兄弟の曲に生まれ変わっています。
【健一】最初に聴いた時から、フラメンコみたいなパッションを持った曲で三味線にぴったりだと思いました。でもそのまま弾いたら面白くないので、途中でピアノにシンクロさせて三味線っぽくない部分を入れて、ライヴで演奏する度にどんどん進化させていった。加えて今回レコーディングするにあたって更にブラッシュアップしました。
―新曲の[04]〈Stand Up〉(吉田健一)は冒頭から“土臭い”ピアノの音がズンズン響いて来るのが面白いです。
【健一】「コロナ禍に負けずに立ち上がろう」って、お客さんと一緒に盛り上がれて自分たちをも鼓舞するような曲が欲しかった。ピアノから入るのは、この曲ではお二人にフレーズの上で存分に遊んでもらいたくて。
―[05]〈しぐれ~夢〉(吉田良一郎/斎藤守也)は良一郎さん率いる純邦楽ユニット「WASABI」の楽曲〈しぐれ〉(※アルバム『WASABI 2』収録)と守也さんの書いた『4-Quatre』収録の〈夢〉とを繋げた、ライヴでも人気の高い曲。今回は演奏もこの“お兄ちゃん”コンビが担当しています。
【良一郎】メドレーのように単に2つの楽曲を繋げたのではなく、極めて津軽三味線的なパッションのリズム〈しぐれ〉をピアノで情感豊かに表現してもらうために、もともと和の旋律を持っていた〈夢〉を真ん中にとり込み、二人で一緒に新しい作品を作り上げたものです。
【守也】ピアノ・ソロを綺麗に聴かせるだけでなく、ミュート奏法でノイズっぽい音を出したり、サウンドもいろいろと工夫しています。
―それに対して[06]〈シャクナンガンピ〉(斎藤圭土)は“弟チーム”だけで演奏した楽曲ですね。
【健一】最初に聴いた時から個人的にいちばんのお気に入りで、この曲を一緒にやりたいと強く願ったことが、そもそも今回のコラボの原点だった気がします。しかも最初から圭土さんと二人でやろうと決めていたかも。
【圭土】オーケストラやヴァイオリン・ソロと共演したヴァージョンもあるけれど、ここでの三味線が最高です。シャクナンガンピ(石楠雁皮)って熱帯の木なのに、津軽の響きにこれほどぴったり寄り添えるなんて…
―“兄チーム”と“弟チーム”だけでなく、別の組み合わせで“兄弟”を作るのもありでは?
【守也】今回は収録されなかったけれど、当然そういう曲もあります。4人を自在にシャッフルできるのが僕らの強み。
【圭土】世代的にも僕はお二人と歳が近いので気が合います!
【守也】そんなに年寄りではないよ(笑)。
―新曲[07]〈転々〉(斎藤守也)はとにかくサウンドが斬新です。
【守也】ミュート奏法と三味線の相性がいいので、既存のものとは少しタイプの違う斬新な曲にも挑戦してみたくなった。三味線の「パン!」と立ち上がる音を「ふっ」とピアノが包みこむのがミュートによって強調される。
【良一郎】〈転々〉は元から不思議な世界観を持っていたけど、最終的にいい意味で混沌が深まった。アルバムならではの作り込んだサウンドを皆さんに楽しんでいただけると思います。
【健一】守也さんはコンポーザーとしても演奏家としても、心に残るフレーズを作るのが巧い。一方で圭土さんは曲の中に筋が1本通っていて首尾一貫してブレないところがいい。自分にはマネできない、すぐに流れを変えて、後付けで全体を作っていくタイプだから。
【守也】それを言ったら、吉田兄弟のお二人も面白いくらいカラーが全然ちがう。
【圭土】恐らくピアノの1音よりも三味線の1音の方が、演奏家の人となりや個性が出ていると思います。
―[08]〈RISING〉(吉田健一/井上鑑)は「アサヒスーパードライ」のCM曲として大ブレイクしました。
【健一】〈RISING〉はロックとの融合で「吉田兄弟=バンド」を決定付けた曲。その後も別ヴァージョンなどは作らなかったので、逆に今回はその印象から脱することを目指しました。
【守也】プレッシャーが半端なかった(笑)。
【圭土】仕上がりには満足しています。もう一回これでCMどうですか?…ノンアルでいいから(笑)。
―アルバムのラストを締めくくる[09]〈Joker〉(斎藤圭土)もレ・フレールにとっては初期の作品ですが、まるで吉田兄弟のために書いたような曲ですね。
【健一】ライヴではピアノから始めていたけれど、レコーディング直前に今回は三味線から始めた方が面白いんじゃないかってひらめいて、思いきってやってみました。真ん中でソロの入れ替わりがあるので注意して聴いてみてください。わかるかな?
―このコラボ・アルバムを引っ提げてのツアーも開催中。12/23の東京公演(東京国際フォーラム ホールC)も楽しみです。どちらの組にとっても“新しい章”の幕開けですね。
【良一郎】コロナ禍で1年間何もできなかったので、その分を取り戻したい! そういえば、レコーディングが始まったのがちょうど開会式の日だったので、ライブでのオリンピックは観られてないかも。
【圭土】でも、柔道で阿部兄妹がちょうど金メダルを獲得したんですよね。
【健一】我々の”きょうだい”っていうコンセプトに間違いがないと確信しました(笑)。
Interviewed & Written By 東端哲也
■リリース情報
2021年9月29日発売
『吉田兄弟×Les Frères』
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