BAFTA受賞者 ユリア・マーが手掛けたマックス・リヒター『VOICES2』からの「Prelude 2」MVが公開
マックス・リヒターが、世界人権宣言からインスピレーションを受け、構想10年以上をかけて制作された『ヴォイシズ』の続編『VOICES2』が発売となり、そのアルバムからの
楽曲「Prelude2」のミュージック・ビデオが公開された。
映像を手掛けたのは、BAFTA(英国アカデミー賞)受賞アーティストで映像作家のユリア・マー。公開された「Prelude 2」のミュージック・ビデオには、激動の時代への芸術的な反応、そして難民の窮状が強調されている。国連によれば、過去7年間で2万人以上の移民・難民が地中海を渡ろうとして溺死。女性や子どもを含む多くの人々が、迫害や貧困から逃れようとして命を落としたという。
ユリア・マーのイメージが持つ本来の美しさは、戦争の残虐性と世界の混乱と対比的に描かれる。また、この作品は、人が重圧を感じた際の溺れるような感覚のメタファーでもある。
どこか暗い雰囲気の中にも、まだ描かれていない未来への可能性や、活動的な若い世代の登場など、前向きさが常に存在している。
ユリア・マーは、「私は幼い頃、溺れかけたのですが、ぎりぎりで母に助けられました。そのときの感覚は今でも鮮明に覚えています。ぼんやりとした夢のような感覚で、スローモーションのような数秒が過ぎていきました。
パニック状態に陥ってはいませんでしたが、ものすごい重圧感、抵抗できない出来事が展開していく感じでした。このビデオでは、その時の記憶を再現することを試みました。その時に私が感じた力と、私たちに命を与える羊水と対比させたのです」と説明する。
『ヴォイシズ』や「Prelude 2」に貫かれている、人道主義という力強いテーマは、ユリア自身の生い立ちに起因する。彼女が生まれたハンガリーは、その当時共産主義下で、ほとんどの女性が働かなければならず、幼少期の頃は祖母に育てられた。
祖母は5カ国語の同時通訳者だった。第二次世界大戦中、難民としてチリに逃れた祖母は、アジェンデ、ネルーダ、チェ・ゲバラと一緒に働き、親交を深めた。彼女はブダペストでユリアを育て、その深い人道主義と温もりが『ヴォイシズ』のインスピレーションの源となった。
ユリアが7歳のとき、彼女は母親と共にブダペストを脱出し、イギリスにたどり着いた。母は大学卒業を目指し、30代半ばの頃大学で学んだ。難民や移民で住む場所を必要としているシングルマザーを募集するタイムアウト誌に掲載された広告に応募し、住む場所を見つけた。
ユリア・マーは「私は、共産主義国だったハンガリーで生まれました。私の生まれた通りの記憶は未だに鮮明です。建物には56年の革命の弾痕が残っていたり、第二次世界大戦で廃墟と化した建物があったりしました。その当時、国民一人一人の居住空間の面積が決められていたので、どのアパートにも複数の世代、時には異なる家族が住んでいました。私は、3部屋あるところで曾祖父、祖母、叔母たち、父、母とで暮らしていました。
祖母はナチスの迫害から逃れて、安全を求めて20年間チリで暮らしました。私は限られたこのアパートの空間の中で、逃亡、迫害、地域社会、そして希望の話を聞きながら育ちました。祖母は生涯を通じて人道主義者でした。難民を支援し、平和に向けた国際的な運動の一翼を担っていました。
結局、私自身の複雑な物語の中で、母と私が20世紀の大規模移民を再現することになり、私は孤独感を抱き、混乱し、必死に安全を求めてイギリスにたどり着きました。それ以降、祖母とはほとんど会うことができませんでしたが、祖母のその精神が私から離れたことはなく、これこそがVOICESの構想と執筆に反映されたのです」と語っている。
昨年8月にリリースされた『ヴォイシズ』 は世界人権宣言というプリズムを通じて、人間が向き合っている様々な疑問に関して、考える場所を提供したいという想いが込められたアルバムで、1949年に録音されたエレノア・ルーズベルトの肉声で始まり、マックスならではの美しいメロディと女優キキ・レインのナレーションで構成されていた。
今作『Voices2』は、そのコンセプトを更に音楽的に深化・発展させ、インストゥルメンタルによる10曲の新しいトラックが収録されている。
■リリース情報
マックス・リヒター『VOICES 2』
2021年4月9日発売
CD / iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify
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