村治佳織によるポッドキャスト、Spotify Music+Talk『村治佳織のMusic Gift』#2

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© Ariga Terasawa

7年ぶりのベスト・アルバム『ミュージック・ギフト・トゥ』を12月1日にリリースしたギタリスト、村治佳織によるポッドキャスト、Spotify Music+Talk『村治佳織のMusic Gift』がスタート。コロナ禍を耐え忍んでいる全ての人に、音楽で癒しやエールを送りたいというアルバムのコンセプトにちなんで、「ギフト」「贈り物」をテーマにしたショートストーリーを村治佳織が朗読、その内容にぴったりの楽曲をセレクトしてご紹介する内容になっている。ここでは、村治佳織が朗読した、心がほんのりあたたかくなるショートストーリーをご紹介。今回は、エピソード2。(エピソード1はこちら

村治佳織のMusic Gift #2


1. ビーアイさん(東京都)の「ギフト」なエピソード

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11月に89歳の父が亡くなりました。

父は1991年に仕事中に脳出血で倒れて30年間、右半身麻痺の生活を送りました。毎日リハビリを率先して行う父の口癖は「過去は振り返らない。今が一番幸せだよ。」でした。そして、どんな時も私たち子供や孫を応援し、写真に写る時は誰よりも満面の笑みなのです。

そんな、自分に厳しく、周囲には常に笑顔の父の姿は、亡くなってとても大きな存在であったと感じます。たとえ言葉にしなくても、常に応援する姿勢を貫くことは、心から信じていないと出来ない事ですし、常に笑顔でいるという事は、言葉を超えて、周囲を暖かく包み込む力があるんだという事を教えてもらった気がします。

世の中には形のある贈り物もたくさんありますが、私は父から向き合う姿勢や笑顔の力から、これから私が生き続ける上で大切にすべき大きなものを教えられた気がします。こんなプレゼントをもらえるとは思いませんでした。

これからは、父を支えた91歳の母と、妻や子供たちを今度は私が笑顔の力で包み込めるよう頑張りたいと思います。

村治佳織セレクト・・・Music Gift to ビーアイさん

ムーン・リバー -映画『ティファニーで朝食を』から(H.マンシーニ/村治佳織編曲)

© Ariga Terasawa

2. ステラさん(佐賀県)の「ギフト」なエピソード

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クリスマスもだんだんと近づいた今日この頃、私は最近ブックサンタというボランティアで絵本をプレゼントしました。

きっかけは今月の初め、Instagramでたまたまフォローしていた絵本屋さんの投稿で偶然この活動を知り、興味を持って調べてみると、さまざまな事情でクリスマスを迎えられない子供たちのために絵本や本を購入する形で寄付し、サンタがクリスマスプレゼントで届けるという心が温かくなるようなとても素敵で素晴らしい活動というものでした。

この世の中、コロナ禍なこともあり、小さいお子さんがいるご家族は生活していくには経済的に厳しい中、満足に誕生日やクリスマスもないのは子供にとって、とても寂しくて悲しいこと。いくらなんでもそんなのあんまりだと思った私は一大決心。

たくさんの絵本の中から、昔、大好きだったバムとケロのシリーズ絵本を選びました。実は私は絵本も本も大好き。子供の頃から絵本の読み聞かせをきっかけに大の本好きに。成長するにつれて、本は私にとって心の支えであり、友になってくれました。いじめで辛くて挫けそうになった時、何度本に救われてきたかわかりません。

今の子供たちにも読書の喜びや楽しさを伝えたい。ブックサンタに参加したのはそんな祈りと願いもありました。サンタを信じていた私だけど、そんな私も誰かにとってのサンタクロースになれるんだ。本をプレゼントした自分もギフトをもらったような幸せな気持ちになりました。

村治佳織セレクト・・・Music Gift to ステラさん

戦場のメリークリスマス -映画『戦場のメリークリスマス』から(坂本龍一/佐藤弘和編曲)

3. 渡辺文さん(東京都)の「ギフト」なエピソード

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いつも母が付けていたエプロンからは安心する匂いがした。

私が幼い頃の母のことを頻繁に思い出すようになったのは、去年の夏に妊娠が分かってからだ。40歳での妊娠。いよいよ次の春に母親になるのだと分かってから、自分がどんな風に育てられてきたのかをなぞるように思い出すようになったのだ。記憶の中の母は強くて優しくて、ふんわりしている。私も母のような母になれるのだろうか。期待と同じくらいに不安も膨らんでいた。

そして、出産の日。予定よりも少し早かったが、「きょう生みましょう」先生の言葉に緊張が走る。もうここまで来たら生むしかない。友人や家族からもらったたくさんの安産祈願の御守を分娩室に持ち込んで私の出産が始まった。

しかし、赤ちゃんは中々出て来ない。お腹に装置を付け赤ちゃんの心拍を確認する。「ドクドクドクドクッ」とてもはやい心音ははっきり聞こえる。話にはよく聞いていたけれど、ものすごい痛みだ。でも赤ちゃんの心音に励まされるように、ありったけの力でいきんだ。

でもまだ出てこない。少し赤ちゃんの心拍が弱り始め、「次で駄目だったら帝王切開ね。手術室用意して」慌てる助産師さんや医師の声が聞こえた。駄目!私、まだ頑張れる!!すべての細胞がひっくり返るくらいいきんだ。そして、生まれた。私の胸元に「おまたせ!」と言わんばかりの勢いで赤ちゃんが置かれた。小さな小さな赤ちゃん。「生まれてきてくれてありがとう」思わず出た言葉だった。

あれからまもなく10ヶ月が経とうとしている。驚きや戸惑い、試行錯誤の日々は想像していたよりもはるかに幸せに満ちていた。

誰かのために生きている。精一杯生きている。手伝いに来てくれた母が、「あなたの赤ちゃんがいつか出産することがあったら、あなたも同じようにやってあげるのよ。」

まだ想像も出来ないくらい先のことに思えたけれど、いつかはやってくる瞬間なのかもしれない。そして私はまたこの母の言葉を思い出すだろう。こうしてつながっていくんだ。今、母になった私は、私の人生は、母からのギフトなのだ。

村治佳織セレクト・・・Music Gift to 渡辺文さん

メモリー -ミュージカル『キャッツ』から(A.L.ウェバー/小関佳宏編曲)


■アーティスト情報

村治佳織 Kaori Muraji, guitar

幼少の頃より数々のコンクールで優勝を果たし、15歳でデビューCD『エスプレッシーヴォ』をリリース。1994年日本フィルハーモニー交響楽団と共演、協奏曲デビューを果たす。1995年イタリア国立放送交響楽団の日本ツアーにソリストとして同行後、翌年にはイタリア本拠地トリノでの同楽団定期演奏会に招かれ、その模様がヨーロッパ全土に放送され好評を博す。1999年には、『アランフエス協奏曲』の作曲者ホアキン・ロドリーゴの前で、マエストロの作品を演奏する機会を得る。

フランス留学から帰国後、積極的なソロ活動を展開。ビクターエンタテインメントから CD『カヴァティーナ』など9タイトル、DVD『コントラステス』をリリース。国内活動はもとより、韓国では2000年の初リサイタル後も定期的に演奏活動を行い、中国やベトナムなどアジア諸国にも活動の場を広げている。

その後NHK交響楽団ほか国内主要オーケストラ及び欧州のオーケストラとの共演を多数重ね、2003年英国の名門クラシック・レーベル DECCAと日本人としては初の長期専属契約を結ぶ。移籍第一弾アルバム『トランスフォーメーション』は、第19回日本ゴールドディスク大賞クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤー〈洋楽〉を受賞。これまでに DECCAよりCD13枚、DVD2枚をリリース。CD『ラプソディー・ジャパン』には「バガモヨ〜タンザニアにて」等、自身の作曲作品4曲を収録、前作CD『シネマ』には自身の編曲が2曲収められている。

これまでに、伊藤園・充実野菜、トヨタ自動車・アリオンのテレビ CMの出演や、ミキモトのイメージキャラクターに起用されるなど、メディアへの登場も多い。他にはNHK- Eテレ『テレビでフランス語』に出演、 J-WAVE( FM)『三菱地所 CLASSY CAFE』、『The  Players』、『RINREI  CLASSY LIVING』などでナビゲーターを務めた。2014年10月に全国ロードショーとなった吉永小百合主演映画『ふしぎな岬の物語』でメイン・テーマ曲を演奏。2015年4月NHK- BSプレミアム『祈りと絆の島にて 村治佳織 長崎・五島の教会を行く』に出演。2021年5月に全国ロードショーとなった吉永小百合主演映画『いのちの停車場』では、エンディング・テーマを作曲した。

また受賞歴も多く、第5回出光音楽賞、第8回村松賞(1996)、第9回ホテルオークラ音楽賞、2017年度ベストドレッサー賞(学術・文化部門)などを受賞している。


■リリース情報

2021年12月1日発売
村治佳織『ミュージック・ギフト・トゥ』
CD Amazon Music / Apple Music / Spotify



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